第忌譚【照る照る坊主】・肆
そして、祖父は急に立ち上がると僕の腕を掴み廊下に出る。その様子を不思議そうに見ていた母が、祖父に声をかけた。
「お義父さん ? 」
「ちょっと、
「……わかりました」
少し心配そうな母の手を祖母が優しく握り、大丈夫と言うように微笑んでいる。それから、祖父と二人無言で廊下を進んだ。
なんだか、気まずい。何処に連れて行かれるのかと思っていると、到着したのは亡き父が大学生の頃に使っていた部屋だった。
「ここって……」
「睦十の部屋だ。続きは、ここで聞かせよう」
部屋の中に入ると、そこだけ時間が止まってしまったかの様に昔と何一つ変わっていなくてなんだか今も父が何処かにいる様な錯覚を覚える。祖父に促され、僕は一人掛けのソファーに腰を下ろす。
すると、祖父は机の引き出しを開け一冊の小さなアルバムを手に取るとそれを持ったまま僕の正面に座った。
「 ? 」
「これはな、睦十が今のお前と同い年の頃に友達と撮った写真が数枚入ってる」
テーブルの上に開いた状態で置かれたアルバムを、僕は少し前かがみになって覗き込んだ。アルバムに貼られた写真には、自分に面立ちの似た眼鏡の青年が必ず写っている。
青年以外には、同じ年頃の男女が数名。どの人もとても楽しそうに笑っていて、本当に仲が良いんだろうと思う。
「眼鏡をかけている青年が、睦十だ。お前によく似てるだろう ?
こっちに写ってるのは、
「覚えてるよ。よく肩車してもらったから……確か、
「ああ、そうだ。
よく2人で裏山探検に行っては、日が暮れるまで帰って来なくて……何度母さんと探しに行かされた事か」
「父さんが ? ……なんか、ちょっと意外だな」
僕の記憶に残る父は温厚で優しく、休日は外に出かけるよりも家の中で本を読んで寛いでる事の方が多かった印象で……日が暮れるまで山の中で遊ぶ父の姿は正直想像が出来なかった。
「まぁ、あいつも大人になって変ったんだ。……でも、こっちに帰って来る度。
剱くんと一緒にお前と久哉くん連れて川釣りなんかに行ってたろう ? 」
「……そう言えば、いつも僕や久哉くん以上にはしゃいで母さんと
「そうそう。あの時は五歳になったばかりのお前たちそっちのけで、二人だけで夢中になってな。
しまいには、飽きてしまったお前と久哉くんが二人だけで山から下りてきたもんだからばあさんと縁さんと寿未怜さんの三人で般若の形相になり山に上ってっ行ってたよ」
「あったね。そんな事、懐かしいな……」
今までぼんやりとしていた父との思い出が、祖父の話を聞くうちにはっきりと思い出され思わず笑みが零れる。僕の内気な性格は父に似たのだと思っていたが、案外違うかもしれない。
僕はもっと沢山、父の話を聞きたいと思った。
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