第忌譚【照る照る坊主】・伍

「っと……危ない危ない。話が逸れていたな」

「あ、うん」


 祖父の言葉に、そう言えば本題は別にあったと思い出せば少し名残惜しいが思い出話を聞くのは一旦お預けになる。


「えっと、写真に写ってるのが誰か説明してたんだったな。


 次は、五六ふのぼり都久志つくしくん。彼も睦十と、とても仲が良かった。

 でも、彼は真面目でな睦十と剱くんが悪さすると都久志くんが二人を𠮟ってくれていたよ」

「五六って事は、零士れいじくんと壱樹いつきくんのお父さん ? 」

「そうだ。そう言えば、お前はあの双子とも仲が良かったな」

「二人の方が年上で、色々教えてもらってたからね」

「そうか……あと、こっちに写ってるのが福吉ふくよしゆい斑木まだら月美希つみきその弟、晃幸あきゆきだ」

「うん」

「月美希さんの娘はありさちゃんで、晃幸と結の娘が幸ちゃんだよ。

 二人とも、お前は仲が良かったろう ? 」

「うん。村に来るたび、他の子も一緒に七人で良く遊んでたからね。


 それに、じいちゃんの話を聞いて思い出したけど……父さんも、皆の親と仲良かったしさ。だからこそ、僕も直ぐに皆と仲良くなれたんだと思う」


 僕がそう言うと、祖父は目を細め優しく微笑んだ。だが、その微笑みは少し悲しそうに見えた。


「じいちゃん ? 」

「いや、色々と思い出してな。


 ……十二年前、この写真に写った六人のうち三人が亡くなった。あんな事は二度と起こってはならない。

 だから、今回十三回忌でお前が来たら全て話すと決めていたんだ」

「……」

「【白神様】を封印する儀式の一週間前に事件が起こった。

 お前、他の子らと一緒に森の中にあった社に行ったのを覚えているか ? 」


 祖父の問いかけで、薄っすらとだが当時の記憶がよみがえる。森の神社……


「あ、思い出した。皆で鬼ごっこをして遊んだ場所だ」

「そうだ。あの日、お前は朝から出かけて昼になっても戻らず。

 最初は友達の家にでも行ってるんだろうと思っていたが、夕方過ぎになっても帰って来なくてな。流石に奇妙しいと思い隣近所に聞いて回った。


 そうしたら、いつも一緒に遊んでいる他の子らも帰ってないって事で親たちとわしら夫婦で探しに行ったんだ」

「そう言えば、暗い森の中で母さんに抱き着いたような」

「大声で泣きながらな。……あの時は、本当に肝が冷えた。

 無事な姿を見るまでは、生きた心地がしなかったよ」

「なんか、ごめん」

「まぁ、無事だったから良いさ。……ただな。

 お前たちが遊んでいた場所に問題があったんだ」

「え ? 」

「……お前たちが遊んでいた森の神社。あそこはな【白神様】の社だったんだ」

「嘘、え ? だって、あそこは廃神社だったんじゃ……」

「長い事、修繕されとらんかったからな。管理はされていたが、取り壊しの話が出てたから敢えて修繕はしないでおいたんだよ」

「……」

「でな、問題はここからだ。……お前たちが社で遊んだ時。

 ありさちゃんも一緒におったろう ? 」

「あ」


 僕は、全身からさーっと血の気が引いていくのを感じた。ありさは、斑木家の娘だ。

 そして、彼女の容姿は白髪の赤眼……頭の中で祖父の言葉を反芻はんすうする。


「呪われている者はな。

【白神様】と同じ容姿に生まれ、とても病弱だ。そして、社に近付くと恐ろしい事が起こる……最悪死ぬ事もあると聞いた」


 ……


「呪われている者はな。

【白神様】と同じ容姿に生まれ、とても病弱だ」


 …………


姿、とても病弱なんだ」


 ………………


 生前【白神様】は、白髪と赤眼の所為でと呼ばれていた。と言う事は、


「ありさちゃんは……【白神様】に呪われているの ? 」

「そうだ」

「で、でも。社に行っても、ありさちゃん体調崩したりしてなかったし……あ、でも怪我」

 

 最悪死ぬ事もあると言う祖父の言葉を思い出し、僕は焦る。だって、もしかしたらありさはもう……


「落ち着きなさい。順を追って説明する。……大丈夫だ。

 それに、ありさちゃんは今もちゃんと生きている」

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