第忌譚【照る照る坊主】・壱
バスの後方で何時の間にか眠っていた僕は、
「綠 ?
ぐっすり寝てたから、村に着くまで起こさない方が良いかなと思ってそのまま寝させてたんだけど……凄い汗よ ? 何か、怖い夢でも見た ?
顔も真っ青だし……大丈夫 ? 」
母にそう言われ僕は、先ほどまでどんな夢を見ていたか思い出そうした。だが、何故か怖いと言う感情だけが残っていて夢の詳しい内容を思い出せない。
「……起きたら、忘れちゃったみたい。でも、大丈夫だよ。
夢は、ただの夢だから」
「そう ? なら、良いけど……無理はしないでね ? 」
「うん。ありがと。
心配かけて、ごめん」
「良いのよ。あなたが大丈夫なら、それで良いの」
母は僕の言葉に、ホッと胸を撫で下ろし微笑んでくれた。この心優しい母のことが、僕は大好きなんだ。
これから、沢山恩返ししないとな。……本当はもう一人居たけど、今は母を大切にする事がその人への恩返しにもなると信じている。
小さなバス停の横にある、少し古い屋根付きのベンチに座っている祖父母の姿がバスの窓から見えた。僕は、自分と母の荷物を持ってバスから降り声をかける。
「おじいちゃん、おばあちゃん。久しぶり」
「綠、
「久しぶりね。また、少し背が伸びたんじゃない ?
祖母は優しい微笑みを浮かべながら、僕の頭を撫でてくれた。でも、その目はとても寂し気で今にも泣き出しそうだ。
僕は、そんな祖母に何と声をかけて良いかわからず。思わず目を反らしてしまう。
「……」
「お義父さん、お義母さん。お久しぶりです。
お二人ともお元気そうで良かったです。
なかなか顔を出せず、すみません」
母はそう言うと祖父母に頭を下げる。すると、その肩に祖母が優しく手を置き首を左右に振りながら優しく語りかけた。
「気にしないで。縁さん……女手一つで綠を育てるのは大変でしょう ?
何もしてあげられないけど、せめてここに帰ってきた時くらい肩の力を抜いて私たちに甘えなさい」
「母さんの言う通りだ。……わしらはな。
あんたたちが元気で幸せならそれで良いんだよ。二人には、
「……っ、ありがとうございます」
母は少し涙目になりつつも、祖父母の言葉に笑って返す。そんな母を見つつ、僕は首から下げたネックレスを握った。
それは、亡き父の形見で僕の大切なお守り。……今日、僕と母が父の故郷である
(ただいま。父さん……今年も、母さんと二人で帰ってきたよ)
目を閉じて心の中で呟くと、優しい父の笑顔が脳裏に浮かぶ。
『おかえり。縁、綠』
そう言う父の声が聞こえた様な気がして、閉じた目の端から少しだけ涙が零れ落ちる。父の実家に到着すると、僕と母は真っ先に仏壇へ行き手を合わせた。
遺影の中の父は、僕と同じ眼鏡をしていて優しそうに笑っている。
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