第忌譚【照る照る坊主】・戎陸

『くぅ~ん……』

「ん……あ、おから ? 」

『わふ』


 僕は、どうやら気を失っていたらしい。目が覚めると心配そうに、僕の顔を見つめるおからと目が合ったので名前を呼んであげると嬉しそうに応えてくれる。

 そんなおからの頭を撫でながら、僕は立ち上がって辺りを見渡した。真っ暗で良く見えないが、草木の匂いと靴下越しに感じる地面の感触。


「……外、だよね ? 」


 疑問形で呟いたのは、見上げた空に星は疎か月すらないからだ。都会の空だって、星は見えるのに……まして、僕が今居る鵺霧村は山中にある田舎の村。

 ここまで、星も月も一切見えないなんてあり得ない事だ。それに、今はまだ七月中旬だと言うのに虫の声も聞こえないなんて絶対に奇妙しい。


「ここは、一体……おから。どっちに行けば良いか、わかる ? 」


 正直、下手に動かない方が良いとは思う。けど、ここで黙って誰かが助けに来てくれるのを待つなんて……そんな、捕らわれの姫みたいな役割はごめんだ。

 久哉も零士も壱樹も、皆頑張ってるんだから僕も出来る事をしなきゃ。僕らは、一緒に育って来た幼馴染み。

 都会で暮らしていた僕は、皆に直接会う事は年に数回しか無かったけどメッセージや電話のやり取りはずっと変わらず続けていた。家族と同じくらい大事な存在と言っても過言ではない。


「絶対、皆で一緒に帰るんだ。

 だから、その為に力を貸して貰っても良いかな ? おから」

『わん ! 』


 先ほどよりも、更に元気で大きな声でおからが返事をしてくれる。そして、おからの先導で何もない暗い森の中を進んだ。

 不思議なんだけど、先に述べたように星も月も空には無いのにおからや自分の姿は見えるんだ。夜目が効いてるとかじゃなく、何故かそこだけ灯りがあるような感じ。

 だから、足元も見えるんだけど……振り返ると、そこには何も見えない暗闇が広がってるだけなんだ。


「……気にしてても仕方ないよね。今は、とにかく前に進もう」


 僕は自分自身に言い聞かせるように呟き、おからの後を追って暗い森を進む。本当に何も見えない暗闇で、音もおからと自分の足音と息遣いだけだ。

 そして、しばらく進むと暗闇の先に微かな灯りが見えた。


「 ? おから、あれ何かな ? 」

『くぅ ? 』


 おからは僕の問いかけに、振り返って小首を傾げる。


「って、聞かれても解らないよね」


 もう一度、前方に目を向け暗闇に目を凝らす。嫌な予感はしない。


「……取り合えず。行ってみようかな。

 それで、良いよね ? おから」

『わん ! 』


 一人だったら、行こうかどうしようか悩んでしまってこの場から動けずに居たと思う。でも、おからが居るおかげか積極的に動ける。

 安心出来るんだ。だって、おからも小さい頃から一緒の幼馴染だから。

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