第忌譚【照る照る坊主】・戎漆
灯りに近付くと、そこには小さなてるてる坊主が落ちていた。
「 ? 」
何でこんなところに、そう思いながら拾い上げると同時に頭の中に何かが流れ込んで来るのを感じる。それは、誰かの記憶だった。
大勢の人に感謝され、家に帰れば愛する家族がいる。そして、また誰かに助けを求められれば自分の事は二の次で行動し弟子からも慕われていた。
これは、恐らく【首無し法師】が生前に体験した記憶だろう。生前の【首無し法師】は、本当に心根の優しい曲がった事が嫌いな真面目な人だったのだと言う事がほんの少し記憶を見ただけでも解った。
だけど、そんな彼が人生の最期に見たのは……自分を嘘つきだと罵倒し、罵詈雑言を浴びせる傲慢そうな男の姿で。彼は、その男に首を斬られ殺されてしまった。
それだけでも酷いのに男は、彼を殺しただけでは飽き足らず。彼の妻子までも、見つけ出し手にかけた。
そして、三人の首を布で包み木に吊るして曝したのだ。
……自分の事だけだったら、彼は【首無し法師】になるほどの恨みを抱く事はなかったろう。でも、自分だけではなく妻子を殺された事で彼は自我を失ってしまったんだ。
「……あんまりだよ。こんな、頼ったのは自分のくせに……思い通りにならないからって……殺す事、ないじゃないか……っ、…………酷い」
僕は、自然と溢れ出す涙を止める事が出来なかった。余りにも身勝手で、自分勝手で……流れ込んできた記憶の中の【首無し法師】と自分が重なる。
幽霊が視えると、自分から他人に話した事はない。だけど、やはり普通と違うからか気付かれる事は
そう言う悩みを相談されたこともある。僕は、自分が憑き護である事を高校に上がるまで知らなかったから相談されても簡単なアドバイスくらいしか出来なかった。
その結果、僕はクラスで嘘つきと呼ばれるようになり物を隠されたり頭から水をかけられたりと所謂いじめをされるようになったんだ。そして、担任に助けを求めたのだけど……
「それは、クラスの皆も悪いけど。幽霊が視えるなんて嘘を付いて不安を煽った綠くんも悪いのよ」
そして、悪い事を何もしていないのに謝罪をさせられんだ。もちろん、僕をいじめた子たちにも先生は謝罪をさせた。
頭では理解してる。視えない先生にしてみれば、僕の主張は信じられなくて当然だ。
でも、それでも……納得する事は出来なかった。だって、良かれと思って相談に乗ってアドバイスをしてあげたのにどうして謝らないといけなかったの ?
【首無し法師】の心を全部は理解できない。だけど、頼って来た人の力になろうと善意で行動したのにその人の望んだ結果じゃなかったからと殺された無念は少し解る気がした。
「……やっぱり、人間なんて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます