第忌譚【照る照る坊主】・戎壱
「あれ ? 二人共、なんでここに居るんだい ? 」
「もしかして……兄さんと、俺を……待ってて、くれたの ? 」
「そうなの ? ありがとね。
じゃあ、早いとこ済ませて四人で本堂に行こうか」
そして、零士が玄関扉に札を貼って壱樹が玄関の両端に盛り塩を置く様子を僕と久哉は黙って見ていた。
作業を終えた二人に、念の為にと久哉が塩を振りかける。それから、他の扉や窓の施錠を確認しつつ本堂へ向う。
「ここも大丈夫だ。次は……っ ! 」
「停電 ? 」
廊下を進んでいると、急に辺りが真っ暗になり自然と足が止まった。どうしようかと思っていると、久哉が上着のポケットから小さな懐中電灯を取り出す。
「お、準備が良いね」
「備えあれば憂いなしってな。ちいせぇけど、無いよりはマシだろう ? 」
「確かに。じゃあ、本堂に行く前にブレーカーを確認しに行こうか。
懐中電灯の明かりだけだと、
零士の言葉に、同意しブレーカーのある台所へと四人で向かう。そして、無事に台所へ到着したまでは良かった。
だが、ブレーカーを上げてみても電気は復旧せず真っ暗なままだ。
「駄目だ……」
「仕方ないよ。俺たちも本堂に行こう」
確かに、このままここでまごついていてもどうしようもない。電気を復旧出来なかったのは
他の三人も同じ様に考えているのだろう。若干後ろ髪を引かれつつ、僕たちはブレーカーから離れ台所を後にした。
本堂へ向かう廊下には、窓が着いている。ふっと外に目をやると、雨の所為かいつも以上に暗く感じた。
なんだか、建物ごと闇に飲まれてしまったのではないかと錯覚してしまう。まるで、逃げ場の無い檻の様だ。
そんな事を考えながら、外を見ていると闇の向こうで何かが動くのが視えた気がした。
「 ? ……っ ! 」
目を凝らすと、そこには袈裟を着た首のない法師が立っていた。首からは血が溢れ出ていて、思わず叫びそうになったが両手で口を塞ぎ出かけた声を飲み込んだ。
前を行く三人にもこの事を伝えないと、そう思った時だった。
『照る照る坊主 照る坊主
明日 天気にしておくれ』
後方から、夢で聞いたのと同じ歌声が聞こえて来る。僕が振り返って確認すると、真っ白い人影がそこに立っていた。
「え ? 」
人影は、スッと消えてしまう。今のは、一体……
消えた人影も気になったが【首無し法師】の事を思い出し再度窓の外を確認する。しかし、そこには既に誰も居なかった。
見間違いか ? っと思ったが、脳裏に先ほど見た【首無し法師】の姿が浮かぶ。首の切断部分から、溢れ出る血……頭が無いのに感じた鋭い視線と殺意。
……見間違いなんかじゃない。間違いなく、そこに居た。
「ん ? おい、綠。
どうした ? 」
「久哉くん、あの……っ ! 」
前を歩いていた久哉が僕の異変に気が付いたのか、足を止め振り返って声をかけてくれる。僕は直ぐに、今起こった事伝えようとした。
でも、それより先に次なる異変が起こってしまう。窓のすぐ外から、誰かが歩く足音が聞こえた。
久哉もその音に気付いたのか、窓へと視線を移し無言のまま注視している。零士と壱樹は、少し行ったところで僕と久哉が着いて来ていない事に気が付いたらしく立ち止まり声をかけて来た。
「あれ ? 二人共、どうしっ」
「本堂に走れ ! 」
そう叫んだ、久哉の声をかき消すように雷が鳴る。それと同時に、窓が割れ外に居た何者かが入って来た。
それは、先ほどの【首無し法師】……招かれざる客を前に、僕たち四人は固まってしまう。
逃げなければ、そう思うのに足が言う事を聞かない。
【首無し法師】から感じる殺気は、先ほどより強くなっている様に感じる。距離が近付いたからだろうか ?
そんな事を思っていると、零士と壱樹が何か唱えているのが聞こえて来る。
「
『う、っ……ぅあ』
「
『く……』
「
『……、…………び ! 』
「っ ! 」
「しゃがめ ! 」
僕は反射的に体が動き、しゃがみ込む。叫んだのは久哉だった。
【首無し法師】が、一瞬のうちに近付いてきて持っていた大きな黒い鎌で僕の首を切ろうとしてきたのだ。久哉が叫んでくれたおかげで間一髪、
動くのがあと一歩遅れていたら、僕はきっと首を切られていただろう。
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