第忌譚【照る照る坊主】・戎

「お邪魔します。久哉です」

「あら、いらっしゃい。雨の中、大変だったでしょう ? 

どうしたの ? 何かあった ? 」

「いえ。ただ、綠の事が心配で……それに、もっと話したいと思ってお邪魔しました。

あ、これ母からです。いつもお世話になってますっと」

「あら、そんな気を使わなくていいのに……ありがとうね。

 零士 ! 壱樹 ! 久哉くん、来たわよ ! 」

「はー……」

「いやぁぁああ ! 」

「っ ! 」


 一珠の声に零士が返事をしようとした瞬間、窓の外で雷が光りそれと同時に一珠の悲鳴が上がる。驚いた僕たちは一瞬固まるが、零士と壱樹が同時に走り出したので反射的に後を追う。

 玄関に着くと、上がりかまちでへたり込みガタガタと震える一珠を背に庇う様な態勢で半開きの玄関扉を無言で睨みつけている久哉がそこ居た。何があったのか、状況が全く掴めずに僕たち三人は困惑する。

 すると、そこに同じく悲鳴を聞いて駆け付けたらしい大人たちが奥から走って来た。


「一珠 ! 」

「つ、都久志さん……」


 一珠は都久志に抱き着くと、堰を切った様に泣き出す。そんな一珠の背を母・縁が落ち着かせようと優しく撫でる。

 その様子を祖父母が心配そうに見詰めていた。僕は意を決し、未だ外を睨んでいる久哉に何があったのかを聞く。


「久哉くん……何が、あったの ? 」

「……」

「久哉くん ? 」

「さっき、雷が光った時。外に居たんだ」

「何が ? 」

「袈裟を着た、首のない男。……坊さんだと思う」


 その言葉を聞いた全員が息を飲んだ。


「……皆さん、今日はお泊り下さい。とりあえず、本堂へ行きましょう。

 零士、壱樹。私の部屋にある机の二段目に入っているお札を持ってきて、玄関に貼ってから二人も本堂へ来なさい」

「わかった」

「盛り塩、は ? 」

「そうですね。念の為、お願いします」


 都久志は二人の息子にそう指示をしてから、一珠を連れ僕たち家族と久哉を本堂へと案内しようとする。でも、久哉は玄関から動こうとしない。


「久哉くん、君も一緒に本堂へ行きましょう」

「いや。俺は、二人が札持って来るまで見張ってます。

 大丈夫ですよ。一緒に後から行きますから」

「わかりました。では……」

「なら ! 僕も残ります ! 」


 授業で発言する時の様に、右手を上げ僕は声高らかに宣言した。


 僕は玄関を開けて、外を確認しようとした。けど、久哉に止められてしまう。


「やめとけ、阿保」

「でも」

「お前に何かあったら、縁おばさんたちが悲しむぞ ? 」

「それは……」

「解ったら、大人しくしてろ」


 久哉はそう言って、上がりかまちに座ると自分の隣を叩き僕にも腰を下ろすようにうながす。有無を言わせぬ圧を感じ、僕は渋々その隣に座った。


「お前さ、何かあったのか ? 昨日から、妙に様子が変だぞ ? 」

「え ? 」

「……」

「えっと……」


 無言で見て来る久哉。本当に、この幼馴染は昔から変に勘が良い。

 鋭い目で見つめられ、無言の圧力を感じた僕は適当に誤魔化しても納得はしてくれないだろうと思い諦めた。


「じいちゃんに、父さんの事を聞いたんだ。

 ……なんで死んだのかって」

「うん」

「そしたら、白神様の話が出てきて……」


 祖父から聞いた事を、嘘偽りなく全て話したんだ。僕が話し終わるまで、久哉は何も言わずに相槌だけしてくれた。

 全て話し終わったタイミングで、札と清め塩を持った二人が戻って来る。

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