第忌譚【照る照る坊主】・戎弐
だが、僕が体勢を立て直す前に再び【首無し法師】が斬りかかって来る。瞬間、久哉が叫んだ。
「
『 ! 』
すると、久哉の背後から黒い何かが飛び出す。それは、大きな柴犬で僕には見覚えがあった。
「おから……」
思わずその名を口にすると、おからは振り返って嬉しそうに吠える。久哉が昔飼っていた柴犬で、僕も一緒に散歩をした事があった。
元々病気を持っていたのか、ある朝突然と死んでしまったのだ。捨てられていたのを、久哉が拾って一生懸命世話をしていたからか本当に良く懐いていたのを覚えている。
守護霊、その言葉が頭を過った。おからは今、久哉の守護霊なのだろう。
先ほど久哉が叫んだ【
本来、守護霊は悪霊と戦ったりしない。式神として使役してるから、出来るのであって普通は無理だ。
おからも元はただの柴犬。生前から、多少霊感はあったと思うがそれだけだ。
だが、数珠を通して久哉の霊力をおからが受け取る事で悪霊とも対等にやり合えるのだろう。
そんな事を考えていると、久哉が僕の手を掴んで引っ張った。
「 ! 久哉くん ?
ちょっ、どこに行くの ? ! 」
「一旦ここを離れる」
「でも、おからが ! 」
「大丈夫だ。あいつは、俺が呼んだら戻って来るし無茶や深追いはしない様に躾けてる」
「だけど……」
そうは言われても、僕はおからが心配で後ろ髪を引かれてしまう。今は、守護霊だから肉体の無いおからが死ぬ事はないと解ってはいる。
でも、それは魂が剥き出しの状態と言う事だ。魂と言う物は破壊されてしまったら修復する事はほぼ不可能で、もしそうなった場合……最悪、輪廻の輪から外され消滅してしまう。
僕は昔、都久志からそんな話を聞いた事がある。つまり、守護霊とは言えおからも安全ではないと言う事だ。
都久志の甥である久哉が、この話を知らない筈がない。
「心配いらねぇよ。おからは、お前より強いからな ?
簡単に消滅なんかしないさ。今は、自分の心配だけしとけ」
「……わかった」
【首無し法師】に背を向けて、僕と久哉は玄関へと引き返す。外に出るのは危険だが、玄関の脇に二階に続く階段があるのだ。
階段の下に着いた時、時間を確認しようと携帯を取り出し零士からのメッセージが届いている事に気が付く。
――――――――――
零士[俺と壱樹は本堂に向かう。何かあったら連絡して、二人共無茶はしないでね]
僕[わかった。零士くんと壱樹くんも、気を付けてね]
――――――――――
そして、二階へ上がった僕たちは一番奥の部屋へ入った。
「ここは、物置部屋 ? 」
「みたいなもんだ。えっと、確かこの辺にあった筈……」
部屋の中には、木箱がいくつも置かれていてる。掃除はきちんとされていて、埃っぽいと言う事はないのだがなんだか妙に息苦しい。
「久哉くん、あの」
先ほどから、部屋の奥で何かを探している久哉に声をかけるが返事がない。一体、何を探しているんだろう ?
そう思い黙って見ていると、布に包まれた棒状の物を手に久哉が立ち上がる。
「これだ」
「それ、何 ?
…………なんか、あまり良いものじゃない気が……するんだけど ? 」
「ああ。これは、斑木が大昔に作った呪具だ。
だから、お前は絶対触れるな」
言いながら、久哉は布を無造作に剥ぎ取った。それは、黒い鉄の棒で古いお札が貼られている。
「うっ ! そ、それ……久哉くんは、触って大丈夫なの ? 」
パッと見は、黒い鉄パイプの様で普通の人ならこれを呪具だと言われても信じないかもしれない。僕も、それほど霊感が強い訳じゃないがこの黒い鉄の棒が危険なのは嫌でもわかる。
だって、久哉が布から出した瞬間。咽返るほどの血と怨念の匂いが一気に溢れ出して来て、思わず胃の中の内容物を内蔵ごと全て吐き出してしまいそうになったから……
この黒い鉄の棒は、間違いなく正真正銘の呪いの道具だ。一体、どれほど多くの人間を呪い殺せばこんな酷い匂いになるのか……詳しい事は知りたくはないが、思わず想像してしまいそうになる。
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