VS真祖、そしてこれから




 暗い夜の世界が広がっていた。

 そして目の前には黒衣に身を包んだ吸血鬼──真祖が立っていた。

 居るだけで、ライラは息ができなくなりそうだったが、ぐっと堪える。


「何者だ」

「コルヴォ、ダンピールだ」


 コルヴォがメンバーの前に居て、一人立っている。


「汚らわしいダンピールか」

「お前は何者だ」

「分からぬ、真祖としてこの迷宮に封じられ何千と月日が流れた、その間に忘れて仕舞った」


 真祖はそう言ってからライラを指さした。


「そこの処女を置いて行けばお前達を見逃してやろう」

「断る……」

「そうか、なら死ね」


 コルヴォの剣と、真祖の硬化したマントがぶつかり合う。


 ガキンと高い音を立てて、二人は殺し合う。


 普段なら援助に入っているライラは動けなかった。


 思ったのだ、この「殺し合い」には立ち入るべきではない、と。


 他のメンバーも同様に、固唾をのんでコルヴォと真祖の殺し合いを見つめ続ける。





 コルヴォは明確な殺意を持って真祖と殺し合っていた。

 吸血鬼──真祖だった父は同じ真祖に殺された。

 仇は既に討てども、心は晴れなかった。

 ヒトを害する吸血鬼は全て殺そう、コルヴォはそう誓った。



 剣がついに折れる。

 予備の剣に即座に手をかけ、真祖の首を切り落とそうとする。


 だが、はじかれる。


 ガキンガキンと。


 剣と、硬化し、剣となったマントでの命の取り合い。


 ザシュっと音がした。


 心臓を剣が貫いたのだ。


 だが、それだけでは終わらない。

 コルヴォは真祖の心臓をそのままえぐり取った。


 肉の裂ける音がした。


「ご、が、あ」

「これで、仕舞いだ」


 ぐちゃり


 コルヴォは心臓を握りつぶし、そして──


「六十六式滅殺術起動、滅べ」


 と呟くと真祖は徐々に形を崩し、やがて塵になった。


「……これで、あの真祖は復活できん」

「よかったぁ」

「相変わらずひやひやさせやがる」

「本当だよー」

「お疲れ、コルヴォ」

「ああ」


 ライラはひょいとかけより、じっとコルヴォを見つめる。

 じっーっと穴が空くほど見つめてから。

 ガンと、ジャンプしてからコルヴォを叩いた。



「何て危ない事一人でしてるんですかー?! 相手は真祖ですよ?!」

「だが、倒す術があった」

「聞き慣れない術ですが、もしかして東の国の術と合わせた術式ですか?」

「その通りだ。並の術式では真祖は倒せない」

 ライラはむすっとしながらコルヴォの発言を聞く。

「全然支援できなかったし」

「そういやそうねぇ」

「支援するどころか援助に入る余裕すらなかったわ」

「全くです!」

 ライラはそう言って、コルヴォをぽかぽか叩いた。

「仕方ないだろう、相手は真祖だったんだ」

「ま、しゃーないわね」

 レイナはライラを抱き上げコルヴォから引き離す。

「ほら、ライラちゃん道案内をお願いね」

「はい!」


「……次のフロアが最後です、あとこのフロアを攻略したパーティじゃないと進めないようになってるみたいですね」

「ほとんどコルヴォ一人でやってたけど入れるかしら?」

 ライラは少しだけ足を入れる。

「大丈夫みたいですー進みましょう!」

「「おー!」」

 ライラ達ルナティックは最後の空間へとたどり着くそこは──



 花園のような空間だった。

「なんなのかしら、この空間」

「ちょっと待って下さいこの空間は──」

「ライラ」

「ライラ」

 男女の声がライラを呼ぶ。

 警戒するコルヴォ達、ライラは男女を見て目を見開く。

「おとう、さん。おかあ、さん」

「ライラ、大きくなったわね」

「ライラ、元気で何よりだ」

「ほんとうに、おとうさん、おかあさん?」

「ライラ、気を抜くな、調べろ」

「は、はい」

 ライラは調べる。

 すると目から大粒の涙をこぼし、二人に抱きついた。

「お父さん! お母さん!」

「ライラ」

「ライラ、立派になったのね」

「ライラ、どういうことだ? 君の両親は死んだはずじゃ……」

「えぐ……こ、この空間は死者と生者の狭間の空間です。行き来はできませんが死者と対話し、触れあう事ができるんです……!!」

「ライラの説明の通りです。ここでは死者が生者と会うことが許される空間なのです。それ故悪用を防ぐ為にこのダンジョンの最奥につくられたのです」

「ちょっと待ってつまり、もしかして」

「そういうことだ、コルヴォ」

「立派になったわねコルヴォ」

 別の男女が呼ぶ。

「ちち、うえ。はは、うえ」

 コルヴォが二人を見て硬直する。

 女性がコルヴォに近づき、抱きしめる。

「辛かったでしょう、苦しかったでしょう、今の貴方からはそれを乗り越えてきたのがわかります」

「すまんな、あの時母さんを守れなくて。お前を守るのに精一杯だったのだ」

「いいえ、父上。私は恨んだりしていません。ただ、己の無力さを呪いました」

「そうか……」

「レイナと共に旅に出て、真祖をも殺す力を得て、仇をとり、そして再びヒトに害なす真祖に吸血鬼に打ち勝つ強さを皆のおかげで手に入れました」

「そうか……そこの者達、コルヴォと共に歩んでくれて有り難う」

「いや、俺そこまで感謝されるわけには……」

「ぼ、僕もです、コルヴォさんのおかげであるわけで……」

「私もです……コルヴォさんが仲間に入れて認めてくれたから……」

「おじ様も、おば様も相変わらず真面目ねぇ」

「レイナお前にも苦労をかけたな、コルヴォの後をついて行くと言い出したから両親から絶縁されたのだろう?」

「げ、何で知ってるの」

「レイナお前そんな……」

「死者故にな、コルヴォもついてくるなと言ったが、お前は私達の娘のような存在だったから『父母の仇をとりに行って何が悪い』と両親に言い放って絶縁だからな……」

「だってー、本当の両親よりも、おじ様とおば様の方が面倒見てくれたしー」

「おてんば娘だ、全く」

 コルヴォの父がレイナに近寄り頭を撫でる。

「えへへ」

「レイナちゃん、貴方はそろそろそこの方と一緒になって幸せになっていいのよ?」

「えーグレイと? 冗談、まだまだ旅は続けますよ!」

「ここら辺のダンジョンの探索もすんだことだし、次の国へ行こうかと」

 そう言ってコルヴォはライラを見る。

「……ライラ、俺達はまた旅に出る。君はどうする?」

「勿論行きますよ何処までも!」

「そうか」

「ですから、これからも側にいさせて下さいね!」

 ライラはそうコルヴォに言ってにぱーっと笑った。

「コルヴォ、お前もしかして」

「父上誤解です」

「ライラ、お前まさか」

「ん? 何のことです?」

「無自覚って怖い!」

 レイナがそう言って肩をすくめた。



 後日、迷宮を踏破したことと、迷宮の奥の事をギルドと王室に報告した。

 生者と死者が対話ができる──と聞いて、迷宮への案内を望む者は後を絶たなかった。





 そして──

「行くんだな」

「はい! 私はルナティックの案内人ですから」

「次は南へ行こうと思います」

「スルツ王国か」

「はい」

「何かあったら、いつでも戻ってこいよ」

「これはルナティックの皆さん全員にいってますから!」

 ギルド嬢が補足する。

「では、いってきます!」

「「行ってらっしゃいませ!」」

「達者でなー!」



 皆に見送られたルナティックのメンバーは馬車に乗りながら話し合う。

「ライラ、泣かないのか?」

「泣きません! だってこれから皆さんと楽しい冒険がまってるんですから!」

「そうだな」

「だから、これからも頑張りましょう!」

「ああ」

「勿論よ!」

「うん!」

「当然!」

 ライラの表情が一瞬で変わった。


「皆さん、進行方向にワイバーンの群れが」

「突き抜けるのは?」

「無理かと」

「じゃあ……」

「やっちゃいましょう!」





 ルナティック──

 人外パーティの中に一人だけ人間の案内人がいるパーティ。

 その冒険譚は後に多くの吟遊詩人に語られる程になり、彼らの武勇伝と冒険譚に夢を見る冒険者が増えたと言う。





「まだ現役だとはな」

「ただ、今は育休中だ」

 ギルド長室でグレアとコルヴォは話し合っていた。

 10年経つが、ルナティックは未だパーティとして健在だった。

「グレイとレイナに子どもができたんだろ?」

「ああ、だから子どもがいる二人には無理はさせられん……が、パーティは抜けないとしつこく言われてな」

「なるほど、ところでコルヴォ」

「何ですかギルド長」

「……ライラとはどうなんだ」

 グレアにそう言われてきょとんとしてから、コルヴォはくすりと笑い。

「ご想像に、お任せします」

「かー! この野郎」

 バンと扉が開いた。

「ちょっとコルヴォさんに叔父さん、何話してるの!」

 ライラが部屋に入ってきた。

「おい、ライラ、この男とはどうなんだ?」

 グレアの言葉にライラはにこりと笑った。

「私の素敵なコルヴォさんですよ!」

「やっぱりか」

「どうしたんです?」

「式はいつ挙げるんだ、いや挙げたんだ?!」

「叔父さんが、よいと言ってくれるならいつだって」

「よっしゃ明日だ、教会差し押さえしとくぞ!」

 グレアは飛び出していった。

「もう、叔父さんったら」

「せっかちだな」

「ええ」





 旅の中で、当初は偽りの恋人同士を演じた二人だったが、次第に違いに恋心を明確に抱き、付き合うようになったらしい。

 そのせいで、聖職者のグランが「僕だけのけもの、ぐすん」とふてくされたが、彼も旅の途中でホビットの可愛い女の子と結婚し、こちらで幸せな結婚生活を送りながら冒険者としても働いているらしい。





 結婚式は身内で静かに行われると思いきや、国を挙げての騒ぎっぷりにライラは頭を抱え、コルヴォはため息をついた。





「全く、叔父さんは何考えているんだか」

「まぁ、しょうがないだろう」

 ライラをコルヴォがなだめる。

「コルヴォさん」

「何だ?」

「私生涯現役の意気込みで案内人続けますからね!」

「意気込みは認めよう、だが実際するのは却下だ」

「あうう」

 コルヴォはこつんとライラの頭を叩いた。

「君は人間だ、だから無理はするな」

「……はい」

「おーい! ルナティック! 赤の塔に入った新人が一週間ももどってこねぇ! 急ぎで悪いんだが探し出してくれ!」

 扉が開くなり、グレアの声が響き、そして扉が閉じられた。

「……じゃ、私とコルヴォさんとグランさんで行きますか」

「そうだな」

「ちょっと待った俺も行くぜ!」

「グレイさん、育休中では?」

「さっきの声が聞こえたもんだからレイナから『行ってこい』と足蹴にされてな」

「レイナ……」

「レイナさん……」

 グレイの言葉に思わず遠い表情をした。




「じゃ、行きますか」

「案内頼むよ」

「新人くんたち、無事でいてよー……」

「では、出発!」





 ライラは、今日も今日とてダンジョンの案内を続ける。

 彼女が引退するその日まで──



















end

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EX級ダンジョン案内人は人外パーティと今日も行く ことはゆう(元藤咲一弥) @scarlet02

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