第16話 旅立ち
成人の儀式をやり、半年が過ぎついにナルが王都へ行く日がやってきた。ナルの身長は少し伸び、正装を着ている為かなり大人に見えるようになった。
見送りには、ナルの母メイル、父ジョージ、義母エリーナ、兄のハヤトとザール、騎士団副団長レック、そして見たことのない幼女がいた。馬車の御者にはヒイラギがおり、いつでも出発できるように準備をしている。
ナルはみんなに挨拶した後、馬車に乗り込み出発する気満々だった。そんなとき、ジョージが近づいてナルに話しかける。
「ナル、お前にこれをやろう。騎士学校で使うといい」
そう言って一本の刀をナルに渡す。それをナルは驚きながら受け取りジョージに感謝する。
「父上ありがとうございます。こんな名刀初めて見ました。これに恥じないように強き剣士になって帰ってきます」
ナルがそう言うとジョージは行ってこいと言い、それを合図にヒイラギが馬車を出発させナルの新たな生活が幕を開けるのだった。
ナルを見送り皆は自身の仕事に戻ったので今この場にいるのは俺と先生のみになった。
「先生、どうだったおれの息子は」
「どうもこうもバケもんだな。あんな魔力量見たことがない、いやあるにはあるが少なくとも人間にはいないな」
「そんなこと言ったら、先生の弟子たちだって本物のバケもんじゃねーか。知性のある転生リッチに意思のあるネックレスとか聞いたことがない」
そう、この人は半年前俺の領地にリッチを連れてきたのだ。しかも転生者の。気の探知に引っかかり慌てて向かったら先生とリッチがいたときの俺の感情はどうなっていたかは思い出せないが、先生ならやりかねないことだったため受け入れることができたのだろう。
「まー、あいつらもそしてお前もバケもんだな。だが、あんな素材は放っておけん。磨けば間違いなく最強の一角になれるぞ。どうだ、考えは変わったか」
「いや、変わらん。今回の子供たちには自由にやりたいことを見つけてほしいからな」
「そうか」
そう。半年前先生が来た理由は、ナルを弟子にするためだった。なんでも魔力量と適性を調べる水晶は先生が作った物らしく、ありとあらゆるところから測定した情報が集まってくるとかで、ナルの魔力量に興味を持ったらしい。
「まー、それはそれで面白そうだし、あの刀にも細工をさせてもらったからよしとするか」
そう言い、先生はにやりと笑った。
「ヒイラギ、後どれぐらいかかるかな」
「二週間ほどですね。あと、ナル様王都に着いたら私のことは師匠とお呼びください。そしてナル様のことを呼び捨てにさせていただきます」
ヒイラギが優しい口調で答えてくれる。いや、ヒイラギ師匠か。この話は事前に聞かされており、何でも僕は貴族ではないから従者を連れているのはおかしいらしい。だから、単なる師弟関係としてヒイラギを師匠呼びするべきらしい。まー、本当に師匠なのだから何も問題はないだろう。
「知ってるよ。じゃー今からもう師匠呼びをしてなれとこ。よろしく、師匠。師匠も僕のことはナルって呼んでね」
「わかりました、ナル。では、早速なのですが魔力の探知を最大限まで広げてみてください」
言われるがまま、魔力を広げる。今の最大範囲は1キロ弱。しかも10秒しか持たない。一瞬広げるだけで限界なのだが、その範囲ギリギリに魔物の反応があった。
「魔物がいる」
「そうですね、レッドウルフの群れでしょう。さらにその進行方向に馬車が一台ありますね。このままでは馬車が襲われ殺されることでしょう。どうしますかナル」
「もちろん、助けにいくよ」
そう言い飛び出し、魔物の場所へ走って行った。
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