第15話 最終試験の時間です。

「それでは最終試験です」

「よろしく」


少しの緊張と高揚。


「ではやるか。はじめ!!」


父が開始の合図を出すと同時に僕は魔流で足を強化する。

そして目くらましのファイヤーボールを投げる。


「ジェットブースト」


スピードをさらにつけるため追い風を作り出す魔法を発動させさらに


「ファイヤーブースト」


と唱えスピードを上げる。

ここまで来ればヒイラギも僕が何をしたいか気づくだろう。

そう、先手必勝。

ヒイラギには何もさせない。

それがこれまでヒイラギを見ていてたどり着いた答えだ。


「ふむふむ。中々のスピード」


そんなヒイラギはまだ余裕そうだった。

目くらましに放ったファイヤーボールは何故かヒイラギの目の前で止まっている。

だがそこまでは計算通り。


「爆!」


僕がそう唱えるとヒイラギの近くに浮いていたファイヤーボールが爆発する。


「エアーボール」


ヒイラギの足元にエアーボールを放つ。

すると砂煙が舞って視界がゼロになる。

その中に僕は飛び込んでいくが問題は無い。


「エアーローブ」


体を保護するための魔法。

しかし保護の仕方が身体中に風を纏う魔法のため砂煙は全て弾き飛ぶのだ。


もらった。

作戦は完璧だった。

ヒイラギは視界ゼロの状態で為す術なく終わるはずだった。

しかし現実は甘くはなかったのだ。


「素晴らしいです。お見事」


そう言われた時には既に僕は負けていた。

ヒイラギは立っている。

対して僕は地面に背中をつけていたのだ。


「いやいや、本当にお見事。合格です」


僕を褒めるヒイラギ。

そこには嘘偽りのない誠意がある。

悔しいが完敗だった。

ヒイラギは僕の作戦を全て対応して除けたのだ。


「負けた」


ボソッと口に出してしまう。

そして、それを聞いた父が僕に話しかけてきた。


「なぜ負けたと思う」


父の問い。

なぜ負けたか、正直いくつか思い浮かぶことはある。魔流の精度、加速の少なさ、詠唱破棄の実践を出来なかったこと。

だが多分父はそんなことを聞いていない。

もっと深いことを考えているに決まっている。


答えが出せずにいると父が再び口を開く。


「ナル。お前は今魔流の精度とか、加速の少なさ、詠唱破棄の実践が出来なかったことを思い浮かべているだろ。そして俺が聞いたことはもっと深いところにあると思っている」


僕が考えることを全てお見通しかの如く全て言い当てる父。

正直怖い。本当に怖い、けど…


「はい。考えていました」


そう答えるしか無かった。

すると父は笑いながら


「お前が考えていることは確かに正しい。

魔流も雑。スピードも気を使っている時の半分ぐらい。それに詠唱破棄ができないのもどうかと思う。だがそんなことどうでもいい。


俺は魔力の量も少ないし操作も苦手だ。だからわからん。だがな、戦っている相手の情報をしっかり掴めてないのは愚者のすることだと思うぞ」


戦っている相手。

つまり僕はヒイラギのことを理解していないと父は言いたいらしい。

だが、何を理解出来ていないのか分からない。


「考えろ」


父はそれだけを言い残し去っていく。

ヒイラギも


「これも訓練のうちでしょう。今日考えてわからなければ私がこっそり教えましょう」


そういい立ち去っていった。



結局その日ひたすら考えても答えがわからずヒイラギに教えてもらった。


要するに僕が反射トレーニングでやっていることを魔力でやっているらしい。

つまりだ、目に頼らない戦闘方法を使っているため目くらましは意味がなかったということだ。


なるほどと思う反面考えてみればわかったかもしれないので余計に悔しくなった。

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