第9話 始まりの物語7

「ふぁーー」


本日二度目の風呂。

ナルはさっきの狩りを振り返る。


(人より大きくて力の強い相手の戦い方を考えてなかったことが苦戦した原因だな。あとやっぱ外で気を使えるようにしないと…)


振り返る事に悔しさが込み上げてくる。

父なら兄ならきっと一撃で仕留めてくる相手なのだろう。それなのにナルは一撃どころか苦戦を強いられた。


「よしっ。切り替えよう!!これから経験すればいいだけじゃないか!」


ナルは唐突に叫ぶ。

そしてマイナス思考をやめて、これから訓練すれば良いという考えに持っていく。


悔しさは忘れず、それでいて引きずりもせず訓練で昇華していく。

これこそがナルの良い点だ。


ナルは風呂から上がり用意服に着替える。

さっきまでの服とは違い、少し重い。

成人の儀式専用の服らしいがナルは普段から軽い服しか来てこなかった為違和感しかない。


「おぉ、ナル似合ってるな」

「本当に。ナルちゃん似合ってるわ」


父と第一夫人が褒めてくれる。


「ありがとうございます!」

「ナル、俺たちは少しやることがあるから先に行きなさい」

「はい。分かりました」


そういいナルは父と義母の横を通り過ぎご飯を食べる場所に進む。


「あら、ナル。かっこいいわね」

「母上。ありがとうございます」


ナルが部屋に入るとドレスを着た母がいた。

いつもの姿とは比べ物にならないほど綺麗でナルは驚く。


「ほら、こっちおいで」


ナルは母の言われるがまま母の隣の席に腰を下ろす。近くで見るとさらに綺麗に感じる。化粧もしておりまるで別人だ。そしてナルは思わず口にだしてしまう。


「母上。綺麗ですね」


母は少し驚いた感じで笑う。


「うふふ。ナルったらどこで覚えたの?」


そんなことをしているうちに父が部屋に入ってくる。その後ろにこの屋敷にいる家族全員が付いてきて、さらに後ろから食事を運ぶメイドが付いてきていた。


「よし、全員揃ったな。ではナルの成人に乾杯」

「「「「「「乾杯」」」」」」


乾杯が行われる。

目の前には今日倒した熊の肉が盛られている。

すごい美味しそうだ。


「ほら、ナル。遠慮せず食べな」

「は、はい。いただきます」


ハヤト兄が優しく声をかけてくれる。

ナルは一口熊の肉を食べる。

うん、美味しい。


「自分で仕留めた獲物を食べるのはいいだろ」


父が大きな声で聞いてくる。

確かに美味しいかもしれない。

けど魔獣食べるのが久々なので正直よく分からない。けど多分美味しいのだろう。


「はい、美味しいです」

「はっはっはっ。そうかそうか。しっかり食べて大きくなれよ」

「はい!!」


こうしてあっという間に全て平らげてしまう。

お腹もいっぱいになりとても幸せの気分。

周りを見ると他のみんなもご飯を食べ終わっていた。どうやらナルが最後だったらしい。


「よし、全員食べ終わったな。ではナルの成人の儀式を始めるとするか」


そういうと扉が開きひとつ箱を持ってくる。

父はそれを開け外に出す。

ガラスで出来てるっぽい透明な丸い物体。

水晶だ。


「ナル。これはレイヤ王国の貴族の証でもあり適正魔法と魔力量を測ることの出来る魔道具だ。我が国の貴族は成人の儀式としてこの魔道具で適正魔法を調べる。ナルこっちに来い」

「はい!」


ナルは歩き始める。

思った以上に緊張をしない。

今ナルの心を一番占めているのは自分の適正魔法は何かなという好奇心。次に魔力を持ってなかったらどうしようという恐怖だ。


「ナル。では成人の儀式を始める。手をかざせ」

「はい…」


ナルは緊張した顔で水晶に手を乗せる。

すると一瞬のうちに部屋が光に埋め尽くされる。


「な、なんだ!!」


ハヤトが大声をあげる。

しかし目が見えなく周りの状況を把握出来ない。

それはこの部屋にいる全ての人が同じだった。いや、唯一ジョージだけはしっかりと見えていた。


「全色持ちだと…」


ピキピキピキ……パリンっ


水晶が碎ける。すると光がなくなり元の世界に戻る。

それでも目がチカチカして何も把握出来ない。

少しして目が直り全員が落ち着きを取り戻す。


「なんだったんだ今の…」

「あの!旦那様!!!」


ジョージは黙る。

さっき起きたことを全て把握しているジョージは他の皆よりも少しだけ冷静だが、それでも混乱はしている。

しかしその混乱も落ち着き考えがまとまる。

その時。


「誰だっ」


何も無いところにジョージは短剣を投げる。


「やっぱ攻めて来たのですか!!」

「俺は行けますよ!!」


ハヤトとヨークは剣を抜く。

それをジョージは収める。


「いや、気のせいだ。さっきの光も敵ではない」

「では!なんだと」

「ナルの魔力量だ。それに全属性持ちときた」

「「「「「っっ」」」」」


「ナル。お前には魔法の才能があるらしい。だから魔法学校に通ってもらうがいいか??」


ナルは少し悩みそれが無駄な悩みだと気がつく。

父は選択させるために行ったのではなく確認を取ったのだと気がついたからだ。

なので返事は決まっている。


「はい!!」

「よし、なら明日詳細を話そう。今日は皆疲れているからゆっくり休みな」


こうして波乱の成人式が終わった

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