第7話 始まりの物語5
「成人おめでとう、ナルちゃん」
「ありがとうございます、エリーナおば様」
混乱していた。
この人は自分の知っている母親ではない。
自分の母親は教育熱心で厳しかったはず。
それに第三夫人の息子であるナルを酷く嫌っていたはずだったからだ。
「はぁ、やっと解放された。なぁ兄さん、後で手合わせしてくれよ」
エリーナの二人目の息子。ウィルソン家の三男坊にして自分の実の弟ヨークは疲れ果てたように椅子に座っていた。
ヨークは剣術の腕は一流であるが頭が残念で自分が実家に帰ってくる時には既に勉強をさせられていた。まぁ、騎士団の人と稽古をしているので運動不足という訳では無いのだろうがあいにく今日はナルの誕生日ということで騎士団は休暇を取らされていたことで代わりに兄である自分にお願いしたらしい。
「いやいや、もう俺なんてヨークの相手にならないよ。そんなことよりあれは何?」
あれとはもちろんナルと自らの母との謎の関係だ。自分の記憶では酷く嫌っていたはずだったので驚き、不気味に思う。
しかしヨークからしたらいつもの光景だったので普通に答える。
「あー、母さんナルの事めっちゃ気に入ってるんだよ。頭も良くて腕もいい。それに礼儀正しいからな。俺なんていつもいつもナルを見習え、見習えって言われて大変なんだからな」
もうこっちは大変だぜという素振りで片手を振る。
「まぁ、ヨークはもう少し勉強頑張った方がいいけど」
「えー、兄さんまで…」
見るからに落ち込むヨーク。
そういう所がバカっぽいと思うが口には出さない。
そんなこと言ったらヨークは怒って部屋から飛び出しそうだからだ。
「こらっヨーク。あんたまだ勉強時間でしょ!!早く部屋に戻りさない」
ヨークの姿を見つけた母は自分が知っている母に一瞬にして戻る。何故かその姿を見て安心する。
「ナル様。ジョージ様がお呼びです」
「ん、わかった。すぐ行くって伝えといて」
「かしこまりました」
「ナルちゃんお着替えですか?」
「はい!!父上が用意してくれると言っていましたので」
訂正。いつもの姿を見て安心するのではなかった。ナルに対する態度がおかしすぎるのだ。人ってこんなに顔変わるんだと言うぐらい別人になっている。そんな母は次にこちらを向く。
「ハヤト。あなたはそうね。ヨークに勉強を教えてあげなさい!!ほんとっ、ナルちゃんが私の子なら良かったのに…」
「母さん。そんなこと言ってあげないでよ。ヨークだって頭はあれだけど騎士としては一流の中の一流なんだから…」
流石にヨークが可哀想だと思いフォローをしておくことにした。
母もそこは理解しているらしくそうだけどねぇといいながら少し考えてる。
そしてはぁ、とため息をついてから返事をする。
「まぁ、気をつけようとは思うわ。けどヨークは追い込まれたらやる男なの。現にナルと比べ始めたらしっかり勉強するようになったし」
まぁ、言い過ぎだったかしらとボソボソ言いながら少し落ち込む母。
そう、俺たちの母は子供に愛がない訳では無い。ただそれを表に出さない人なのだ。
気の技術の一つに読心術というものがある。
読心術とは一つ一つの動作や無意識の揺らぎでその人間の本質を見ることができる技術なのだがハヤトはそれを更に発展させる。
そう、魔法でだ。ハヤトが使える魔法は3つ。
そのうちの一つに読心術改と命名されたハヤトオリジナル魔法がある。
魔法はイメージだ。読心術で様々な細かな心の揺らぎを見る。そしてそこに魔法を加えると不思議なことに人の考えていることが音になって聞こえてくるのだ。
魔力消費量も少なく、魔力量の少ないハヤトにとっては最高の魔法とも言える。
もちろん常時発動などは出来ないので今も母が何を考えいるのかは分からないが一度本性を知れば何となくわかる。
(いやー、母の本音を聞いた時は本当に驚いたな。軽い気持ちだったのに…)
そこには優しすぎる母がいた。
俺のことははーちゃん、ヨークのことはよーちゃん。そう呼んでずっと心の中で褒めまくっていたのだ。
それを言葉にしてくれればいいのにと思ったのは記憶に新しい。
そしてそれをそのまま表に出すことはないと思っていたのに…
ナル。お前はどんな手を使ったのだと素直に聞きたくなってしまった。
「ハヤト!早くヨークの所へ行って勉強教えてあげなさい」
「はいはい。すぐ行きます」
「ハイは一回」
「はい、行きます」
母に急かされ俺は急いでヨークの勉強部屋へと向かった。
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