第5話 誰も知らない物語

「やぁーーー!!」

ボコッ

「いったーーー」

相変わらず泣き虫だと京極将吾は心の中で嘆く。


「ほら、泣くな。男が泣いていいのは嬉しい時だけだ。さぁ立て」

「けどおじいちゃん強すぎるよぉ」


はぁ、どうしてこの俺の孫は一癖も二癖もあるやつばかりなのだろうと思っているのにそれでも可愛いと思えてしまうのが不思議で仕方がない。


「そうだな。俺は強い。けど壁は超えるためにある。さぁ立て。そして俺を超えてみろ!!」

「わ、わかったよ。行くよ。やーー!」

スっ、スっ、スっ


「はぁはぁはぁ。なんで当たらないの??」

「いつも言っているじゃないか、無闇に振り回すな。一撃一撃集中して。あと声は出さなくていい。これは剣道と違うからな」


剣道を一応教えている弊害だなと京極は思う。

剣道は声を出さなければ一本にならない。

しかし京極流もとい、真剣を振る前提の剣術にそれは無意味と言える。


「わかった、行くよ。すーはー、ふっ」

ビュン

「はぁ、はぁ、当たった…」


すごいな。素直に感心する京極。

才能の塊とはまさにこの事だ。

泣き虫である欠点を除けば自分の孫は最強になる素質を持っている。


「今のは良かった。そのまま気を維持するんだ。なるべく穏やかに」

「は、はい!!」


見るからに上達している。

もちろん俺の方が上達するのは早かったが練習量的には圧倒的に俺の方が多い。

あー、悔しいようで嬉しい。

やっぱ孫出来てから変な方向へ思考が行く。


「終了。おつかれ翔馬」

「ありがとう、おじいちゃん」


うわっ、可愛い。さすが俺の孫。


バタン


「親父、翔馬おつかれ。どうだった翔馬は?」

「お前より才能があるな。せっかくだからどうだ今から俺と戦ってみるか?」

「やめてくれ親父。俺はもうそんなに鍛えてないんだ。下手したら死んでしまうよ」


けっ。腑抜けたヤツめ。

昔みたいに何度も手合わせしとけばいいものを。


「ねぇーおじいちゃん。お父さんって強かった?」

「んー、まぁ俺の子供だし強かった部類じゃないかな。でも同じ歳だったら翔馬の方が絶対強いぞ」

「あはは。そんな事言うなよ親父。でもな翔馬。おじいちゃんは本当はもっともっと強いんだぞ」


おっ、バカ息子にしては気の利くことを言ってくれるな。

まぁ、剣道公式戦無敗とかそんなのはどうでもいいが剣士としての伝説をやっと孫に伝える時が来たようだ。


「知ってるよ?剣道で40年間無敗なんだよね?」

「そーだよ翔馬。おじいちゃんは強いんだから。でもなそんなことはどうで…」

「親父。ちょっとこっち来い」


はぁ、せっかく教えてやろうと思ってたのに。また止めやがるよ。


「別に行かんでもいいだろうが」

「いいからこい。来ないと…」

「わかった、わかった。すぐ行く」



ドンッ


「親父、約束忘れたのか?」

「いいや?しっかり覚えているぞ」

「ならっ。さっき言おうとしたことはなんだ??言ってみろ」

「もういい歳なんだし教えるべきだろ。いずれそっちへ行くのだから!!」


バカ息子の暴論を正論で返す。

翔馬はいずれは京極流を次ぐ存在だからだ。


「親父。約束守れないんならもう京極流の修行は終わらす」

「っは??なんでだよ!!」

「最初から言ってるだろ。翔馬には翔馬の意思で進路を決めさす。血を血で洗う世界になんて望まぬ限り連れていかない」


けっ。そんなんだから武道が廃って行くんだよ。

「そんなんだから武道が廃って行くんだよ」

「はぁ、わかった。15歳だ。15歳になったら真実を伝える。それでいいな!」


多分だが息子は息子なりに譲渡した結果なんだろう。

ここは父である俺が我慢するべきところ。


「わかった。それまで待とう」



ブチッ


「はっ。久々に見たな。翔馬はもう師範になっているのだろうか。それとも他の人生を歩んでいるとだろうか」


おっと思わず口に出していた。

懐かしき前世最後の日。

あの時は肉体の衰えとか色々感じていて色々辛かった。

孫は可愛かったがやっぱ自分が戦える方が楽しい。


ジョージは考える。

前世の自分と今の自分の違いを。

戦闘好きというのは変わらないが人生観は変わった気がする。

色んな選択肢があると知った。

気の操り方も違う。

前世では滑らかにしようと必死だったがいまは瞬発的に荒くすることを極めた。


「あなたどうしたの?」

「あぁ、起こしてしまったか。ちょっと夢を見ただけさ」

「ならいいけど。明日はナルちゃんの誕生日なんだからしっかり寝なさいよ」

「わかってるよ。おやすみ」

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