第4話始まりの物語4

ざぶーん。


「あー、気持ちぃ」

「気持ちいですね。ハヤト兄様!」


50人は入れるだろう大浴場に2つの影。

ナルとハヤトだ。


「父上遅いですね」


ナルがハヤトに話しかける。

ハヤトはナルに返事をする。


「そうだな。まだやることでもあったのかな」


ガラガラガラ

ハヤトがナルに答えたちょうどその時風呂の入口が開く。


「待たせたな。少し用事が残ってた」


と言いながらジョージは風呂の方へ足を運ぶ。

ざぼーん

「あー、気持ちぃ。こうやってナルと入るのは久しぶりだな。昔はここで溺れてたのに大きくなりやがって」


ナルの頭を叩きながら言うジョージ。

ナルは嬉しそうに笑う。


「あ、そういえばナル。お前ケータに剣術を教えてるそうだな」

「はい。教えています」

「へぇー、すごいなナル」


感心したように褒めるハヤト。

しかしジョージは少し考えているように見える。

1度大きく溜息をしナルに問う。


「それでケータにどこまで教えたんだ」

「えーと、今日反射トレーニングが成功したところです!初めてですけど」

「………」


ハヤトは言葉を失う。

ハヤトが初めて反射トレーニングを成功させたのは11の頃。

学校へ通いながら毎日必死に修行した結果ようやくたどり着いたものだった。


ナルは天才だ。

5歳で修行を始め、6の時には既に反射トレーニングを成功させており、自分が政治の勉強をしに王都へ行ってた3年間のうちに完璧にマスターしていたのだから。


「なぁ、ナル。お前いつからそのケータに修行を教えているだ?」

「えーと、僕が剣術を習い始めた時からずっとですね」


それでも5年。

しかもナルが始めたばかりの頃だから実際本格的に教えるようになったのは2、3年前ぐらいのことだろう。

それなら既に反射トレーニングを成功させていること自体天才と言っているようなものだとハヤトは思考する。

それを瞬時に終わらせ思わず父であるジョージに意見を述べる。


「父上。そのケータという子を我が騎士団に入れるべきではないでしょうか」


ジョージはニヤッと笑う。


「お前もそう思うか。成長したな」


結論から言うとジョージはもう既に騎士団に入れる手続きを全て終わらせていた。

それをあえて言わずハヤトにその話を聞かせることでどう行動するか見ようと思ってたのだ。


ハヤトはそれに気づいたようでさっきまでの強ばった顔から恥ずかしそうにハニカム顔に変わる。

ナルは2人が何を言っているか分からず頭に???を浮かべていた。


ジョージはナルに説明と忠告をする。


「いいかナル。ウィルソン流はウィルソン家の秘伝だ。これからはむやみに人に教えたらダメだぞ」

「はい……」


目に見えるほど落ち込むナル。


「けどな、お前が教えたおかげでケータという才能がいることを知った。お手柄だぞナル。だからしょげた顔するな。今日はお前の誕生日なんだからな」

「はい!!!」


ナルは嬉しそうに笑う。

なるの特徴の一つは顔に感情が出やすいところだ。悔しかったら泣きそうになるし、嬉しかったら笑う。

剣士、いや騎士としてはそれはダメなことかもしれない。

しかしジョージはその光景をずっと守っていきたいと感じていた。


ガラガラバーン

「ねぇー!!みんなお待たせ!!あー気持ちぃ」


カーラが風呂場にすっぽんぽんで飛び込んでくる。


「ねぇー、どうしたの父さん、兄さん。そんな顔して??」

「お、お前なー!!どうして我が家の風呂がふたつあるのか知らんのか??」

「知ってるよ?男と女でしょ??けど私1人は寂しいじゃん!!だから一緒に入ろうと思って!」

「「はぁ」」

ジョージとハヤトはため息をつく。

そして2人を代表してジョージが怒る


「あのなー、カーラ。お前に騎士になるなとは言わん。さほうを身につけろとも言わん。だから頼む。せめて常識だけは覚えろ」


叱ると言うより懇願に似たそれはジョージの心を切実に表現していたのだがカーラには伝わらない。


「わかった!これから頑張るね!!ところでなんの話ししてたの??」

「「………」」

「えーと、ケータの話を」

「え?だれそれ??なになに??聞かせてナル!!」

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