第3話始まりの物語3
ケータの家でご飯を食べ少し時間が経った頃、ナルは領主である父のところまで走って向かっていた。
「やばい。今何時だ??」
街の中にはほとんど時計がない。
なので時間を確認することが出来ず焦るナル。
必死に走っていると門が見えてくる。
「はぁ、はぁ。あの!今何時か分かりますか??」
「あ、ナル様。えーと、14時2分前ですね」
「ありがとーーーー」
時間を聞きさらに慌てて走るナル。
約束の時間まであと2分。
「間に合いそうだね。でも念の為。ふっ」
そう言うと走るスピードが1段階上がる。
そしてそのまま庭まで走りきる。
庭に着くと既に父であるジョージとハヤト、そしてカーラが居た。
「ナル!遅いじゃない??もうはじめるよ!」
「すみません。カーラ姉様」
「カーラ。言葉使いを直せと言ってるだろう」
「えー、いやだ。私騎士になるんだし!」
カーラはそういい剣を振る。
それを見たジョージはため息をし、言葉を続ける。
「はぁ、わかった。なら今日はハヤトと模擬戦をしてもらう。ナルはこっちでウィルソン流の稽古な」
「ねぇ!父さん!私もウィルソン流使っていい??」
「ダメだ。それを使う前にまずは基礎!型をスムーズに使えるまで俺以外の対人戦では使用禁止だからな」
「はーい」
ジョージはカーラの提案をやや強く拒否する。
カーラもそう言われるとわかっていたようであっさりと諦めた。
そしてジョージはナルの方を向き訓練を始める。
「よし、ナル。今から反射トレーニングを始める」
「はい!お願いします!!!」
ナルは心を落ち着かせる。
そして神経を尖らせ周りの空気を読む。
すると右横から胴体へ違和感を感じる。
それを避けるようにジャンプする。
すると足元の風がゆらぎ、ブンって音が聞こえる。
「よし、なかなかいいぞ。じゃー続けていくからな」
ブンっ、ブンっ、ブンっ
ナルは違和感を感じる所をひたすら避ける。
「ほぉー、これも避けるか。ならこれはどうだ?」
ジョージがそう言うとナルが今まで感じとれていた違和感が無くなる。
ナルは訓練が終わったのだと思い気を抜く。するとゴンッという音と共に急に頭に激痛が走った。
「いっ。え?」
「さすがに無理だったか。大丈夫かナル?」
ナルが目隠ししていた布を解きながら話しかけるジョージの顔は笑っていた。
「あ、大丈夫です!!」
視界がはっきりしたナルは返事をする。
するとジョージは急に笑い始める。
「ははは、ははっ。あー、すまん。お前は可愛いやつだな」
そう言いながら頭をくしゃくしゃする。
ナルは今起きていることを理解できず頭の中で???が回ってる。
「いやー、最後のはちょっと俺が細工したからかわせなくてもいいんだ」
「細工?」
「んー、なんていえばいいんだろうな。また教えよう」
もったいぶった言い方にナルは少し興味が湧く。だが質問する気もなかった。
なぜならまた教えると自分の父が言っているのだからそれを聞くのは申し訳ないと思ったからだ。
「よし、次は模擬戦といくか。俺は七割でやるから一発でも剣を当てたら終了」
「はい。頑張ります!」
「はぁ、はぁ、はぁ。当たった〜」
「よし、なかなか良かったぞ。ナルは成長が早いからあと数年すればウィルソン流を完全に扱えるようになれるだろう」
「ありがとうございます!!」
模擬戦を終えて訓練が終了し、休憩に入る。
メイドのシャーリーが飲み物を持ってくる。
「ナル様、お飲み物を」
「ありがとうシャーリー」
「いえいえ。そういえば今日お誕生日でしたね。おめでとうございます」
パチパチパチと手を叩きながら祝うシャーリー。
それをされたナルは少し恥ずかしそうに答える。
「ありがとう!今日で10歳なんだ!」
「そしたら本日はご成人の儀式を?」
「うん。家でやるって父上が言ってた」
「私は住み込みメイドでは無いのでお祝いできなくて残念です」
残念そうに肩を窄めるシャーリー。
シャーリーには2歳になる子供がいるためいまは屋敷ではなく別のところから通っているメイドのため、18時には家に帰っているのだ。
「そういえばシャーリーの子供は元気?」
「はい!今ようやく話し始めたので良ければ今度ナル様に会わせたいと」
少し楽しげな様子で話すシャーリー。
ナルも少し楽しそうだった。
「ナルーー。父さんが呼んでる!」
その会話を遮るようにカーラがナルを呼んだ。
ナルはゆっくりと立ち上がり叫び返す。
「今から行きます!!」
「早くーー」
そして少し歩いた後、後ろを振り返りシャーリーのほうを向く。
「シャーリー。残念だけど多分俺学校行かないといけないからすぐは無理かも。けど俺も会いたいから今度絶対会わせてね!!」
「分かりました」
シャーリーはそれだけいいナルが飲んだコップを片ずけるため屋敷へ戻って行った。
そしてナルも急いでジョージの元へと走っていく。
ジョージのところに行くとハヤトとカーラも一緒にいた。
「それで父上。話とはなんでしょうか?」
「そーだよ父さん。何?」
どうやらハヤトとカーラもなんで呼ばれたか分からないらしい。
「カーラ、ナル。お前たちは何故模擬戦でウィルソン流を使ってはいけないと言われるか分かるか?カーラ答えてみろ」
いつもの優しいジョージとは違い目がキリッとしている。
これはウィルソン流の師匠としてのジョージの顔だと3人は理解した。
少し緊張しているカーラは答える。
「私たちの技術が未熟だからです」
「ナルは」
「姉様と同じです」
ジョージはそれを聞き少し笑う。
「ふっ、確かにそれもある。だけどな本当は違うんだ。ハヤト、お前は分かるだろ?」
振られたハヤトは自信ありげに言う。
「はい。ウィルソン流で模擬戦すると相手が死んでしまう場合があるからですよね?」
「正解」
ニヤッと笑うジョージ。
ぼけっとボケっとしている2人。
「カーラは学校へ行ってないから教えてなかったな。だが、ナルはこれから学校へ行かなければいけない。そこでだ!お前は明日からウィルソン流を禁止する」
ハヤトはやっぱりと言い、カーラは???が頭の上に浮かび、ナルはキョトンとしている。
「父上が言ってること理解出来たか、ナル?」
ハヤトは優しくナルに問いかける。
それを聞きナルは慌てて返事をする。
「は、はい。ウィルソン流は模擬戦でも危険だから外では使ってはダメってことですよね?」
「そういう事だ。理解力がある。流石俺の息子だ」
ハヤトが出した質問に答えるとジョージが褒める。
ナルは自分の父上に流石俺の息子と言われ心の中で喜ぶ。ナルの中でさすが俺の息子と言われることは最上級の褒め言葉だからだ。
ジョージは少し間を開けて話し始める。
「もちろん、ウィルソン流を極めることは続けてもらうつもりだからナルにはヒイラギを付ける」
「ヒイラギですか?」
「はい。僭越ながらお供させて頂きます」
「「「!!!!」」」
バッと声が聞こえた方を振り返る3人。
そしてそこにはヒイラギがいた。
「ヒイラギにはこれまでナルの護衛を極秘でしてもらっていた。これからは護衛兼ウィルソン流の先生として学校へついて行ってもらう」
「よろしくお願いします」
綺麗な一礼をするヒイラギ。
ナルはまだキョトンとしている。
ハヤトもカーラも同様にキョトンとしっぱなしだ。
「よし、じゃー久々に一緒に風呂へ入るか。ナル正装に着替える前に汚れを落としに行くぞ」
「は、はい!!」
「ハヤトも一緒に入るぞ」
「はい、分かりました」
「カーラはちゃんと入れよ?」
「わかってるって!!」
こうしてナル達は訓練を終えたのだった。
ボソッ
「ジョージ様。ナル様のことで少しお話が」
「なんだヒイラギ。異変でもあったか?」
「いえ、ですが報告しないといけない内容でして」
「もったいぶらずに早く言ってくれ。気になる」
「はい。ナル様のご友人のケータ様はご存知ですよね?」
「あぁ、カディルの息子だろ?それがどうした」
「ナル様はそのケータ様に剣術を教えていたのですが」
「あぁ、知っている。お前が言っていたからな」
「はい。それでケータ様が気に目覚めました」
「ブッ!!マジで??」
「大マジです」
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