10.ファーストライブ。
――舞台に上がると、そこは別世界のようだった。
日の落ちた真っ暗な空には星々が煌めいて、祭りの提灯と鮮やかなコントラストを描いている。しかし、それ以上に息を呑むのは観客の視線。期待のアイドルの新曲をいち早く聴こうと駆け付けたのだろう。近隣の学校に通う生徒たちの姿もあった。
「…………!」
そこに、ボクの知る人はいない。
分かっている。ここは、自分のことなど誰も知らない場所だった。
女のような顔をしているからと、いじめを続けた同級生たちはいない。だとすれば、今だけは間違いなくボクは――。
「みなさん、今日は来てくれてありがとう!」
――ボクじゃないボクに、なることができる!!
ボクの掛け声に、観客たちはいっせいに声を上げた。
老若男女問わずに波を打つ。スマホで撮影しているのだろうか、まばらに輝く光はゆらゆらと揺れていた。ライブでいえば、サイリウムの代わりだろうか。
それはまるで、夜空との対比のようで。
まるで宇宙の只中へ放り出されたように、身体が浮くような錯覚を抱いた。だけども、いまのボクは林原ミコトではない。
ボクはいま、他でもない。
誰もが望んだアイドル、瀬戸ミライとして立っているのだから。
いつかのボクがそうだったように、誰かに勇気を与えられるような一番星。そんな彼女の力になりたいと、心の底から願うから。
「今日はとにかく、一緒に楽しみましょう!!」
ボクは、声を張り上げた。
歓声がひときわ大きく湧き上がり、曲のイントロが流れ始める。
手に持ったマイクを口元へ。そして小さくリズムを取って、ボクは歌うのだ。
「アタシはアタシ、他の誰でもない。ただ真っすぐに――」
小さくステップを踏みながら。
「『夢』へと向かって駆け出していくんだ!」――と。
◆
「……すごい、じゃない」
舞台袖からミコトを見守るミライは、静かにそう呟いた。
いまは誰も、自分のことを見ていない。みんなが、ただ真っすぐにミコトという少女のことを認めていたのだ。
拍手喝采の最中でも、物怖じしないミコト。
彼女にとって、これは紛れもないファーストライブ。
それにもかかわらず、あまりに堂々とした姿にミライは――。
「うん。……本当に、すごい」
ただ純粋に、ミコトという人物の歌声に酔いしれていた。
そしていつか、自分が思いを馳せたアイドルの姿を彼女に重ねる。いつもなら否定していただろうその錯覚すら、今ばかりは胸が躍った。
この子と一緒に、これから駆け上がりたい。
誰もが認める頂点を二人で、と。
「まったく、参ったわね……」
そう思う少女、瀬戸ミライの表情はいつになく穏やかで。
言い知れない幸福感に満ちているように思えた……。
――――
次回、第1章完結ですかね。
ミコトくん、頑張りました!
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