9.ミライに起こった異変。







 ボクたちが訪ねた祭りは、三日間に渡って開催されている。

 今日はその二日目で、外部からのお客さんや観光客が最も集まるようだった。昨日の雰囲気とはまた違っており、人の波ができている。それを避けて、関係者出入り口からトークショーが行われる舞台裏にきたのが夕方五時過ぎだったろうか。

 ふと、そこでミライの様子がおかしいことに気づいた。



「あれ、ミライ……? 顔色が悪いけど、どうしたの」

「な、なんでもないわよ……!」



 彼女はそう言ったが、見るからに異変が起きている。

 怒ったように答えたミライの額には、脂汗のようなものが浮かんでいた。緊張によるものではない。一目見た瞬間に、それは理解できた。

 だが、ボクと彼女以外の大人たちは作業に手間取っており話しかけられない。

 結果として、こちらは二人でどうにか対応しなければならなくなった。



「ね、ねぇ……具合が悪いなら、正直に……」

「うるさい……! 大丈夫って言ったら、大丈夫なの! このこと、アキラに伝えたりしたら許さないからね!!」

「え、えぇ……!?」



 しかし、当の本人が非協力的で。

 ボクは困惑するしかなかった。そして、



「瀬戸ミライさん、そろそろ準備お願いしますー!!」



 手を拱いている間に、トークショーの時間がきてしまったらしい。

 呼びかけに応じて、ミライは大きく深呼吸を一つ。そして、言葉もなく声のした方へと歩いて行ってしまった。

 ボクはしばし呆然としてそれを見送ったが、しかし――。



「……ボクに、できることは…………!」



 呆けている場合ではない。

 ボクは急いでアキラさんを探し、ある行動に移るのだった。









「…………で、それが……」

「へぇ、そうなんですね!」




 トークショー自体は、滞りなく進行していた。

 いま売り出し中のアイドル――瀬戸ミライを見るため、舞台の下には大勢の人が集まっている。しかしミライは臆することなく、堂々とした態度で談笑し、相槌を打っていた。違和感などない。それを覚えているのは、彼女だけだった。



「(……はやく、終わって……!)」



 必死に笑顔を作って、意識を逸らす。

 額に汗がにじむが、深呼吸をひそかに繰り返して抑え込んだ。

 だが、それも一時しのぎにしかならない。根本の『それ』が解決しない限り、幾度となく『痛み』は襲ってくるのだから。

 そして、ようやく当初の予定を終えようとしていた頃合いだった。



「実はですね、ミライちゃんのマネさんから『最新曲の歌とダンス』を少しだけ、見せてもらえるってオーケーを取り付けたんですよ!」

「…………え?」



 何の気なしに、司会者がそんなことを口にしたのは。



「いやぁ、私もかなり無理を言ったんですけどね! マネージャーさんも、ずいぶん渋い顔をしていましたが、許可を出してくれて――」



 軽快な語り口調で、ミライの断りもなく話は進んでいった。

 そして、ひとまず準備をすることとなって、ミライはステージ袖へと下がることになったのである。







「アタシ、絶対にやらないから!!」




 ミライがアキラにそう告げたのは、その直後のことだった。

 鬼の形相でマネージャーに訴える彼女の額には、さきほどまでずっと我慢していた大量の汗が流れ落ちている。呼吸も絶え絶えで、何かしらの異変があるのは明らかだった。だがしかし、出てしまった話をひっこめるわけにはいかない。



「でも、ミライちゃん……」

「やらない、ったら、やらないから!! 勝手に決めないで!!」



 それでも、ミライは頑なだ。

 決して首を縦に振ろうとはせず、舞台に立つことを拒否し続ける。

 そんな彼女の様子を事務所の関係者が見たら、きっといつものアレ、というふうにため息をつくだろう。しかし、そんな少女に助け舟を出したのは――。



「――ミライ! 大丈夫!?」

「ミコ、ト……?」



 彼女の影武者である林原ミコトだった。

 ミコトはすでにステージ衣装に袖を通しており、一気に脱力したのであろうミライの身体を支える。そして、こう口にするのだった。



「大丈夫。ここは、ボクに任せて!」

「………………」




 対してミライは、真剣な表情のミコトを見る。

 その上で、唇を噛みながらこう告げるのだった……。





「下手を打ったら、絶対に許さないから……」――と。





 

――――

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