8.暗雲。






「…………寝つきはいいのね。それとも、アタシに付き合ってて疲れた?」



 ――深夜、旅館にて。

 ミライは隣の布団で寝ているミコトの寝顔を見て、そう口にした。

 羨ましいほど綺麗な黒髪に、愛らしい瞳。それらの色は異なれども、顔立ちはたしかに自分に似ている、そう思われた。これならば簡単な化粧をしさえすれば、影武者として問題なく活動できるだろう。


 いや、それ以前に。

 自分のマネなどしなくても、彼女はきっとこの世界でのし上がれる。それだけの素質や可能性は秘めているし、何よりレッスンに対する姿勢も貪欲だった。

 事務所の中で浮いている自分とは、対局の評価。

 それなのに、ミコトはどうして影武者でいい、と首を横に振るのだろうか。



「ホント、不思議ね……」



 言いながら彼女の髪に触れようとして、しかしミライは手を止めた。

 瞬間、ミコトが身動ぎをしたのもあるが、それ以上に『触れてはいけない』と感じてしまったのだ。理由は分からない。だけども、このミコトという少女には不思議な縁があるように思ったのだ。

 だからこそ、深入りしてはいけない。

 あるいは『警鐘』なのかも、しれなかった。



「はぁ……ったく、分からないわね。でも――」



 ミライはそこで大きなため息をつく。

 そして、気持ちよさそうに眠る自身の影である少女に告げた。




「ホントに、憎たらしいわね」――と。




 それは、決して嫌悪によるものではなく。

 むしろ好感を抱くからこそ、口にしたもののように思われた。



「さて、と。そろそろ、薬飲んでおこっと……ん?」



 それから、ミライは気持ちを切り替えるように自身のバッグを開く。だがすぐに眉間に皺を寄せ、思わぬ異変に気付くのだ。

 それ、というのは――。



「一錠、足りない……?」



 自分が持ってきた痛み止めの薬。

 それが一つ、足りなかった。



「どこかに落とした……?」



 真剣な表情になって、ミライは欠けた一つを探し始める。

 しかし、床の上をいくら探しても見つからない。これはもしかしたら、とんでもないミスかもしれなかった。だが、焦っても仕方のないことだ。

 明るくなってから探そうとも思ったが、ミコトの前で弱みは見せられない。彼女も自分と同じ『思春期の女の子』なのだ。だから……。



「大丈夫。落ち着いて、深呼吸……」



 ミライは必死にそう、自分に言い聞かせた。

 それでも、胸のざわめきは収まらない。



「明日はトークだけ。だから、大丈夫のはず……!」





 嫌な予感がする。

 だけど、時間の流れは無情にも過ぎていくのだった……。





――――

遅くなってごめんなさい( 一一)

バンカラ地方に行ってました(ぉぃ



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