6.祭りに繰り出した二人。








「金魚すくいに射的、それに綿菓子かぁ……!」

「瀬戸さん、金魚は駄目だよ? 生き物は持って帰れないから」

「わ、分かってるわよ!」



 マスクと帽子を装着したミライは、いつになく上機嫌だった。

 いや、これが中学一年生の年相応な反応なのかもしれない。だとすれば、やっぱり連れ出して良かったと思った。りんご飴を二つ持ち歩きながら、ボクは小走りに先を行く彼女を見つめる。



「でも、ヨーヨー釣りならいいでしょ?」

「それなら、問題ないと思うよ」

「えぇ、それじゃ――」



 ミライは露店のおじさんに料金を支払い、道具を受け取った。

 そして真剣な表情でしゃがみ込み、ふわふわと流れるそれらに狙いを定める。しかし、そう簡単にいくものではない。

 紙でできた釣り具は簡単に切れてしまい、風船もただ揺蕩うだけだ。

 あまりにも、あっさり終わった。



「う、ぐ……」

「……瀬戸さん?」



 そんな彼女の背中を見ていると、途端にわなわなと震え始める。

 そして、明らかに苛立った声色で少女は言う。



「納得いかない! おじさん、もう一回!!」

「おうよ、嬢ちゃん」



 再び料金を支払い、ミライは風船をにらみつけていた。

 ボクは、相も変わらずそんな彼女を見ていたのだが、そこへ――。



「お姉ちゃんは、やらないのかい?」

「へ、お姉ちゃん……?」

「違うのかい?」



 店主のおじさんが、首を傾げながらそう聞いてくる。

 どうやら姉妹だと思われているらしい。アキラさんにも言われたが、ボクとミライの顔立ちはよく似ているようだった。だとすれば、姉妹と間違われても仕方ない――わけがない。

 よく考えてみれば、ナチュラルに女の子だと勘違いされていた。

 否定するべきか、しばらく悩んでいると……。



「ねぇ、ミコト! アンタもやりなさいよ!!」

「え、あぁ……う、うん」



 気づけば追加料金を支払っているミライに、目を三角にしながらそう言われる。

 ボクは一度、考えるのをやめてヨーヨー釣りに挑むのだった……。







「納得いかない……!」

「そんなこと言ったって、これはボクが少し器用だっただけで――」

「なによ。アタシが不器用だとでも言いたいの!?」

「――言ってないよ!?」



 果たして、風船を獲得できたのはボクだけだった。

 先輩としての威厳か、なにか分からない。ただそれ以降、ミライはずっと不機嫌なままになっていた。風船を譲ろうか、と申し出ても「施しは受けないわ!」と、突っぱねられてしまう。


 ――いかんせん。


 ボクは年相応の一面を見せる少女に、思わず苦笑いを浮かべた。

 ただ、あまり不快だと思わないのは何故だろう。もしかしたらだけど、完璧な人間だと思い込んでいた相手もまた、普通の女の子だと知って嬉しいのかもしれない。



「……今度は何よ。にやにやして…………」

「いや、ミライがかわいいな、って」

「はぁ!?」



 ――そう、考えていたからかもしれない。

 ボクは思わず、物凄く正直な気持ちを吐露してしまっていた。



「あ、ああああああ、アンタ……なに、言って……!?」

「ち、違くて……! えっと、かわいいのは違わないけど……!?」

「な、何回も言うな! ちょっとは落ち着きなさいよ!!」

「そっちだって、お、落ち着いてよ!!」



 その結果、互いに謎に顔を真っ赤にして言い合いになる。

 しかし一通り言葉を投げ合うと、今度は――。



「…………」

「…………」



 揃って黙り込んでしまった。

 いや、本当になにを言っていいのか分からない。

 謝るのもおかしいし、かといって言葉を訂正するのも失礼だ。そもそもとして、ボクは彼女のファンであって、ある種の越権行為のようにも思えて心苦しい。

 だけど、口にした言葉はもう戻ってこない。

 そう考えていると、先に沈黙を破ったのはミライの方だった。



「…………わよ」

「え?」



 ……なんだろう。

 上手く聞き取れなかったので訊き返すと、彼女は――。





「アンタだって、それなりに可愛いわよ。……アタシの代わり、だし」

「う、ぐ……!?」





 顔を真っ赤にして、まさかの角度から一撃を加えてきたのだった。

 ボクはなにか新しい扉を開きかけ、しかしどうにか踏み止まる。――冷静になれ、林原ミコト。ボクは男であり、そのことを彼女に知られてはいけない。状況は十二分に理解している。大丈夫、素数を数えろ……。



「あ、ありがとう……」

「…………ふんっ」



 脳を焼かれるような感覚に混乱しつつ。

 それでもボクは、自分にできる最大限の返答をした。ミライはその後にそっぽを向いて、なにも言わないまま。

 どこか気まずい空気。

 ボクはそれを誤魔化すように、りんご飴を一口かじるのだった……。





――――

あぁ~^^!

これ以上はなにも言うまい。



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