5.地方でのこと。
「アキラさん、一ついいですか?」
「うん、なんでもどうぞ」
「今日は地方のお祭りのゲストで、トークショー出演でしたよね。念のためにボクも同行する三人で現地入り、って感じで」
「そうだね」
ボクは旅館の一室で、打ち合わせをしながらアキラさんに確認する。
なぜなら、どうしても拭えない疑問があったからだ。
そう、それは――。
「…………だったらどうして、二部屋しか取らなかったんですか!?」
彼が一人部屋を一つ、二人部屋を一つしか取らなかったことだった……!
何が問題って、マネージャーがアイドルと寝るはずがないので、消去法的にボクとミライが一緒の部屋で寝るということ。それは色々な意味で問題しかない。
今はちょうどミライが席を外しているので、何とかするなら今のうちだった。
しかしアキラさんは、どこか間の抜けた笑みを浮かべながら言う。
「いやぁ、キミが男の子だって忘れちゃっててさー」
「忘れちゃっててさ、じゃなくてですね!?」
「それに旅館の他の部屋も、全部満室らしいんだよね。大丈夫だって、ミライちゃんはキミのことを女の子だと誤解したまま、なんだからさ」
「それが今日を機にバレるかもしれない、って言っているんですよ!!」
「そのへんは、なんとか上手く誤魔化してよ。……ね?」
「『ね?』じゃないんですけど!?」
ボクの訴え虚しく、暖簾に腕押しという感じで。
彼は苦笑いを浮かべつつ、のらりくらりと話を誤魔化し続けていた。だけど、ボクだってここで引き下がるわけにはいかない。
言っておくが、ボクだって健全な男子高校生である。
それだというのに、ましてや憧れの美少女と二人きりで夜を過ごせ、なんて馬鹿な話があってたまるか。女顔だけど、そこまで枯れてないぞ!?
「あはは、大丈夫だって信じてるよ。……たぶん」
「根拠薄弱!!」
……アキラさんこそ、大丈夫なのか?
なんというか、マネージャーという管理者の素質的に。
ボクは完全に意気消沈し、思い切りテーブルに突っ伏してしまった。すると、そんなこちらの気持ちを知ってか知らでか、茶化すように彼は言う。
「でも、滅多にないチャンスだよ? アイドルの生着替えに、風呂上がりの濡れた髪、他には――」
「だああああああああああ!? アキラさん、アンタ馬鹿ですか!?」
――意識させるなよ、何考えてるんだマジで!!
ボクは声を荒らげて耳をふさぐ。とんでもなく顔が熱い。きっとアキラさんから見たら、ボクの顔は真っ赤になっているのだろう。
それを見て意地悪に笑っている彼に、憎しみを抱いてしまった。
そうしていると、お手洗いからミライが戻ってくる。
「なに騒いでんの、アンタたち」
「い、いや……」
「ミコトちゃんが、今日のお祭りが楽しみだ、ってさ!」
「……はぁ、子供ね?」
そして、そんなやり取りをして着席した。
ボクは赤らんだ顔を隠すようにして、一つ大きく深呼吸をする。
「子供かどうかは、さておき。ところでアキラさん、明日のトークショーの時間までは自由行動なんですよね?」
「うん、そうだね。せっかくだし、祭りを楽しんできなよ」
「もちろん、アタシたちってバレないようにね」
それだったら、少し外の空気を吸ってくるのも良いかもしれなかった。
ボクは都心より外の県に行ったことがないし、新鮮な景色ばかりだろうと思う。それに、アキラさんの言葉に従うのは癪だが、祭りに興味があるのは事実だった。
そんなこんなで、打ち合わせを終えたボクたちは各々の部屋に戻る。
つまり、ボクはミライと二人きり、ということだ。
「…………ね、ねぇ?」
「ん、なによ」
しかし、部屋に入ってから数十分が経過しても会話がない。
ボクの方から話題を振ろうにも、何を言えばいいのか分からなかった。ミライはずっと外を眺めているし、これといってどこかへ行く、ということもないらしい。
そう考えていると、不意に彼女がこう口にした。
「……あ、りんご飴」
「え……?」
それは呟きに近かったのだろう。
あるいは、ボクという存在を忘れていたのかもしれない。
ミライはいまの言葉が聞かれたと気づいて、勢いよくこちらを振り返った。そして、ほんの少しだけ頬を赤らめて咳払いをする。
「す、少しだけ気になっただけよ。アンタは無視しなさい」
「あー……」
――なるほど、そういうことか。
ボクは取り繕う彼女の様子を見て、あることに気が付いた。なので、このように提案してみる。
「……ボク、りんご飴食べたことないんだよね。買いに行こうよ」――と。
素直ではないミライのことだから、きっと子供っぽさを隠したかったのだろう。
そう考え、提案してみると彼女はしばしの間をおいてから――。
「…………し、仕方ないわね……!」
渋々、という体を装って。
おもむろに、外出の準備を始めるのだった。
――――
次回、初デート?です(*‘ω‘ *)!!w
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