4.強気な少女の、ほんの少しだけ裏の顔。








「あの、今日はありがとうございました!」

「ん、別にいいって。ついでだし」




 二人きりのレッスンを終えて、ボクとミライさんは帰路についていた。どうやら同じ駅から同じ方向に行くらしいので、そこまでは一緒に向かうことに。

 その道中で、ボクがそう言うと彼女は特に気にした様子もなくそう答えた。



「あと、アンタの方が年上なんでしょ? タメ口でいいから」

「え、でも……」

「いいっての! こっちだって、好きに呼んでんだから」

「は、はい!!」



 そして、思わぬ申し出をしてくる。

 ボクはつい拒否しようとするが、結局のところ押し切られてしまった。だけど、せっかくだしここは彼女の言葉に甘えることにしよう。

 そう思いながら、ふと気になったことを訊ねた。



「ねぇ、ミライ。一つだけ訊いて良い?」

「なに?」

「もしかして、自主練しにきたんじゃないかな。さっき」

「………………え?」



 それというのも、彼女がレッスンルームに現れた理由。

 こちらの指摘にミライは、どこか虚を突かれたような表情になった。そんな相手に対して、ボクはそう思ったワケを話し始める。



「だって、社長室からレッスンルーム、ってなると。事務所の出入り口から、真反対でしょ? わざわざ寄るにしては、少し違和感があるかな、ってさ」

「う……」



 するとミライは、小さく声を詰まらせた。

 ちらりと表情を見てみると、そこにはバツの悪そうな少女の顔がある。そして、しばしの沈黙の後に彼女はようやく口を開くのだった。



「だって、カッコ悪いでしょ……」――と。



 それは本当に、夏の夜の空気に溶けるような声音で。



「アタシみたいな性格の人間が、大真面目にレッスンに出るなんて」

「ミライ……?」



 こちらが首を傾げると、ミライは大きくため息をついた。



「だーかーらー! アタシの柄じゃないって言ってんの! アタシは何もしなくても完璧で、誰よりも強くて、誰よりも才能がないといけないの!!」



 そして、次に出たのはそんな言葉。

 少女はどこか苛立ったようにそう続けると、口をへの字に曲げてしまった。そんな姿を見て、ボクは思う。もしかしたら彼女は、自分の思っていたような人物ではないのかもしれない、と。


 ――才能があるから自信がある?

 いいや、違うんだ。むしろ、それは逆なんだ。

 才能があると虚勢を張った上で、それに見合う努力を重ねているから。だから、ミライは自信を持って色々なものへ立ち向かえるのだ。



「ミライ、キミは――」



 そんな彼女の姿に、ボクは思わずこう口にしていた。



「強いね、本当に……」――と。



 人に見えないところで努力を重ね、それに裏付けされた自信で行動する。どんな理由があったとしても、その姿はやはり、ボクが思い描いた強さに他ならなかった。

 だからこそ、改めてボクはミライに憧れを抱く。

 彼女のように芯をもって、前に進む意思のある人になりたいと思った。



「…………はぁ? なにいってんの、アンタ」

「あ、あはは! ごめん、気にしないで!」

「………………」



 だけど、そんなこちらの気持ちとは裏腹に。

 ミライは怪訝そうな視線を向けてきた。――まぁ、それも仕方のない話である。なにせ彼女はボクの事情を知らないし、ボクも彼女の事情を知らないのだから。

 だから笑って誤魔化そうとした。

 すると、不意にミライは足を止めるのだった。



「ミライ……?」

「…………」



 不思議に思って、こちらも足を止める。

 すると彼女は大きく息をついてから、悪戯っぽい表情を浮かべて言った。









「ま、いまのは感謝しておくわ! ミコト!」――と。







 その言葉はまるで、ボクという人物を認めたようなもので。

 彼女なりに、ボクの言葉を受け入れてくれたように思えたのだった。




「それじゃ、アタシは先に行くわね!」

「え、ちょっと!?」



 そう思っていると、どこか顔を隠すようにしてミライは走っていく。

 ボクは呆然とそれを見送ることしかできず、しかし胸に残ったのは心地の良い温かさだった。それを掴むようにして、ボクは自分の胸に手を当てる。

 少しだけ、なにかが前に進めたように感じた。




 ボクとミライ、偽物と本物。

 だけど、微かに生まれたこの絆は、偽りない本物であるように思えたのだった。





 

――――

強がる少女って、感じですね_(:3 」∠)_

さて、頑張って書いていきます!


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