2.一難去って、また……?






「な、なんでこうなるんだよ……」




 ボクは広い会場の中、最奥にあるパイプ椅子に腰かけて震えていた。

 改めてだが、自分の出で立ちを確認する。頭には金色のウィッグを被って、着ているのはフリルがふんだんにあしらわれたワンピース。足がスース―する感覚になれず、思わず内股になってしまった。

 目の前にはテーブルを挟んで、列を整理する仕切りが設置されている。警備員も数名配置されていて、それなりに厳重であるように思われた。



「大丈夫だって。見た目は完全に、ミライちゃんだからさ! 自信もって!!」

「持てるわけないでしょう!?」



 そんな状況に置かれて、恐怖やら何やらに震えるボクに声をかけたのはアキラさん。彼はどこか安堵した表情で、晴れやかにサムズアップして白い歯を見せた。

 しかしながら、こちらとしては生きた心地がまったくしない。

 なので、ボクは最大限の恨み言を一つ。



「な、なにかお礼はしてもらいますからね……」

「はっはっは! 任せておきたまえ!!」

「…………」



 だけど、彼にはまったく響いていないようで。

 ボクはいよいよ、審判の時を前にしてうな垂れてしまうのだった。すると、



「それでは、整理券番号1番の方から――」



 ついに握手会が始まったらしい。

 もう、こうなったらどうにでもなれ。

 どうせバレたとしても、責任はアキラさんにあるのだから。そう考えて、ボクはゆっくり近づいてくる男性の波を待ち構えるのだった。









「いやー、大盛況だったね!」

「………………」

「ミコトくんも、途中からはかなり手慣れてたしさ!!」

「………………」




 ――なぜ、バレなかったのか。

 ボクは控室に戻って、自身のコンプレックスである顔立ちに恐怖心を抱いていた。

 それに対してアキラさんは、先ほどよりもさらに清々しい表情。一仕事終えて、心の底から安堵しているのだろう。直前の涙目はどこへやら、今ではとかくニッコニコである。



「んー、しかし『お礼』か。そうだな、余ったグッズを無料で、とか……?」

「……いや、もう別に――」



 そんな彼がさっさと話を進めるのだが、もう細かいことはどうでも良かった。こうなったらさっさと帰りたい。帰って、ゆっくり休みたかった。

 引きこもりは引きこもりらしく、家でのんびりしたい。

 そう思った時だ。



「ちょっとアキラ! これ、どういうことよ!!」

「え……?」



 一人の女の子が、控室に飛び込んできたのは。

 見ればそこにいたのは――。



「(せ、せせせせ、瀬戸ミライさん……本物!?)」



 ずっと画面越しにしか見ることが叶わなかった憧れ。

 そんな少女が、思い切り目を三角にしながらアキラさんに迫っていた。出で立ちは太ももを思い切り露出したハーフパンツに、オシャレな黄色のシャツ。サングラスとマスクをつけていたのだろう、手にはそれらが握られていた。



「ど、どういうこと、って……?」

「なんで握手会が終わってるのよ! アタシはまだ……!」



 ミライさんはボクなんかに目をくれず。

 マネージャー兼現場責任者であるアキラさんに、食ってかかっていた。その言い分には、どうもドタキャンした人物とは思えない口振りもあったが、とにもかくにも仲裁しなければならない。

 そう考えたボクは、震える声を抑えて割って入った。



「あ、あの……ひとまず、落ち着いて……」

「なによ!? てか、アンタその衣装――」



 だがしかし、彼女はボクの着ているワンピースを見るとヒートアップ。

 今度は綺麗な顔でこちらに迫ってきた。



「アタシの衣装じゃないの!? どうしてアンタが着てるの!!」

「え、あの、いや……」



 これは、かなりやばい。

 そう思っていると、次に口を開いたのはアキラさんだ。



「それはキミが、いきなりキャンセルしたからだよ。ミライちゃん」

「あぁ……?」



 それに対し、ミライさんは輩のような声で振り返った。

 しかしアキラさんは怯むことなく、こう続ける。



「ミコトく――ちゃんは、キミの代わりになってくれたんだ。この子にはむしろ、感謝してあげてほしい」

「コイツが、アタシの代わりに……?」

「………………」



 そして、またミライさんはボクを見た。

 だけど先ほどと違うのは、瞳に宿る色が怒りから好奇に変わっていること。彼女は値踏みするようにしてボクを見ると、しばし考えていた。

 いったい、どうしたのだろう。

 ボクがアキラさんに目配せをすると、彼も首を傾げていた。



「なるほど、ね。アンタ、案外可愛いじゃない」

「……そ、それはどうも…………?」

「よし、決めたわ」

「え……?」



 ――で、数分の思考の後。

 ミライさんは唐突に、邪悪な笑みを浮かべて言うのだった。







「アンタ、これからアタシの影武者になりなさい!!」――と。






 …………はい?

 ボクはしばし硬直し、そして――。





「え、ええええええええええええええええええええええええええええ!?」






 本日、二度目の絶叫をするのだった……。




 

――――

ここまでオープニングかな(*‘ω‘ *)?

面白い、続きが気になる。

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