2.一難去って、また……?
「な、なんでこうなるんだよ……」
ボクは広い会場の中、最奥にあるパイプ椅子に腰かけて震えていた。
改めてだが、自分の出で立ちを確認する。頭には金色のウィッグを被って、着ているのはフリルがふんだんにあしらわれたワンピース。足がスース―する感覚になれず、思わず内股になってしまった。
目の前にはテーブルを挟んで、列を整理する仕切りが設置されている。警備員も数名配置されていて、それなりに厳重であるように思われた。
「大丈夫だって。見た目は完全に、ミライちゃんだからさ! 自信もって!!」
「持てるわけないでしょう!?」
そんな状況に置かれて、恐怖やら何やらに震えるボクに声をかけたのはアキラさん。彼はどこか安堵した表情で、晴れやかにサムズアップして白い歯を見せた。
しかしながら、こちらとしては生きた心地がまったくしない。
なので、ボクは最大限の恨み言を一つ。
「な、なにかお礼はしてもらいますからね……」
「はっはっは! 任せておきたまえ!!」
「…………」
だけど、彼にはまったく響いていないようで。
ボクはいよいよ、審判の時を前にしてうな垂れてしまうのだった。すると、
「それでは、整理券番号1番の方から――」
ついに握手会が始まったらしい。
もう、こうなったらどうにでもなれ。
どうせバレたとしても、責任はアキラさんにあるのだから。そう考えて、ボクはゆっくり近づいてくる男性の波を待ち構えるのだった。
◆
「いやー、大盛況だったね!」
「………………」
「ミコトくんも、途中からはかなり手慣れてたしさ!!」
「………………」
――なぜ、バレなかったのか。
ボクは控室に戻って、自身のコンプレックスである顔立ちに恐怖心を抱いていた。
それに対してアキラさんは、先ほどよりもさらに清々しい表情。一仕事終えて、心の底から安堵しているのだろう。直前の涙目はどこへやら、今ではとかくニッコニコである。
「んー、しかし『お礼』か。そうだな、余ったグッズを無料で、とか……?」
「……いや、もう別に――」
そんな彼がさっさと話を進めるのだが、もう細かいことはどうでも良かった。こうなったらさっさと帰りたい。帰って、ゆっくり休みたかった。
引きこもりは引きこもりらしく、家でのんびりしたい。
そう思った時だ。
「ちょっとアキラ! これ、どういうことよ!!」
「え……?」
一人の女の子が、控室に飛び込んできたのは。
見ればそこにいたのは――。
「(せ、せせせせ、瀬戸ミライさん……本物!?)」
ずっと画面越しにしか見ることが叶わなかった憧れ。
そんな少女が、思い切り目を三角にしながらアキラさんに迫っていた。出で立ちは太ももを思い切り露出したハーフパンツに、オシャレな黄色のシャツ。サングラスとマスクをつけていたのだろう、手にはそれらが握られていた。
「ど、どういうこと、って……?」
「なんで握手会が終わってるのよ! アタシはまだ……!」
ミライさんはボクなんかに目をくれず。
マネージャー兼現場責任者であるアキラさんに、食ってかかっていた。その言い分には、どうもドタキャンした人物とは思えない口振りもあったが、とにもかくにも仲裁しなければならない。
そう考えたボクは、震える声を抑えて割って入った。
「あ、あの……ひとまず、落ち着いて……」
「なによ!? てか、アンタその衣装――」
だがしかし、彼女はボクの着ているワンピースを見るとヒートアップ。
今度は綺麗な顔でこちらに迫ってきた。
「アタシの衣装じゃないの!? どうしてアンタが着てるの!!」
「え、あの、いや……」
これは、かなりやばい。
そう思っていると、次に口を開いたのはアキラさんだ。
「それはキミが、いきなりキャンセルしたからだよ。ミライちゃん」
「あぁ……?」
それに対し、ミライさんは輩のような声で振り返った。
しかしアキラさんは怯むことなく、こう続ける。
「ミコトく――ちゃんは、キミの代わりになってくれたんだ。この子にはむしろ、感謝してあげてほしい」
「コイツが、アタシの代わりに……?」
「………………」
そして、またミライさんはボクを見た。
だけど先ほどと違うのは、瞳に宿る色が怒りから好奇に変わっていること。彼女は値踏みするようにしてボクを見ると、しばし考えていた。
いったい、どうしたのだろう。
ボクがアキラさんに目配せをすると、彼も首を傾げていた。
「なるほど、ね。アンタ、案外可愛いじゃない」
「……そ、それはどうも…………?」
「よし、決めたわ」
「え……?」
――で、数分の思考の後。
ミライさんは唐突に、邪悪な笑みを浮かべて言うのだった。
「アンタ、これからアタシの影武者になりなさい!!」――と。
…………はい?
ボクはしばし硬直し、そして――。
「え、ええええええええええええええええええええええええええええ!?」
本日、二度目の絶叫をするのだった……。
――――
ここまでオープニングかな(*‘ω‘ *)?
面白い、続きが気になる。
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