【小話】庭師兼罠師の楽しみ。

 


 レニー・サイラスは、エルア・ホワードの邸宅で庭師をしている。18歳の時にエルアに拾われてから5年ほど広大な庭を任せてもらっている。

 故郷では作物を枯らしてしまってばかりで捨てられて、拾われた冒険者のパーティでは凶暴に人を排除しようとする魔の森の植物から身を守るための盾にされていた。その冒険者達が魔の森の餌食になった後は必死になって生きてきたが、エルアに会えたおかげで安住の地を見つけられた。


『あなたの力が私には必要なの。うちで働いてくれれば衣食住と危険手当付きよ!』


 彼女のおかげで植物の成長を大幅に促進させるのだと知れた上、ずっとずっと枯らしてしまうばかりだった植物たちを大事にできるようになったのだ。

 しかも人よりワンテンポ話すのが遅くて、怒らせてばかりだったのに、エルアだけでなく他の仲間達もレニーを嫌がらず合わせて迎えてくれたのだ。

 魔の森の植物や魔物に怯える事もなくたった一人で声も出さない日々を過ごすこともない。仲間内でやる催しも快く参加させて貰えるし、ふかふかのベッドで眠れて、三食おやつ付きでご飯を食べさせて貰えるうえにお給料を貰えるのだ。ここは天国なのだろうかと今でも時々考える。


「レニー。やっぱりここにいましたかー」


 今日もレニーが庭の手入れをしていると、茂みの影から空良が現れた。ここの使用人達は音を立てずに現れるのはすごいなあと思っている。自分はのろまだから、皆のように機敏に動く事ができない。


「朝からずうっとそとにいるでしょー。そろそろお昼なんで、ちゃんと食べに来てくれるように呼びにきたんですよぉー」

「空良さん、ありがとうございます。ご飯はいただきにまいります」


 レニーが麦わら帽子を脱いで、ぺこりと頭を下げると、空良はうなずいた後周囲を見回した。


「いつもながら、レニーさんの手入れはすごいですねぇー。この間のドロボーが入ってきたところ元通りじゃないですかー」


 今日は先日穴を開けられた生け垣を埋める作業だった。花の鉢を置いて生け垣の穴を隠していたのだが、そろそろ生け垣の枝葉が伸びてきたためそれを整えていたのだ。

 この屋敷では、良く侵入者が現れる。エルアの躍進をねたんだ者や、金目のものを求めてくるのだ。そのため庭が良く荒らされるのだ。しかし頻繁に荒らされているという事実を知られることはエルアの権威を落とすことになる。そういうときにレニーの植物の成長を早める力はとても役に立ったのだ。

 空良に感心されたレニーは少し照れながら、いそいそと書いていた配置図を渡した。


「ええと、今回の罠の位置です。覚えていてください」

「おーありがとうですー。ふーふふー。ほんと、レニーさんのおかげで屋敷の防備を限定できてたすかりますー」

「僕が森で覚えた罠が役に立つのでしたら。植物たちも協力的ですし。今はアルバートさんがいないから、防備もしっかりしていた方がいいと思いまして」


 アルバートは敵地に潜入している真っ最中だ。そういうことは過去にもあったが、そのときにエルアを守るのは自分たち使用人の役目である。

 頭を掻きながらレニーが言うと、空良はじんわりと微笑む。


「うんうんその通りですねー。エルア様もかわいー悩みをもってるみたいですしーあたしたちがしっかりしときましょー」


 二人で連れ立って歩き始めたが、あっと空良が思い出したように振りかえる。


「このあいだの『チキチキ! アルバートさん見破られるか選手権』ですけど、レニーさんの『千草さんが警戒して気づく』がぴったり当たったので、ふわっふわのパンケーキベリー添えがおやつですよー。生け垣整備お疲れ様でしたーでアイスクリームもつけますよう」

「そうなんですか、ありがとうございます!」


 恐らくここは普通とはまったく違う勤め先だろう。けれどもレニーにとっては良い雇い主がいて、美味しいものが食べられるここは、良い居場所なのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る