<<第四章 デート ~心の中心で爆発しろと叫ぶ男たち~ 15>>

 少女はデートの日まで指折り数えながら日々を過ごす。その間に読もうとしていた作品は半分ほどを読んだことと、男から自分のことであまり熱くならないようにと心配をされた。この間の二人みたいなのが大多数であり、少女は少数派だから、いくら訴えても理解できなくてイライラするだけ損だと。そんなことできるわけがないと思い、男に尋ねてみると・・・


「貴方はわたしのことでそれができるの・・・?」

「何言ってるんだ? お前のことに関してだけはそんなことできるわけないから、帰って抱きついて癒されたに決まってるだろ?」


 その返事が嬉しくて、あれからそういった感じがある時には男を抱きしめ、ナデナデしようと思った・・・・が、気づけばそんなこととは関係なく、ことあるごとに少女は男を愛でるようになっていた。珍しいことに男がその行為には恥ずかしがるので、そのたびに少女は伝家の宝刀である。


「わたしじゃ・・・いや・・・・?」


 を、男に言う。なんだかんだ少女にぞっこんである男が、そんなことを言われて嫌と言えるわけはなく、最終的には『ハグハグなでなでの刑』を受け入れる。

 その仕返しか、男も少女の唇を容赦なく奪う『ちゅっちゅっの刑』をするという、頭の悪いことをし始める。

 肉体関係がないとはいえ、それは健全なものと言えるのかどうか怪しかった。むしろ、その一歩手前で止めている辺り、ある意味では不健全ともいえそうだった。

 隣人の独身男性が見れば『爆発しろっ!!』と、叫びそうなことを毎日繰り返す。そんな『らぶらぶちゅっちゅっ』な日々を過ごすうちにデートの日を迎えた。

「準備問題ないか?」

「ええっ、だいじょうぶよ」

 少女は先日購入した服を着ており、やはり二度見てもその美術品のような姿には惚れ惚れとしてしまう。その姿でいるだけで、そこには少女の世界が色づく。

 その存在は雪の精霊のようであり、天使のようでもあり、成熟中の女神のようでもある。愛らしく、可憐で、これからもより美しさを磨くであろう気品のある姿を前にして、心と魂を奪われないわけがなかった。

 その姿をずっと眺めていたかったが、いつまでも見ているわけにはいかないので行動を開始する。

「・・・じゃあ、行くか。あ、ちゃんと上着は羽織れよ?」

 男が靴を履き、荷物を持ってドアを開けようとしたところで、少女が後ろから声をかける。

「ちょっと待って・・・その前に」

 その声に反応して振り向けば、少女が首に腕を絡めて来て唇を重ねてくる。玄関の段差を利用して身長差を埋めているので、男が少し屈めば特に背伸びをすることもなく口づけられた。

「んっ、ふ・・・っ!」

 男が深くして来て、思わず声が漏れる。それでも少女は男を求めて、離れようとはしなかった。背中に片腕を回され、抱え上げるようにして求められる。お互い積極的に相手を求めあい、長いようで短い時間を味わう。

「・・・もう、おわりなの・・・・?」

 あまり深入りしすぎないようにと男から口を離す。

 少女が名残惜しくてそんな言葉を漏らす。物足りないのだろう。

「いつまでもしちまうから、外にいけないだろ? また帰ってきた時にゆっくりとすればいいさ」

「そう・・・ね。ありがとう。これで少しは我慢できそうだわ」

 嬉しさを隠さずに、重ねたばかりの唇に指で触れる。そこに残る男の温もりを忘れないようにと。

「しかし、お前も好きだよな・・・キス」

「それは貴方もでしょ? 最近はスキさえあればわたしから奪うのだから・・・・」

「その分お前は俺をなでなでしてるだろ? だったらそれくらいしても罰は当たらないと思うんだ」

「・・・そうね」

 他愛のない(?)会話をしながらも少女は靴を履き、男の腕に自分の腕を絡ませる。

「じゃあ、行きましょう?」

「ああ・・・」

 ドアを開けてカギを締める。外の寒い空気が肌から熱を奪うが、少女とくっついている所は暖かい。まずは駅を目指して歩いていく。それほど遠くないので、この状態でも15分はかからない。ここの所、出かけるときには手を繋ぐよりも腕を組むのが主流になってきていた。

『寒いから腕を組む方が暖かいわ』

 少女のその言葉(本音は腕を組みたい)がきっかけとなり、今や恋人よろしくの腕組み状態が普通になっていた。買い物に行くときでもこれなので、最初は毎度おなじみのおばちゃんズにネタにされたが、少女の惚気具合にさしものおばちゃんズもちょっかいを出すことを控えるようになった。

 男にどれだけ優しくされたか、どんなに気を使ってくれているか、以外とかわいらしい一面とか、そんなことを延々と言われ続ければ、嫌でもちょっかいは控えるようになる。初な反応が楽しかったのに、それがなくて幸せそうな少女をずっと見るのは嫌ではないが、楽しくもないので、構うことは必然と減ってしまった。最近は影で『とんでもないバカップル』と呼ばれていることを男は知っている。

「・・・ずっとくっついていて、暑くはならないか?」

「そんなことないわよ? 暖かくて・・・嬉しいもの」

「そうか・・・・そろそろ駅前で人が増えるから、手を繋ぐことにしような? 腕組んだままだと邪魔にもなっちまうからな」

「む~っ」

 離れたくなくて、少女が不満を隠さない声をだす。

 そんな姿がどうしようもなく子供の様であり、女性の顔つきをしている時との落差に苦笑してしまう。先日に女性としての包容力を見せられたと思ったら、今度はこの姿だ。少女には天真爛漫と言う言葉が似合っていた。

「向こう着いたらまた組めばいいだろ?」

「・・・してくれるのね? だったら、それまで我慢するわ」

 そんなやり取りをして、駅に着き、乗換を幾度か行って小一時間ほどかけて目的の場所を目指す。道中、少女のもつ雰囲気と容姿が人の目を引き、その都度人に見られる。中には振り返ってまで見てくる男もおり、名もなき男たちの視線を楽しませる。もちろんその後は男へと視線が行き、嫉妬のこもった目で見られることになる。恋人握りをしているのを見れば、誰しも二人が恋人だということに気付くからだ。

『なんであんな男があれほどの娘と・・・』『あの男のどこが・・・』『羨ましいっ!』

 少女が男にはにかんだ笑みを向けたり、嬉しそうに身を寄せたりすると、それはもう視線の矢となって男に突き刺さる。

『『『リア充爆発しろやっ!!』』』

 そんな心の声を男はひしひしと感じていたし、それを甘んじて受け入れるつもりだった。

 それくらい思われても仕方がないまでに少女はかわいいし、愛らしい。それに女性らしい身体も備えており、ある意味男の理想的な女の子像でもあるからだ。

 そんな存在が一人の男だけを見て、身体を預け、夜にはそういったことをしているのだろうかと想像すると、そんな存在がいない男たちは自分が酷く惨めに思えてくる。だから、そういった目で見られることは仕方のないことなのだと、そう男は受け入れていた。夜のそういったことだけはないが・・・・

「お前って、本当に美少女だよな・・・・」

「?」

 急な言葉にきょとんとした顔で男を見る。そういったことすらもかわいらしく、遅れて来た嬉しげな微笑みが、すれ違う男たちの心を奪う。同時に男への視線も厳しくなっていく。

 そんな視線に刺されながらも、ようやっと目的地へと辿り着く。そこはやはりと言うべきか、12月ということもありイルミネーションなどのクリスマス仕様の飾りつけなどがされていた。普通の家族連れ以外にも恋人たちが来ており、ここでならそういったことをしていても浮かないどころか、そうしないと逆に浮くことは必定だった。

 いちいち一回毎に券を買うのも面倒なので、フリーパスを購入してさっさと園内へと入っていく。

「広いのね・・・・」

「そりゃ、そういう場所だからな。で、何乗りたい? それとも乗り物以外か?」

「・・・えっと」

 少女がどうしたらいいのかわからないと言おうとしたとき、絶叫系で悲鳴とも歓声ともとれる声が耳に入り、思わずそちらを向いてしまう。派手な音を立てて勢いよく動く機械に少女の顔が蒼くなる。

「とりあえず、絶叫系はなし・・・っと」

「べ、別に貴方が乗りたいのならわたし・・・・」

「無理するな。ああいうのは合わないと本気で気持ち悪くなるからな。それに、俺も絶叫系は好きじゃない」

「そうなの・・・? 意外ね・・・・」

「何を好き好んで危険のある物に乗りたがる? ああいった事故で死人が出ることだってごくごく稀にある」

「なのに乗りたがる人はいるのね」

「そういったスリル込みで楽しんでいるんだろうな。っと、そういえば・・・」

「あっ・・・うんっ!」

 家から出た時と同じように少女と腕を組む。そうなると密着度が強くなり、互いの温もりを感じることができて落ち着く。

「まずは園内全体でも見ていくか? その内お前が気になるのが出てくるだろう」

「外で貴方とこうしていられたら・・・もういいかも・・・・」

「おいおい、それじゃ来た意味がないだろ?」

「・・・それもそうね」

 園内を歩いて適当に空いていそうなものを見ていく。すれ違うのは家族、恋人がほとんどで、時にマゾなのか勇者なのか、一人きりの男を見かけたりもする。恋人率が高いこの時期に、独り身を味わってどうするのかと疑問に思うが、そこは人それぞれだと流しておく。とにかく、普段とは違った世界に浮ついている感じがあるのは確かだった。時間のある限り楽しもうと、全力で走っていく子供に振り回される親。思い出を記録に残そうと写真をとる恋人や家族。私たち楽しんでいますという空気を出す恋人。とりあえず、独り身の人間からしたら地獄ともいえる様相を呈していた。男も少女と出会わなければ、二度とこんなところに来ることはなかった。が、運命の悪戯か、なぜかこんな煩わしい季節に、もっとも似合わない場所に自分がいることがおかしくて仕方がなかった。

 歩いていくと、園内をある程度上から見渡せる乗り物が空いていたので、それに乗ることにした。電車での移動を繰り返していたので、少しゆっくり座りたいのと、少女が二人きりになりたそうな雰囲気を出していたからだ。係員の言葉に送り出されると、後は乗り物に二人だけとなる。

「やっぱこういうのは寒いから空くよな・・・」

「寒ければくっつけばいいじゃない」

 そういいながら、嬉しそうに少女が身体を密着させる。

「お前は本当に暖かいよな・・・」

「・・・貴方もよ?」

 男の肩に頭をもたれさせ寄りかかる。その状態のまま、しばし日常では見られない、上から下を見下ろす光景を味わう。人が細長い棒にしか見えず、それが地面をぞろぞろと細かく動いている。見える範囲で誰も上を見ておらず、前か下を向いており、二人の存在は認識されていない。そういう意味では、今そこの世界に二人の居場所はなかったと言える。

「・・・不思議なもんだ」

「どうしたの?」

「いや、まさかお前とこういう関係になるとは思っていなかったんでな」

「そんなのわたしもよ? 貴方が初め『恋人』にならないかと言った時、正直頭がおかしい人だと思ったもの」

「そりゃそうだ・・・」

「ねえ、どうしてあんなことを言ったの? 今なら聞いてもいいでしょ?」

「・・・ただ単純に暇だったからだ。生きることに何の希望もやりがいもなく、ただ死んでいくくらいなら、最後にお前のような奴と過ごして馬鹿でもしようと思っただけだ」

「酷い理由ね・・・」

「でも、今は違うぞ? 俺はお前を幸せにしたい。お前に、少しでも多くの思い出を残せたらと思っている」

「ええっ、知っているわ・・・でもね、もうわたし十分に幸せよ?」

「そうか?」

「・・・こうやって貴方と一緒にいて、温もりを感じられて、大切にされて、受け入れてもらえて・・・・わたしにはそれ以上の幸せなんてないわ」

 少女の曇りのない、幸福を携えた笑顔に見上げられ胸が熱くなる。遠くに忘れ去った尊い感情を少女が見せてくれるたびに、幸せにしたいという気持ちが激しく沸き上がる。

「だからこれ以上なんて・・・きゃっ?!」

 高ぶった感情に任せて少女を抱きしめる。最近はもう感情のコントロールがうまくいかなかった。少女のこういった笑顔を見るたびに、もうどうしようもなく抱きしめたくなってしまう。

「・・・すまん。少しだけいいか?」

「・・・ええっ、貴方の好きなだけ抱きしめて」

 驚いていたのも少しの間だけで、すぐに少女は男の背に腕を回していく。

あの日、男を胸に抱きしめて以来、少女は男のことが少しだけ理解できるようになった。こういった時は感情的になんとなく不安定なのだと。そうなっても仕方のない理由はあるが、恐らくは別の・・・最近自分のことで悩んでいるということは分かった。それは自惚れではなく、男は誰かのことを考えて苦しんでしまう・・・そういう優しい人間だと知っているからだ。決して、自分の弱音だけは吐かないようにしていることはもう分かっていた。だからか、気づかないうちに少女は男の背中を優しく撫でていた。少しでも気持ちが落ち着いて欲しくて、何かをしてあげたかった想いがそうしていた。

「・・・あら? 本当に少しなのね・・・残念だわ」

「・・・もうすぐ戻るだろ? こういうのは見せつけるものじゃないからな」

 腕を解き、そういって離れようとする男に少女は素早く口づける。ついばむよりは長く、味わうには短い、そんな感覚だった。

「・・・・落ちつい・・・た?」

 いました行為を男に自覚させるため、立てた人指し指を男の唇にあてて見上げる。

 優しくて穏やかな笑みに、男は首を縦に振るしかできなかった。

「・・・色々とぶっ飛んだよ」

「そう? だったら・・・よかったわ」

 笑顔を崩さずに男を見つめる。男といる間の少女は笑顔が絶えなかった。勝手にそうなってしまうというのもあるが、なによりも男が笑顔にしてくれているということを伝えたかった。それはきっと、幸せだからなのだと。

「・・・・・」

「ど、どうしたの・・・? あまりじっと見られると、その・・・恥ずかしいわ・・・・」

「・・・ありがとうな」

 少女につられてか、男も笑みを浮かべて素直なままに言葉を出す。

 そっと少女の頬に手を添えて、軽く撫でていく。こそばゆそうにしながら、自らの手も重ねる少女。

「・・・んっ」

 瞳を閉じて、今度は男からの交わりを要求する。それを否定することができるわけもなく、顔を近づけて行き―――

「っ?!」「きゃっ?!」

 元の場所に戻ってきた乗り物が重い音を立てて揺れる。大した衝撃ではないはずだが、不意を打たれた二人はバランスを崩してしまう。

 少女は端にもたれるように倒れ、男はその少女を潰さないようにふちを両手で掴んで体重を支える。

「っと・・・大丈夫か?」

「・・・あっ」

 少女が状況を把握した時には、両手をついて見下ろす男の顔があった。左右から囲うようにして手をつけられては、身をよじって出ることはできず。男の身体が少女を覆うようにして抑えているので、立つこともできない状態だった。それは男に迫られている形ともいえるだろう。

 そんな風に感じてしまうと、少女の顔が赤く熱くなってくる。胸が苦しくなるほどの激しい音を立てる。吐息がかかるほどの距離に嫌でも意識してしまう。

「あのー、大丈夫ですか?」

 係員が心配そうに近づいてくる。

少女の心臓が跳ね上がる。見られていることに耳までもが熱くなってきた。

「すいません、ちょっと話し込んでいて気が抜けていたみたいです」

 男は素早く大勢を立て直して、少女を引っ張り起こす。

 二人の様子をみて、体調に問題がなさそうなので係員も安心する。

「怪我がなさそうで何よりです。またのお越しをお待ちしております」

 そういって出入り口を開けてもらい、男が先に降りて少女に手を差し出した。

「ほら、こういうのから降りるのに慣れてないだろ?」

「・・・ありがとう」

 男の手をとり、ゆっくりと少女が下りる。気取っていそうな行動だが、少女の存在がそうすることを肯定していた。何かと絵になる容姿が、こんな所でも力を発揮していた。美少女とはかくも偉大である。

 階段を降りると、また腕を組む。その時に少女を見ると、耳まで真っ赤になっていたので思わず聞いてしまう。

「冷えたか?」

「いいえ・・・むしろ熱くなっちゃったわ・・・・」

「何かあったか?」

 じっとしていると邪魔になるので歩きながら会話を続ける。

「その・・・さっきの最後・・・・貴方に押し倒されたような感じがして・・・・まだ、胸が落ち着かないの・・・・・ほら、凄くドキドキしてる・・・・」

 そういって男の腕に胸を押し付ける・・・というよりも、谷間にうずめるといった方が正しいのかもしれない。

「・・・普通そういうのは手で触れないと分からないと思わないか?」

 男は冷静に装っているが、内心は久しぶりの女の感触に慌てていた。ただでさえ最近は少女が可愛らしく、無意識的に誘うようなことをしてくるので、もう色々と限界が近かった。雄としての本能がもたげるが、それを必死に抑え込む日々である。

「そうなの・・・? じゃあ・・・」

「言っとくが、服の上から触っても分かりにくいからな?」

 腕が緩まるのを感じて、そこから先を予測して封じる。これ以上刺激されたらたまったものではない。普段は意識しないようにしているから流せているが、今は先ほどの少女の表情が刻み込まれてしまったため、どうもそういう風に取ってしまう。

 驚きから戸惑いに変わり、どことなく期待を込めた純粋な瞳。少女が無垢な肌を紅く染めて、求めるような視線で自分を―――

「・・・とりあえず、今は外だからそういう過度な触れあいは厳禁な」

 言葉にして内側から外へと無理やり意識を移す。そうでもしないと自制心が壊れてしまう。

「あっ・・・そう、だったわね・・・・」

「やれやれ・・・お前、少しは俺以外のことも意識しろよ?」

「・・・別に、貴方以外のことを意識する必要はないわ。わたしは貴方さえいればいいもの。それで、これからどうするの?」

 再び少女が緩めた腕を絡めてくる。腕を組まれると、もちろん柔らかい感触が主張してきた。男の内的世界で理性と煩悩が争い始める。

「そ、そうだな・・・暖かい時間帯の内に乗り物系にでも乗るかっ!」

 一刻も早く少女との接触を断つ必要があり、今ここで合法的に離れられる手段が唯一それだった。

「なんだか・・・わたしと離れたいみたいだけど・・・・腕組むの・・・いやぁ?」

 演技だと分かっている。分かっているが・・・・涙目でそんなことを言われると無性に罪悪感に駆られる。

「そういう演技は勘弁してくれないか? 嘘泣きでもお前の涙を見るのは好きじゃない」

「ふふ・・・っ! ごめんなさい」

 ちらりと舌を出して、悪戯をした幼い子供の様な顔をする。

「随分表情が豊かになったな・・・」

「そう? あなたがこういう感情をくれるのよ? おかしな顔していないかしら?」

「おかしなもんか・・・凄くかわいくて、凄く綺麗だ」

「もう・・・ばか・・・・」

「照れてるお前もまたかわいいな」

「・・・・っ! その、恥ずかしいからそんなに言わないで・・・・!」

「そうか、じゃああれでも乗って少し頭冷やすか?」

 指差した方を見れば、巨大な円柱の頭の突き出た部分から枝のように伸びた何本もの棒から、さらに数本のワイヤー的なものが下に向かって伸びており、その先には背もたれがあるが足のないイスが繋がっている。変わったところとしては前にバーがついており、イスから出られないようになっていた。ちょうど終わったところであり、座っていた人たちがバーを上に持ち上げて次々とイスから立ち上がって出ていく。いわゆる空中ブランコだ。寒いのにある程度の人気があるようだった。

「なに・・・あれ?」

「空中ブランコだ。乗れば分かるさ・・・んっ? この場合座ればか? まあ、どうでもいいな。それでどうする?」

「・・・貴方と離れないとだめなの?」

 強く抱きついてくるその顔が一人になることを拒んでいた。悲しみを浮かべた表情をしてこられるとどうにも困る。

「外側は一人だが、内側は二人だから隣り合って座れば離れないさ」

 その言葉を聞いた少女が一転して穏やかな顔になる。

「それなら・・・乗ってみたいわ」

「単純に俺と一緒なら言いとかいうなよ?」

「? それ以外の何が大切なの?」

「いや・・・普通にこの空気を楽しめよ」

「貴方は・・・わたしがいなくてこの空気を楽しめるの?」

「そんなの無理に決まってるだろ」

 即答する。こんな恋人や家族といった、誰かといられて楽しいです空間に一人でいて楽しめるわけがない。むしろ惨めさから抑うつ状態になってしまうだろう。

「わたしも同じよ。貴方がいるからわたしの世界は色づくのよ?」

 少し取り方を間違えているぞと言いたかったが、こんなことを言われては何も返せなかった。

 大人しく中へと入り、二つ並んだ椅子に座って時間までしばし待つ。待っている間、少女の存在は抜群に目立った。黒や茶色といった髪の中で、少女だけが純白を持っていた。黒の瞳を持つ中で、少女だけは金色を持っていた。そんな唯一無二な状態で目立つなという方が無理だった。

 恋人と楽しげに喋り、デートを満喫している乙女の姿は、他の人の目が思わずそちらを向く程であった。そんな少女を見ようとしてか、寒空だというのに席が全て埋まった。そして、そこにいる大多数の男が思った。あんな天使のような娘を彼女にしている男が羨ましい『爆発しろ!』と。

 そんな内側の感情を知らない機械は、ゆっくりと回転を始める。その遠心力を以って外側へと人間を浮かべて押しやり、ただ自己の役割を果たすためだけに回っていくのだった。




「どう? おいしい?」

「いつものようにうまい。むしろ、お前の作るものでまずいものがあるのか?」

 二人は園内に設えられた休憩所兼食事処でお弁当を食べていた。あれからいくつか乗ったりしたら寒さもあって空腹が訪れた。食べるついでに、暖かいところで落ち着く意味も込めてここへと脚を運んだのであった。もちろん、隣り合うように座っている。

「貴方はそういうけど、いつも不安なのよ? ちゃんと貴方においしいって、そう思ってもらえるかしらって・・・・・」

「少なくとも俺好みの味付だ。やっぱりあれか? 愛情が最大の調味料か?」

 少女お手製のサンドイッチを食べていく。肉、野菜をまとめてとるのに向いていると思ったからそうしたとのことだった。肉のうまみ、野菜の瑞々しさ、チーズのコク、程よい香りと辛さを演出する香辛料、その全てが食欲を刺激する。

「もう・・・それを言うなら空腹でしょ?」

「愛情は入っていないのか?」

 豪華さはないが、丁寧に作りこまれたそれは、決しておざなりにしてできるものではなかった。

「・・・入りきるわけないでしょ?」

 頬を染めながらも律儀に返事をする。そんな少女を愛しく思う。

「・・・なあ、楽しいか?」

「どうかしら・・・? 貴方と一緒に居られるのが嬉しいからで・・・楽しいのかまでは分からないわ」

 会話をしながら二人は食べ進めていく。

「なかなか難しいな・・・楽しむことができれば、少しは生きていてよかったと思えるんだがな・・・・」

「・・・貴方と出会えてよかった。それで十分よ?」

「だけどそれだけじゃ・・・」

「貴方との思い出があればそれでいいの・・・」

 今にも泣きだしそうな笑顔で、そんなことを言われても信じられるわけがなかった。だけど、今の男にはそれ以上は何も言えないし、何もできなかった。

 もしも自分に力があれば・・・そんな子供じみた考えをしていることが非常に腹正しく感じていた。

「・・・だったら、やっぱりたくさん思い出を作らないとな」

 だから当たり障りのない言葉に逃げる。自分が何かをできるという、自己満足をするための言葉に。何もできない自分をごまかすために。

「そう・・・ね。それがわたし達の望み・・・よね?」

「当たり前だろ? 俺だってお前との思い出が欲しいから、こうしてここにいる」

「・・・うん、ありがとう。わたしと同じ気持ちでいてくれて・・・・」

 少女は儚げに笑う。どこか諦めきった表情は見ていて苦しくなるほどだった。

「そりゃ、恋人だから当然だろ? お前のような美少女とだったらいくらでも欲しくなるさ。それに分かるか? 周りの男がお前をそれとなく見ていること? それぐらいお前は魅力的ってことだ」

 このまま沈み込みそうな雰囲気をどうにかしないといけないと思い、男は努めて明るく振る舞う。自分にできることと言えば、それくらいしかないからだ。

「わたしは・・・貴方だけがいればいいわ。貴方以外のモノなんていらない」

「それは俺も同じだ」

「ほんとう?」

「ああ、お前以外の女はいらない」

「・・・うれしいっ!」

 ようやっと明るい笑顔をみることができた。

「でも、そうまではっきりと言い切られると、それはそれで恥ずかしいわ・・・・」

 両手で頬をさわり、熱くなっていることを確認する。胸にもじんわりとした熱が広がり、満ちていく想いがある。

「それだけお前に惚れているってことだ。それより、早いとこ食べて回ろうぜ? あまりお前をちらちら見られるのは、気分がよくないからな」

「・・・そうなの? ふふっ! だったら―――」

 一口サイズのサンドイッチを一つ手に取り、男へと差し出す。

「あーん、して?」

「ここ外なんだが・・・」

「だからよ? 仲を見せつけたらそんな視線もなくなるわよね?」

 俺に対する視線が厳しくなるがな。そう思っていても、少女から視線を逸らせるならそれでいいかと考える辺り、自分もイカれているなと感じた。

 いつも部屋でしているように慣れた動きで食べる。その瞬間、視線が男へと集中し何とも言えない居心地を味わう。

 『バカップル』『うざっ』『こんなところでラブラブいちゃいちゃして・・・・』

 そんな声が聞こえてきそうだった。それでも二人はそれを止めず、周囲に見せつけていく。男が食べたら、今度は少女に同じことをする。その時男の指に調味料がついていることを、少女は目ざとく見つける。

「もう・・・ダメじゃない、ちゃんととらないと。んっ・・・」

 そんなことを言いながら、少女の小さな舌がそれを舐めとっていく。流石の男もこの行為には驚いてしまう。そして、こうなったらとことんバカップルを演じることにしようと腹をくくり、それはもう見るのが嫌になるくらいに、いちゃいちゃラブラブなことをしていく。食べ終わる頃には周囲の視線はなくなった・・・・というよりも、当てられるのが嫌でそれぞれが自分たちの世界へと引き込んでいた。

 その甲斐あって、食後のコーヒーはのんびりと楽しむことができた。ただし、冷静に返った少女の顔は、茹で上がったかのように赤くなっていた。

『やりすぎたわ・・・』

 雰囲気に飲まれ、思った以上の行為をしてしまったことが、今になって羞恥心として現れていた。

 下を向いていた少女が上目遣いで男を見てくる。その視線が合うと、さっきまでの爛れたような行為を思い出してしまう。

「あの・・・ごめんなさい・・・・その、舐めたり咥えちゃったりして・・・・ちゃんと洗ってね?」

「いや、俺も悪い・・・つい同じことしちまって・・・・・手を洗うついでに、そろそろ行くか?」

「そ、そうね・・・・時間は過ぎていくものね。そうしましょう」

 コーヒーを素早く飲みほし、逃げるようにして二人は外へと出ていくのであった。




 手洗いを終えて、昼からの行動をしていく。食べたばかりに乗り物系は嫌なので、探索系(?)を考える。

「迷路とか好きか?」

 すぐ近くに見える『鏡の迷宮』と書かれた施設を指さす。

「めいろ?」

 まだ少し赤みが残る顔で少女が聞き返す。どうやら知らないようだ。

「入り組んだ道を迷わずに抜け出す遊びだな。まあ、絶対に迷うんだけど」

「迷って出られるの?」

「入口に戻ればいい」

「・・・そうなの? じゃあ、どんな感じなのか知りたいわ」

「分かった。じゃあ行くか」

 そういって二人は『鏡の迷宮』へと入っていく。

 一歩入れば、そこは天井と左右の壁が鏡張りの世界だった。こういう地味な施設に人はあまり来ないので、そこには二人だけが映っていた。

 因みに、こういう迷路は初めに壁に手をついて進んでいけば必ず出口にたどり着くことができると相場が決まっている。入口と出口は壁伝いに繋がっているからだ。もちろん男はそれを知っているが、今回は使うつもりはなかった。

「とりあえず、お前が行きたいようにいけばいいぞ?」

「どうして? こういうのは貴方得意じゃなかったかしら?」

「いや、実を言うとな・・・俺、ここの迷路覚えてるから、普通に歩くとまっすぐに出口に行っちまうんだよ。だから、お前がどういう風に考えるのか見てみたい」

「覚えてるのに楽しめるの?」

「お前の反応を楽しむ」

「むう・・・っ、いい趣味じゃないわよ?」

「そうだな。とりあえず進もうぜ?」

 一本道を行けばすぐに左右の岐路に出る。少女が男を見るが、男は知らんぷりを通していた。それで少女は迷いながらも行き先を告げる。

「ひだ・・・り?」

「左だな」

「やっぱり、右?」

 男の反応が素っ気ないので、間違えているかと思い反対の言葉を口にだす。

「右に変えるのか?」

 それにもやはり素っ気なく答えられ、少女はどうしたらいいのか分からなくなる。

「どっちが正しいの・・・?」

 不安げな表情に男が優しく応える。

「行けばわかるさ。もし間違っていたら行き止まりだから、また戻ってくればいい。そうやって一つ一つ潰していけば、最後には出口にたどり着くさ」

 安心させるように、空いている右手で少女の頭を撫でていく。

「大丈夫だって、ちゃんと俺がついているから・・・・な?」

「え、ええっ・・・それじゃあ左へ行きましょう」

 左へ行き、進めば左右反転の自分たちがそこにいた。行き止まりだった。仲良く腕を組む、恋人としての二人がいた。

「・・・これって」

「行き止まりだな」

 鏡に映った自分たちが会話をしているように感じる。

「そうだけど、その・・・・」

「どうした? 何か気になることでもあるのか?」

「・・・わたし達って、一緒にいるとこんな感じなのね。初めて見たわ」

「んっ? ああ・・・そういえばそうだな。一緒に映ることがなければ分からないよな」

 寄り添いあう二人の全身図が正面に、左右の壁にと映しだされていた。

 映し出された姿を見て男は思った。少女といるときの自分はまるで生きている人間の様だと。いつからか、死んだように生きてきた自分にとって、有り得なかったはずの状況が今ここに存在していることを、どこか他人のようにみていた。

 映し出された自分たちを見て少女は思った。男といるときの自分はまるで別人のようだと。こんなにも満ち足りた顔をして、男へと視線を移せば甘い表情を浮かべていた。それに気づいてしまうと、今こうしていることに顔が熱を帯びてくる。

「何一人で恥ずかしがっているんだ?」

 鏡に映る少女の顔が赤くなってきたので男が突っ込む。

「だ、だって・・・わたし・・・・いつもこんな顔をしていたの?」

 直接見上げることがどうにもできなくて、鏡に映る男の顔を見てしまう。

「嫌か?」

 それに合わせるように男も鏡の少女へと返事をする。

「いやじゃない・・・・でも、ほんとうにこれがわたしなの? これだと、まるで普通の女の子みたいで・・・・恥ずかしいわ」

「・・・お前は女の子の様な女だよ。初めて会った時からずっとな」

「・・・でも、それは貴方だからよ? 貴方だから、きっとこうなってしまったの。貴方だけが・・・わたしをそういう風に扱ってくれたから」

「他の奴らは見る目がなかったんだろ? まあ、そのおかげで今こうしてお前といちゃつくことができているわけだが・・・」

 少女の頭を撫でて、髪を指で梳いていく。まとわりついてくる髪の手触りは変わることのない極上の気持ち良さだった。その行為を鏡の中の少女はくすぐったそうにしながら受け入れていた。

 いつも不思議に感じていたが、男に触れられるのが意味もなく嬉しい。だから、こんな顔をしてしまうのだと鏡の中の自分を見て思う。嬉しいから、もっと触れてほしくて、おねだりをする。

「ねえ・・・キス・・・・して?」

「ここ外だぞ?」

「お昼前にも一度したから大丈夫よ。それに・・・あの時貴方からしてくれるはずだったのが無くなったのだから、ここでしてくれてもいいでしょ?」

「・・・人の気配感じたらやめるからな?」

「ええ」

 組みついている腕を解けば男に抱きしめられて、そのままの状態であごに手をかけられると上を向かされる。女として愛でられるときの男の顔つきに、少女の胸は高鳴る。高まる期待に胸を膨らませ、まぶたを閉じて背伸びをして口を差し出す。

「んっ!」

 自分でする時とは違う刺激が、びくんと背中をのけ反らせる。

 何度も男と口づけを交わしても、少女がするのと男がするのとでは質が違っていた。

「ふ・・・っ!」

 頭の芯から溶かされそうな感覚に少女はすぐに酔う。

 男の背にある鏡に浮かんだ少女の手は、男の服をぎゅっと力強く握りしめて必死に溺れまいとしていた。

 少女の背にある鏡に浮かぶ身体は、時々小さく震えながらも男を受け入れていた。

 側面にある鏡に浮かぶ二人は、身体を密着させてお互いを求めあっていた。

 鏡に映る自分たちに囲まれながら、少女は息をも忘れる時間に夢中になる。

 そこにあるのは求められたいという感情と、愛されたいという想いだった。

「んはぁ・・・っ? どうして・・・・やめるの? もっと・・・」

「悪い、これ以上は理性が飛びそうでな・・・・」

 ぎりぎりになる前に制止することで、素早く気持ちを落ち着かせることを男は優先した。

「りせい・・・」

 それはつまり、考えなくてもそういうことなのだと理解できる。

「お前も大丈夫か? 何とも言えない顔してるぞ?」

 そういわれて鏡を見れば、男に溺れて泥酔したように顔がとろけていた。しな垂れかかった姿は、男へ完全に身も心も委ねているということを意識づける。荒く息をしながら、自分がどこか欲求不満そうな顔をしていることに気付く。あのまま続けてくれていたら、そのまま男に・・・・・・・たかもしれないのにと。そうならず残念がっていることを自覚してしまう。

「・・・・だいじょうぶじゃ・・・・ないかも・・・・・変なこと・・・・意識してる・・・・・」

「・・・いったん離れるか? くっついているから意識するんだろ?」

 その言葉に首を横に振って否定する。

「貴方から離れるのが・・・・一番いや。このままでいたい」

「・・・・悪いな、加減できなくて」

 抱いていた腕を解いて少女を自由にする。それでも少女は男にしがみついたままだった。

「ううん・・・うれしいわ・・・・だって、わたしが・・・・貴方の女だって・・・そう感じられるから・・・・・」

 その笑みは普段みる少女のようではなく、歴とした女としての笑みであった。

「殺し文句過ぎるだろ・・・・」

「それより、行きましょう? ずっとこんな所に居ても仕方ないわ」

 僅かの間に少女も気持ちを切り替えたのか、しがみついていた腕をいつものように絡ませてくる。

「んっ?」

 そう思ったが、どうにも腕に当たる感触が強くなっている気がする。

「どうしたの?」

 そういいながら、その感触を強く感じるようにして男を見上げる。その顔は男を手玉にとろうとする女のようであった。

「・・・お前わざとしてるだろ?」

「ええ。こうすれば貴方の反応が楽しめるでしょ・・・? この迷路のお返しよ」

「本気で襲うぞ?」

 脅しでもあり、本心でもあった。だからそこには嘘も冗談もなく、欲深い声となって少女から身を引かせる。そのつもりだった。

「・・・うん。早く襲って?」

 なのに、少女は待ち焦がれている表情で男に笑いかける。

「はっ?!」

「忘れたの? わたし、とっくの前に抱かれてもいいって言ったでしょ?」

 夜の会話をしながら、少女が男の腕を引いて歩いていく。男の言葉を真に受けていないのか、それとも忍耐を信じているのかは不明だった。

「おいおい、俺からキスされて青ざめていたお前はどこに行ったんだよ?」

「・・・あれから何回貴方にされたと思っているのよ。それも、無理やりされたこともあったわよね?」

 思いだしたのか、頬を赤く染める。それに関しては何も言えなかった。少女があまりにも可愛らしくて、愛おしくてつい唇を奪ったことは何度かあった。

「まさか・・・覚えているのか?」

 戻ってきたので今度は反対側へと進んで行くと、また分かれ道があり、今度は近くの右側に入る。

「だいたい17回くらいよ? それだけされたら少しは余裕もでるし、なにより・・・さっきキスされて・・・・・・」

 また行き止まりにたどり着き、鏡の中の二人がまた出迎える。

「・・・・そうして欲しいって・・・・・思っちゃった・・・・・・・・」

 鏡に映る顔がまた赤く染まる。消え入るような声だったが、男の耳にはしっかりと届いていた。ちらりと、少女が目だけで男を見る。男は言いようのない表情をしていた。

「・・・悪いがまだ早いと思う」

「ええ・・・だから、貴方がしたいときにして・・・・? わたしはもう、いつでもいいから」

 全てを受け入れた・・・天使のような微笑みを浮かべて男をみる。そんな少女を有難く思いながら、踵を返して岐路へと戻っていく。

「情けない男と思うか?」

「どうして? 貴方は今までこういったことを経験しているわけよね? だったら、過去に何かトラブルがあって、同じことを繰り返さないようにしようとしているわけでしょ?」

「よくそんなことが分かるな」

 戻ればその位置から右手側の道へと少女は男を引いていく。それは正解の道だった。

「ずっと貴方を見ていたのだから、それくらい分かるわ」

「こんな短期間でか?」

「ええ」

「・・・・」

「あら・・・・また分かれ道ね・・・・次は」

 左手にある道を選び、そちらへと進む。しばらく無言で進むと男が口を開く。

「昔な、簡単に女を抱いて傷つけたことがあった。抱いた理由は、ただ欲望を満たしたいからという下衆なもんだ」

「・・・貴方が誰かを傷つけるのが想像できないのだけど?」

「20代で若かったからな」

「それは咎められることなの?」

「そうだと思う。俺はそういうだけの関係だと思っていたが、向こうはどうにも本気になっていたらしくてな・・・・それで相手を酷く傷つけて別れた。要点だけ言えばそういう話だ。だからお前にもそういうことをするんじゃないかと思うと、どうしても欲望に抗ってしまう」

「そう・・・なのね」

 三度行き止まりに当たる。少女が男の腕を引いてすぐに引き返す。

「一ついいかしら?」

「なんだ?」

「どうして、相手を傷つけたって思ったの?」

「相手は俺を愛しているから一緒になりたいと言っていたのに、俺は愛していないと答えた。それで価値観が違うからもう合わないようにしようといったわけだ。当時の俺は、そんなもんは幻想だと思っていたから、そういう手合いには関わりたくないと思って切り捨てた」

「・・・それだけなの? 嫌がる相手を無理やりとかじゃなくて?」

「少なくともそこは両者合意だぞ? じゃなきゃ犯罪だ。後、それだけというが別れる時に色々と面倒だったんだよ。別れたくないって泣きまくってたから、散々愛想を尽かされる台詞を言う必要があったからな」

 岐路にもどり、そこから正面の道へと行く。

「嘘を言ったの?」

「いいや、単純に相手の欠点を指摘してやったり、理屈的な小言を言ってやったりしただけだ。そういうの嫌がる相手だったからな」

「それで・・・?」

「そんな酷い人だと思わなかったと言われて、めでたく別れたわけだ」

「・・・・・」

「なんだ? その呆れたような目は・・・」

「貴方・・・女に甘すぎじゃない?」

「簡単に女に手を出して泣かせた人間がか?」

「手を出したと言っても、そこは合意の上でしょ? それに、泣かせたのも相手が勝手に泣いただけだし、傷つけたと言っても勝手に傷ついてるのは向こうでしょ?」

 珍しく少女の口調が強くなる。またまた行き止まりに当たり、少し乱暴気味に男の腕を引いて戻る。

「価値観の相違から別れただけという、それのどこに貴方の悪さがあるのよ?」

「泣くことや傷つくことを分かっていながらしたら、その時点で十分に悪いだろ?」

「貴方のそういう優しいところは本当に大好きよ? でも、いくらなんでも女に甘過ぎよ!」

 戻ると残った道へと進んでいく。

「細かい感情的な部分は分からないけど、言われたことだけを考えれば、貴方と相手の相性が良くなかっただけの話でしょ?」

「いや、そうは言うが・・・もしもだぞ? もしも仮に俺がお前にそう言ったらどうする? お前は『はい、わかりました』って言えるのか」

「・・・えっ?」

 男の言葉に見るからに少女がうろたえる。あれほど強く引いていた腕からも力が抜けて立ち止まってしまう。

「そ、そんなこと貴方が言う訳が・・・・」

「お前のそういうところが重いんだよ」

「・・・・っ!?」

 冷酷に吐き捨てられた言葉に息が詰まる。

「もともと、俺たちは相容れない存在だし遊びもここまでにするか」

 冷たい眼差しで見つめられ、少女の身体から血の気が引いていく。それまであった男の優しさがどこにもなかった。あの日向のように暖かくて優しい温もりが、一瞬にして冷え切っていた。

「じょ、冗談は・・・やめて・・・・?」

 声が震える。息が苦しい。まともに立っているのかすらどうか分からなくて、腕によりかかる。すると、その腕が乱暴に振り払われて少女を突き離す。

「きゃっ!」

 よろけ、壁にもたれかかることでなんとか座り込まずにすむ。

「邪魔だ」

「あ・・・う・・・・っ!」

 男に拒絶されたことで少女の世界にひびが入る。身体が震えて動けなくなる。それでも、男がそのうち近づいてきて『悪い、やりすぎた』と言ってくれるはずだと思っていた。

「じゃあな・・・少しは楽しめたよ」

 そんな少女の願いを打ち砕くように、男は気にかけることなく少女の横を過ぎ去っていく。それでも、少女は男がすぐに足を止めて戻ってきてくれると信じていた。男は仮にと先に言っていたのだから、こんな茶番はすぐに終わると分かっている。分かっているはずなのに、心がズタズタになってちぎれそうなまでに痛かった。

 男が曲がり角に差し掛かる。まだ戻ってきてくれない。

 止まることなくそのまま少女の視界から男が消える。ここから戻ってきてくれるはずだと少女は信じているが、それとは裏腹に足音が遠くなる。ここまで来ると、少女は本当に男に捨てられたのではないかと思ってしまう。でも、そんなことあるはずがない。だって、男は『仮に』と言っていたのだから、きっと自分が来るのを待っているんだ。

 そう考えて少女は走るようにして、男がいるであろう角を泣きだしそうな顔で曲がった。

 するとそこには男が申し訳なさそうな顔をして少女を待っていて。

「ごめんな? でもこれで分かっただろ?」

 そういって少女を抱きしめてくれなかった。

 なぜならそこには誰もいなかったからだ。足音はもう聞こえない。

「いや・・・いやっ! どうしてっ!? どうしていてくれないのっ?!」

 訳が分からなくて涙が溢れてきた。どうして男がいてくれないのか。どうして来てくれないのか。そんなことを考えているうちに視界が滲む。胸も張り裂けそうなほどに痛い。

 まだ走れば男に追いつくかもしれない。そう思い、男を求めながら足早に進む。

「独りに・・・・しないでっ! 独りは・・・・もういやなの・・・っ!」

 泣きながら少女は、迷子の子供が親を探す様に男を求めて、もう一つの角を曲がるとすぐに抱きとめられた。

「悪い。まさかここまでお前が動揺するとは思わなかった・・・・」

 いつもの男の声だった。決して優しくはないが思いやりのある声音に、少女の心が落ち着こうとする。

「えっ・・・ぐっ! ぐすっ・・・・・ううっ! うわぁあああああんっ!」

 男に抱きしめられてもすぐには信じられないのか、少女の涙は止まることがなかった。ぼろぼろと滴を零し、これが現実であるのかどうか確認しようと男にしがみつく。そんな少女を泣かせた男は、少しでも楽になるようにと背中を撫でていく。

 なんであれ、悲しみの涙を見るたびに胸が痛くなる。自分はその涙を拭うことができなかったからだ。けれど、今だけは違った。馬鹿な男が仕掛けた行為で傷つけた少女に謝り、慰めないといけなかった。

「ごめんな。でも、これで分かっただろ? 俺は相手にこういう感情をさせてきたんだってな」

 少女の涙を指で拭う。

「ごめ・・ん・・・なさい・・・っ! わたし・・・こんなだって・・・・知ら・・なくて・・・ひっく・・こんな・・・・・つらくて・・・・かな・・・しくて・・・ひくっ・・・こころ・・・こわれ・・・・・・うぐっ!」

「無理して話さなくてもいいんだぞ」

 泣きじゃくる少女をあやしていく。

 少し時間はかかったが、無事に少女は泣き止んでくれる。

「本当に・・・貴方がいるのよね?」

 声と身体が震え、瞳には涙のあとが残されていた。その姿は痛々しく、愚かな男に罪悪感を植え付けるには充分だった。

「ああ、本当の本当に悪かった。質の悪い嘘ついて・・・ごめんな」

 少女の小さな体を強く強く抱きしめる。隙間など存在させることなく、自分の存在を確かに伝えるために。

「・・・こわかった。貴方に捨てられて独りになるのかと思うと・・・本当にこわかったわ」

 その感覚を思い出したのか、また少女の身体が大きく震える。

「どう・・・して? 今は・・・貴方に抱きしめてもらえてるのに・・・・また、身体が震えて・・・・やだ・・・・こわい・・・・っ!」

 ひびの入った世界は簡単には治らず、少女の感情もぐちゃぐちゃの状態だった。男の言葉はどんなものよりも少女の心を鋭く、深く傷つけていた。また混乱し始める少女の姿を見ていられず、その思考を奪うことにする。

「んっ?! んんっ!?」

 想定外の行為に驚いていた少女だが、すぐに男の感触だと分かれば、後は大人しく男にされるがままとなる。男と繋がっているからか、不思議と気分が落ち着いてくる。男の優しさと温もりが心に満ちていくような気がした。傷つけた心が落ち着くまで、男は何度も少女と唇を重ね合わせた。




「本当に悪かった。ごめんな」

「・・・もう、あんなことしないでね・・・・? 思いだすだけで・・・わたし・・・っ!」

 枯れることのない涙がまた溢れてくる。あれからすぐに男は少女を外に連れ出して、狭い空間から広めの空間でゆっくりさせることにした。本当なら暖かい屋内にでも行こうとしたが、人ごみの多い所で男を見失うのが怖いからと、寒空の下ベンチにこしかけていた。

「絶対にしないから、頼むから泣かないでくれ。せっかく顔を洗ったのに、また洗わないといけなくなるぞ?」

 何度したのか分からないほど少女を抱きしめ、頭や背中を撫でていく。

 今は園内にある休憩のベンチに座っていて、少ないとはいえ人目があるから流石に口づけはできなかった。

「貴方は・・・・女を甘やかすのが上手ければ、泣かすのも上手いのね・・・・」

 少女がそっとハンカチで涙を拭っていく。

「・・・なんも言えないな」

 男の言葉を聞きながら、少女は男が買ってくれた暖かい紅茶を飲む。暖かいものでも飲んで落ち着けと言われたからだ。因みに男は、少女が男のためにわざわざ来る前に用意してくれたお手製のコーヒー(なんとミルク無し!)を飲んでいた。それは魔法瓶構造の水筒で保温が効いており、常に暖かい状態で飲めている。そんな少女の想いが込められたその温もりが、今はただただ心に痛かった。いつもより苦味を強く感じてしまう。

「寒いだろ?」

 飲み物を飲みやすくするために手袋を外しているので、寒さが温もりを容赦なく奪う。そっとその手を包み込み、冷えないようにする。

「・・・貴方がいなくなると思った瞬間に比べたら、かわいいものよ」

「それは・・・何度謝っても謝りきれないな」

「ううん・・・あなたは悪くないわ。わたしが感情的に相手のことを否定してしまったから・・・・だから、わたしが同じことをされてもしかたないの・・・・・・・・」

「・・・らしくなかったな」

「それは・・・その、貴方に抱いてもらえたのが羨ましくて・・・・」

「嫉妬したのか?」

「・・・そうよ? だって、今はわたしが貴方の恋人で・・・・・貴方の・・女なんだから・・・・・」

 少女が飲み欲した紅茶の缶を、男は手を伸ばして隣にあるゴミ箱へと入れる。そして自分も冷えたコーヒーを一気に飲み干す。冷たい液体に身体を冷やされ、少女の温もりを求めて抱き寄せる。

「いま俺が好きなのはお前だぞ?」

「だったら、今晩抱いてくれる?」

 抱かれた女への嫉妬からそう言っているのは明白だった。いくら待つと言ったとはいえ、違う女の話をされたのではたまったものではない。男もそこは理解できたが、それでも言葉は変わらなかった。

「・・・それはまだ早いって言っただろ?」

「どうして?」

「そういう行為をしたから相手を勘違いさせたんだ。だったら、はなからしなけりゃいい」

「・・・・っ! わたしのこと・・・好きじゃないの?」

「好きだ。好きだからお前の涙だけはみたくない。泣かせた後に言うのもあれだけどな」

「だったらどうして・・・・? わからないわ・・・・」

「俺はな・・・愛するってことがよく分からん。だからお前にも、好きだとは言っても愛していると言ったことはないはずだ」

「じゃあ・・・わたしが愛していると言っても、届いていないの・・・・?」

「いいや。お前の言葉だけは特別だ。素直に心から信じられる。だから俺も嘘はつかないようにしている」

「特別なら愛しているということにはならないの?」

「特別だから愛していると言えるのか、愛しているから特別なのか・・・そう割り切れるものだとも思えないんだ。少なくとも、お前を抱いておきながら、結局愛しているか分からないと言うのは・・・残酷すぎると思わないか? お前は純粋に愛してくれているのに、当の俺はそれを貰いながら、自分からは返せない・・・・それがお前を傷つけるのは目に見えている」

「・・・それでも、抱いてと言えばしてくれるの?」

「いいのか? 愛するわけじゃなく、ただ抱くだけだ。男の欲望に利用され、その後は空しくなるだけで・・・・・それでも俺に抱かれたいのか?」

「・・・嘘でも愛してると言ってくれたら、わたしはそれで―――」

「偽りの言葉が欲しいのか? 心のない。そんな飾りだけの言葉をか?」

「・・・・いじわる。こんなにも好きにさせて、愛してくれないの?」

 それ以外もうなにも言えず、身体を密着させて訴えかけるように男を見上げる。

「・・・悪い。けど、お前を好きなのは嘘じゃないぞ?」

「・・・貴方って意外と酷い人なのね。Likeは120%なのにLoveは不明だなんて」

 もちろん本心から言っているわけではない。これくらいの皮肉くらいならいいだろうという考えだ。

「そうだな・・・だから、あれ以降俺は女と付き合えなくなっちまったよ。貴方の考え方は重すぎてついていけないってな・・・・お前も流石にこんな情けない男には呆れるだろ?」

 軽い口調でそういいながらも、男は無意識に少女を離さないようにときつく抱きしめていた。なんだかんだいいながら、少女を失うことを恐れていた。恐れていながらも、嘘で塗り固めたり、誤魔化したりすることもなく、素直に少女と向き合っていた。

 迷路の時の少女と同じく、男も独りに戻るのはこりごりだった。失くした温もりを、見失った光を、再び手に入れた時からその気持ちがあった。

「わたしが・・・・そんなことで貴方に愛想を尽くすと思うの?」

 どこか突き放すような男の言葉と、それに反対して抱きしめて離さないと言う行動の意味を、少女は自分なりに解釈していた。男はいま迷子になっているのだと。色々と考えすぎて、色々と信じられなくなって、どれが本当なのか分からなくなっている。想いやるココロが強すぎて傷つけることまで考えてしまい、優しさが柔らかくなりすぎて、断ち切ることができないままでいる。

 男の行動は雄弁に物語っていた。愛したいと。そう感じとった少女はおもむろに男へと顔を近づけ、外だというのになんの躊躇いもなく唇を重ねる。自分なりの愛情表現を伝えた。わたしは貴方を受け入れますと、その行為がいっていた。

「わからないのなら・・・一緒に考えましょ? 一緒に・・・育みましょう?」

 まっすぐに、どこまでもまっすぐに男を見つめる。その純粋すぎる眼差しは、迷うことなく男を愛していると、嫌でも思い知らせる。

「・・・お前にはかなわないな」

「それはわたしが貴方に思っていることよ?」

「そうか?」

「ええ、そうよ? もう貴方に骨抜きにされて、こんなにも夢中なんだから・・・・んっ」

 二度交わらせる。もはや外とか周囲など関係なかった。

「好きよ。大好き・・・貴方を、愛しているわ・・・・・」

 最も優しい声で伝えられるまっすぐな言葉を・・・・そのあまりにも綺麗すぎる言葉が、男には眩しすぎて直視することができなかった・・・いや、その資格がないとすら思えた。だから顔をそらそうとするが、それを少女は両手で頬に触れ、三度交わす口づけで防ぐ。

「そらしちゃダメ・・・ちゃんと・・・・受け止めて? わたしの想い・・・・」

 熱く潤んだ瞳に吸い込まれる。女の顔を見せる少女を前に、情けない覚悟を決める。

「・・・いいのか? もらっても・・・俺は何も返せないかもしれないんだぞ?」

「見返りがあるから愛するわけじゃないでしょ? 貴方を・・・愛したいから・・・・愛するだけよ?」

「・・・・ありがとう、なんて言葉じゃ言い切れないな。どういったらいいんだか・・・・」

「そんなことよりも言って欲しい言葉があるの」

「?」

「貴方は・・・その、わたしが・・・・欲しい・・・?」

 不安そうに聞いてくる。そんな分かりきっていることすらも、言ってもらえないと落ち着かない少女に、男は散々された返事をする。

「んっ?!」

 男から触れられたことに少女が敏感に反応する。散々外ではしないと言われていたので、油断していた。

今は軽くしておく。あくまでも仕返しだからだ。もしも本当に少女を求めたのなら、この程度で抑えるわけがなかったし、抑えられるわけがなかった。

 顔を離すと耳元に持っていく。

「ああ、お前が欲しい・・・・お前だけが、欲しい」

 耳元でそっと囁く、少女だけに送る言葉。この時だけは少女のためにある言葉だった。

 顔をみれば、瞳一杯に涙を浮かべながら柔らかな笑みを見せていた。

「うれしいわ・・・っ! さっき、嘘とはいえ貴方に捨てられそうになったから、とってもうれしいわっ!」

 流れる熱いものがあった。金色に輝く月から零れ落ちる、星の子供の様な輝きがあった。

 その姿に、その言葉に・・・胸が痛くなる。浅はかな考えは、思った以上に少女を傷つけていたのだという事実に。少女の急な発言が捨てられることへの恐怖だとしたら、自分が少女にこの言葉を言わせてしまった。それだけ少女を傷つけ、不安にさせてしまったことに深い自責の念に駆られる。

「ごめんな。思った以上に、傷つけていたんだな。こんな男で本当にいいのか? 軽々しくお前を傷つけた・・・こんな俺で」

 そっと頬に手を添える。零れ落ちる輝きを優しく拭い取っていく。

「傷つけられてもいいの・・・・傷つくことを恐れていたら何もできないもの。それに、貴方なら傷つけてもすぐに癒して、慰めてくれるでしょ・・・・? そんな不器用だけど優しい貴方だから、わたしは愛したいの・・・・愛してしまったの・・・・」

 全てを信頼しきっている少女の笑顔が有難かったが、ある意味では重かった。自分にはそこまでの覚悟ができていないのに、少女の想いを貰ってしまったことが。


『混ざり気のない、純粋な愛に人は恐怖する』


 ふとそんな言葉を思い出す。そんなもの存在するはずがないと思っていた。有り得るわけがないと思っていた。そう、信じていた。なのに、少女はそれを男に向けた。向けて、伝えて、与えようとしている。決して男以外に染まることのない<<無償の愛>>という名の純白を。

「・・・お前はAgapeなんだな」

 涙を拭きながらそんなことを呟く。

「また難しいこと言って・・・」

「ごめんな。どうも生きていくと理屈屋になってな」

 泣き止んでいたのですぐに拭き終わり、手を離そうとするとそこに重ねられる手があった。

「それは悪いことではないわ。でも、あまりそれに拘り過ぎないで、少しは理屈を無視しましょう?」

 慈愛に満ちた少女が男を見つめる。独りではないことを伝えようとしているかのように、男の手を優しく掴んでいた。

「そう・・・だな・・・・いつかそうなれたらいいな」

「・・・大丈夫よ。貴方は本来そういう人なのだから・・・・」

 もしも少女以外の存在にそんなことを言われれば、男は鼻で笑っていただろう。お前に俺の何が分かる?と。しかし、少女は特別だった。少女だけが疑いを持つことなく想ってくれているからこそ、この言葉は男の心にまで届く。素直に聞き入れられる。信じることができた。信じたのなら、後は報いることを考えないといけない。それもできる限り早くだ。

「・・・そろそろ、デートの再開でもするか?」

 そのためにも行動をしなければいけなかった。解答のない問題に解答を告げるために。

「ええ、そうね。次はどこに連れて行ってくれるの?」

 話しの切り上げに少女は何も言わず、お互いに手を離す。男の決意に秘められた眼を見れば分かったので、聞く必要などはなかった。その身も離して、簡単な荷物を男が持つと少女が腕を絡めて身を寄せてくる。そんないつもの光景だが、漂う雰囲気は異なっていた。これまで甘えるようにくっついていた少女だが、今は少しでも男を支えようという想いで寄り添っていた。そんな、どこか少し成長したような姿があった。

「デートの定番の一つと言えばあれだが・・・・」

「だったらそれにしましょう」

「いや、でもお前がああいうの大丈夫なのかどうか・・・・」

「恋人としての定番ならしてみたいわ」

「そこまで言うなら・・・まあ、いいか」

 少女ならば大丈夫だろうと思った。なんだかんだリアリスト的な傾向を持つ少女に、作り物など大したことはないのだろうと。事実、少女もそれの前に来れば、できものなのだから大丈夫と入る前には言っていた。ひょっとしたら、びっくりして思い切り抱きついちゃうかも?と、どこか男をからかうような軽口も言っていた。そんなフラグを全力で立てて、中へと入っていった少女はみごと黄金律を奏でてくれた。

 いざそこから出てきて見れば、少女は身体を震わせながら、また涙を流して泣いていた。

「ひくっ・・・ううっ・・・・えっぐ・・・・おわり? ほんとうに・・・ひっく・・・・おわり・・・? もう・・・だいじょうぶなの・・・・・・? ぐすっ・・・・もう、いない・・・・?」

 涙で滲む声をあげながら男に確認していた。

「もう外だから怖くないぞ? だから、目を開けて大丈夫だ」

 優しく頭を撫でられ、よく耳を澄ませて聞いてみれば外の雑音もしていたので、心の底から少女は安堵して目を開けた。今まで怖くて開けられなかった瞳が開かれる。

 ゆっくりと開かれていく金色の瞳は、夜空に浮かび上がってくる月のようである。涙にぬれて輝くそれは、天上の宝石であった。少女が怖くて泣いていたのに、不謹慎にもそれを綺麗だと思ってしまう。その輝きが男の目に射し込まれると、柔らかく細められた。

「・・・よかった。ちゃんと、貴方がいてくれて・・・・」

 男の姿をみて落ち着く少女。恐怖心からありもしない幻聴を聞いているだけではないかと思っていたので、その眼で男を確認できて本当に落ち着くことができたので涙も止まる。

「ずっと抱きついていたのに不安だったのか?」

「怖くてそんなの分からないわよ・・・・」

 ハンカチで本日三度目となる涙拭きをする。目元はもう見るからに赤く腫れていた。

 入ってすぐに暗闇に脅え、仕掛けに驚いて少女は男にべったりとくっついた。ことあるごとに驚くと、その度に男にべったりとして、最終的にはもう離れるのもいやだからと、全身の全てを男に密着させた。

 それはもう色々と柔らかくて大変だった。ことあるごとに腕を挟み、柔らかさをこすり付けてくる感触。身体に抱きつかれたら、押しつけて柔らかく形を変えたその感触を、男に幾度となく前後左右から味わわせた。そんな刺激を与え続けられていたので、男はずっと少女を見ており、仕掛けに驚く余裕などはなかった。

 もう少し自分が若かったら間違いなく少女を襲っていた。というよりも、今この時点ですらその感情を拭いきれていないので、これ以上の刺激は勘弁してほしかった。

「・・・少し休憩するか? だいぶ精神的にまいってるだろ」

「うん・・・・慰めて・・・くれる?」

「・・・ああ、普通にな」

 一瞬意味を取り違えてしまい、反応に少し遅れた。幸いにも精神が完全に落ち着いていないので、それに気づかれることはなかった。




 今度は暖かな場所で休憩をとることができた。周囲には人目もあったので、過度なスキンシップも避けることができる。寒空でのキスシーンをしたり、されたりすれば今の男は暴発することを自覚していた。だから人目のある場所がありがたかった。

 座ってコーヒーを飲みながら、肩に頭を載せて寝ている少女を見る。感情の起伏でかなり疲れているのだろう、こうして座っていたら気づくと寝息をあげていた。目をつむって身を預け、無防備極まりないその愛くるしい姿は、ある意味邪な目で見ることができない分、男としては助かった。

 女としての顔を見せる少女には、もうそういった目でしか見られなくなっていたが・・・・思い返すと、そういった顔を見せたのは、今少女が着ている服を買いに行った日からだった。

(『恋人』以外の娘としての振る舞いをして、悲しませたから謝っていたら急にあんな顔をしだしたんだよな・・・)

 世界が切り替わった瞬間は、今でもはっきりと覚えている。そこから一気に『恋人』ではなく、恋人になっていった。少女に好意や愛情を向けられて、そのココロに魅せられて・・・今に至っている。そんな創作物語のような関係だった。

(これが優しい物語なら・・・・ハッピーエンドなんだがな・・・・・)

 ついだコーヒーを飲みきるとため息がでてしまう。生憎この世界は、そんな優しいものではないと身をもって知っているからだ。光のかけらさえ見えないこんな世の中で、どう希望を持てというのか。ただ絶望を味わう為だけに生きているようなこんな人生など・・・・

(ヤバいな・・・・この娘の前で暗い考えはしないように気をつけないとな)

 自分の気を落ちつけようと、眠っている少女の頭を撫でる。いまや男にとって、最後に残されたかけがえのない存在だった。少女がいてくれるからこそ、自分は堕ちずにすんでいる。この娘が現れるまでの生活は、それはもう悲惨の一言に尽きた。

 その髪は手入れがされているわけでもないのに、常に触る者にこれ以上はないと思わせる気持ち良さがあった。その心地よさに毎回癒される。飽きるまでこうしていたいくらいだった。

(・・・ちょっと連れまわしすぎたかな? 最後にアレに乗って、そろそろ帰るか)

 そんなことを考えていると少女が目を覚ました。

「んっ・・・?」

「悪い、起こしたか?」

「・・・だいじょうぶだから、もっと撫でて欲しい」

「それしたらお前また寝るだろ?」

「・・・・・そんなことないわ」

 その間で絶対に無理だと思ったから、素早く男は手を引く。

「疲れているなら、定番の締めに乗ってから帰るか?」

「・・・怖くない?」

 定番と言われて、散々泣いてしまったことを思いだす。思いだし泣きか、寝起きの瞳に涙が滲み出てくる。

「高所恐怖症でない限りは大丈夫だ」

「・・・ほんとう?」

「ただの観覧者だから安心しろ」

「あの二人も乗っていたあれ?」

「そうそう『Fragment』の二人が乗っていたあれだ。安心したか?」

「・・・ええ、だったら貴方と二人きりになれるのね。うれしい・・・っ!」

 喜ぶ少女を前に、男は理性の危機を感じていた。少女がこういう顔をした後、何の因果か夜の展開に迫られることを経験として早くも理解していた。俗にいう『フラグ』が立っただ。

「ねえ、だったら早く行きましょう? 早く二人になりたいわ。ふふっ!」

 嬉しさ全開の笑みがますますその予感を強くさせるが、さっきから嘘とはいえ捨てる発言をして無垢な心をズタズタに傷つけたり、ホラー系のモノで怖がらせたりと、泣かせてばかりだった。そんな少女が、ようやくいつものように笑ってくれている。そんな尊い感情を叶えることのほうが、自分の予感よりも遥かに大切だった。

「そうだな」

 だったら、そんなことを気にする必要などなかった。優先すべきは少女の笑顔なのだから。

「だったら、早く行くか。あれ以外と混むんだよ」

「ええ。そうしましょう」

 そう言って寒い外に出て、仲良くくっつき、互いの温もりを感じながら目的地へと向かう。午後に入って、初めて少女が明るく笑ってくれている。二人きりになれるのがよほど嬉しいようで、こうまで喜ばれるとそうなるのが若干気恥ずかしくもある。

 道中は午前中に乗ったものの感想を聞いたりして、軽く時間を潰す。意外と空中ブランコが気に入ったようだった。曰く、『乱暴な感じじゃないのがいいの』。そんな少女の感想を聞きながら、恋人としての会話を楽しむ。そんな最中に二人はある出来事を見つけてしまった。

「ねえ・・・あれって・・・・・」

「・・・迷子だろうな」

 周囲には親がおらず、幼い子供はどうしたらいいのかも分からずに泣いていた。小さな鳴き声から察するに、泣きつかれたような声でもあり、ある程度の時間がたっているようだ。もちろん他人は知らんふりを決め込む。対応する従業員も忙しさで目が回り、それに気づいていなかった。そういったことから、幼い子供は誰からも相手にされずに孤独に泣き続けている。行き場のない状況ではそれ以外にできることもなかった。

「・・・悪いが」

 言葉が終わる前に、少女が男から離れて泣いている子供へと向かう。

 目の前までいくと目線を合わせるためにしゃがみ、優しい声音で話しかける。

「・・・どうしたの?」

「ひっく、おがあぁ・・ざん・・・・おどう・・・ざん・・・・どこぉ・・・・っ?!」

 泣きながらも、必死に言葉を紡ぐ。疑いようもないくらいに迷子だった。

「そう・・・じゃあ、わたし達が見つけてあげる。だから、泣き止んで・・・・ね?」

 言いながら少女は泣き顔の鼻をティッシュで拭いて、涙はハンカチで拭っていく。

「どうやって・・・・?」

「それは・・・・」

「呼び出してもらうから、そこに連れて行けば後は向こうからやってくるさ」

「ひうっ?!」

 少女が困った顔をしていたので会話に入る。幼い子供は男を見て驚いたのか、少女にしがみ付く。そんな子供をどうしたらいいのか、少女が戸惑いながら男を見てしまう。

「お前のやってやりたいようにすればいいさ。それで間違っていないと思うぞ?」

 その言葉を聞いて、少女は泣いている子供を抱きしめた。抱きしめて、優しく背中を撫でてあやしていく。

「だいじょうぶよ? あのお兄さんに任せたら、ちゃんと見つけてくれるからね?」

「・・・ほんと?」

「ええ、ほんとうよ? だからそこまで、連れていってもらいましょうね?」

「・・・うんっ! ありがとう、おねえちゃん!」

 子供は疑うことなく少女の言葉を信じ、すぐに泣き止んで懐いた。少女が手を握ってあげると、それだけでにこにこだった。

「じゃあ、どこに行けばいいの?」

「とりあえず、近いところはこっちだな」

 誘導しようとして、男が先頭を行こうとすると少女が呼び止める。

「まって」

「んっ? なんだ?」

「貴方も・・・握ってあげて?」

 振り返れば、視線で子供の開いている手を示される。子供は男を見ても先ほどのように驚いた感じはなく、むしろ不思議そうに男と少女を何度も見比べていた。

「・・・おじさんも握った方がいいか?」

「おねえちゃんはおにいさんっていってた・・・・ちがうの?」

「・・・どう見える?」

「おじさん」

 即答だった。もう気持ちのいいくらいの即答で、腐った社会での建前に汚れていない、裏表のない感情がなんとも心地よかった。

「ね、ねえ・・・ぼく・・・? おじさんじゃなくて、お兄さんよ?」

 少女が引きつった笑顔で、子供をそれとなく注意する。男が気にしないのは分かっているが、自分をお姉ちゃんと呼んだのなら、男のことはお兄さんと呼んで欲しいからだ。そうでないと・・・・

「別にそれでも構わないさ」

 そう言って頭を撫でてやる。少女の抱擁を嫌がらないのなら、これも多分大丈夫だろうと思ったからだ。実際それは間違ってはおらず、喜んではいなかったが、別に嫌ってもいなかった。

「でも、貴方はまだそこまで歳行ってないでしょ?」

「子供からすれば二十超えりゃ、おじさんでおっさんだよ。というより、実際三十真ん中はおじさんでいいだろ? 生物学的に、人間ってのは四十歳になれば初老らしいからな」

「だったら、私はおばさんね」

「・・・おねえちゃんはおねえちゃんだよ?」

「あのね、このお兄さんもわたしも、同じくらいの歳なのよ? だから―――」

「うっそだーっ?! おじさんはおじさんだけど、おねえちゃんはぜったいにおばさんじゃないよ! だって、どうみても―――」

(あ、この流れはヤバい)

「きょうだいかおやこだもんっ! いろちがうけどっ!」

「・・・・」

 子供の言葉に少女が凍りつく。それは最も言われたくない言葉だった。男の女であることを否定されることが、二人の関係で向けられる言葉として何よりも嫌だった。だからそんなことを言われて、少女が黙っているわけがなかった。

「貴方、いまここでキスしましょう?」

「待て、子供の精神衛生に悪いと思わないのか?」

 そう来ると思っていたから、用意しておいた言葉を返す。だが、それも少女は想定していたようだった。

「事実を教えるだけだから、だいじょうぶよ? だから来て」

 男を手招きする。なんだかんだ、子供の手を離そうとまでは思っていないようだった。

「あ、しってる! がいこくのひとはあいさつでキスするんだよね? でも、いまはあいさつするひつようないよ?」

「だ、そうだ・・・恐らく恋人としてのものだと認識しないぞ?」

「う~~~っ!」

 肩を震わせて、涙目で男を見る。流石に子供にこんな目を向けようとは思わないから、せめて男に感情をぶつける。そんな表情も男は可愛いなと思っていた。

「で、坊ちゃんはどうされたい? 手を握られたいのか? それともかわいいお姉ちゃんにだけ握られていたいか?」

「んっ!」

 手を差し出される。握れと言うことだった。

「やれやれ、物好きなことで・・・・」

 どこか芝居がかった口調で男は子供の手を取る。そうなると後は決まっていた。

 歩きながら、子供は二人の手にぶら下がるようにして、時々ジャンプをする。それも飽きることなく、ひたすら連続でしていくこともある。調子が出て来たのか、ついには勢いよく前を蹴り飛ばすようなことをする。それを見て少女が親のように子供を躾ける。

「そんなことをしてはいけないわ。人に迷惑をかけてはダメよ・・・?」

「だいじょうぶ! ちゃんとみてるから!」

「それでもいけないわ。靴が飛んだらどうするの? それが人に当たって、怪我をさせたらどうするつもり? 自分がそうされてもいいの?」

「・・・ごめんなさい」

 強気な少女の言葉に、子供がさすがに沈み込む。幼い子供といえども、寄りすがる存在に嫌われることを続けることは流石にできなかった。

「・・・すこし強く言い過ぎちゃったかしら? ごめんね。でも、やっちゃいけないことはしたらダメよ?」

 すかさずフォローを入れる。子供もそんな少女の優しさに少しだけ明るい表情をする。

「まあ、気持ちは分からんでもないが・・・・」

「貴方、何言ってるの?!」

 少女が男の言葉に本気で驚く。普段からこういうことを気にかけている男が、ここにきて子供を擁護するような発言に耳を疑ってしまう。

「俺だって子供のころは、こういうことをしていたからな。そして怒られるというパターンまで完璧だ。まあ、つまり別の方法で遊べばいいわけだ」

 子供がそんな男を見上げれば、男も子供を見下ろして話しかけている。

「いいか? お前は俺が合図したら腕をあげろ。そして、坊ちゃんは思い切り地面を蹴って飛べ。いくぞ? 3、2、1・・・それっ!」

 子供が跳ねると同時に、二人が腕を上げて大きな跳躍を実現させる。それは子供にとって普段は見ることができない視線であり、世界でもあった。だが、それも一瞬の跳躍の間だけであり、すぐにいつもの世界に戻る。降ろす時には怪我のないように、なるべくゆっくりと降ろしていく。打ち合わせもしていないのに、少女もそれを把握していた。

「どうだ? これなら前に脚を出したりして靴を飛ばすこともなく、人の迷惑にもなりにくいだろ?」

 子供ははしゃいで喜んでいた。そしてすぐに次を要求してくる。その要望に応えて、二人はできる限り迷惑にならないようにそれをしていく。子供もそこは理解したのか、環境条件がクリアなときだけ、それを求めてくるようになっていた。

 慣れてくればそんなことをしながら、会話もできるようになっていた。

「もう・・・貴方って人は・・・・子供にまで気を使えるのね」

「子供の成長したのが俺だからな。ほんの少し・・・本当に僅かなだけど、子供の気持ちを解することはできるよ」

「・・・だから貴方って、時々凄くかわいいのね」

「あれ? 本の作者に対しては、子供っぽいのは気持ち悪いとか言ってなかったか?」

「あれは子供っぽいのがおかしくて、貴方の場合は子供だからだいじょうぶよ?」

「否定できないのが悲しいな」

 そういいながら男は反対の表情をしていた。そうしながらもう少し歩いていくと、目指していた場所が見えてきた。

「っと、あそこだな。もう飛ぶのは禁止な」

「ええ~っ!!」

「母親と父親に会いたくないのか?」

「・・・・あいたい」

「だったら、ちゃんといい子にしろよ?」

「・・・うん」

「よかったわね。もう少しよ?」

「うん」

「なんでお前には即答なんだ?」

「・・・どうしてかしら?」

 着いた後は事情を説明し、コールしてもらって親が来るまでの間は話し相手をしていた。すっかり懐いた子供が、親の来るまでに二人と別れるのを嫌がったからだ。そのため、二人はもうしばらく子供の相手をすることとなり、迎えが来ればめでたくお別れとなった。迎えにきた両親は男よりも年若い夫婦であり、そこを年齢基準とすれば、子供が外見で男をおじさん呼ばわりし、自分をお姉ちゃん呼ばわりするのは仕方がなかった。

 両親は真面目な感じの人たちであり、二人に何度も丁寧にお礼を言っていた。だから、この子は素直でいい子になるだろうと少女は思った。別れ際に子供は二人に向かって手を振っていた。だから、二人も手を振り返して見送ったのだった。

 こんなことをしている間に気づけば夕方となり、冬場ということもあって日は暮れていた。

「はあ~、やっと乗れたな」

 予想通り観覧車はある程度待つ必要があった。それでも対して待っていないので、この疲労は慣れないことをしたことによるものだった。

「子供の相手もやっぱり疲れるな~・・・・」

「ふふっ! そんなこといいながら、面倒見は凄くよかったじゃない。係りの人に『お父さんじゃないんですか?』って、言われていたものね」

「それを言ったら、お前も母親のようだと言われていたじゃないか」

「そうね。まるで・・・・」

 そこで少女の言葉が止まる。何を意識しているのかは手に取るように分かった。

「ね、ねえ・・・わたし達って恋人だけじゃなくて・・・・その、か・・・『家族』! にも、なれるのかしら・・・・?!」

 顔を赤くしながら、しどろもどろに話していた。

「まあ、落ち着けって。いきなりそう考えなくても、今は恋人としての時間を楽しめばいいだろ?」

「『今は』・・・なのね。ふふっ・・・じゃあ、いつかは・・・・・・」

 嬉しさと悲しみが混じったような顔をさせてしまう。そろそろ時間を意識させる言葉は、使うのを止めた方が良かった。

「・・・それより外見てみろよ」

「外を・・・?」

 頂上を目指して上がっている観覧車から、下の景色を見てみる。すると、暗闇に灯る園内の光が、イルミネーションのように輝いていた。それは近くにも、遠くにもあり、視界の多くを光で占める姿は不夜城のようであった。

「・・・光が、とてもきれいね」

 その光に呼応するかのように、少女は金色に輝く瞳を細めていた。細められた綺麗なそれは、闇夜に浮かぶ儚げな三日月のようだった。

「お前も十分に綺麗だけどな」

「本当かしら・・・?」

「本当だって」

「・・・ありがとう。一緒に外の景色を見ましょう?」

 席を対面側に移して座り、同じ方向から外を見ようとしたら、なぜか少女が立ち上がる。

「なにして―――だっ?!」

「一緒にって・・・・言ったでしょ?」

 男へと振り向きながら、どことなく小悪魔的な微笑みを浮かべていた。

「だからって、俺の上に座らなくても・・・・」

「・・・重たい?」

「いや、そんなことはない。思った以上に軽くてびっくりだ」

「じゃあ、だいじょうぶ・・・?」

 そういって少女がゆっくりと男に背を預けてくる。それはつまり、膝上に感じる少女の柔らかさを強く感じることになった。そんな姿勢で外を見ようとして、バランスを崩しそうになったところを思わず抱きとめる。少女は男がそうしてくれることを信じていたので、驚くことなく抱かれた。

「バランス悪いからやめた方がよくないか?」

「・・・そうね、だったら」

 今度は向きを変えて、男の膝をまたぎ正面から抱きつくようにして座る。

「まて、この姿勢もおかしいだろ?」

「何がおかしいの?」

「女性が足を開いて男の上に座るなって・・・はしたないと言われるぞ?」

「・・・誰に? 貴方以外の人にはしないからいいでしょ?」

「なんでそう押せ押せなんだ?」

「やっと二人になれたのよ? だったら、その間に一杯・・・・いちゃいちゃしましょう?」

「いつの間にそんな言葉覚えたんだ?」

 身体をくっつけ、体重ものせられて、男は動くことができなくなってしまう。思い切り突き飛ばせば逃げられるが、そんなことできるわけがなかった。

「貴方の本にそんなこと書いてたわよ?」

「・・・それより、外を見るんだよな?」

「そうね」

 そういって外を共に眺めていても、男の頭には少女の身体の柔らかさ以外なにも認識できなかった。押し付けられる胸部が、のしかかる臀部が・・・密着するすべての部位が少女の持つ女としての柔らかさを男に伝える。

「・・・そういえばあの子から何を貰っていたんだ?」

 何か意識をそらすことをしなければ、男はもう我慢ができそうになかった。

 さっきの子供が、別れ際にお礼といって何かを渡していたのは見ていたが、なにを渡したのかまでは分からなかった。掌に収まるくらい小さなものだということだけ分かっている。

「・・・これよ」

 ポケットからモノを出す時に身体が離れる。それがこれほどありがたいと思ったことはなかった。

「アメか・・・なんというか子供らしいお礼だな」

「そうね・・・でも、うれしいわ。わたしにもあの子を喜ばすことができて・・・・」

 穏やかな笑みを浮かべる少女に、男も高ぶっていた感情が少しずつ薄れていく。不思議なことに、こういう純粋な少女をみると、そういう気分がなくなっていく。もしそうでなければ、自分は何度少女を襲っていたか分からないくらいだ。

「・・・食べる?」

「お前が貰ったんだから、お前が食べたらいい。疲れているだろうから最適だろ?」

「でも、それは貴方もだし・・・・」

「一個を二人で食べるのは無理だろ?」

「・・・そう・・なのかしら?」

 少女が少しだけ考え込む。すると答えは出なかったのか、大人しく飴玉を口へと含む。

「・・・甘いわ」

 口内に広がる甘さで、目を細める少女が可愛らしい。そんな愛くるしい姿に男も上手く毒気が抜けて言ってくれた。保護対象として見られる内は、そんな感情が出てくる隙間などはなかった。

「そうか・・・よかったな」

 だから男は、子供にするような感覚で頭を撫でてしまった。

「なぜかしら・・・いまわたしが子供扱いされている気がするわ・・・・・」

 それに少女は敏感に反応する。不服そうに男を見る。

「そんなことないぞ? いつもこんな風じゃないか?」

「ほんとうに・・・? だったら、キスしてくれる?」

「・・・今日だけで何回キスしたと思っているんだ? あまりし過ぎると唇荒れるぞ?」

「だったら、それは恋人の印よ? それでも、して・・・くれないの?」

「・・・やれやれ。お互いキス魔だな」

「ふふっ・・・それだけ好きなのよ?」

 本日何度目か不明の・・・少なくとも10は超えている、口づけを飽きもせずにする。

 互いの口が重なり合うこの状態で、少女はふと思いついた。だからそれを実行する。

 男を逃がさないようにと腕を回してしがみ付き、男も自分を抱きしめてきたことを感じると、そっと―――

「ん、んんっ・・・」

 少女の行動に男が驚きで目を見開く。思わず背中を引いて逃げようとするが、元々後ろなどはなかった。そんなうちに男の口に甘い味が強く広がっていく。それを感じると少女が顔を離して、息もかかる距離で男を見つめてくる。

「・・・どう? 甘いでしょ?」

 それは、どこか妖艶な女の顔であった。

「こうすれば、一緒に食べられるわよ?」

「だからって口移ししてまで食べさせるか?」

「恋人なんだから、それくらい普通でしょ? 『Fragment』でもそんなシーンがあったもの。だから、今度は貴方がわたしにして?」

 返事も聞かずに口を重ねると、すぐに少女がノックしてきてせがんでくる。拒めば無理やりにでも入り込んでくるのは目に見えていたので、大人しくアメを少女へと移す。そして、少女がある程度味わえば、次は男へと移す。それを何度か繰り返すうちに、アメは溶けてなくなっていった。

 そんな行為が終わるころには、観覧車は頂点から下り始めていた。

「ん・・・っ」

 糸を引いて離れる口と口。それが切れて落ちる前に、少女は器用にもティッシュで受け止めていた。

「拭き取るから、じっとして・・・ね」

 そうして男の口の回りを拭いてやり、それが終われば自分も拭いていく。少女は用意が良く、最後はウエットティッシュで綺麗に拭いていく。

「・・・やれやれ、なんか疲れた」

「あら? じゃあ、もう一回しちゃう・・・? 甘いものが足りてないのよね?」

「って、おい! なんでまだアメがあるんだよっ?!」

 少女がポケットから飴玉を取り出して男に見せていた。それに思わず突っ込みを入れてしまう。

「うふふっ! 誰も一つだけなんて言ってないわよ?」

 片目をウインクしながら、舌先をチラリと見せる。そんな可愛い女の子だけに許された行為を、可愛すぎる少女がするのだから、可愛くないわけがなかった。

「待てよ・・・お前『Fragment』で知っていたなら、わざと知らないふりしてキスさせたな?」

「・・・思いだしたのはキスしてもらってからよ? だから・・・わざとじゃないわ」

 男に疑われたことに胸が苦しくなる。浮かれてしまって、また誰かから疑いをもたれることを繰り返してしまうのかと思うと、これまでの光景がフラッシュバックして泣きそうになってくる。特に、男にそう思われるのが一番辛かった。

「む・・・じゃあ、キスした俺のせいか・・・・・」

 だから、少女の言葉を疑うこともなく、自らを省みる男が嬉しくて、何度だって少女は男へと抱きついて、唇を重ねてしまう。小さな音を立てて、飴玉が少女の手から男の側に落ちた。

「・・・好き、だいすき・・・・好きよ・・・」

 口を離すと感情のままに涙を流して、少女が熱く男に囁く。溢れでる感情のように、水滴もぽろぽろと落ちていく。

「急に泣きだしてどうしたんだ?! また、俺が何か傷つけるようなことでも・・・・」

 少女の急激な感情の爆発に、男も流石に慌てる。だから、好きだと言われているのに、涙だけ見て勝手に勘違いをしてしまう。

「違うの・・・っ! 貴方が・・・わたしを疑わないでくれたのが、嬉しくて・・・・!」

「なんでそこまで・・・」

「だって・・・・わたし、今までこういうことをしてしまって・・・ずっと、誰からも信じてもらえなかった! 意味を取り違えられて、勘違いされて違うっていっても・・・・誰も信じてくれなかったわ・・・っ! 誰も・・・わたしの言葉を信じてくれなかった! だって、わたしが―――ぅむっ!」

 そこから先の言葉だけは、絶対に言わせるわけにはいかなかった。だから迷路の時と同じようにして口を塞ぐ。

「それだけは絶対に言うな・・・それは、お前のせいじゃないって言っただろ?」

「でも、でもぉ・・・・っ!」

 いままで隠れていた感情が、簡単に引くことはなかった。

「お前は何も悪くない。俺は何度だってそう言ってやる。なんでお前が悪いなんてことになるんだ?」

 強く抱き、頬に手を添えて自分の顔を見させる。男の目は少女に対する優しさを浮かべながら、その奥では少女を苦しめるモノに対する怒りが燻っていた。

「・・・・どうして、貴方はそんなに優しいの・・・・・?」

 何度もした質問をまた繰り返す。それに男は嫌な顔も呆れることもせず、少女が分かるまで返事をしていく。

「・・・・好きな女に優しくするのは当たり前だろ?」

「・・・わたしの言葉を・・・・・信じてくれたのも?」

「ああ。そもそも、お前は嘘をつけないから苦しんでいるんだろ? だったら、そんな存在の言葉をなんで疑う必要がある? それも、好きな女の言葉を」

 どこまでも男は理解してくれている。理解しようとし続けている。それでいて想ってもくれていて、そんなかけがえのない、唯一無二の存在だった。

「・・・・っ! ありが・・・とう・・・・ほんと・・・に・・・・・だいすき・・・よ・・・・・っ!」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、震える声で言葉を紡ぎながら、少女が笑顔を浮かべる。悲しみと苦しみの中に、嬉しさの混じった涙を流して笑顔を見せる。

「そういえば・・・『Fragment』だと、お互いにしていたよな」

 男が飴玉の入った小さな袋を拾い、袋を破って中身を口に含むとキスをする。今度は男からだった。

 先ほどと同じように少女の方にアメを移すと同時に、男はそのまま少女を求める。悲しみも苦しみも、全て自分の色で埋め尽くしてしまいたいと思ってしまった。

「んっ?!」

 初めこそ驚いたが、すぐに少女は目をつむって男を受け入れた。何よりも求められたことが嬉しくて、少女からも男を求め返す。

 荒い息と、飴玉を使って踊るダンスの音だけが、静かな観覧車に響く。

 少女の頭はもう熱に浮かされ、ただ男だけを求めることに夢中になる。男も手加減をするつもりなど一切なく。貪欲に少女を求めていく。その激しさがますます少女を泥酔させていく。互いに強く抱き合って貪りあう行為は、観覧車のスタート地点に近づくころ終わった。

「はぁ・・・はぁっ! ん・・・っ!」

 少女は荒く息をしており、すぐには呼吸が整いそうになかった。その瞳も蕩けさせられ、ふやけた視線を男に向けていた。一方、男も久しぶりの感触に尾を引いていた。もしもここが部屋だったならば、もう最後までしていた。ここから帰らないといけないということが、最後の一線を踏みとどまらせた。

「・・・きすって、こんなに・・・・すごいの・・・?」

「手加減しなかったから・・・・まあ、少し激しくし過ぎたかな?」 地上に着く頃なので、少女を横に座らせる。身体に力が入らないのか、回されていた腕が簡単に解けた。ぐったりと身体をもたれさせてくる。

「これで・・・すこし? これ以上激しくされたら・・・・ほんとうに、こわされちゃう・・・わね・・・・ふふ・・・っ!」

 悦びの色を見せてくる少女に思わず喉が鳴る。このまま壊してしまいたくなる欲望が出てくるが、それだけは口に出して阻止する。

「それはまだ少し先だ」

 言ってしまってから気づく。自分はもう少女をそうする気なのだと。もちろん、それに気づかない少女ではなかった。男が自分を強く求めていることを知る。

「そう・・・ね。まずは・・・このきすに・・・なれてからよね?」

 色めいた笑みで見上げ、また男の口の端を拭いていく。少女との行為で掻いた・・・口からの汗を。

「・・・おいしかった?」

「それを聞くか・・・・?」

「わたしはおいしかったわよ? 貴方は・・・あんなに求めてきたけど・・・・どうだったの?」

 男を拭き終わると、今度は自分の口を拭いていく。

「・・・まずいわけがないだろ」

「ふふっ、そうよね。だって、甘いものはおいしいわよね」

「・・・おい」

「でも、貴方の方がおいしかったわよ? それで貴方は・・・どっちがおいしかった?」

「そういうパターンかよ・・・・」

「うふふっ、ごめんなさい。嬉しくて、つい意地悪しちゃったわ。でも、初めて貴方に求められて・・・・ほんとうに嬉しいわ」

 感情が高ぶって少女の瞳に熱いものが浮かぶ。それをまた拭き取って、男へと綺麗な笑顔を見せる。どこか不安そうだった表情がすっきりと無くなっていた。やはり心のどこかで、女としての魅力がないから、求めてくれないのではと考えてしまっていた。が、男が求めてくれたことで落ち着くことができた。それがいま、涙として現れたのだった。

「お前の方がいいに決まっている」

 それを察した男が少女を抱きしめて、先ほどの言葉に答えた。間近に見つめあい、互いの心音を感じられるほど身体を密着させていた。

「ありがとう・・・」

 少女が甘く口を開いた瞬間、静かにゆっくりと・・・・

「愛しているわ」

 ドアが開かれていた。

「えっ?」

 振り返ればバイトだろうか、若い係りの者が少女の言葉に顔を赤くしていた。

 雰囲気に飲まれていた二人は、ドアの開く音にまったく気づくことができなかった。そのため、少女の最後の言葉が外にも聞こえてしまった。

「あ・・・その、お疲れ様でした・・・・・」

『何も聞いていませんでしたよ』風に装おうとしても、顔を赤くしていては無理だった。

「あ、あう・・・っ!」

 同じように少女もすぐに顔を赤くする。男への想いを聞かれてしまったことで、羞恥心が出てくる。

「よし、降りるか。よっと」

「きゃっ?! 貴方、ちょっと何して・・・っ?!」

 すぐに降りないと二週目に入るので、少女を抱きかかえて降りる。何も抵抗することができず、すっぽりと男の腕の中に納まった少女は、誰が見てもお姫様だった。目立つ格好で、尚且つ目立つ少女の外見もあって、すぐに注目の的になる。少女の愛らしい外見に周囲の人間が感嘆の声をあげ、それがさらに遠くの人間にも伝わって、視線が次々と二人に集まる。そんなラブラブバカップルよろしくな状態のまま、男は園内から出るまで少女をそうするのであった。

 その間、少女は注目される恥ずかしさからしがみ付き、男だけを見るようにしていた。耳まで赤く染まり、それ以上に熱く男を見つめる姿は、恋する乙女という構図をはっきりと明示していた。この時の画像がネット上にアップされ、『女の子マジ天使!!!』『男マジ爆発しろ!!』というコメントが溢れたことは言うまでもなかった。




 そんな二人を、遠くから別の意味で見ている者がいた。。

「今回はおかしい感情ばかりと聞いていましたが・・・・どうやら本当のようですね」

 闇夜に浮かんだ・・・・男の姿をした存在が、ここ数日二人を観察していた。甘ったるい二人の感情を、これでもかといわんばかりにぶつけられており、どこか疲れた様子であった。

「全く・・・・大した役者ですよ。人間にああまでするとは・・・・だからこそ最期の感情が大きくなるわけですが・・・・・そこまで行く過程の感情が、これまでと違い過ぎるのが気がかりですね。やはり、一度接触する必要がありますか」

 そう言いながら、現状報告の為に自分の世界へと戻る。次にこの世に来るときは、二人への接触の時だった。




 帰りに食事をして、部屋へと帰ればすぐに寝る支度を整え、今日の疲れもあってすぐに眠りにつく・・・・と思ったがそうはならなかった。

「ねえ、寝る前に観覧車でしたキスしてくれる? デート最後のおねがいよ」

「その日が終わるまでがデートか・・・・」

「して・・・くれないの?」

「本気で涙を浮かべないでくれ・・・・」

「だって、あの時は求めてくれたのに・・・・・今は求められないのかと思うと・・・・・・ぐすっ!」

「分かった! 分かったから、そんな不安そうな顔で泣かないでくれ!」

「・・・してくれる?」

「ああ・・・ただ、優しくしかしないぞ?」

「・・・うん、慣れてきたら激しくしてね?」

「俺の理性が壊れなかったらな。壊れたらもう知らん」

「ふふっ、それはそれでいいかも・・・・んっ」

 抱き寄せて、優しく重ねる。今度は配慮をしながら、ゆっくりと少女と交わっていく。

 二人のデートが終わりを告げるのに、もう暫くの時間が必要だった。

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