<<第三章 ~男から少女へ、少女から男へ~ 2116>>

 男が久方ぶりに熟睡感を覚えて目を覚ますと、少女がいつもの黒いワンピースを着て台所で料理をしていた。その様子はいつもとは違っていて、なるべく音を立てず静かに行われていた。それでも食材を火にかけたときの音は隠しようがなく、なぜこそこそと調理をしているのかが、まったくもって不明だった。

「おはよう。朝から何作っているんだ?」

「きゃっ?! あ、貴方・・・?! もう起きたの・・・!?」

 珍しく―――いや初めてか―――菜箸を持って料理をしていた少女が驚いた声を上げる。

「確かに今朝は早く起きられたな」

 男はそれを含めて黒い服と白いエプロンの色合い、少女のかわいさを朝から堪能する。どこかメイドのようにも見えるその格好を眺めるのが地味に好きだった。

「俺朝は食べないはずだから・・・・お前が食べるのか?」

「これは・・・・その・・・・」

 暫く言いよどんでいたが、やがて諦めたのか素直に白状しはじめる。

「お弁当よ・・・・」

「は・・・? 弁当? 誰の? ってか、昨日最後に買っていたのはこれだったのか?」

「そうよ。それと、貴方以外の・・・・誰に作るのよ・・・・・」

 照れて顔を逸らしてしまうが、目だけはしっかり男を見つめていた。

「昨日の昼の食事を見ていて・・・・あまり外食は好きじゃないのかしらって・・・・そう思ったら・・・その、作ってあげたい気持ちになって・・・・・でも・・せっかくなら驚かせたくて・・・・・」

「ああ、だから早く起きてこっそりと・・・か」

「その・・・・迷惑じゃない・・・・・? いらないならわたしが食べるから・・・・・・」

「迷惑なんかじゃないさ」

 そういって少女を正面から抱きしめる。

 ふいを突かれて少女は菜箸を落としてしまった。

「ありがとうな。俺、お前の作る飯が好きだからすっげえ嬉しい」

「~~~~っ!」

「お前から抱きついてくる傾向が強いから、今日は俺からお前を抱きしめてみた。どうだ? びっくりしただろ?」

「もぉ・・・ばかぁ・・・・っ!」

「いきなりされてびっくりするのが分かったか?」

「普段からわたしは・・・・貴方にそうされているのよ・・・・・?」

「えっ? まじ―――」

 男が身体を少し離して見下ろしてきたところを、少女が頬を手で挟んで固定する。そのまま、背伸びをして愛らしい唇で男の口をついばんでみせた。

「・・・おかえし・・よ?」

 はにかみながら唇に人差し指をあてて男を見上げる。

 刹那のことでまた男は状況を理解できなかったが、少女が唇に指をあてる仕草を見て理解した。少女のほうが一枚上手だったようだ。

「お前・・・かなり積極的になったな・・・・・恋する女は強いって言うが、それか?」

「・・・・・よくわからないわ。ただ、貴方がわたしをそうさせるのよ?」

 嬉しげに笑みを含ませる。男のことを想えて幸せだと言いたげだった。

「・・・昨日からお前に手玉に取られているな」

「ふふっ! それだけ・・・・貴方のことを考えているのよ?」

「・・・そういや、料理の途中だったな。すまん、続き再開してくれ」

 逃げるように腕を解いて離れようとしたところで、再び少女が口を重ねてくる。今度は男にも分かるくらい、じっくりと重ね合わせている。

「?!」

 目をつぶった少女の顔が、まつ毛を数えられそうなくらい間近にある。気づけば首に腕を回されて、逃げることもできなかった。

 朝起きて先にホットミルクでも飲んでいたのだろう。いつも入れているハチミツの甘い味が徐々に伝わってきた。その甘さだけでなくもっと別の・・・どんな甘美よりも甘い少女の想いが、男の脳髄までも満たしていく。

 解いた腕がまた少女を抱きしめる。それを感じたところで少女は唇を離す。

「んっ・・・逃げちゃいや・・・・ちゃんとわたしの言葉を・・聞いて・・・・?」

「ああ、悪かった・・・・正直言って恥ずかったから、逃げたくなっただけだ」

 顔が近い。うっとりとした顔つきの少女がすぐ目の前にいる。

「・・・・だったらいいの。朝からごめんなさい・・・・そして、ごちそうさま」

「お前・・・どこからそんな言葉覚えてきた?」

「? この間の漫画の黒髪の彼がそんなこと言ってたわよ?」

「あいつか・・・というより、そんな奴のマネする辺りお前も案外ハマっていたのか?」

「わからないわ。でも、彼みたいに行動できたらって、思う時があるわね」

「もう十分してると思うぜ? 初めて会ったときから考えれば、今のお前はまるで別人だ。悪いが、こんなに愛らしい女だとは思わなかった」

「わたしだって・・・・女として誰かを想うなんて考えもしなかったわ・・・・・こんな感情、ないとも思っていたし・・・あったとしてももう無くして消えたとばかり・・・・・」

「俺は今のお前の方が好きだ」

「ほんとう・・・? うれしぃ・・・っ!」

「それより、そろそろ料理を再開したらどうだ?」

「・・・・そうね。続きはこれが終わってからでいいわよね」

 続くのかと男は思ったが口には出さなかった。しかし、なぜか少女にはそれが伝わっていたようで、途端に不安そうに見てくる。

「・・・貴方はいや?」

「・・・すいません。嫌じゃないです。はい、喜んで続きがしたいです」

「・・・うんっ。ありがとう」

 満面の笑みを浮かべてお礼を言われたら何も言えなかった。

 少女は一度強く抱きついてから離れ、料理を再開していく。二人の熱さとは反対に、火を切られて放置されていたフライパンは静かに冷え切っていた。

 そこからはいつものように男は服を着替え、少女との穏やかな時間を過ごすことになる。

 もし隣人の独身男性が二人のやりとりを見ていたら、血の涙を溢れさせながら男に対して石を投げつけ、滅びの言葉を投げかけること確実の時を過ごした。




 甘い時間の最後に、男へ手作り弁当を渡した少女は、普段のように作業をこなしていく。その後は日課になった読書という名の漫画タイムに入る。

(『Blessing ~カミアガリ~』の続きは・・・・あったわ)

 残り少なくなった巻数を引っ張り出して読んでいく。


 ―――『カミアガリ』それは人が死した後、神に成り上がることをいう。

 魂が天へと帰り、神としての責務を果たすことになる。

 心通じ合った巫女がカミアガリしてしまい、主人公もそれを目指す。

 主人公はさまざまな試練を乗り越え、遂にはかつてその巫女を狙っていた禍津神(まがつかみ)の穢れさえも払いきるまでに成長した。そして本当に最後の試練―――

 この世界の主。それは物語の初めから主人公に指示を与え、時には稽古をつけて鍛え上げられたこともある存在。その主を超えることが最後の試練であった。


(・・・これくらいなら意外性は少ないわね。初めから怪しかったもの・・・・)


 もちろん主人公は後には引けないので主へと勝負を挑む。カミアガリした巫女との約束を果たすためにも止めることはありえなかった。

 戦いが始まると初めは一方的な展開だった。主が主人公を満身創痍になるまで叩きのめし、動けなくなったところで脅す。主人公が終わればカミアガリした巫女も終わると言われ、死力を尽くして絶望と戦い続ける。そのうち、受け続けた攻撃が見えてくるようになり、力の入らない身でありながらも主を捉えはじめる。しかし、決定打に後一つ欠ける。


(前の作品で思うのだけれど・・・・どうして初めに終わらせないのかしら? わざわざ力を出し惜しみして・・・・結局負ける展開よね・・・・?)


 そこで主はさらなる言葉を告げる。自分を滅ぼすことができなくても、カミアガリした巫女は終わると。その理由を聞かされ、主人公は主を打ち倒すのではなく、打ち滅ぼすことを決意した。全身全霊最後の力を以って、悪しきモノを滅する為だけに許された技を行使する。

 秘奥義――直日霊(なおひのみたま)――への繋がりを最大にして我外真我の極致へ至り、必滅の技――天滅神去(あまほろぶかむさり)――を放つ。

 いかなるモノをも屠る技の前に、主といえども抗えず容易く貫かれる。頭、心、腹の三点を打ち抜かれ、鎮守の森へと吹き飛ばされていく。致命的な一撃を三つも受け、消滅は確実だった。それを感じながら主人公は意識を失う。


(この主は何を考えているの・・・? わざわざ相手に全力を出させるようにして、自分を敗北に追い込むなんて・・・・・正気じゃないわね・・・・・)


 少女は正直、男が読んだ本でなければいますぐにでも閉じたかった。しかし、男を理解したい思いと、男のこの作品に対する言葉が少女にページを進ませる。


 吹き飛ばされた主へとコマが移り、薄暗い鎮守の森に砕けたお面と、その側に仰向けに倒れた主。これまで晒されることがなかった主の素顔が今明かされる。


(え・・・っ?! これ・・・主人公の彼よね?! どういうことなの・・・?!)


 読み進めると、倒れた主に近寄る女性が二人いた。

 一人はいつも主に付き添っていた巫女―――名は『くろみ』

 もう一人は―――カミアガリしたはずの巫女、名は『あやめ』


 少女が状況を理解しようとことさらゆっくりと読み進めていく。


「やっぱり、主さまでしたのね・・・・」

「・・・やはり、気づかれてましたか」

「どうしてこのようなことを?」

「・・・あなたを救いたかった。といえば聞こえはいいですが、ただの自己満足ですよ。誰も救えない自分が嫌で、一人でもいいから助けて自己満足に浸りたかったんですよ」

「自己満足で・・・・八百万もの回数をやり直していたんですか・・・・? ご自身が滅ぼされ、未来の結果を変えて・・・私を救うために・・・・・っ!」

「ごめんなさい、主様。包み隠さず、あやめさんには全てお話ししました」

「そうか・・・・泣かないでください、あやめさん。あの時、ただ一人あやめさんだけが自分に優しさをくれました。ただ、その恩に報いただけですよ」

「そんな・・・あの程度で・・・・・どうしてここまで・・・?」

「『あの程度』すらもらえなかった自分にとって・・・・あなたのそれは救いでした。救われたから、救いかえす・・・・別におかしくないでしょう?」

「そんなの・・・っ! 全然違いますわ・・・・っ! 主様のそれはあまりにも大きくて・・・・わたしには不相応に過ぎます・・・」

「いいんですよ? 自分はそんなに優しいわけではないですから、ここから去って違う世界に行かないといけないので・・・・知っているでしょう? 主はその世界に束縛される。だから逃げただけですよ」

「っ!! それはっ! 滅びないことが前提じゃありませんかっ!!! もう主様は・・・っ!!!」

「ははっ・・・やっぱりあやめさんは賢いな~・・・・自分が作った技を説明してないのに、視ただけで本質を理解している・・・・・なんというか、すいません。最期になってこんな感じで。どうも壊れたせいで、変になっているみたいです」

「!!」

「・・・あやめさん、今度はあいつと一緒に幸せになってください。情けなくて頼りない、昔の自分で申し訳ありませんが・・・・それでも過去の自分は、今の自分が超えられなかった運命を超えた・・・・だから今度こそは大丈夫です。あなたを・・・独りになんてさせない・・・・」

「あ・・・っ! ううっ・・・主様っ!!」

「・・・それじゃあ・・・・・そろそろ・・・お別れみたいです・・・・・」

「まってくださいっ! 私まだお礼も・・・・!」

「・・・・・・・・・」

「主様・・・っ?! 主様っ!?」


(・・・・・・)


 少女は無言で読み進める。

すると、泣き喚いていた巫女に声をかける存在が現れた。主人公の魂をすくい上げた女狐だった。現れると主の魂を救う方法が一つあると告げる。そしてそれを実行できるのはもう一人の巫女である『くろみ』だけだった。そしてくろみは受け入れた。主が宿していた、決して受け入れられることのなかった魂の全てを、その身に宿して来る時まで待つと。

 そして、物語は終焉へと至る。

その後、あやめは高天原を目指して上に昇る。主人公には主のことを黙ったまま。

 主人公はカミアガリを成し、二代目の主としてこの世と天の狭間にて穢れを祓い続ける。三代目の主が現れるその日まで。

 くろみは・・・・・主が抱えていた深すぎる苦しみと悲しみを知り、毎夜涙を流して一人で過ごす。いつか夢見た未来の・・・・その先が来るまで、彼女は主の魂を宿し守り、孤独と絶望の中で待ち続ける。いつ終わるともしれない時の中で、独り泣き続けながら・・・・



 一つの物語を読み終わり、少女は本を整えて整理していく。

(・・・確かに最後は驚いたわ。でも・・・・この世界観にも驚かされたわ。いがいと、作り物の世界もばかにはできないのね・・・・・特にあの女狐が主の魂を具現化して巫女に宿すところ・・・・あの魂は酷いわ・・・・・・あんなになるまで在り続け・・・まして想い続けるなんて・・・・・そんなことできるわけが・・・・・・・)

 ふと男の顔が浮かぶ。こんな自分に優しさをくれた最愛の人。

(もしも・・・・彼だったら・・・・・・・ううんっ、そんなことできるわけないわ。彼は変わってはいるけど、普通の人間なんだもの。こんな物語にでてくるような特別な人間じゃないわ)

 特別なことができる人間は、それ相応のモノを背負うはずだと、少女はそういう風に考えていた。

(でも、彼は変わっているから・・・・これだけ優しいのかしら? 優しくて不器用だから・・・彼は簡単に傷ついてしまうんじゃ・・・・?)

「甘えてるばかりじゃなくて・・・・わたしも彼を甘やかせてあげたい・・・・・・・」

(・・・・そうなると、参考になりそうなのは)

 少女が恋愛系の漫画へと視線を移す。『Fragment』と書かれた漫画を見る。表紙に書かれている黒髪の男が、ヒロインである少女に笑いかけている。ヒロインである金髪碧眼の少女は恥ずかしそうにしてその男を見ていた。そんな表紙。

 その二人をみて、どこか自分たちと似ているような気がしてしまった。そして、ついに少女はその本に手を出すことになった。

 ぺらぺらと読み進めていく。相性が良いのか、すらすらと読めていき、あるところで気づく。

(これ・・・わたしが彼を好きになったのと同じような展開だわ・・・・・!)

 ヒロインの少女が男に抱きしめられ(しかもそれはヒロインの苦しみや悲しみを和らげようとした男の行為)、その温もりが孤独な少女の心を溶かしていくというありきたりな展開だった。が、それと似たようなことを、つい最近やってしまった少女としては凄く恥ずかしい内容だった。

(やだ・・・・恥ずかしいわ・・・これ)

 繰り広げられる展開に顔が赤くなる。

極めつけは、ヒロインが主人公にお願いして膝をついてもらってからのキスシーン。その直後のセリフ


『好きです・・・影闇君』


 思いだされるのは少女自身のセリフ。ヒロインと同じように自分から口づけをして―――


『愛してるわ・・・・だいすき・・よ』


(~~~~っ!)

 少女はもう耐えられなかった。耐えられなくて本を閉じてしまう。

「あ・・・わたし・・・・こんなに恥ずかしいことしてたんだ・・・・・」

 今になって気づく、あの時少女と男がどれくらい恥ずかしいラブシーンを展開していたかを・・・・

「・・・・自分でしている時は気づかないのに・・・こうやって見せられると凄く恥ずかしい・・・・っ!」

 それでも続きが気になってしまい、ほとぼりが冷めたころに読み進めていく。これまでのものと比べて読みやすく、テンポも少女にあっていた。

(恋人って・・・こんなことするんだ・・・・!)

 食事を食べさせたり、同じ飲み物をストローで飲みあったり、膝枕をしたりと、もう色々と現実とかけ離れている内容を少女は鵜呑みにしていく。

(きゃ~っ、なにこれっ?!)

 指でつまみ、一口で食べられる小さな果物をヒロインが主人公に食べさせるシーンがあった。その時に主人公が指までくわえてしまい。ヒロインが恥ずかしがる。

『指まで食べないでください・・・・///』

『んっ? 聖望の指おいしいぞ?』

『な、なにを言っているんですか?!』

『あ、そういや俺ばっかり食べてて悪いな。聖望も食うか?』

『え? あ、はい・・・頂きます』

『んじゃ、こっち来てくれ・・・いや、俺が行った方が早いな』

『えっ? それってどういう・・・・んむっ?! う・・・ん・・っ!? はあ・・・っ!』

『・・・どうだ?』

『・・すごく・・・あまい・・です・・・・』

 口移しで食べさせるシーンを見て、少女は湯気がでそうなくらい頭が熱くなった。

 そこから二人が交互に一つ一つ果物を食べていくシーンが続き、食べるものがなくなったら、ディープキスへと移行して互いの唇を貪るように求めていった。

(何これ何これ何これ何これ何これ何これ何これ?!?!?!??)

 漫画的表現でいうならば、今少女の目はぐるぐるとした渦巻状態で、全身真っ赤の頭からは蒸気がでて沸騰していた。

 それでも何かに憑かれたかのように少女は読んでいく。

 シリアスな展開があっても、それが終われば二人はいちゃつく。

 シリアスな展開がなくても、二人はいちゃつく。

 些細なことがらであっても、二人はいちゃつく。

 とにかく何らかしらの手段で二人はいちゃつく。

 そんな、いちゃいちゃラブラブした内容(最終話辺りやところどころ真面目なシリアスもあるが)を全話で通して見せられる。

 最終話の後半のシーン。主人公が夢から覚めてヒロインと会話を交わす。

『あれ・・・聖望? なんでまだ居るんだ?』

『もしかして寝ぼけていますか?』

『聖望、何をいっているんだ?』

『ふふっ! またそう呼んで・・・今の私は『影闇 ひかり』。アナタのひかりですよ?』

『・・・ああ、そうか。俺たち結婚したんだよな』

 そんなことを言って二人がいつものようにいちゃつく。しかし、これまで甘えっぱなしだったヒロインも男を甘やかし、大人の女性としての包容力をみせていた。それに男が少年のように笑い返す。

 そうして最後のシーンへと移る。主人公がヒロインをお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。夫の腕に抱かれ、幸せを隠せないその妻の笑顔。その胸中は色々な想いが交錯していた。

 ――アナタはいつだってあの頃の表情を見せる。その顔を見るたびにわたしはいつも貴方に恋をする。ありがとう、影闇君。わたしを好きになって、恋人になってくれて・・・。そして、私と結婚してくれた今のアナタを――――――――――――心から愛しています。



(なにこれ・・・・?)

 呆けていながらも、少女は読み終わった物語をいつものように整理していた。

 読み終わったばかりの物語を思い返し・・・・

(わたし・・・・彼とまだここまでいっていないわっ?! 少しは恋人らしいことをしたと思っていたけど・・・・全然だったのね・・・・・・)

 盛大な勘違いをしてしまうと同時に、使えそうな内容をいつか男に対してやってみようと決意する。

(『あーん』とか、膝枕くらいならすぐにでもできそうね・・・・口移しは・・・その、どうなのかしら・・・・?)

 想像しようとして胸が高鳴り、どうしようもない恥ずかしさが込み上げてくる。

 どちらかがそういった行為をして、相手が驚く。けれど、突っぱねることなく受け入れ、やがては熱に浮かされていきあの二人のように・・・・・

(う~・・・・だめね。こんなの普通にしていたらできないわ!)

 今朝、男にほんのりと甘いハチミツの味を移したことを棚に上げて悶えていた。否、そんな自覚が少女には一切なかった。

 恋は盲目とは言うが、ほとほと今の少女がそれであり、また乙女でもあった。

(あ、そういえば今時間は・・・・やだっ?! もうこんな時間じゃない・・・っ! 今ある食材は・・・・・)

 読み耽っていた時間を冷酷に知らされる。男の帰ってくる時間を逆算するならば、今から買い物に行っていては間に合わない。その現実が、瞬時に少女を冷静にさせて現有食材を把握させる。

 別段間に合わなくても男は問題ないと言うが、どうも少女は帰ってきた時にご飯が用意されているようにと動いてしまう。一応、それなりの理由もある。男と一緒にいる時間を少しでも長くするという・・・・乙女的な思考が。

(・・・これなら最近野菜の摂取量が少ないし・・・・寄せ鍋にしましょう。寒いところから帰ってきた彼も、これなら温まるものね)

 男のことを考えるだけで口元が緩む。

 身を寄せ合って二人で鍋をつつく。時々互いに食べるものを取り合いっこして、あわよくば『あーん』などしてみたりして・・・・

(きゃーっ! もうっ、わたしったら・・・なに馬鹿なこと考えているのよ~っ!)

 完全に少女は『Fragment』の内容を引きずっていたと同時に男に惚れていた。少女自身でも驚くほど男を好きになっていた。

 そんなことを考えながら、少女は鍋とカセットコンロを出して、食材を切り分けて準備をしていく。

 白菜、長葱、豆腐、魚など冷蔵庫にある食材を適当に見繕って準備していき、昆布のだし汁をベースにして割下を作る。後は男が帰ってくる時間を予想して火をつける。

(おいしいって思ってくれるかしら・・・・? 彼はいつもおいしいって言ってくれるけど、不安なのよね・・・・おねがいだから、おいしくなってね?)

 台所の前でイスに座り、そんなことを思いながら火を見守り続ける。

 時が流れてドアが開き、男が帰ってきた。

「・・・おかえりなさいっ!」

 帰ってきた男を笑顔で出迎える。そんな乙女全開な笑顔に、荒廃した社会の中で荒んだ男の心も和む。

「ただいま」

 男が帰ってきたので、少女は鍋をコタツに用意したカセットコンロへと運ぶ。後はもう少し時間をおけば食べられる。少女の計算通りにいった。

 お椀にお箸に、穴のあいたお玉とを用意していく。その間に手洗いうがいを済ませて着替えた男が、ちょこまかと動いて準備をしている少女を抱きしめた。

「あ~、癒されるな~・・・・・」

「えっ? ちょっと・・・これからご飯だから、まだこういうのは・・・・・」

 後ろから抱きしめられ、少女の小さな体が男の腕の中にすっぽりとおさまる。

 少女の温もりと香り、その愛らしさが冷えて渇ききった心にしみわたる。だけど、もう少し熱さが欲しかった。

「そうだな、じゃあ手早く終わらせる」

「何を・・・んむっ?!」

 振り向かせると有無を言わさずに唇を奪う。徐々に深くなり、少女の身体から力が抜けていき、床へ座り込みそうになったところを男が腕で支える。支えたまま、少女への行為を続けていく。それは少女のようなぎこちない、初々しいものでもなく手慣れた人間のそれだった。少女の頭を芯から蕩けさす、そんな深い交わり。

 蓋をされた鍋から茹った音が鳴り響く。

 このまま少女が男に溺れそうなところで、ようやく離される。

「ぅんっ! はぁ・・はぁ・・・っ!」

 呼吸すら忘れるほどの時間に、少女が荒い息をして男を見ていた。

「な・・に・・・これ・・・・? ぜんぜん・・・・ちがっう・・っ!」

「まだ大丈夫か?」

「だ・・めぇ・・・・っ! おかしく・・・なっちゃう・・・・っ!」

 頭が熱で茹でられたかのように思考が働かない。鼓動も張り裂けるように強く、全身が熱く溶けてしまいそうだった。

「悪い、刺激が強かったか・・・・」

 心配する言葉もどこか子ども扱いをしているようで、普段の少女ならムキになって反論していただろう。だが、今の少女は酒に酔った人間のように不安定であり、これ以上されたら壊れてしまうことを感じていた。故に何も言い返すことができず、腕の中で力なく抱かれているだけだった。

「言っとくが、最近よく抱けっていうけどな・・・・・これより激しいからな? というか、激しくなっちまうからな? お前、今の状態で抱かれたらどうなると思う?」

 男の言葉に、少女の顔が赤くなるよりも青くなる。頭の中は真っ白だった。

 蓋をされて、やかましい音を立てていた鍋からは煮立った汁がついに零れだし、ガスコンロの火を消しさっていった。




「えーっと、大丈夫か?」

「え、ええっ・・・そのつもりよ?」

「凄く赤いぞ?」

「それは、その・・・・もしもを想像しちゃって・・・・・・」

「・・・本当にすまん。ついイライラしてお前に甘えた―――というよりも当たっちまったな。悪い」

「べつに、それはいいのよ? わたしが蒔いた種だもの。むしろ、わたしの認識が甘いってわかったわ・・・・ごめんなさい」

「うーん、お互いそういうことでいいのか? 実際としては違うんだが・・・・」

「それでいいの。そうして・・・ね?」

「・・・わかった。そうする」

「それより・・・はい。貴方の分とったから食べて」

 二人はあれから慌ててコンロの火を止めて後処理をした。幸いにも食べることには影響がなかったので、少女が会話をしながら菜箸で男の分をとっていたところだ。

「ああ、頂きます。というよりもだな・・・・」

「?」

 少女が自分の分を取りながら、不思議そうに隣にいる男を器用に見る。

「ああいったことされて、言われて・・・なんで平然と隣に座る?」

「貴方の分をとった時に渡しづらいじゃない。そしてなにより、好きだからに決まっているでしょ?」

「もうな・・・お前凄い奴だよ。お前のような女はこの世にいないと断言する。俺にあのまま押し倒されていたらと思うと、普通引くか逃げるかくらいすると思うぞ?」

「それならそれで・・・・貴方にされるなら・・・・・・いいかもって、今は少し・・そう思ったりしてる・・・・」

「先に言っとく。悪い。お前頭大丈夫か?」

「・・・・とっくに・・・貴方に狂っているわよ。こんなこと言うくらいにね」

 目の前の少女が、赤くなりながらも誇らしげに宣言する。恥ずかしくないわけではないが、それ以上に男を想えていることが嬉しくてたまらないといった風だ。

 取り分けた具を一口少女が食べる。熱いはずのそれも、少女から出る熱さの前ではぬるいようだった。

 男はもう何も言えない。この少女は男がすることを全て受け入れるつもりだと理解した。ある意味、だからこそこうやって本音で喋れる訳なのだが・・・・

「なんというか・・・お前男にとって都合が良すぎだぞ・・・・・」

「そうかしら?」

「そうだよ・・・って、熱っ?!」

 それは二人のいちゃつきの間、必要以上に煮詰められていた具材からの復讐であった。噛んだ瞬間熱された煮汁が男の口内に溢れる。しかし、吐き出すわけにもいかず、ここは根性で飲みこんでいく。男の言葉に反応して、少女はすぐに水を渡してくれたので、事なきをえた。

「貴方・・・猫舌?」

「いや、これは熱いだろ」

「そうなの?」

 交互に器を見る。熱を持っていることを主張する湯気が双方から上がっている。けれど、男にはそれが熱く、少女には普通であった。そこから少女は考えて―――

「ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・はい」

 ―――息を吹きかけて冷ました具を男に差し出す。そして、この状況で読んだばかりの漫画の内容を思い出してしまった。

「『あーん』・・・・・・・」

 火が出そうなくらい恥ずかしいと思った。漫画さえ読んでいなければ、そういう意識なくできていたはずだったことが、今はこれほどにも恥ずかしかった。

「んっ、ありがとうな」

 だからか、男はさしたる抵抗もなく素直に少女の箸をくわえて食べていく。素直に、言うとおり、思うままに・・・・それを見て、少女が男をかわいいと思ったのは言うまでもない。

 二回目もしようと思ったところで突然来訪者を告げる音がする。夜の時間の非常識な行為に男が何かを察する。

「まさか・・・」

 そうつぶやいて男が玄関の方に行く。その顔は少女が見たこともない表情をしていた。

 少し何かのやり取りがあった後、誰かが上り込んでくる音がした。

 ドアを開いて、知らない女と知らない男・・・・そしてその後ろにはこの部屋の主人がいた。その表情は諦観のそれだった。

 見ず知らずの二人は少女を見るや、この間の女店員のように少女の容姿に興奮していた。そして、そのまま何の遠慮もなくコタツに入るやいなや自分たちも食べたいなどとのたまう。男が何か色々と道理を説いていたが、なんで?どうして?と、二人は細かいことはいいから食べさせろの一点張りだった。男は一度少女を見て、しばらく悩んだのちに折れた。

「・・・食べたら帰れ」

 そう言って男が二人に割り箸と器を渡す。そして少女の隣りに戻る際

「・・・ごめんな」

 少女にだけ聞こえるように謝ってコタツへと入った。

 ―――どうして謝るの? そう聞く前に二人からの質問攻めにあう。

「しかし、彼女さんはどうして先輩を好きになったの? 愛想もよくないし、面白くもないし、つまらないし・・・・あるのはお金くらいだし?」

 この質問には少女も心穏やかにはいられなかった。男を貶められる言葉に、激情にかられる。

 感情的に噛みつこうとした時、手に触れる暖かいものが少女を抑える。男が手を握ってきていた。思わず握られた手を見ると、男が手をなぐようにして伝える。気にするなと。

 それでも少女は納得できず、感情をなるべく抑えて答える。

「・・・優しいからよ」

「ん~、確かに優しいとは思うけど・・・・それだけで好きになんてなる? やっぱりお金かしら?」

「お金と人間性は別でしょ?」

「あらあら~、お金の重要性を理解できていない辺り、まだまだ子供なのね。というより、こんな子供に手出すなんて先輩犯罪者じゃない? それともロリコン? 先輩ってこういう子供が好きだったんですね」

「彼は―――」

「こいつを好きでいることがロリコンなら、ロリコンでいいさ。それでこいつがいてくれるならそれで構わない」

 少女の感情が爆発する前に男が言葉をかぶせる。

「・・・どうしたの? 先輩ってそういうキャラじゃないですよね? キモイですよ? もしかして・・・酔ってます?」

 女の言葉に少女の中でふつふつと煮えたぎるものがあった。顔を上げていると何をしでかすのか分からない感情が渦巻いてくるので、下を向いてやり過ごそうとする。

「お前らの酒気にあてられたのかもな・・・」

 男が再び少女の手を握る。目の端で少女の悔しそうな顔が見えた。それはもう泣き出しそうな顔だった。 今すぐにでも抱きしめて、なだめてやりたかった。が、状況はそうはいかない。

「それより・・・彼女さんはあまりしゃべるのが得意じゃないんですか? あまり会話に入ってこないですが・・・・」

 もう一人、女と一緒に来た男が会話に入ってきたからだ。元々二人はある程度食べてきていたのか、取った物を少し食べて後は残していた。

「まあ、そうだな。あまり人と喋るのは慣れていないな」

「だったら余計どういったことで付き合うようになったのよ? やっぱり先輩がうまく騙したとか? こんなにかわいい娘だったら男なんてひっかえとっかえできるものね・・・・羨ましいわ~」

「彼はそんなことしないわっ! それに、彼以外の人なんていらないっ!」

 そういって男に抱きついて女を睨みつける。もう我慢なんてできなかった。ありもしないことを適当に言って、男の名誉を傷つける行為に黙っていられなかった。

「冗談よ、冗談。そんなに怒らなくてもいいじゃない。日本的な空気を読めるようにならないと疲れるわよ?」

「お前はその空気をブッ飛ばすがな」

「それにしても先輩の彼女さんはかわいいですね~」

 男に抱きついている少女を見て片割れが喋り出す。

「それに髪とか目も綺麗ですし・・・・女性に興味がなさそうな先輩でも振り向くわけだ」

「おいおい、見た目だけでここまで好きになるかよ・・・・」

 そういって少女を抱きしめて、腕の中にしまう。互いの精神を安定させるためでもあり、二人に見せつけるためだ。

「美少女を抱きしめられるとか羨ましいです」

「うわ、キモっ。あんたもロリコンなの?」

「いえ、彼女顔つきは確かに幼いですが、体つきは大人ですよ。いわゆる童顔女性じゃないですか?」

 そういって二人がじろじろ少女の身体を見ていく。その視線がどこか不愉快で少女が身をよじってしまう。

「う~わ・・・・見た感じ、アタシよりいい体してるとかまじで羨ましい~」

「それと話し方も女の子喋りでかわいいし、本当に先輩が羨ましいです。変わって欲しいくらいですよ!」

「・・・・・っ!」

 少女が憎しみに近い感情でその言葉を発した存在を見る。しかし、少女のこういう表情は慣れていないと読み取りにくいものであり、愛しい男の前かそれとも男のことを考えている時以外では、そうそう変えることはなかった。だから、その視線は都合の良いように解釈される。

「えっ? もしかして、僕に脈ありとかですか?」

「渡さんぞ?」

 少女を抑えるように抱きしめ、なだめるように頭を撫でていく。

「ですよね~。でも、彼女さんが僕の方に来たら別ですよね?」

「安心しろ。そんなこと絶対にないから」

「絶対なんてありませんよ。もしかしたらがあるじゃないですか。ね?」

 見られる視線が気持ち悪く、顔を逸らして男に抱きつく。もうこんな存在は見たくなかった。

「あ~あ、もうお熱いわね~」

「僕は羨ましいです・・・凄く綺麗な髪を撫でられるとかズルい」

「そういえば、二人とも付き合っているんなら・・・もうしたの?」

「絶対してますよ。僕だったらこんな娘が彼女ならその日のうちにしますよ。我慢なんてできませんよ」

「よし、お前ら帰れ。それとも追い出されたいか?」

「えっ・・・? まさかしてないの??」

「そんなはずないですよ。先輩も男ならこんな娘を前にして我慢なんてできるわけないです。ただ、恥ずかしいからそう言っているだけですって」

 少女は耐えられなかった。抱きしめてくれている男がどれほど自分を大切にして、軽々しくそういったことをしないかを知っている少女としては、こんな下劣な男と同じ思考をしていると決めつけられるのが、とてつもなく耐えられなかった。

「・・・・・っ」

 それでも、抱きしめてくれている腕がぎりぎりのところで少女を止める。本当は自分よりも、男の方が辛いはずだからだ。その男が耐えているのなら、自分も耐えるしかなかった。

「あ~あ、僕も手作り弁当してくれる彼女が欲しいな~」

「そうそう、今日になって急にお弁当なんて持ってきたから驚いたわ。それで、彼女さんがいるって分かったからいいんだけどね。まったく、先輩も抜け目がないわね」

 女の言葉に少女は耳を疑った。自分が作ったものが原因で今のこの状況があるということを知る。つまり、自分がそんなものを作らなければ男がこんなことを言われずに済んだのだ。

 少女が男を見上げる。喜んでもらおうとしたのに、それが逆に悪いことをしてしまったことに気付いて、どうしようもなく泣きたくなった子供のような顔で男を見る。少女のその顔が、『ごめんなさい』と言っているのが痛いように分かる。

 そんな少女を男は黙って優しく撫でる。気にする必要はないという、その思いやりに少女は胸が熱くなるのを感じた。

「それでお前らは俺の彼女を見たいと言って、無理やりにここに乗り込んできたわけだ」

 男の声音が変わる。先ほどまでのように場に合わせた感じではなく、冷酷とでも言うべき声音だった。

「無理やりなんて、ちゃんと書類届けに来てあげたのに・・・・酷くない?」

「俺にわざと渡さずにいた書類をダシにして、駆け引きの道具にした奴が何を言う?」

 冷たい怒りがこもった言葉に二人が固まる。

「いいか? ある程度までなら俺は見逃してやるし、カバーもしてやる。だが、あまり好き勝手するようなら、こっちにもやりようはあるのは知ってるよな?」

 流石に慌てだす。男の急変の理由に思い当るところはないが、とりあえず怒らせたことは確かだから、逃げ出そうという考えだ。

 真面目に働いてきてある程度の人脈があり、そして他人のカバーをしてきたからこそ、人の弱みの一つや二つを男は持っていた。それを使えば最悪は首、良くても左遷。少なくとも、今いる場所にはいられなくなる。

 それを思い出した二人は男の言葉に脅える。

「とりあえず、仕事で疲れて彼女との時間も削られるこの状況は非常にストレスでな。どうしたらいいと思う?」

 分かるよな? 暗にそう二人に言っていた。

 やましい所がある二人は、その言葉に素直に従って帰っていく。さすがに見送りはいいというが、その心は早く逃げたいとの一心であった。

 こうして男は嫌いな権力を使って、どうにかして落ち着いた時間を取り戻した。

 こういったことをする度、結局自分もああいう人間と同族なのだと、思い知らされる。だけど、それでも構わなかった。あれ以上少女に苦痛を与える状況を続けるくらいなら、自分が外道になるほうが遥かにましだった。いや、そもそも初めの段階で脅しておいて書類だけ回収していればこうはならなかった。荒波を立てたくなくて、つい逃げてしまったことを悔いる。やはり男はどこかでミスをして、それが分かっていながら繰り返してしまう愚者であった。

 抱きしめていた少女に申し訳なく思い、心配して見てみると。

「・・・・ごめん・・なさい・・・・」

 瞳に涙を浮かべ、泣きながら謝ってきた。

「・・・わたしのせいで・・・・あなたを困らせてしまって・・・・・ごめんなさい・・・っ!」

 少女はようやく気付いた。なぜ男が昼は作らなくていいといっていたのか・・・・それはこうなることが分かっていたからだ。なぜ、男が今日に限って荒れていたのか・・・・それは自分が作ったお弁当で不愉快なことが起きたからだ。

「ごめんなさい・・・・・・・ほんとうに・・・・ごめんなさい・・・・・」

 自分が余計な事さえしなければ、男に迷惑などかけずにすんだ。自分のせいで男が苦労を・・・・必要以上の苦労をさせてしまったことに、少女は酷く後悔していた。

「気にするなよ。ああいった手合いはどこにでもいる」

 そっと少女の涙を拭う。拭っても少女の後悔はすぐに滲み出てくる。

「それに弁当を作ってくれたのは嬉しかったんだぞ? ああいうのはもう、いつ以来だったかな・・・・」

 遠いまなざしをして、昔を思い出す。まだ自分が子供だった頃を。何も知らず、何も憂えず、自由気ままに振る舞えていた懐かしい時代を。世界が満ちていたあの頃を。

「まあ、だから明日も弁当頼む」

「いいの・・・・? また不愉快になるだけじゃ・・・・・」

「そんなの気にするかよ。お前の手作り弁当の方が重要だ」

 そういって抱きしめる腕に力を強くする。そして安心させるように笑いかける。

「もし、また荒れた時には・・・情けない話だが今日みたいに甘えさせてくれ。お前の存在だけが俺の癒しだよ」

「そんな・・・こと・・・・・初めて・・言われたわ・・・・・」

「そうか? お前のことを考えたら・・・・そうなのかもな」

 少女から説明された経緯を思い出す。普通なら確かに少女は受け入れられないだろう。だが、男は普通ではなく変わっていた。変わっているから、普通のようには受け取らない。

「とりあえず、お前は風呂にでも入って落ち着いてこい。そんでもって、俺も風呂あがったら好きなだけ甘やかしてやる」

「でも・・・」

「後片付けくらいならたまには俺がやる。だからお前は気にすんな」

「・・・わかったわ。これ以上迷惑をかける前に、貴方の言うとおりにするわ・・・・ごめんなさい・・・・・」

 自分でも冷静でないことは分かっていた。だから間をおくようにという男の言葉も理解できた。

「でも、その前に・・・・」

 少女が男に強く抱きつき、しばらくそのまま温もりを感じる。落ち着かない心がある程度治まれば自ら離れて風呂場へと向かう。それを見送り、男が一人何とも言えない気持ちを漏らす。

「・・・あいつに申し訳ないと思うが、ああいう感情を見せてくれるのも・・・嬉しいもんだな・・」

 初めの頃はどうでもよかったように振る舞っていた少女が、今や少しでも男を否定すると、それをかばう様に怒りを露わにする。その感情の変化が正直なところ嬉しかった。

「・・・さてと、とりあえず片づけていくか」




(・・・・・やっちゃったわ)

 男に買ってもらった寝間着――ネグリジェ――に着替え、寝る準備の整った少女が布団の上で女の子座りをして顔を真っ赤にしていた。

 あれから風呂場へ行くと、早く男に入ってもらおうとして淡々と身体を洗っていって素早く上がった。そして事件が起きたのは風呂上り。なんと少女は寝間着はおろか、下着すら持ってくることを忘れてしまい、バスタオルを巻いて上がるという恥ずかしいことになってしまった。

(あの時の彼・・・・コタツから起き上がるほど驚いていたわね・・・・)

 少女が下着を取ろうとして、コタツを少し早歩きで横切ろうとした瞬間、男が意味不明の言葉を上げながら、コタツから急に脱皮したのであった。その後は用意していた着替えを持って脱兎のごとく風呂場へと消えた。

 男からしたら、いつもと違う雰囲気の少女を心配して、そっちを見上げたところタオルの短い丈を翻しながらの急接近に、ローアングルからの角度がそれはもう大変なことになりそうだったので、文字通り必死になって頭を起こした。今、男は風呂場に残る少女の香りと、このことでのぼせていた。

(・・・タオル一枚で上がるのが・・・・こんなに恥ずかしいなんて思わなかったわ・・・・・・)

 間をとったおかげもあるが、このことで先ほどまで渦巻いていた感情がどこかに消し飛んでいた。

(でも、彼がどぎまぎするほどのことなのかしら・・・・? 一応、タオルで巻いて隠していたのに・・・・?)

 少女は男の苦悩を知らない。

(それにしても・・・何もせずに待っているのは暇だわ)

 男の片付けを信頼していないわけではない。それでもつい確認するようなことをしてしまう。鍋を開けると残りがあり、明日の昼の分として使えそうだった。食器も四人分が洗われており、お玉なども全て洗われていた。料理で出たゴミを確認してみると・・・

(おかしいわ・・・・)

 生ごみが鍋を作った分しか入っていなかった。軽く確認して、他にそれらしきものがないことを知ると、少女が閃く。

(・・・食べたの?)

 思い返すと良くない感情まで出てきそうだが、あの二人の残した分が綺麗になくなっていた。

(どうして・・・?)

 そんなことは分かっている。男が少女の作ったものを出されて残すことはなかった。残すくらいなら無茶をしても全部食べてくれることを知っている。

(だから、コタツで横になっていたの・・・?)

 普段食後横になるのは気持ち悪いからとしないが、どうしようもないほど食べた時は素直に横になる。初めの頃、男の食べられる量を把握するまで何度か見た光景だ。


『や・・やべぇ・・・・食い・・すぎた・・・・』

『そんなに・・・・なるまで、食べなくてもいいのに・・・・・・誰も全部食べて・・・なんて言ってないわ・・・・・・』

『なに・・・美少女の手料理を残すのは・・良くないことと相場は決まってんだよ・・・・・』

『貴方、ばか・・・なのね・・・・・そんなの、捨てたらいいのよ・・・・・』

『せっかく作って貰ったのに・・・・もったいないだろ・・・・?』

『・・・ばかみたい。どうせ私は―――』


(いやっ!)

 それ以上思い出したくなくて記憶を閉じる。

 出会ったばかりの頃、少女は男に対してきつく当たっていた。

(どうして・・・・少し前のわたしは、彼にあんな態度をとっていたの・・・・・?!)

 今では到底考えられないことだが、あの時は男に対する戸惑いがイライラとして表現されていた。理解できない男の行動に、正直嫌悪感に近いものを持っていたと思う。そんな少女に対しても、男は今と変わらない態度で接していた。接していたからこそ、少女もそれに感化され、すぐに柔らかくなっていった。

(なのに、今のわたしは・・・・彼が捨てずに食べてくれたことが嬉しい・・・・嬉しいって感じてる・・・・わたしの料理を捨てないでいてくれて・・・・嬉しいって・・・・・・!)

 男の気遣いに胸が暖かいもので満たされる。

 目頭が熱くなる。

(あんなこと言っておきながら、今はこんなに嬉しがるなんて・・・・自分勝手もいいところよね・・・・)

 男の優しさに甘えるだけの自分に対してどこか自嘲の笑みが漏れる。もらってばかりで、何も与えられない自分が嫌になる。男に対してあげられるものを何も持っていなかった。

(何もない・・・? いいえ、一つだけあるわ)

 決意を固めた少女は布団の上へと戻り、男が出てくるまでの時間を静かに待つのだった。

 そうして風呂場から上がってきた男をみて開口一番。

「抱いて」

「はあっ?」

 少女の寝間着姿に見惚れていた男がすっとぼけた声を上げた。

「おねがい、抱いて」

「いや、ちょっと待て。俺は今お前のネグリジェ姿をじっくりと見ているんだが?」

「じっくりと見た後は抱いて」

「だから少し落ち着け。そんな連続していうもんじゃないだろ」

「・・・もう見終わった? だったら抱いて」

「まだだ、もうちょい待て。あ、言っとくが抱かないからな」

 そういって布団の上で女の子座りが似合う少女を見ていく。ネグリジェだけあってゆったりとした装いだ。少しフリルをあしらって、それとなく可愛らしさを出しているのも少女に合っていいが、少しばかり生地が薄いような気が・・・

「どうし――」

「なあ、なんか生地薄くないか?」

 男の質問に答える少女の習性を利用して、質問を投げかける。

「・・・・貴方と一緒に寝るのだから、厚すぎないほうがいいでしょ・・・?」

 ぽっと、頬を赤く染めながらそんなことを言う。

「それと、丈は短くしたんだな。なんでミニにしたんだ? 寒いだろ?」

「普段が長い丈だから、部屋でくらい脚を見せたほうが男の人も喜ぶって言ってたの・・・・わたしは別に寒さは平気だし・・・・・その、どうかしら・・・・?」

「ああ、綺麗な脚だ」

「そ、そう・・・?」

 顔が赤くなっていく。こんな初な反応をする少女が、顔色を変えずに抱いてと言うのは、色々とおかしい。

「前まで下着姿で見ていたはずなんだが・・・・こうやって服を着て見せられると、強調されるような気がするな」

「・・・服を着たほうが迫るのに有効なのかしら?」

「だから、抱かないぞ? 一緒に寝るだけな。それより・・・お前そんなに胸あったのか?」

「・・・・っ!」

 嘘の発言に少女が胸元を慌てて隠す。こんなことをしている辺り、本音で抱いてと言っているはずがなかった。

「お前な~。本当に抱いて欲しかったら、こっから普通たたみかけるだろ?」

「あ・・・っ。ち、違うわ・・・つい流れでそんな反応しただけで・・・・」

「無理すんな。ったく、何を焦ってる? お前らしくないぞ?」

 少女の隣に座り、その頭を優しく撫でていく。それだけで少女はもう骨抜きにされる。

「だって・・・わたし、貴方に何もしてあげられていないから・・・・だから、身体くらいしか・・・・・」 

「そんなことないさ。お前は俺に飯を作ってくれているし、一緒に居てくれている。なにより、あの時ショッピングモールでお前は―――」

 思いだすのはショッピングモールでのこと。ミスをして少女を悲しませ、どうしようもなくただ抱きしめて、謝ることしかできなかった、そんな不甲斐ない自分に少女は言ってくれた。『ありがとう』『一人じゃなく、二人で背負いましょう』と。

 誰からもかけてもらえなかった言葉を、ただ一人男の心に気付いた少女だけが口にしてくれた。

「―――俺を救ってくれた」

 そういって少女を抱きしめる。もう自分もこの少女に狂っていた。狂っているからこそ、欲望なんてもので少女を汚したくなどなかった。

「お前はな・・・もう十分すぎるくらい・・・・俺にくれてるんだよ・・・・・だから、これ以上貰っちまったら罰があたっちまう」

「そんなこと・・・」

「あるんだよ。お前が気づいていないだけで、すでに両手に抱えきれないほどの物をくれた。そんなことを言ったら、俺なんてせいぜいお前を甘やかすこと・・・それすらロクにできていないんじゃないか?」

「そんなことない! 貴方はわたしに優しくしてくれた! 貴方はわたしに温もりをくれた! 貴方は・・・いつもわたしを想ってくれている・・・・っ! 見てくれているわっ!」

 少女も強く抱き返してくる。

「俺は・・・普通のことをしたにすぎないぞ?」

「そんなの・・・わたしだってそうよ・・・・わたしのほうこそ、貴方に救ってもらったのよ・・・・・? 貴方だけがわたしの手を握って引いてくれた。愛しいという感情を思い出させてくれた・・・・貴方だけが、否定されるわたしを受け入れてくれた! さっきだって、貴方はわたしを守ってくれたっ!」

「・・・意外と自分がしていることって分からないよな。お前に何をしてやれたんだろうか? 何をしてやれるんだろうかって、ずっと思っている。だけど、お前はそんなことないと言ってくれる」

「貴方は・・・自分を過小評価しすぎよ・・・・・貴方のような人間なんて、どこを探してもいないわ・・・・・」

「・・・それはお前もだろ?」

「・・・わたし達・・・似たもの同士なのかしら?」

「案外そうかもな」

「これも・・・バカップルになるの?」

「ははっ、そうかもな」

 少しだけ身体を離して互いに見つめあう。そして、どちらからともなく口づける。

「ん・・・もう・・終わりなの・・・・?」

 離れる感触が名残惜しくて、男にねだる視線を向ける。もっと長く、もっと深くして欲しいと。

「その気になったらヤバいからな。せっかく着てくれたかわいい寝間着を脱がすのはもったいない。それより次の休みなんだが・・・」

「何かあるの?」

「いや特にないから、デートでもしないか?」

「デート・・・」

 漫画でも定番のネタ。二人の男女がどこかに遊びに出かけて、楽しむというあれだ。

「ほら、せっかく服も買ったことだし、それ着てどこかに行かないか?」

「・・・・」

 漫画の内容を思い出す。『Fragment』でのデートと言えば、主人公とヒロインが最後には結局いちゃいちゃしていた。

「・・・最後は結局家に帰るのなら、初めから家にいてこうして抱きあっていたいわ」

 そんな身もふたもないことを言って、男に甘えたくて身体を密着させる。

「んー・・・・まあ、確かに外だとあまりべたべたする訳にはいかないよな・・・・・シーズン的にも恋人らしくデートでもしてみようかと思ったが・・・・・」

「・・・やっぱりデートする」

「おっ? なんだ急に・・・・」

「貴方の恋人として過ごすのが、今のわたしの望みだもの」

 デートが男女の遊びだけではなく、恋人としての行いということも思い出し、少女が掌を返した。よくよく考えれば、少女は男ともっと恋人らしいことをしたいと思っていた。あの作品の二人のように、自分も男と過ごしてみたいと。男に抱きつき、抱きしめられている状況に浸ってしまっていたので、反応が鈍くなっていた。

「だから、デートしたいの」

「どこか行きたいところあるか?」

「・・・遊園地」

 ぱっと思い浮かぶものを適当に呟いた。

「了解、ちょっと遠出になるけどいいか?」

「だいじょうぶよ」

「じゃあ、次の休みは遊園地にデートっと。んじゃそろそろ寝るから離してくれないか?」

「離してもいいけど、一つしたいことがあるの」

「抱けってこと以外ならいいぞ」

「その・・・貴方を抱きしめさせて・・・・?」

 いつも自分が甘やかされているから、たまにはそれを男に返してあげたかった。

「どういう意味だ?」

 意味が分からなくて首をかしげる。その間に少女が離れようとしたので腕を解く。

 少女が男に向き直って座りなおす。向きなおったと思ったら手を伸ばして、男の頭を優しくその胸に抱き寄せた。

「なっ?!」

 少女のふくよかな胸の感触に男が驚く。反射的に逃れようとしてしまうが―――

「いつも、お疲れ様・・・・ずっと、ああいう風に生きてきたのよね・・・・・」

 そんな言葉をかけられたら力が抜けてしまった。というよりも、疲れを自覚させられたというべきかもしれない。

「どうした・・・? 急に・・・・」

 いつもと違って、男が少女を見上げて尋ねる。

 少女は少し気恥ずかしいのだろう、ほんのりと赤くした顔で男の質問に答える。

「『Fragment』で、疲れた男の人にこうしてあげたら喜んでいたから・・・・貴方もそうかなって・・・思って・・・・・嫌じゃ・・・ない?」

「好きな女にされて、嫌なわけないだろ?」

「よかった・・・嫌がられたら・・・・どうしようって思ってたから・・・・・」

 そういってもう少し強く男を抱きしめる。

「ちょっと待て、嬉しいがあまり強くされると息ができなくなる」

「そうなの・・・? どれくらいまでなら大丈夫なの?」

「ちょ・・・っ!」

 一度思いきり頭を抱きしめて、そこから男が無理なく呼吸できるところまで弱めていく。

「・・・ぷはっ。さすがにいきなりは勘弁してほしいな・・・・」

「ごめんなさい・・・・」

「まあ、十分役得はあったがな・・・・」

「顔が赤いけど・・・我慢させすぎちゃった・・・? ごめんなさい、息は大丈夫・・・?」

「いや、まあ・・・うん、色々とそうかもな」

 普段見下ろすことのない男の顔が、視線を変えるだけで幼く感じてしまう。それとも雰囲気の問題だろうか? でも、別に少女にはどうでもよかった。どうでもいいから次の行動をとる。

 いつも自分がされるように頭を撫でていく。優しく、丁寧に、ゆっくりと愛おしんでいく。

「なんつーか、恥ずいな」

「そう・・・なの? わたしはいつも嬉しいのだけど・・・・・」

「されている状況を想像するとな・・・・・いい歳したおっさんが、美少女に頭撫でられているとかおかしくないか?」

「? 貴方はそんな見た目じゃないから大丈夫じゃないかしら・・・それに、誰も見ていないから恥ずかしがることもないと思うの」

「まあ、そうか・・・今は二人きりだから・・・・いいんだよな・・・・」

「たまには、わたしもこうやって貴方を甘やかせてみたいから・・・いいのよ。少しは、貴方を労わることくらいさせて・・・・」

 そこから会話はなく、男はされるがまま少女の柔らかさと温もりを味わう。

 その温もりはもしかしたら赤子の頃の母親のそれかもしれないし、男と女の・・・恋人としてのものかもしれない。けれど、どちらかなのかは分からない。男を慈しむ少女の表情が聖母のようでもあり、聖女のようでもあるからだ。ただ、間違いなくいえることは、少女が男を愛しているということだ。

「・・・・なんか眠くなってきたな」

「このまま・・・・わたしの胸で寝ちゃう?」

「それじゃあ、お前が寝られないだろうが・・・・」

「ふふっ、本当に眠たいのね・・・・貴方のそんな声、初めて聞いたわ・・・・・」

「・・・寝るのは嫌いだ・・・・が、お前と一緒に寝ると・・・・不思議と寝心地がいい気がする・・・・・」

 寝ぼけているのか、男が素直に話していく。普段では聞くことができない、弱音に近い言葉を吐く。

「じゃあ、今夜も一緒に寝て・・・いい?」

 眠たくて仕方ないのか、少女の胸の中で頭を動かして返事をする。

 男を離し、二人で布団の中へと入ると、また同じように少女が男を抱き寄せる。男はそれに抵抗することなく、すんなりと胸の中へとおさまった。どうも心地いいらしく、少女の心音を子守唄代わりにして、すぐに男は寝息を上げる。

「んっ、少しくすぐったいけど・・・・寝心地いいのなら、このままで・・・・」

 眠りに落ちる前に、少女は抱きかかえるようにして、男の頭へとそっと口づける。夢の中まで心地よくあって欲しいという願いと、溢れかえる愛おしさを込めて。

「・・・お休みなさい。わたしの・・・愛しい人・・・・・」

 最後に一度だけ、思い切り抱きしめて男の存在を胸いっぱいに感じる。

「大好きぃ・・・っ!」



 普段は悪夢しか見ない男が、この日は少し違った夢を見た。独り、闇の中で潰れている自分を、優しく抱き上げてくれる腕があった。傷を癒してくれる手があった。安らぎをくれる存在が、寄り添ってくれていた。

 少女の愛情が、昨日に続いて男へと安らかな睡眠を与えたのだった。

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