あってはならない滅びの船

 厳密にはコレだけ。コレだけは勇者達ですら打ち倒せていない。


『多次元粉砕副砲展開!』


 鉄でできた島としか言いようがない船の、城の塔より巨大な砲塔が蒸気を噴出しながら、機械生命体達を捉える。


『エラー!』

『!?』

『一体これはなんだ!?』

『いや待て! まさかこの数値は!?』


 現れた滅びの船ナルヴァスに、三万程の機械生命体が極限の混乱に陥るが、自我が薄い彼らが混乱するすのは、本来ならあり得ないことだ。


 しかし……高性能ゆえに分かってしまった。


 その滅びの船の動力が、あってはならない……。


『このエネルギーまさか!?』

『まさかまさかまさかまかさか!?』

『あえりえないいいいいいいいいいいいいいい!』

『エラーーーーーーーーーー!』


『縮退炉接続完了!』


 ブラックホールという名の滅びそのものなことに。


『多次元粉砕副砲チャージ完了!』


 暗黒の虚無が唸りを上げて、百ある内のたった一つだけ稼働している副砲にエネルギーを注ぎ込む。


 砲身から漆黒が溢れ出す。


 名ばかりだ。最早ナルヴァスに次元を粉砕する力はない。彼は遥か宇宙の彼方で発生した滅びから唯一生き残ったものの、船体のほぼ全てが破損している。無事なのは最重要の動力源だけで、他は僅かしか機能しておらず、残された副砲の出力も以前と比べて話にならない。


 裏を返せば、かつてのナルヴァスは多次元を粉砕することが可能で、主砲に至っては全存在完全消滅砲オールデスの名を冠していた。


『多次元粉砕副砲発射あああああああああああああああああ!』


『回避!?』


 そして、見る影も無かろうが壊れかけだろうが、滅びは滅びであり機械神は機械神なのだ。


 呆気に取られて反応が遅れた機械生命体達のど真ん中に、塔よりも巨大な副砲から溢れた漆黒が着弾。


『吸い込まれる!?』

『推力最大!』

『駄目だ!』

『こんな馬鹿なこと起こる筈がない!』


 空間がひび割れれるとぽっかりと黒い穴が、虚無が開いてしまい、凄まじい吸引力で機械生命体達を飲み込んでいく。


 たったそれだけ。


 騎士甲冑の鎧は、まるで羽虫のように渦巻く虚無に絡めとられると……全て消え去った。


『まーた推進システムにエラーだよ。落ちるぞー。着水!』


 すると役目を終えたナルヴァスがどんどんと高度を落とし、ついには海に着水してしまう。


 勇者達と戦った時と同じだ。壊れかけているナルヴァスは、勇者達との戦いでも副砲を発射したら機能不全に陥り、何もできずに放置されてしまった。


『あいつら絶対有機生命体じゃねえって。普通俺の副砲防ぐか? これだから魔法とか概念がどうこうってのは嫌なんだ。物理と科学代表として文句を言わせてもらうね』


 ナルヴァスが思い出すのは、まさにその勇者達との戦いだ。


 盾を構える勇者。大剣を壁にする暗黒騎士。聖女の結界。魔女の理への介入。シャーマンの自然エネルギーの壁。彼らに力を送る他のパーティーメンバー。


 そして副砲の着弾。


 だが……。


 なんと勇者達は十人全員が一丸となって守りを固めたことにより、たった一度だけとはいえ、ナルヴァスの副砲を耐えきり、一人も欠けることがなかった。


 その時のことをナルヴァスが何度シミュレートしても結果は同じである。不可能。不可能の筈だった。それなのに勇者達は、物理に捉われているナルヴァスを超えていった。


『しっかしまあ、テネラの奴も忙しいな』


 ナルヴァスは海に浮かびながら、友人であるテネラの落ち着きのなさを思う。


 大魔王の軍勢で最も異端なナルヴァスは、その立ち位置もある意味異端だ。遠く遥か彼方からやって来た彼は完全な部外者であるため、人類と敵対したのも友人となったテネラとの個人的な付き合いであり、それ以上の理由を持ち合わせていなかった。


 しかし、それで十分だった。


 《なんだお前、宙から降ってきやがって。ひょっとしてボッチなのか? しゃあねえな。このテネラさんがダチになってやるよ》


 《じゃあボッチの俺に、ダチのダチを紹介してくれよ。最低五十人な》


 《ごじゅ!?》


 《え? まさか友達いないの?》


 《いいいいいるに決まってるだろ! 今一人できたし!》


 この星に辿り着いた後、まだ存在していた神々に、危険すぎるとして破壊されることを覚悟していたナルヴァスへ、あろうことか友人になると宣ったテネラとの友情で十分だったのだ。


 ◆


 ‐大魔王以外ではあの機械神が一番危険でした。いえ、戦闘力だけの話ではありません。他の存在は大なり小なり神や人間と理由があって敵対しましたが、あの機械神が人間を絶滅させようとしたのは、偏に大魔王との友情を理由にしていただけなのです。非常に気さくな口調をしていましたが、我々とは根本からして違う存在でした‐

 伝説の聖女ミフィーナ


 ◆


 ‐ははははははは! 分かるぞ! ダチとの付き合いって理由だけで、種を滅ぼそうとすんなって言いたい気持ちはな! だがまあ、あいつはあいつでお前達人間の怨念に苦しんでるのさ! なら広い宇宙で、友情ってのを優先する機械がいてもいいだろう!-


 勇者達に副砲を発射する滅びの船ナルヴァス

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