本文
エピローグ~第一章
1 神のシステムを起動してください
『創世プログラムをインストールしました。Growing Original Demention System、G.O.D.sにはウイルスは検出されませんでした』
「ん……なんだ……? ここはどこだ……?」
『プログラムを実行してよろしいですか?』
「はっ? ……プログラムだって? 実行ってなんのことだ??」
『十秒以内にプログラムが実行されない場合、ここにある全ての存在は
「おっ、おい!? 削除って何をだよ? 全ての存在ってなんだ!?」
『五、四、三……』
「わ、分かった!! する、実行する!! だからその意味不明なカウントダウンをやめろ!」
『音声認証により実行が許可されました。対象のプログラムを実行します。現在〇.三%進行中……』
「な、なんだっていうんだよ一体……」
あたりを見渡すが、暗黒の空間がただ広がっているだけで何も見えない。
まるで星のない宇宙空間に放り出されたかのようだ。
「たしか俺は、仕事帰りの電車の中で眠っちまって……それから……あれ? 俺、どうしちまったんだ?」
急患続きで夜遅くまで病院で残業する羽目になり、頭も回らないほど
自分の身体を確かめてみるが、特に異常はないみたいだ。黒のスーツ姿に黒縁眼鏡。カバンには白衣と携帯に財布などの小物たち。そして仕事道具。
……うん、帰宅していた時と同じ状況だな。
『現在八〇%進行中……』
「いや、同じじゃないぞ!? なんだ、この変な音声……俺のスマホから聞こえているな」
先ほどから聞こえている機械的な女の音声は、どうやらスマートフォンから発せられていたようだ。
最近購入したばかりの、最新機種。だが何となく様子が違う。
「"ゼウスメイカー"? ゼウスってギリシャ神話の創造神だよな? さっきコイツが言っていた、創世プログラムが関係しているのか?」
あまりにも説明が無さすぎる。しかし誰かがこの状況を説明してくれるわけでもない。
……そして考える時間はもう、あまり残されていないようだ。
『進行率一〇〇%。プログラムは正常に実行されました。これよりG.O.D.sを
「おいおい、頼むからこれ以上ヤバいことは起きてくれるなよ……」
当然ながら音声ガイドはその願いに応えることはなく、代わりにスマホから大量の光が溢れ始める。
それは一瞬のうちに空間を埋め尽くし、俺の視界を完全に奪っていった――
2 神様は創造したい
ぼんやりする視界を取り戻そうと、腕で目を
「く、そ……いったい何だったんだ……」
フラつきながらも、どうにか状況を確認する。
すると俺の目の前には、先程まで存在しなかったナニカが鎮座していた――
「これは……たま……ご?」
そこには深みのあるブルーに、昏いモスグリーンが
決して鶏卵のような形状ではなく、真円に近いナニカ。何故かは分からないが、俺にはそれが何かの
「うーん、なんでタマゴに見えたんだ? なんつーか、まるで地球のような……」
『続いてチュートリアルを開始します。ユーザー名を入力してください』
左手に握り締めていたスマートフォンから、先程と同じ無機質な女の声が流れた。
ユーザー名? 俺の名前を言えばいいのだろうか。
「
『ユーザー名、ミカモト=ナユタ様。……認証完了。
「
『ヘルプを
「い、意味が分からん。つまり俺はどうすればいいんだ?」
ていうか無駄に横文字が多い。
どこの意識高い系ビジネスマンだよ。
『……星の揺籠に手を当て、温めてください。ナユタ様のその生命の鼓動が、ここに新たなる世界を創るのです』
ヘルプにならない説明を言い終えると、ガイドは遂に沈黙した。
気は進まないが……ここまできたら最後まで付き合ってやろうじゃないか。
転がっている“星の揺籠”とやらを両手に持ち、目を閉じて集中する。
――なんだかSFのような話だ。そういえば最近は忙しくて映画やラノベも読めてなかったな。追っかけてたあの小説、新刊出ていたっけ……?
そんなことをつらつらと考えていると、段々と手のひらがじんわりと暖かくなり、タマゴが熱を持ち始めた。
気のせいか、ドクンドクンと脈を打っているような感触もしてくる。
「ちょ、ちょっと不味くないか!? おいっ、なんだかブルブル震えてるぞ? って
まるで火にくべた焼き石のような熱さだ。
俺は高熱になったタマゴを手に持ち続けることが出来ず、地面にパッと落としてしまった。
どうやら足元に落ちても、鳥の卵のようにグシャリと潰れることはなかったみたいが……
――ピキリ。ピキピキピキ……
「や、やっちまったか!?」
潰れはしなかったが、明らかに割れている音が響いている。それになんだか、不穏な雰囲気が辺りを包み始めている気が……
『星の揺籠の
スマホの音声ガイドの
――勝手に人を訳の分からないタマゴの親にするな。そう文句を返そうと口を開いた瞬間。
割れたタマゴの中からピンポン球の大きさのナニカが飛び出し――――そのまま俺の左眼球に突き刺さった。
「――ッッガァァァアアアア!?!?」
俺は顔面からボタボタと血を流し、洒落にならない痛みに絶叫をあげながら
幸いにして頭部を貫通することは無かったが、左眼の視界は完全に
医者である俺なら、応急処置ぐらいは出来たかもしれない。
だがそれも、正常な状態であればだ。
何しろ、自分の左眼を失う事態など初めて。
抑えようのない痛みに、
「うっ……ぐうぅう……」
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
なぜか左眼からの流血は治まり、痛みも無くなっていた。
割れた眼鏡を外し、顔面を撫でてみるが――特に違和感は感じない。
……いや、明らかな変化があった。
なぜか眼鏡をしていなくても視界がハッキリとしている。むしろ視力が上がった気がする……が、どこか
自分の眼で見ているのではなく、一度カメラのレンズを通して映像をモニターで観ているような感覚。まるで誰かが視界に介入してしているような……そんな錯覚に陥りそうだ。
「いったい俺は……クソッ。そもそも、ここは何処なんだよ!!」
現在俺が立っているのは先程まで居た暗黒空間ではない。そこは茶色一色の岩が転がる――荒れ果てた大地だった。
背後を振り返れば、どこまでも続くブルーの絨毯が波打つ平原。つまり、大海原だ。
地球で感じた時と同じ、海の香りと
そして肌を刺すような太陽の熱い光が、呆然とする俺の頭を更に混乱させる。
「ここは……地球のどこかなのか?」
『いいえ、違いますよナユタ様』
「うわっ!? な、なんだよ。お前か……」
『ここは新たな世界。そして貴方は新世界の神となりました。
これまでの出来事全ての原因としか思えない
「お前ッ、いい加減にしろよ!! ここはどこだ! 全部分かるように説明しろよ!!」
普段は冷静で温厚な俺だが、こればっかりは流石にキレてしまった。電話の向こうに何者がいるのかは不明だが、現状では唯一会話ができる相手だ。
俺は正体不明なアプリを開いたまま、スマホを片手に怒鳴りつける。パッと見はただのクレーマーだけど、そんなの知ったことか。
……だがスマホから返ってきたのは、相変わらず感情を感じさせない平坦な音声だった。
『……ナユタ様が居られた地球に帰還することは、
「な、なんでだよっ!? お前……いったい俺に何をした!?』
帰れないって……俺にいったいどうしろっていうんだよ!
訳が分からなさ過ぎて、また頭痛がしてきそうだ……。
『私は策定されたガイドラインに従い、ユーザーであるナユタ様にサービスをご提供しているだけでございます。そしてここは、
「……お前に聞いた俺が馬鹿だったよ。どうせこれは俺が見ている夢でも何でもなく、どっかの誰かさんが引き起こした面倒事に巻き込まれたってヤツだろ……あぁもう、好きなように進めてくれよ」
これ以上コイツに何かを聞いたところで答えてくれそうもない。もうこうなったらなるようになれ、だ。
既に自分で解決することを半ば諦めた俺は、ゴツゴツとした岩肌の地面に足を投げ出すようにして座った。
『……
「……エディター? えぇっと、この歯車のマークか?」
スマホの設定や編集モードによくあるマークをタップし、エディター画面を出してみる。
そこには色々な名称の項目や時計のマーク、音量のようなスライダーゲージなどが沢山並んでいる。中には操作していないのに、勝手に変動している数値もあった。
『現在は誕生からある程度経過済みの地球をモデルとした、
――ちょっと待て。なんだそれは?
俺がこの星全ての環境を整え、生物が暮らせるようにしなくてはならないと!? そんな無茶苦茶なことが出来るんだったら、俺は医者なんてやらずに辺境の田舎でスローライフをしているわ!
「それは本当に……俺一人でやらなくてはならないのか?」
『いいえ、ナユタ様。貴方様のその神としての権能を用いれば、新たな生命体を
「仲間がいるのか!? 是非とも頼む!!」
どうやらアシスタントを創ることが出来るらしいと聞いて、俺は安堵の溜め息を吐いた。
流石に独りでこの星を、地球のような生命あふれる状態にするのは無理だ。
……それにしても、医者として生命体を創り出すというのは非常に興味深い。遺伝子データからモデリングして、培養育成でもするのだろうか。
実験大好きな俺は好奇心に完全敗北し、ガイドの声に期待を込めてイエスと答えた。
『それではアプリのカメラ連携を許可してください』
「……は?」
『カメラとの接続をとっとと速やかに許可しやがれください』
――どうやら俺は耳までコイツに侵されてしまったらしい。
(だけど……なんかもう、どうでもいいや)
いちいち分からないことを考えていても、何も始まらない。考えることを放棄した俺は、大人しくスマホのアプリのカメラスキャン機能を呼び出し、カメラとの連携を許可することにした。
『そうやって最初から素直に従えばいいのです。……試しに、その壊れた眼鏡をスキャンしてみてください』
「眼鏡? はぁ、まぁもう壊れちまったから別にどうなってもいいけどさ……それよりもお前、もはやガイドとしてのキャラが崩壊してきていないか?」
呆れ顔になりながらも、レンズが割れてしまっている黒縁の眼鏡を地面に置いた。そしてカメラを起動したスマホを
「はい、チーズ」
カシャリ、と定番のシャッター音が鳴ると、何かをロードしている画面が表示された。
これで良いのか?と首をかしげているうちに、完了のボタンが出てきた。
「『クリエイトしますか?』ってあるけど、これをタッチすれば良いのか? って悩んでいても仕方がないか……よし、ポチっとな」
スマホを持つ身体から何か力が抜けていく感覚と共に、地面に置いていた眼鏡がバチバチと紫電を帯びて光り出す。
「これが生命体の
眼鏡だったモノはモコモコと盛り上がっていき、次第にヒトガタを造り始めた。
数十秒もしないうちに
「おいおい、それは少々アダルト過ぎないか……!?」
◇現在のデータ◇
日付:一日目
世界レベル:ゼロ
環境:デフォルトモード【残り三〇日】
所持物:スマホ、スーツ、メガネ、買い物袋、鞄
3 神様の専属メイド
与えられた権能、『生命体の
俺はガイドに言われるがままに壊れた眼鏡を元に創造したが、これは予想外過ぎるぞ……!?
「おいおい……マジで俺は神にでもなっちまったのか??」
バチバチと光り輝くエフェクトが収まり、そこからゆっくりと姿を現したのは――――眼鏡を掛けたインテリ風の美女メイドさんだった。
「ふぅ……これでやっと受肉できましたね。ごきげんよう、ナユタ様。……いったいどうされたのです? あまりにも間抜けな顔をなさってますよ?」
彼女が発している声は、先程よりスマホから流れていた意味不明なガイド音声と同じ声質だ。
だが実体化したことで、この短い時間で作られたその声に対する最悪なイメージは一八○度変化した。
目の前に現れたのは、クスクスと上品に口元を手で隠しながら笑っている美しいメイド服を着たお姉さん。
先輩のドクターと一度だけ行ったメイド喫茶で見かけたような、キャルルンなメイドじゃない。どちらかといえば、夜のアダルティなお店でオプション料金を払って特殊なプレイをしてもらうアッチの方だ。
……まぁソッチの経験は無いんだけど。
「ふふふ。あらあら、可愛らしいご主人様ですこと。安心してくださいね? これからは専属メイド且つ敏腕秘書である
――この最高過ぎるプレイってお幾らなんです!?
夢のような美女メイドに『可愛がって』なんて言われたらもう、「いいですとも!」と頷かない染色体XY生物がいる筈ないでしょうよ。
ダブルでショックを受けた俺は、立ち尽くしたまま再びフリーズしてしまう。
そんな情けない醜態を晒している男に、彼女は「仕方がありませんね」と微笑みながら近付いていく。そしてキスをするように背伸びをして顔を寄せると、その可愛いらしいピンク色をした唇を彼の耳元に運び、そっと
「
目の前にある彼女の黒く艶やかな長い髪からは、女性特有の甘い花の香りが漂ってくる。慣れない匂いに俺が頭をクラクラとさせているうちに、彼女は彼の首筋に親愛の接吻を一つ落として離れていってしまった。
女性経験はあるのだが、こんな美女にいきなり初対面でここまで過剰なスキンシップを受けた事など初めてだ。
「し、所有物って?? 俺の!? そ、それって……」
思わず「思春期の発情猿か!」と突っ込みたくなるような反応をしまう。
すぐに理性を取り戻し、これには流石に引いてしまったか? そう思った俺はビクビクと不安気に彼女に視線を向けたが……
「ぷっ……アハハハ!! ごめん、なさい! そこまで過剰に反応してくださるとは思ってなくて! ちょっと
涙目になりながらお腹を抱えて笑うメイドさん。
クールビューティーな見た目の癖に、結構無邪気でユーモアのある性格もしているようだ。
メイド服から取り出したハンカチで目尻に溜まった涙を拭いている姿がどことなくセクシーにも見える。
――こんな美人が自分のモノって言われたらフツーいろんな妄想しちゃうよなぁ。なんとなくちょっとエッチだし。
若干膨れっ面になりながら彼女に文句を言う俺。
「そんな笑わなくたって良いだろ!? 医者だからって誰しもが女の子と遊びまくってるワケじゃないんだよ。ましてや俺は女顔だって揶揄われてたくらいだし…… 」
そうなのだ。実は俺、平均身長より高く身体も割と筋肉質なのに顔が小さく女優にいそうな顔立ちをしているので、結構な頻度で女に間違えられる。
まぁぶっちゃけた話、俺も女性からモテてはいたのだ。
だけど――恋人とデートしていていると、必ず男にナンパされる。
最悪なのは彼女の方ではなくナユタに声をかける男性も少なくなく、彼女とのその後の雰囲気がかなり微妙となって破局することも。
ちなみに三年付き合った彼女の最後の言葉は「私、本物の女の子と付き合うことにしたから」だった。これがトラウマとなり、俺は本気で整形のドクターに「男らしい顔にして欲しい」と相談したほどだ。
とまぁ、そういうことで俺は見た目の良いと言われている割には女性慣れしていない。それを何となく察したこのメイドさんは、若干の呆れを込めた溜め息を一つ吐いてから話を続ける。
「はぁ……ナユタ様ったら。貴方様は、この世界の頂点にあらせられるお方でございますよ? これぐらいの事で動揺してどうするのです。……まぁ今のままでも、それはそれでとても可愛らしくて
「えっ??」
「な、なんでもないでしゅっ……ゴホン。気にしないでくださいまし。話を戻しますが、先ほども言った通り
途中口
取り敢えず彼女が言った最後の部分には納得出来るので、ナユタは何か良いネーミングが無いか思案する。
「うーん、名前かぁ。それならガイドっぽい名前がいいよな。ナビ「その妖精みたいな名前はダメです」……だよなぁ」
他にもいろんな案内役の名前を想像してみるが、
どうやら彼女の感性は人間とはかけ離れているらしい。せっかく
途中から彼女が凄いジト目で見つめてくるので、俺は彼女を見ていてフッと思いついた名前を告げてみる。
「眼鏡からクリエイトしたことだし、『アイ』でどうだ? 頭脳はスマートフォンのアプリ由来っぽいし、学習能力もあるからAIみたいだろ? お前にちょうど良く無いか?」
そう言って恐る恐る顔を窺うと、彼女は「アイ……アイですか。まぁナユタ様の最低なセンスにしては及第点ですかね。転じて愛、もありそうですし。ナユタ様から愛を一番最初にいただけるという点でも……」などとゴニョゴニョ言っていた。
――うん、そこまでは考えてはいなかったけど本人?が駄目じゃなきゃもうなんでもいいかな。
納得してくれそうだったので、アイに決定することにしよう。
「それじゃあ今からお前の名前は『アイ』だ。これからよろしくな、アイ」
俺のその言葉に対し、目をパチクリとさせた『アイ』は何度もその名を口の中で呟いた後、コクンと肯いてこう答えた。
「はい! こちらこそよろしくお願い致しますわ、ナユタ様。これからはナユタ様の『
花が咲くような満面の笑みを俺に返すアイ。彼女のその笑顔さえあれば、多少の苦難も何とかなるような気さえしてくる。
まだ生まれたてで何も無い寂しい世界だけど、こうして頼りなりそうな最高に可愛いパートナーが誕生した。
◇現在のデータ◇
日付:一日目
世界レベル:ゼロ
環境:デフォルトモード(二六℃、晴れ、空気正常)【残り三〇日】
人:アイ
所持物:スマホ、スーツ、買い物袋、鞄
4 神様のゲーム(する方)
「それではナユタ様。生命体の
インテリ風美人メイドとなったアイは、クリエイトの元になった赤縁眼鏡をクイッとさせると創造主である俺に話を進ませようとしてくる。
――だがちょっとだけ待って欲しい。一見クールビューティーにも見える彼女だが、思いの外スキンシップは激しいし、使ってくるワードが変なのだ。
声質こそさっきまでスマホのアプリから流れていた音声ガイドの知性的なボイスそのモノなのに、現在彼女から発せられる言葉の選び方には妙なバグにやられてしまっているような違和感が……っていうかクリクリってなんだよ、クリクリって。ちょっと卑猥だぞ。
「なにを黙りこくっているのです?
岩肌が見えている大地で、頭を抱えて蹲る俺。
……つまりアレか? 日々あんな動画や画像、好きなタイプの女性やらなんやらを見ていた時の思考がその眼鏡に思念として宿っていた……だと!?
もしや俺がマウスのホイールボタンを弄りながら「おらおらッッこの私のクリクリ捌きでお前の大事なサイトをスクロールしてやろうか~」とか言って遊んでいたのもバレてるというのか!?
おそるおそるアイを見上げてみると、彼女は慈愛に満ちた笑顔でニッコリしている。
「鬱だ……もう死にたい……」
「鬱なら医師である御自身で診察してみては? まったく、何をくだらない冗談を言っているのですか、ナユタ様がお亡くなりになったら、この世界は文字通り死の惑星となるのですよ。そんなことよりも早く、次のステップに進みませんこと?」
そんなことって……唯一のパートナー(しかも美人)に自分の黒歴史を殆ど知られているって、普通に考えたら相当な羞恥プレイなんだぞ!?
……とはいえ。
このまま地面でゴロゴロ転がっていても仕方ないか。一か月以内にこの星の環境を整えないと、どっちみち俺は死んでしまうんだ。
考えてみたら、俺はこの世界の創造神なんだろ?
むしろ神ならあんな変態行為してたった許されるハズ。
いや、むしろ推奨される世界にしよう!
なんだ、こんな
「よっっしゃ!! 俺はエロが許容される世界を創るぞ!! 俺は俺の欲望の為にこの新世界の神になってやる!!」
俺は勢いよく立ち上がり、太陽に向かって拳を突き上げた。
その顔を見れば先程のことも忘れ、この世界の恒星と同じようにスッキリ晴々としていたことが窺えただろう。
すっかりやる気を取り戻した俺は、新たなる決意を胸にアイに話しかける。
「アイ! これから俺はどうしたらいい? まずは天地創造か? それともメルヘンに花でも創るか? そ、それとも俺とお前で新たな生命体を……」
ぐふふ、と気持ち悪い顔をして妄想を膨らませる。
こんな怪しい人間が道端に居たら職務質問されていただろう。
だがここには法も警察も居ない!
そんな残念な主人に対して、アイは微塵も笑顔を崩さずに答えた。
「ゲームをしましょう!!」
「……はい?」
何かの聞き間違いかな?
俺の耳にはゲームをするって聞こえた気がしたんだが……?
「スマホゲームを致しましょう!!」
あれぇ? 世界を創る話だったよね??
←↑→↓○×△□↑↑↓↓
「なぁ……この星の環境を整えるのに、ゲームでスコアを稼がなきゃいけないってどういうことなの? 傍目から見たら、俺がただスマホで遊んでいるだけなんだけど……」
俺は今、自分のスマホにいつの間にか入っていたパズルゲームをしている。
その名も『にゃんにゃんパラダイス』だ。
可愛くデフォルメされた猫が画面上の木から下にある鍋に落ちてくる。猫を上手く誘導して鍋にピッタリ敷き詰められるとクリアというシンプルなゲームなのだが……。
「しかもなんでアイは猫耳メイドさんになっているの? 俺の持ち物には無かった筈だよね?? 俺がケモミミフェチだって知っててそういう要素増やしてるよね??」
『にゃーん』と言う可愛らしい猫撫で声と共に再び鍋が一杯になった。同時に出てきた『Clear!』という文字と、画面内でぴょんぴょん飛び跳ねているアイと同じ格好の猫メイド。
すごく可愛いけど、何となく腹が立たしい。
「にゃにゃ? スタートボーナスで、もうゼウスポイントが三〇〇〇ポイントも貯まりましたにゃん。これならご主人様がたくさん溜めたポイントで色々できるにゃん。これ以上、溜め過ぎても良くないにゃん?」
「俺は突っ込まんぞ……もう今日のツッコミは閉店ガラガラだ。それ以上の俺のキャパシティを超えたボケは、全部スルーするからな……!!」
地面に直接あぐらをかいて座っている俺の隣りで、四つん這いの状態で猫のモノマネをするメイドのアイ。胸元からはプルンプルンなお胸様がこぼれ落ちそうになっている。
紳士としてソレをジロジロと見てはいけないのは理解しているが、どうしても気になってしまって仕方がない。
いや、チラッと見るだけならバレないか……!?
『ギニャーッ!!』
「あらあら。余所見をするからゲームオーバーになってしまいましたよ? ふふふ、ナユタ様はいったい何処を見ていたんでしょうね~?」
よしよしと俺の頭を撫でながら、ニヤニヤと意地の悪い顔でこちらを見てくるセクシーメイド。
女性と間違えられる童顔のせいで勘違いをされがちだが、これでも中身は女性が大好きな健康男子だ。なんだかアイからはいい匂いもするし、イケナイ扉を開いてしまいそうになる。
「おい、撫でるのはもういいって。それより、この先どうすればいいのかを教えてくれよ。このゼウスポイント? っていうのを何かに使うんだろ?」
若干頬を染め、恥ずかしそうに質問する俺。
それを見て更に笑みを深めるアイ。
「そうですね。もっと撫でていたいところですが、そろそろお昼になってしまいますし。ナユタ様を
そう言って猫耳カチューシャを外すアイ。
ふとスマホに表示された時間を見ると、午前十一時半を示している。
「なぁ、アイ。ここは地球とは違う星だし、時間はどうなっているんだ?」
太陽みたいな恒星はあるし、時間的にも合っていそうなんだが。
そうなると人工衛星も電波塔も無いのに、どうやって受信しているんだろう、と思ったが……アイ
まぁ便利だし、詳しいことは聞かないことにする。
「そういえば仕事が夜遅くまでかかったせいで、夕飯も食べてなかったんだよな……ていうか、俺はメシなんて持ってなんかいないぞ? いったいどうすればいいんだ?」
帰宅時に持っていたカバンの中には、好きだった柿ピーとアーモンドチョコレートしかない。あとは職場の看護師から貰った、お土産のホルモンキャラメル。
何故かホルモンキャラメルが休憩室に大量に置いてあったのだ。多分イロモノ過ぎて誰も貰っていかなかったんだろう。
俺は何も考えずに貰ってきたが、腹が減った今でさえ……ちょっとこれは食べたくない。
ちょっとだけ不安げな顔をしたナユタを見て、アイは出番が来たとばかりにフフフンと胸を張ってこう言った。
「安心してください、ナユタ様。先ほどのポイントを交換すれば様々なアイテムと交換が出来るのですよ。さぁ、
◇現在のデータ◇
日付:一日目
世界レベル:ゼロ
環境:デフォルトモード(二六℃、晴れ、空気正常)【残り三〇日】
人:アイ
所持物:スマホ、スーツ、買い物袋、鞄
ゼウスポイント:三〇〇〇pt
5 神様のお昼ご飯(デリバリー編)
「お昼ご飯のメニューは超ハイスペックメイドである
Fカップはありそうな豊満なバストを"ふるるん"と震わせながら、胸を張ってそう告げる美人メイドのアイ。眼鏡の奥のブルーの瞳がキラリと光る。
まぁ彼女はスマートフォンを元にした知能を持っているらしいし、当然それなりの性能は持っているのだろう。だがそれがいったい、お昼のメニューとどう繋がるんだ??
「先ほどのスマホゲームで貯めたポイントがありますわよね? それを使うのです。さぁ、アプリを開いてメニューをお選びくださいな!」
――うぅん? 相変わらず説明不足で良く分からないが、ここはもう彼女に言われた通りにしてみよう。
アイの指示に従って、アプリにあった『オーダー』の項目から食糧の一覧があるページに移動していく。
そこにはカテゴリー別に大量の料理名が並んでいた。日本料理、イタリアンにフレンチ、中華。エスニック料理なども豊富にあるようだ。
その中でパッと目についた"肉厚ステーキ"の詳細を試しにタッチしてみることにした。すると、数センチはありそうなジューシーな牛ステーキのムービーが流れ始めた。
……写真じゃなくて映像の意味があるのか? あ、誰かの手が出てきた。ナイフを取り、上品に切り分けた肉をフォークで可愛らしい口元へ――
「ってこれアイじゃねーか!! なんでお前がこんなに豪勢なステーキ喰ってる映像を見せられなきゃいけねーんだよ。しかもメッチャ美味そうに食べやがって!」
画面の中のアイは頬を手で押さえながら至福の声をあげている。
美人がお肉を頬張る映像も中々
「なんですか、もう。そんなプリプリしていたってお腹は満たされませんよ?? それより早くメニューを決めちゃいましょう。ホラホラ、これなんかどうです??」
まるで誤魔化すように俺の手を取って、いろんなメニューを次々と表示させていくアイ。
「いや、美味しそうなのは認めるよ。じゃあこの茹で卵の入ったハンバーガー。これがいいけど、どうするの?」
日本でも期間限定で販売しているような、卵とベーコンが挟まったバーガーを選んでみる。
ええっと、うさぎバーガーって言ったっけかな?
「あっ、イイですね。
「値段??」
「言い忘れておりましたが、一ゼウスポイント=一円ほどのレートとなっておりまして、アプリを通してそのポイントに応じたアイテムを召喚できるシステムとなっておりますの」
スゲーな、異次元デリバリーかよ。某猫型ロボットも真っ青だな。……元から青だけど。
「現在丁度三〇〇〇ptございますので、このバーガーをオーダーするには充分足りるかと思いますわ」
"うさぎバーガー"をタッチすると、映像とは別にサイドメニューまで出てくる。もはやなんでもアリだな、このアプリは。
「ってちょっと待て。さすがの俺でも三つは食えねーぞ?? しかもポテトにパイにコーラまで。おいおい、オモチャは要らないだろ!? ちょっ、勝手に増やすな!!」
彼女は目にも留まらぬ速さの画面捌きで、次々と追加で注文を入れていく。
あれもこれもと注文していくうちに、気付けば所持ポイントがピッタリ無くなってしまった。
呆気に取られている俺の隣で、仕事をやり切ったという顔をしながらおでこについた汗を腕で「ふぃー」と拭う仕草をするアイ。
既に画面には『オーダーを承認しました』の文字が。
「おい! 頑張って貯めたポイントが無くなったじゃないか!! しかもほとんどがアイが注文した食べ物じゃん!」
苦労した時間を無駄にされた怒りをアイの両肩をグワングワンと揺らすことで抗議をするが、支払ってしまったポイントはもう返ってこない。
「ぐえっ、ぐえぇぇえ~! や、やめてくだしゃっ。そんなに激しくしないでぇ~。わ、
目をグルグルさせながらまた知らなくていい業界のワードを発していた彼女が、唐突に空を指差した。
その先を見てみても、空にはただの青い景色が広がっているだけだが……?
「……んんっ? 鳥……じゃないな。なんだ、アレは? って、落ちてくる!!」
――――シュルルルルル……ズトンッ。
白い布製のパラーシュートがついた段ボールが、雲すら無い上空から二人が立っている荒野へとピンポイントに降ってきた。
……タイミング的にいえばこの箱の中身は恐らく、今オーダーしたばかりの食糧だろう。だが誰が一体どうやって??
首を
「ん、まだ温かいな。あんな高度だったら冷めるし中身もグチャグチャになるだろうに。いったいどんな技術使ってるんだよ」
「もぉ、細かい事はいいじゃないですか! あんまりグチグチ悩んでいると近い将来ハゲちゃいますよ??」
「う、うるさい!! 俺の家系はみんなフサフサだよ! 第一俺は神な「あ、ホラ。美味しそうですよ~」聞けよ!!」
既に紙の包装を開いて食べ始めるアイ。
ハムスターのように小さな口で可愛くムシャムシャと……ではなく、そんなに開くの!?というほどの大口でバクバクと食べている。すごく漢らしい。
右手にバーガー、左手にポテトやチキンといったものを掴み、ひたすらに口へと運び咀嚼していく。いったいそれらはその細い身体のどこに入っていくのだろう。
「むぐむぐ……ムシャァ! もぐ? ナユタ様は何をしているのです? 早くしないと全て
そう言いながら、この食いしん坊は目の前のジャンクフードを食べる手を止める気配がない。
「そもそも俺はポテトがサクサクのうちに食べ終えてからバーガーを食べる主義なんだよ。美味しいものは美味しく食べられる順序で食べるに限るだろ?アイみたいにアレコレ手をつけ「ずぞぞぞぞぞっ!!」コーラを音を立てて飲むなぁぁあ!!」
←↑→↓○×△□↑↑↓↓
「ふぃ~っ、苦しい!! あぁ~、なんでこうもジャンクな食べ物って犯罪的に美味しいんですかね!? 太るって分かってても定期的に食べたくなるから困るんですよねぇ~」
メイド服のエプロンがタヌキのようにポンポコと膨らんでいるアイ。彼女は地面に敷いたパラシュートの上で苦しそうに転がっている。
それをやや冷めた目で眺めながら、俺は紙ボトルに入ったアイスコーヒーをチビチビ飲んでいた。
「まったく。結局俺はバーガーを一つしか食べられなかったじゃないか。というより、一人であれだけ食べればそりゃあお腹が苦しくもなるよ」
「だって~」と言いながら、ゴロゴロと地面を転がるぐぅたらメイド。
着ているのは長めのスカートなはずなのに、あまりにも無防備に動きすぎて見ちゃいけない中身が見えてしまいそうだ。
……黒レースか。分かってるじゃないか。
「あぁ~、ナユタ様! またエッチな目で
アイはジト目をしながら俺を弄りにかかる。
「そ、そんなことないって。何も見てないし、何も思ってないから!!」
「ふぅん? まぁ、
「えっ、マジで!?」
目を見開いて思わず叫んでしまった。
「……嘘です。さすがに
「……チッ、期待させやがって。ていうか、恥じらいのある乙女がジャンクフード爆食いしたり、野晒しの床でゴロゴロしたりするか?」
「さっ、食事は済みましたね。腹もくちくなった事ですし、そろそろ次に参りましょうか」
こいつ……自分に不利な事を誤魔化したな!?
「パンツを見せることは出来ませんが、ちょっと服を脱いで
◇現在のデータ◇
日付:一日目
世界レベル:Ⅰ
環境:デフォルトモード(二六℃、晴れ、空気正常)【残り三〇日】
人:アイ
所持物:スマホ、スーツ、買い物袋、鞄
ゼウスポイント:〇pt
To_be_continued....
③異世界転……神!? ~美少女と一緒に新たな世界を創造し、至高のスローライフを目指します!!~ ぽんぽこ@書籍発売中!! @tanuki_no_hara
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