第3話 私の父は

父と一緒に住んでいるからといって得することは少ない。私の『家族』の場合は。 父は家にいる間は、ずっと、ソファーに寝っ転がり、テレビをつけ、タブレットでゲームをし、スマホでもゲームをする。こんなに一気に出来るわけがない。こんな馬鹿げたことをずっとやられるとこっちも我慢できない。不愉快だ。でも、部屋に逃げることも出来ない。部屋に行くと父に「何しに行くの?」「なんで行くの?」とずっと言われて逆にめんどくさい。父に言われる度に顔が引つる。だから、大人しく空気のように息を潜め、存在感を消して、お願いだから話しかけないで。と願うばかりだった。めんどくさいから、話したくないわけではなかった。何かして、父が爆発する方が正直嫌だった。嫌というか怖かった。 父の怒りに触れるともう、父は止まらなくなる。怒鳴り、机を叩き、私の胸ぐらを掴んでぶん投げる。拳で威嚇してくる。前はすぐに殴らていた。こんないかれている父でも人を、娘を簡単に殴ってはいけないという常識を学んだようで怒鳴る、投げる拳で威嚇くらいだった。それでも、怒りは収まらないから殴りたくてしょうがないのか、拳はずっと震えている。何度も飛んできそうになる。早く泣き止まないと殴るぞと言われる。怖くて怖くて泣き止まないといけないのに、どんどん悪化していく。喉がキリキリと締まり、息がしにくくなる。ヒュッヒュッと、喉がなる。息が吸えない。苦しくなる。それでも父は娘の体に変化が起きたことなんて少しも気づかず、自分の怒りのことしか考えられない。こんなに辛い時間が長いなら、早く殴って終わらしてくれと思えてくる。それで怒りが収まるなら、殴られた方がマシだと思うほど、嫌だった。怖いし、めんどくさいし、辛いし、逃げたいし、痛い。と感情が次々と波のように押し寄せてくる。少しの時間の出来事なのに、時間が進む感覚を感じない。ふーと息を吐く音が聞こえた。少し時間が進んだ気がした。父は、何も無かったように、ソファーに座り、また、自分の時間に入った。今すぐここから、離れたい。早く、少しでも早くここから、逃げ出したい。でも、それをすると父はまた怒鳴り、地獄の時間が始まる。だから、何事もなかったように、いつも通りのフリをして、静かに気配を消して時分の部屋に行く。静かにドアを開け閉め、ベッドに飛び込み、ぬいぐるみをかき集め、枕に顔を押し付けて、泣きじゃくる。できるだけ声を押し殺して……

なんであんな奴にこんなに気を使わないといけないのか?なんです、こんなに辛い思いをしないといけないのか?父親が娘にこんなことをしていいのか?と、怒りがふつふつと込み上げてくる。でも、何も出来ない自分の非力さに1番むかついた。自分がもっと強ければ、自分に勇気があればなにか、少しでもなにかが変わっていたのかもしれないのにと、毎回思っていた。母は、私が部屋に行くと静か入ってきて、私のお気に入りのぬいぐるみを持ってきてくれた。「よく頑張ったね。ごめんね。」と、毎回母は、消えてしまいそうな声で言っていた。

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