第2話 私が思う『家族』

みんなは『家族』のことを幸せそうに楽しそうに話す。『家族』旅行に行った話。『家族』で出かけた話。『家族』で喧嘩した話。相槌をしながら、ときどき、大げさにリアクションをしながら聞いている。私も家族の話をしたいな。くだらない話で盛り上がったとか、だらだらしすぎて少し怒られちゃた話とかしたいな。と思った。そういう話ができ無いわけでは無い。少しみんなよりかけているだけだ。 

 みんなにとっての当たり前のことが、私にとってはもう無いこと。みんなにとっては日常が、私にとっては非日常。みんなとの違いを感じるたびに、それを羨ましいなと思いながら、聞いている。私は作り笑いが上手いから、嘘の感情を表現するのが上手いから、きっと、誰もこの、どす黒い、ドロドロの、見にくい気持ちに気づかないだろう。この気持は、誰にも知られたくない。知られてはいけない。誰かこの気持ちに気づいて欲しい。救って欲しい。矛盾しているこの感情。こんなにも自分は、ぐちゃぐちゃで何も意思がないのかと幻滅する。きっとこれは、高校生という、大人に近い子供の中途半端な時期だからだろう。自分では、どうしようもないきっと今感じている不安、恐怖は、寂しさは、一時的なものだろう。そうだと思うから、今は、不安なままでいよう。

 私は、多分家族に憧れている。仲良く食事をし、休日は、みんなで楽しく出かける。今日あった嬉しかったこと、悲しかったことなどをみんなで話す。いつも笑顔がたえない毎日。そんな家族になりたかった。 私の家族は、いつも空気がギスギスしていた。笑顔なんてなかった。いつもみんな息をしにくそうな苦しい顔をしていた。私は、それが嫌だった。

 『家族』で楽しかった時、みんなが仲良かった時なんて、思い出したくない。綺麗な事実に近い記憶のままでいたいからだ。でも、ときどき、ごくたまに、思い出すときがある。目をつぶる、みんながご飯を食べている。笑い声が聞こえる。姉も父も母も私もみんな笑顔だ。あのときは、楽しかった。息がしやすかった。あのときは、『家族』が少しは、素敵なものだと思えた。 

 今、父は家にいない。別居中だ。母と父は喧嘩をしている訳では無い。もう思いが無いのだ。何も無いのだ。いや、最初からなかったのかもしれない。それを知っているのは、父と母のふたりだけだ。真実を知ることは、できないし、確かめたいとも思わない。血の繋がりがあってもわかりあえない。他人が分かり合うなんてこともっと不可能だ。別にそれは珍しいことでは無いし、逆に今は、そういう『家族』の方が多いだろう。父と一緒に暮らしていない。ただそれだけ。それが嫌だとか、不幸な事だとは思わない。まだ、父は、生きているし、会えないわけではない。会いたいと思わないだけだ。

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