第35話 竜人族VSミレイ、ローザ、ミサキ

 オレ達が街で買い物をしていると、人化した竜人族を見かけた。人族よりも大きな魔力を持つ存在が、人族の街に何の用なのか。いやな予感がした。オレ達が買い物を終えて家に帰ると、そこに兵士達がやって来た。玄関先で執事のエイジが対応している。オレは玄関まで出て行った。



「何かあったんですか?」


「すぐに城まで来てください。国王陛下がお呼びです。」


「わかった。」



 恐らく、先ほどの竜人族の件だろう。 



“リン。何があった?”


“先ほどの竜人達5名が、現在王城の闘技場で近衛騎士団の団長と試合をしているようです。”


“ありがとう。”



「ミレイ、ローザ、ミサキ。オレの手をつかめ。城まで転移する。」


「了解にゃ。」


「うん。」



 オレ達は兵士達をその場に残して城の闘技場まで転移した。目の前にはボロボロになった近衛騎士団の団長の姿があった。



「お前の力はこの程度か?」


「もっと強い奴はいないのか?」



 オレ達は国王陛下とジミー公爵のところまで駆け寄った。



「おお、ケン。来てくれたか。こやつらがいきなり殴りこんできたんだ。兵士達が取り押さえようとしたが、相手にならなくてな。話を聞くと、どうやら強いものを探しているようなのだ。」


「わかりました。オレ達が相手をしましょう。」


「そうか。やってくれるか。」



 オレ達は男達の前に出た。



「オレはこの国の伯爵だ。横にいるのはオレの仲間達だ。お前らの相手はオレ達がしよう。」


「女に子どもか? 相手になるのか?」


「やってみればわかるさ。それよりも、正体を表せよ。竜人族の皆さん。」


「どうしてそれを!!!」


「そんな変な魔力をたれ流せば、誰でもわかるさ。」


「お前、ただ者じゃないな。面白い。」


「オレが相手をしたら、弱い者いじめになってしまうから、オレの仲間達が相手をするよ。ただ、人数的にそっちは5人だ。お前らの中で強い者2人はオレが相手をしてやる。順番を決めろ!」



 オレの言葉で竜人族達は話し合いを始めた。そして、どうやら順番が決まったようだ。最初の竜人族が出てきた。



「ミサキ。お前から行け。」


「うん。」



 国王陛下はもうハラハラドキドキだ。自分の娘が、近衛騎士団の団長でも勝てなかった相手に立ち向かうのだから。



「大丈夫なのか? ミサキは? 見てられんな!」


「あなた。伯爵とミサキを信じましょう。」



 竜人族が槍で攻撃を仕掛けてくる。身体強化を発動しているミサキにとっては遅く見えるだろう。ミサキは軽々とそれを避ける。周りで見ている兵士達の驚きは半端ない。



「おい、あれは本当にミサキ様なのか?」


「間違いない。オレも信じられないぞ!」



戦っているのは、先日まで外に出ることもままならなかった姫なのだから。


 

「なかなかやるようだな。だが、避けてばかりでは勝てんぞ!」



 竜人族が槍に魔法を付与した。槍からは水が勢いよく出る。だがミサキが剣を振ると、勢いの良かった水は消えてなくなってしまった。



「お前何をした?」


「剣で切っただけよ。それより、こっちから行くわね。」



 ミサキが光魔法を発動する。ミサキの体が光り始めた。ミサキの姿が消えたと思ったら、光の残像だけが残っている。そして、竜人族はいつの間にか気を失って地面に倒れていた。



「オオ———————!!!」



 ミサキが竜人族を圧倒したのを見て、ひときわ大きな歓声が上がった。



「よくやったな。ミサキ。」



 オレは頭を撫でて、頬にキスをした。



「ずる~い。ミサキ姉だけずるい!」


「ローザもミレイも、勝ったらご褒美はあげるよ。」


「ホントにゃ?」


「ケン兄。約束だからね!」



 次はミレイが前に出た。相手の竜人族は何やらもめている。人族に負けたことが悔しいのだろう。


 

「俺は先ほどの奴のように油断はしないからな。」


「別に油断してもしなくても関係ないにゃ。」



 竜人族は最初から本気のようだ。先ほどの竜人族よりも動きが早い。だが、ミレイの敵ではない。ミレイは竜人族の剣を軽々とかわす。



「ちょこまかとしぶとい奴だ。これならどうだ?」



竜人族は手から炎を出した。ミレイは大きくジャンプしてそれを避ける。



「それで本気にゃ? 弱すぎるにゃ。」


「何だと~!」



 怒りのあまり、竜人族の姿が変わってしまった。さすがドラゴンの末裔と言われるだけのことはある。背中に翼が生え、尻尾が現れた。竜人族は口から炎を吐く。先ほどよりははるかに勢いがあった。



「火の使い方が違うにゃ。火はこう使うにゃ。」



『ファイアートルネード』 



 すると、ミレイの振った剣から炎の竜巻が現れ、周りのものを巻き上げていく。そして、竜人族もその渦の中に巻き込まれた。竜巻がおさまると、竜人族は口から煙を出して意識を失っていた。



「手加減してよかったにゃ。」



 ミレイの言葉に周りの見物人達が呟いた。



「あれで、手加減したのか?」


「凄いぞ! あの少女、めちゃくちゃ強いじゃないか!」



 国王陛下も驚いたようだ。



「あのミレイという獣人族があれほどまでに強かったとは。」



ジミー公爵も見物している兵士達も唖然としている。



「ミレイもよく頑張ったな。ご褒美だ。」



 オレはミレイを抱き寄せ、頬にキスをした。



「嬉しいにゃ。ケンが初めてキスしてくれたにゃ。」


「そうだったか?」



 そして、次はローザの番だ。ローザがオレの方を見ながらウインクしてきた。



「お前達は俺が予想したより強いようだ。だが、俺も竜人族最強の戦士の一人だ。お前達には負けない。」


「あなた達が最強なの? なら、竜人族は弱い種族なの? 私はエルフ族だけどあなた達より強いわよ。」


「まあいい。小娘! 行くぞ!」



 3人目の竜人族はなかなか強そうだ。竜人族が剣を振ると斬撃が飛んでくる。ローザは目の前に水の壁を作ってそれを防ぐ。



「お前は水魔法の使い手か?」


「そうね。でも、魔物との戦いと違って、殺さないように手加減するのって難しいかも。」


「手加減など必要ないさ。」



 竜人族が足で地面を踏むと、地面から蔦が現れ、ローザに襲い掛かる。右足が蔦に捕まった。だが、ローザは全然余裕だ。



『ウォーターカッター』



 足に絡んでいた蔦を水の刃で切ったのだ。



「さすがだな。これならどうだ?」



 竜人族が翼を広げて上空に舞い上がり、上空から炎のブレスを吐いた。咄嗟にローザは矢を手に持ち、弓に水魔法を付与した。すると、矢が巨大な水のドラゴンへと変化する。その矢を放つと、水のドラゴンは竜人族を頭から飲み込んだ。そして、意識を失った竜人族が地面に落下した。



「終わりね。」


「・・・・・」



 子どものようなローザが竜人族を圧倒する様子は、誰の目にも信じられない光景だったようだ。全員が口を大きく開けて驚いている。ローザがオレのところに戻ってきた。オレはローザを抱き寄せ、頬にキスをしようとした。すると、逆にローザがオレの口にキスをしてきた。



「やったー! 大成功! ケン兄のファーストキスは私がいただいたもん!」


 

 それを見ていたミサキとミレイが怒りだした。



「ローザ! ずるーい!」


「ケン。私も後でキスするにゃ!」



 なんか、国王陛下もジミー公爵も緊張感のなさに呆れている。



「彼らはいったい何をしているんだ! あの余裕はどこから来るんだ!」


「兄上。師がケン殿ですからな。」


「まっ、そうだな。そう考えればありえないこともないか。」



 さて、いよいよ俺の番だ。オレの前には竜人族の最強の戦士が2人いる。



「お前が俺達2人の相手をするのか?」


「そうさ。でも、一瞬で終わらせるから安心していいよ。」


「ふざけたことを。」

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