第32話 ドワーフ職人のドルトン

 ミサキが仲間に加わり、全員がオレのベッドで寝ることになった。狭くて寝苦しかったが、我慢して寝ることにした。翌朝起きると、オレの右にミレイ、左にミサキ、足元にローザがいた。みんなに囲まれている状態だ。オレはみんなを起こさないように静かに起きて、亜空間に行った。温水便座を創造するためだ。オレが屋敷に戻ると、すでに3人が起きていた。



「どこに行ってたにゃ?」


「温水便座の見本を作ってたのさ。」


「ケン兄。どうして起こしてくれなかったの? 私も行きたかったのに~!」



 オレは温水便座を皆に見せた。



「本当にこれと同じものが作れるのかにゃ?」


「近いものだったらいいんじゃないか?」


「そうね。全く同じでなくても仕方ないわよね。」


「ケン兄。ご飯食べてすぐに出かけようよ。」


「そうだな。」



 食堂に行くと、執事とメイドがすでに朝食の用意をしてくれている。みんなで朝食を食べた後、武器屋に行った。相変わらず店に主人の姿はない。オレ達が店の奥に行くとそこに主人がいた。



「どうした? やはり使いこなせないで返品に来たのか?」


「違いますよ。もう使いこなせますよ。」


「まさか? たった6日で使いこなせるようになるわけないじゃないか?」


「なら、試してみますか?」


「なら、これを切ってみろ!」



 ミサキは剣を構える。



「ミサキ。いつもと同じようにやってみろ。」


「うん。」



 オレが金属の棒を放り投げると、ミサキが剣を振った。すると、落ちてきた棒は見事に2つに切れていた。



「できたでしょ?」


「信じられねえが、信じるしかないな。」


「それより、今日は商談があって来たんですよ。その前に、オレはケンって言います。今、剣で切ったのが、ミサキ、こっちがミレイ、そしてこっちがローズです。ご主人の名前をまだ聞いてなかったですよね。」


「ああ、俺はドルトンだ。それで商談ってなんだ?」


「作ってもらいたいものがあるんですよ。」


「俺は武器以外は興味ねぇぞ!」


「そうですか? 恐らく世界中で作れるのはドルトンさんだけかと思ってきたんですが、なら他のドワーフの方にお願いしたほうがいいですね。」



 ドワーフ族は基本的に酒好きで負けず嫌いだ。オレの言葉にすぐに反応した。



「俺にしか作れないものってなんだ?」


「これなんですけど。」



 オレは空間収納から温水便座を取り出した。


「お前さん。空間魔法が使えるのか? 一体何者なんだ?」


「前にも言ったけど、オレは普通に人族ですから。」


「まあ、いいや。ところで、これはなんだ?」


「便座ですけど。」


「便座~?! お前は俺を馬鹿にしているのか?」


「ただの便座じゃないんですよ。座ると便座が温まって、用が済むとお尻をお湯が勝手に洗ってくれるんですよ。」


「なんだ? それは? そんなもの見たことも聞いたこともないぞ!」


「ええ。まだ市販されてませんから。だから、ドルトンさんにお願いしているんですよ。」

  

「ケン。実際にドルトンさんに試してもらった方がいいにゃ。」


「ケン。ミレイの言う通りだわ。」


「ミレイ姉! 頭いい!」



 ドワーフ職人のドルトンさんに、温水便座やジェットバスの制作を依頼するため、ケンはドルトンを亜空間に連れていくことにした。オレが亜空間のドアを出すと、ドルトンさんの顔色が変わった。



「これは何なんだ?」


「いいからついてきてください。」



 オレ達はドルトンさんを亜空間の家に連れて行った。家に行くまでの景色を見てドルトンさんは、目を丸くして気絶寸前だ。



「ドルトンさん。ドルトンさん。着きましたよ。」


「おお。だが、ここはどこなんだ?」


「そんなことはどうでもいいでしょ。それよりこのトイレを実際に使ってみてください。」



オレは使い方の説明をして、実際に使ってもらうことにした。ドアの向こうから悲鳴が聞こえる。



「ヒエ———」



 水が流れる音がした後、ドルトンさんが出てきた。



「これはすごいぞ! こんなものが世の中に出たらとんでもないことになるぞ!」


「だから、ドルトンさんにお願いしてるんですよ。それに作ってもらいたいものがもう一つあるんですよ。」



 今度は浴室に連れて行った。やはり使い方の説明をして、使用してもらうことにした。1時間近く経ったも出てこない。オレは心配になって様子を見に行くと、ドルトンさんは鼻歌を歌いながら風呂に浸かっていた。



「ドルトンさん。出てきてくださいよ。」



 ドルトンが風呂から上がって、真っ赤な顔をしながらやってきた。



「どうでしたか?」


「この家は何なんだ? すべてが最新の設備で出来ているのか?」


「そうですね。」


「なんかこの仕事をやりたくなってきたぞ! 本当に俺に任せてくれるのか?」


「はい。王家で会社を立ち上げて、その製造部門をドルトンさんにお願いしようと思っているんですよ。」


「会社ってなんだ?」


「商会のことですよ。」


「だが、王家まで関係しているのか? お前さん達はいったい何者なんだ?」

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