第31話 ミサキが仲間になる!

 国王陛下とジミー公爵はケンの様々な能力を知り、あらためてケンの凄さを知った。そして、クララと3人が帰った後で、ケンはミサキとミレイとローザと今後のことを話し合った。



「ケン。これからどうするにゃ?」


「どうするって?」



 今度はローザが言ってきた。


 

「ケン兄は世界中を旅するんじゃないの?」



 確かにそうだ。オレはこの世界のすべての国を旅するつもりだったんだ。



「私も連れて行ってほしいんだけど。」


「そのためには、4日後の模擬戦で勝たないとな。」


「うん。」



 それから3日間、オレ達は王都の近くの森に魔物討伐に出かけた。ミサキの能力もかなり上がっている。そして、とうとう模擬戦の日がやってきた。



「ミサキ! だいぶ緊張してるな~。大丈夫だ! 今までやってきたことに自信を持て!」


「うん。」



 王城の訓練場の中央にはすでに近衛騎士団の団長の姿があった。国王陛下と王妃は心配そうに観覧席から見ている。その隣にはジミー公爵とクララの姿もあった。



「ミサキ様。今日は手加減はしませんぞ!」


「はい。私も力いっぱい戦います。」



 2人が使用するのは刃が潰してある模擬剣だ。相手を斬ることはできない。しかも、訓練場には魔術師が控えている。何かあった時に治癒魔法をかけるためだ。審判から試合の説明を受け、いよいよ試合が始まる。



「始め!」



 いきなり近衛騎士団長が切りかかってきた。ミサキは身体強化の魔法をかけてその剣を受け止めた。周りで見ている兵士達が驚きの声をあげる。



「オオ————!」


「おい、見たか? ミサキ様が団長の剣を受け止めたぞ!」


「信じられない! あの団長の剣を受け止めるなんて!」



 渾身の一撃を受け止められた団長も驚いている。



「ミサキ様。良く受け止めましたな。だが、これからが本番ですよ。」



 団長の動きが早くなった。右から左からと次々と剣が振られる。それを避けたり受け流したりしながら、なんとか堪えている。さすがに、団長もミサキも息が上がってきた。



「ハー、ハー、ハー」


「凄い成長ぶりですな。まさか、ここまでやるとは思ってもいませんでしたよ。」


「やはり、あなたは近衛騎士団の団長ね。強いわね。」


「この戦いって魔法も使っていいのよね?」


「当然です。私は魔法が苦手なだけですから。」


「なら、私は魔法を使うわね。悪く思わないでね。」



 ミサキは魔力を右手に集め、魔法を放った。



「シャイニングアロー」



 上空に現れた光の矢が団長に襲い掛かる。だが、団長も百戦錬磨だ。光の矢を剣でことごとく払いのけていく。既に二人の体力が限界状態だ。ここで、審判から声がかかった。



「そこまで! この試合は引き分けとする!」


「ワ————!」


「スゲ———! 王女様が団長と引き分けたぜ!」


「パチパチパチ・・・・」



 観客は総立ちだ。観覧席からも拍手が送られた。



「それにしても、ミサキ様。お強くなられましたな。驚きましたぞ。」


「ケンのお陰よ。」


「ああ、伯爵殿が訓練されたのですか。ならば、納得です。」



 その後、オレ達は応接室に行った。



「お父様。お母様。どうですか? みんなと一緒に旅に行ってもいいですよね?」


「旅ですか?」


「はい。ケンはこの世界の国々を旅してまわる予定なんです。私もついていきたいのです。この目で世界を見て回りたいのです。」


「マーガレットよ。いいんじゃないか。目が見えるようになったミサキが、自分の意思で世界を見てみたいと言っているんだ。」


「そうね。今まで部屋に閉じこもっていたあのミサキとは違うものね。」


「お父様。お母様。」


「だが、結婚はどうするのだ?」



 ここで、ミサキはオレを見た。そして、再び国王陛下と王妃に向き直って言った。



「はい。心から愛せる相手を見つけたら、お父様とお母様にご報告します。」



 無事にミサキが旅に出ることを許可され、オレ達4人は王城を後にした。その帰り道、旅の話になった。



「ケン。いつ旅に出るにゃ?」


「国王陛下に依頼されたものを仕上げたら出発しようか?」


「でも、ケンはもうこの国の伯爵にゃ。いいのかにゃ?」


「お父様が許可してくれたんだからいいんじゃない。」


「なら、国王陛下の依頼をすぐに片付けるにゃ。」



 オレは最初に温水便座について考えた。オレが亜空間から持ってくるのも大変だ。何台作ればいいのかと考えただけでも頭が痛くなる。それよりも、作り方を誰かに教えてしまった方が早い。



“リン。温水便座や風呂を作れる人なんか、この世界にいるのか?”


“ドワーフなら可能でしょう。”



 ドワーフと聞いて、オレはミサキの細剣を購入した武器屋の主人を思い出した。



「なあ、みんな聞いてくれ。オレが温水便座や風呂のつくり方を教えて、作ってもらおうと思うんだ。」


「誰に作ってもらうにゃ?」


「武器屋の主人だよ。彼はドワーフだ。物づくりの天才だ。」


「ケン兄。頭いい!」



 オレ達は屋敷に戻って、ミサキが仲間になったお祝いをした。



「明日、朝からドワーフの武器屋に行くから今日は早く休もう。」


「わかったにゃ。」



オレ達が先に風呂に入り、その後でミレイとローザとミサキが一緒に風呂に入った。いつものようにミレイとローザの髪を乾かしていると、ミサキがやってきた。



「何してるの?」


「2人の髪を乾かしてるんだよ。」


「ケン。私もお願いしていい?」


「いいよ。」



 オレは2人の髪を乾かした後、ミサキの髪も乾かし始めた。



「これ、すごく気持ちいいのね。」


「ケンは上手にゃ。眠くなって来るにゃ。」


「ケン兄。何でもできるもんね。」


「何でもじゃないよ。それより早く寝るよ。」



オレは自室でベッドに横たわった。だが、オレの部屋のドアが嫌な音をたてた。



「ギー、ギギー」



ドアの方を見ると、そこにはパジャマを着て枕を持った3人の姿が見える。でも、オレの隣は2つしかない。



「どうしたの? みんな自分の部屋でゆっくり寝ようよ。」


「ケンの隣でないと寝れないにゃ。」


「私もケン兄と一緒じゃないと寝れない。」


「私は2人と同じようにしたいだけだから。」



女子3人でオレの隣を取り合いになっている。結局ジャンケンで決めたようだ。



「みんな、それぞれに部屋があるんだから、自分の部屋で休めばいいじゃないか?」


「ダメ!」


「ダメだにゃ!」


「ダメです!」



 しょうがないと思いながらオレは無視して寝た。

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