第29話 ミサキの修行

 オレ達は4人で街を出た。そして、王都の東の森に向かう。途中で休みながらミサキに剣の扱い方を指導した。



「剣を上から振ってごらん。」


「うん。」



 手に持っているのはミスリル製の細剣だ。軽いはずなのにミサキの体がぶれてしまう。体がぶれると、狙ったところに力が入らない。



“リン。ミサキをどうにか育てたいんだが。”


“彼女の魔力をあげてみてはいかがでしょうか? 身体強化をしながら剣を振れるようにすれば、力のない彼女でも大丈夫だと思います。”


“ありがとう。やってみるよ。”



「ミサキ。こっちに来てごらん。」



オレは額に手を当てようとミサキの前髪を上にあげた。すると、何を勘違いしたのか、ミサキが目を閉じる。オレはそれを無視して額に手を当て、魔力を流しながら身体強化ができるように魔法を付与した。



「もういいよ。」


「えっ?!」


「ミサキに身体強化の魔法が使えるように魔法を付与したんだ。」


「身体強化? どうすればいいの?」



 すると、経験者のミレイとローザが一生懸命教え始めた。



「どうだ? ミレイとローザに教えられたとおりに一度やってみてごらんよ。」


「わかったわ。やってみる。」



 一生懸命さは伝わるがまだぎこちない。そこで、オレがミサキの手を取って体の使い方を教えた。ミサキの体がオレに密着する。横でミレイとローザが羨ましそうな顔で見ていた。



「体の動きは分かっただろ。身体強化をしながらもう一度剣を振ってごらん。」


「やってみるね。」


「ブン! ブン!」


「できたじゃないか。」


「本当?」


「ああ、もう大丈夫だ。魔物と戦う時は常に身体強化をしておいた方がいい。」


「わかったわ。」



 そして、東の森に到着した。マップでオークのいる場所を調べてみる。どうやら、森から500m入ったところに集まっているようだ。



「オークを見つけたぞ! みんな、気を引き締めて。」


「了解にゃ。」



 ミレイが先頭でその次がミサキ、さらに後ろにローザ、オレと続いた。



「ケン。オークにゃ。美味しそうなのがたくさんいるにゃ。」



 ミレイの美味しそう発言にミサキが引いていた。



「ミレイ。ローザ。とどめはミサキにやらせてくれ。」


「わかった~!」



 3人がオークに向かって走り出した。オレは後ろから魔法で援護する。オークが一度にたくさん入ってこれないように結界を張ったのだ。最初の1匹はミレイが足を切り落とし、最後にミサキがとどめを刺した。次はローザが弓でオークの足を射抜き、オークが地面に転んだ隙に、ミサキがとどめを刺した。そうして、何匹か協力してオークを倒していくうちに、ミサキの動きがどんどん良くなっていく。



「ミサキ! 剣に光魔法を付与して攻撃してみろ!」


「うん。」



 ミサキの持つ剣が光りだした。そして、ミサキが剣を横一文字に振ると、剣から光の斬撃が飛び、オークを切り裂く。



「やったわ————! 私、1人でオークを倒したわ!」


「よくやったな。だが、まだまだだ。剣を振る時に、精神を集中するんだ。そして、一気に魔力を吐き出す感じだ。」


「分かったわ。もう一度やってみる。」



 かなりの数のオークを討伐した。30体いたオークも、もう1体しか残っていない。残っているのはオークジェネラルだ。



「ローザ! こいつはお前の獲物だ! やってみろ。」


「わかった。ケン兄。」



 ローザが弓を背中に仕舞い、両手を広げて魔法を発動する。



『ウォータードラゴン』



 すると、目の前に沢山の水が集まり、それが渦を巻き始めた。その渦がだんだんと巨大なドラゴンへと変化していく。そして、ローザが手で合図を送ると、水のドラゴンは大きな口を開け、オークジェネラルを飲み込んだ。ドラゴンが消えた後にオークジェネラルの死体だけがあった。



「だいぶ成長したな。ローザ。」


「うん。毎日魔力操作の練習してるもん。」


「凄いわ! ローザちゃん! 私もローザちゃんのように強くなれるかしら。」


「大丈夫! ケン兄がいろいろ教えてくれるから。」



 オレがローザの頭を撫でると、ローザが飛び跳ねてオレの胸に飛び込み顔をすりすり始めた。



「ずるいにゃ! ローザ!」


「ローザ! 私もすりすりしたい! 代わって!」



 なんかミサキも加わって、3人が交代でオレの胸ですりすりしている。まっ、みんな可愛いからいいけどね。



“フン!”



 なんか、リンだけがご機嫌斜めだ。その後、オークとオークジェネラルの死体を空間収納にしまって、オレ達は転移で王都の屋敷に戻った。すると、どうやらお客さんが来ているようだ。人造人間の執事が出迎えて説明してくれた。



「伯爵様。国王陛下と公爵様、クララお嬢様がお越しになっておられます。」


「ありがとう。今日からお前に名前を与える。エイジと名乗るがいい。」


「畏まりました。伯爵様。」



オレ達が応接室に行くと、国王陛下とジミー公爵、それにクララがいた。



「すまんな。急に押しかけて。」


「こちらこそすみません。出かけてました。」


「お父様聞いてください。私、一人でオークを何体も討伐したんですよ。」


「ミサキがか? まさかな!」


「そうよ。最初はミレイやローザに手伝ってもらったけど、最後は一人で討伐したの! すごいでしょ!」


「信じられん。」


「兄上。ミサキは嘘を言うような子ではありませんよ。」


「確かにそうだが。まるで夢のような話だ。先日まで目が見えずに、一人で歩くこともできなかった娘がオークを倒すなど。」



 目が見えずに、めったに外に行くこともなかったミサキが、元気になったことに国王陛下は感動の涙を流した。



「あの弱弱しかったミサキがな~。そうか、なら帰ったらマーガレットにも伝えよう。」


「きっと、お母様は腰を抜かすわよ。」



 クララとミレイとローザはなぜかおとなしい。何をしているかと見れば、リバーシをやっている。



「ところで、伯爵。この屋敷が妙に新しいのだが、何かあったのか?」


「ええ、オレの魔法ですべて新品にしました。」


「そんなことまでできるのか?」


「はい。基本的な『クリーン』という魔法を応用しただけです。」


「『クリーン』ならば、使えるものも結構いるな。魔法とは便利なものだ。」


「それだけじゃないのよ。ケンは自分の空間を・・・・」


「ミサキ!」


「あっ?!」


「どうしたのだ? 我らには言えないことか?」



 こうなったらもう仕方がない。正直に説明するしかない。

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