第23話 怪しい人扱いされる

 オレ達が商業ギルドに到着すると、ギルド内には兵士の姿があった。



「何かあったにゃ?」


「なんだろうね。」



 オレは不思議に思いながらも受付の方に向かおうとすると、兵士達が一斉にオレ達を囲んだ。咄嗟のことで3人が驚いていると、兵士達がオレ達に向かって片膝をついた。これは攻撃しないという合図とともに、相手を尊重する姿勢だ。



「なんなんですか?」



 オレ達が驚いていると、兵士達の後ろから見たことのある人物が現れた。そうだ。公爵様だ。そしてさらにその後ろから、姫様がオレに向かって走ってきた。



「マスクマ~ン!」



 オレはかなり焦った。あの時、確かにオレは仮面を被っていたはずだ。



“どうしてだ?”



 するとリンが教えてくれた。



“恐らく匂いだと思われます。マスターからは神聖な匂いがしますので、敏感な子どもなら気付くと思います。”


“神聖な匂い?”



 何故オレから神聖な匂いがするのか意味が分からない。それよりも、目立たないようにするにはこの場を何とか切り抜けなくてはいけない。



「貴殿がケン殿か?」


「はい。そうですが。」


「そなたに聞きたいことがある。わが屋敷までご同行願えないか?」



 するとミレイとローザが心配そうに聞いてきた。



「どうするの? ケン!」


「逆らわない方がいいよ。ケン兄。」



 いざとなったら転移で逃げればいい。



「わかりました。同行します。」



 すると、公爵様の指示で兵士達が一斉にオレ達のために通路を作った。いわゆるVIP待遇ってやつだ。オレ達は馬車に乗って公爵邸まで連れてこられた。初めて見る公爵邸はものすごく大きい。



「ケン兄。この屋敷すごく大きいよ。あの人何者なの?」


「この国の公爵様だよ。」


「えっ?! そんなに偉い人に何かしたの? ケン兄!」


「多分誤解されてるんだよ。」



 すると、馬車の外から声をかけられた。



「さあ、ケン殿。こちらに。」



 オレ達は公爵様に案内され応接室に来た。全員が椅子に座ると、公爵様が挨拶をしてきた。因みに公爵様の娘のクララは、公爵様の隣の席に大人しく座っている。



「私はこの国の公爵のジミー=アルメデスだ。」


「オレはFランク冒険者のケンです。こっちはパーティーメンバーのミレイとローザです。ところで、オレに何か御用ですか?」


「まず、貴殿には礼を言おう。わが娘、クララを救っていただき感謝する。」



 公爵様は深々と頭を下げた。ミレイは知っているが、事情を知らないローザはキョトンとしている。



「人違いですよ。」


「すでに貴殿のことは全て調べてあるのだ。ピッツデリーで盗賊50人を討伐したのもそなたであろう。」


「オレにそんな力はありませんよ。」


「冒険者ギルドのギルマスから連絡があったのだ。もう、ごまかす必要はない。」



 目立たないという神様との約束を守れそうにない。オレは観念した。



「わかりました。正直に言います。オレがマスクマンです。」


「やはりな。だが、ケン殿は何者なんだ? あの不思議な首輪の魔法といい、それに転移魔法まで使えるではないか。」



 ここで静かだったミレイが発言した。



「ケンは記憶がないにゃ。聞いても無駄にゃ。」


「そうなのか?」


「はい。気付いたらピッツデリーの近くの草原にいたんです。それまでの記憶はありません。」


「そうであったか。だが、貴殿が邪悪な存在でなくてよかった。今日これから、私と一緒に兄上のところに一緒に行ってもらうぞ。」


「兄上って?」


「この国の国王ジョナサン=アルメデスだ。」


「え~! オレ、国王陛下に会うんですか?」


「ああ、そうだ。貴殿にはこの国も私も世話になったんだ。報酬が必要だろう。」


「辞退できませんか?」


「何を言っておられるのだ。正義の行いには感謝の意を示すのが人の道理であろう。」



 その後、ジミー公爵とクララ嬢とオレ達3人は城まで向かった。なぜかクララが馬車の中でオレの膝の上に座っていた。ミレイもローザも白い目でオレを見ている。城に着いた後、オレ達は応接室で待つように言われ、クララと一緒にリバーシで遊びながら待つことにした。すると、執事のような人が呼びに来たので、国王陛下へのあいさつの仕方を教えてもらい。謁見の間へと案内された。



「ケン。すごいにゃ。貴族様がいっぱいにゃ。」



 入口から玉座まで赤い絨毯が敷かれている。その絨毯の左側には、ジミー公爵を先頭に大勢の貴族達が並んでいた。そして、右側には近衛兵と思われる兵士達が並んでいる。オレ達は絨毯の上を玉座の前まで歩いた。そこで、ジョナサン国王が来るのを立ったまま待っている。



「ケン兄。どうして椅子が4つあるの?」


「王族の席だろうさ。」


「ふ~ん。」



 玉座の右側のドアが開いた。最初にジョナサン国王が10歳ぐらいの男の子と現れ、そして、次に王妃と思われる女性がミレイと同じぐらいの少女と一緒に現れた。だが、どうやら少女は目が見えないようだ。オレ達3人は片膝をついて臣下の礼を取った。



「そなたが冒険者のケンか?」


「はい。」


「我が弟ジミー公爵の話によると、そなたはピッツデリーにおいて、国より手配されていた50名もの盗賊達を捕縛し、さらに、公爵領スピカにおいてはコルベット子爵の陰謀を暴いたうえ、誘拐されたクララ嬢を救出したとされているが、事実か?」


「はい。」



 すると、ここで近衛兵の団長と思われる男性がオレ達に近づいてきた。



「国王陛下に申し上げます。たった3人でドンキ盗賊団を討伐したなど、とても信じられません。」



 近衛騎士団長がドンキ盗賊団と口にした瞬間、貴族達から驚きの声が上がった。



「ドンキ盗賊団と言えば、一個師団よりも強いと言われている盗賊団だぞ! それをあのような少年達が討伐するなど、信じられん。」



「国王陛下にお願いします。この者と手合わせをさせてもらえませんか? 確かめたく思います。」



 すると、横にいたミレイとローザが呟いた。



「僕はドンキ盗賊団なんて知らないにゃ。だって、ケンと会ったのはスピカにゃもん。」


「私も知らない。私もその後だから。」



 すると近衛騎士団長が言った。



「やはり、真実ではないと思われます。たった一人で討伐するなど不可能です。」


「おじさん。ケン兄と戦ったら死んじゃうよ。私が相手をしようか?」



 ローザが言った。



「ローザ! お前達はまだ手加減ができないだろう! 余計な口出しをするな!」


「ごめんなさい。」



 近衛騎士団長は真っ赤な顔をして怒った。



「お主。今、手加減と言ったか? この私を相手に手加減と言ったな。」



“やれやれ、面倒になったな。転移で逃げようかな。”

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