第20話 王都到着

旅の途中は相変わらず野宿だ。結界を張っているとはいえ、やはり野宿は大変だ。何が大変かって、お風呂もトイレもないのだ。オレは構わないが、年頃の女の子のミレイとローザにとっては大変だろう。



“ゆっくり休めるようにしたいな。”


“一部封印を解除したマスターなら、亜空間を作って家を用意することも可能です。”


“やり方を教えてくれるか?”


“畏まりました。”


 

リンの指示通り魔法を発動した。すると、目の前に黒い扉が現れた。オレがその扉の中に入ると、中には何もない。真っ白な空間だ。オレは、リンの指示通り自分の好きな景色、日本の農村の風景を想像した。すると、不思議なことに、真っ白な景色が緑あふれた景色に変化していく。そこに、真っ白に塗られたログハウスを想像すると、想像したログハウスが目の前に現れた。同じように、家の中もホテルの部屋や広告に出ているモデルハウスなんかを想像した。すると、家の中も想像通りのものができた。どうやらこの空間の中は、オレが想像したことが現実になるようだ。



「なあ、ミレイ。ローザ。野宿はきついか?」


「いやだけど仕方ないにゃ。」


「私も我慢する。」


「そうか。なら、もしもだよ。オレが魔法で家を作ったら嬉しいか?」


「いくらケンでもそれは無理にゃ。」


「でも、家があったらいいよね。」


「そうだけどにゃ。」


「なら、オレを信じてついてきてくれるか?」



 オレは亜空間のドアを出した。



「ケン。これなんなんにゃ?」


「中に入ればわかるよ。」



 オレは2人の手を引いて中に入った。すると、そこには日本の古き良き時代の農村の風景が広がっている。そして、真っ白なログハウスがあった。



「家を作ったんだ。ここならゆっくり休めるよね。」


「ケン。最高だにゃー!」


「最高。ケン兄。」


「中に入ってみてよ。」



 中に入ると、そこには彼女達が見たことのないキッチンや温水便座に大浴場があった。2人の喜びようは半端ではない。オレは一番の自信作である彼女達の部屋を見せた。それぞれの部屋は広く、お姫様使用になっている。だが、ここで2人の顔色が変わった。



「ケン。どうして、同じ部屋じゃないにゃ?」


「私もケン兄と一緒に寝たい~。ダメ?」


「でも、それぞれの部屋があった方がゆっくりできるだろ?」


「なら、ケンの部屋のベッドだけ大きくするにゃ。」



 結局オレの部屋のベッドは3倍の大きさにした。



「やっぱり、ケン兄ってすごい。まるで神様みたい。」


「そんなんじゃないさ。じゃあ、旅の途中はここで休むことにするから。」



そして、早速その日の夜は亜空間の家で休むことにした。いつものようにお風呂から上がった2人の髪を温風で乾かして、それぞれの部屋に返した後、一人でベッドに横たわり寝ようとすると、2人が部屋にやってきた。結局いつものように、3人で川の字になって寝た。翌朝、亜空間の家から出て、再び王都に向かったが、さすがに王都の近くまでくると人が多い。検問所には大勢並んでいる。王都に入るにも一苦労だ。オレ達も後ろで並ぶことにした。



「ミレイ。王都っていつもこんなに人が多いのか?」


「僕も一度しか来たことがないから分からないにゃ。」


 

 3人で話をしながら並んでいると、後ろから豪華な馬車がやって来た。見たことのある紋章が書かれている。確か、公爵様の馬車だ。馬車は他の入り口から王都に入って行った。そうこうしていると、やっとオレ達の番が来た。



「身分証を出せ!」



 門兵に言われて身分証を提示した。



「冒険者か? 入ってよし!」



 オレ達はやっと王都の中に入った。門を入っていきなり目に入ってきたのは、大きな城と教会だ。恐らく、ここからは相当離れている。それにもかかわらず、かなり大きく見える。そして、様々な人種が行きかう道路。さらに、大通りを歩くと店だらけだ。普通の民家がない。しばらく歩くと噴水のある広場に出た。広場の周りにはたくさんの屋台が出ている。



「凄い活気だな。」


「そうだにゃ。」


「私、人に酔いそう。」


 

 ローザを見ると、顔が青白い。オレ達は建物の陰に入り、ローザに『ヒール』をかけた。オレは魔力が増えたのか、魔石を使用しなくても普通に『ヒール』を発動できるようになっていた。



「ケン兄。ありがとう。だいぶ良くなった。」


「何か食べればよくなるかもしれないよ。」


「食べるにゃ!」



 オレ達は食堂を探した。すると、中からいい匂いのする店があった。オレ達はその店に入ることにした。



「いらっしゃい。注文が決まったら呼んでね。」


「はい。」



 テーブルの上に置かれたメニューを開いてみると、メニューの数がすごく多い。



「これだけ多いと悩むよな~。」


「僕は決まってるにゃ。」


「ローザは?」


「私も決まったよ。」


「すみませ~ん。注文いいですか?」


「何にしますか?」


「僕はステーキ定食にゃ。」


「私は野菜炒め定食。」


「オレは日替わりをください。」



 注文したあと、今後の予定を話し合った。



「しばらくこの街にいるつもりなんだけど、どうかな?」


「この街で何するにゃ?」


「しばらく滞在して、良かったらここで暮らそうかと思ってる。」


「私はケン兄とミレイ姉に任せる。」



 ここで料理が運ばれてきた。ミレイのステーキはかなり大きい。それを美味しそうに食べている。ローザの野菜炒めには見たことのない色の野菜が入っていた。



「ミレイ。そんなにがっつくと喉詰まらせるぞ!」


「ゴホッ、ゴホッ」



 ローザがミレイに水を差しだした。



「ありがとうにゃ。ローザ。」



 食べ終わった後、ミレイが言ってきた。



「王都にとどまるにしてもお金が必要にゃ。どうするにゃ?」


「冒険者は目立つしな~。」


「ケン兄。薬師はどうかな?」


「ローザ。それがいいにゃ。ナイスアイデアにゃ。」


「なら、薬草を取りにいかないとな。」

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