第15話 奴隷の少女

 オレとミレイは公爵領のスピカを後にして、行く当てのない旅をしている。



「ケン。どこに行くにゃ?」


「この国の王都に行ってみようかなって思うんだけど。」


「分かったにゃ。僕も一度しか行ったことないにゃ。」


「大丈夫。行き方は分かるから。」


「記憶をなくしてるのに不思議にゃ。」



 ミレイには記憶を失ったと嘘を言っている。心苦しいが仕方がない。



「ケン。この先にダンジョンの街があるにゃ。行きたいにゃ。」


「いいけど、正直ダンジョンには興味ないよ。」



 オレがゲームで知っているダンジョンは、暗い中で魔物が出てきて、それを討伐するとドロップアイテムがもらえるものだ。あまり興味がわかなかった。



「ダンジョンにはいろんなお宝があるにゃ。それを売ればお金持ちにゃ。」


「そんなにお金も必要じゃないしね。食べていければ十分だよ。」


「ケンは変わってるにゃ。あれだけ強いのにそれを隠そうとするにゃ。それに、欲がないにゃ。」


「目立ちたくないだけだから。」



 オレとミレイはダンジョンの街ナギトールに着いた。ナギトールの街は冒険者で溢れていた。魔女風の女性もいれば、甲冑を着込んだものもいる。オレ達が街を散策していると、貴族風の男が裏通りに入って行くのが見えた。



「ミレイ。あの貴族、裏通りに入って行くぞ。」


「多分奴隷にゃ。奴隷を買いに行くにゃ。」


「奴隷?」


「そうにゃ。犯罪者や借りた金を返せない者は奴隷になるにゃ。それ以外にも違法に連れてこられた人達もいるにゃ。」


「ミレイ。行ってみようか。」


「ケンは奴隷が欲しいにゃか?」


「違うよ。様子を知りたいだけだよ。」


「女の奴隷はほとんどが性奴隷にゃ。ケンも興味があるにゃか?」



 ミレイが疑わしい目でオレを見ている。



「興味なくはないけど、オレは奴隷制度には反対だから。」


「ケンは正直にゃ!」



 なんかミレイが嬉しそうに手をつないできた。オレ達が裏通りに入って行くと、怪しい建物があった。そして中には先ほどの貴族がいた。オレ達も中に入る。



「では、頼んだぞ!」


「畏まりました。ドトール男爵様、明日の夜にはお屋敷の方にお届けしますので。」



 男は急ぎ足で店を出て行った。すると、店主らしき男がオレ達の方に来た。



「お客さん困りますよ。売りたい奴隷がいるなら裏に回ってくれないと。」


「売りたい奴隷?」


「そこの猫耳族を売りに来たんじゃないんですか?」


「違うよ。彼女はオレの仲間だ。ダンジョンに行くのに必要だから、奴隷を探しに来たんだ。」


「それはそれは申し訳ありませんでした。では、こちらにどうぞ。」



店の中に案内された。店の奥はまるで牢屋のようだ。そこには、人相の悪いいろんな種族の男女がいる。



「この者達は犯罪奴隷ですよ。ですが、隷属の首輪をはめますから、あなた様には逆らえません。他の奴隷もご覧になりますか?」


「ああ、頼む。」



今度は地下に案内された。地下には借金奴隷と思われる男女がいた。



「店主。これで全部か?」


「ええ、他にもいることはいますが、ダンジョンに行くには役に立たないと思いますよ。」


「見せてくれ。」


「畏まりました。」



 オレ達が後をついていくと、一番奥の牢に一人の少女が倒れていた。



「この者は犯罪奴隷でも借金奴隷でもありません。旅人が連れてきたんですが、片手もないし、重い病にかかっているようだったので、うちの店で引き取ったんです。」


「店主、彼女はいくらだ?」


「いいんですか? 恐らく長くはもちもせんよ。」


「構わんさ。」


「本来、エルフの少女ともなれば白金貨ほどの価値があるのですが・・・・」



 店主が言いにくそうにしていたので、オレは大金貨1枚を渡した。



「これで何とか譲ってくれないか。」


「お客さん。本当にいいんですか?」


「ああ。」


「なら、お譲りしますよ。その前に、隷属の首輪をあなたの名前にしますので。」


「店主。この子はもう長くないんだろ? 首輪もはずしてやってくれ。」


「わかりました。」



 オレはエルフの少女を抱きかかえて、ミレイと一緒に店を出た。



「ケン。良かったにゃ?」


「ああ、だってこのままじゃこの子、死んでしまうだろ?」


「でも、ケンはこの子の病気治せるにゃか?」



 すると、少女が目を覚ました。



「あ、あの~。私は・・・」


「ああ、君はオレが保護したんだ。」


「あ、ありがとう。で、でも、私何もでき・・・ハ、ハ、ハ」


「しゃべらなくていい。目を閉じて休んでな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る