第14話 公爵令嬢誘拐事件

 翌日早朝、オレは宿を出て違う街に向かうための買い出しをしていると、街の中が騒がしい。



“何があったのかな?”



ミレイが慌てて駆け寄ってきた。



「ここにいたにゃ。探したにゃ。」


「どうしたの? そんなに慌てて!」


「大変にゃ。公爵様の姫様が攫われたにゃ。冒険者ギルドから集合がかかったにゃ。」



 恐らくオレに手を振ってくれた子だ。



「ケン。すぐにギルドに行くにゃ。捜索隊に加わるにゃ。」


「ごめん。ミレイ。昨日言った通り、オレは目立つことはできないんだ。」


「なら、放っておくにゃ? それでいいにゃ?」



 オレは悩んだ。昨日、神様から人助けをするように言われたばかりだ。だが、目立たないようにしないといけない。



“マスター。提案があります。仮面を被ったらいかがでしょう?”


“確かに。それなら目立たないかな。”



「ミレイ。近くに仮面を売ってるような店ないか?」


「仮面? お土産屋ならあるかもしれないにゃ。」


「案内してくれ。」


「わかったにゃ。」



 オレはミレイに案内されてお土産屋に行った。店内を探していると、鼻から上のアイマスクのような仮面しかなかった。それでも、ないよりましだ。オレはそのマスクを購入した。



「ケン。仮面なんかつけてどうするにゃ?」


「1時間で終わらせるから、ミレイはここで待っててくれるか?」


「えっ?! 1時間で? いくらケンでもそれは無理にゃ。」


「オレを信じて待っててくれ。」


「わかったにゃ。」



 オレはまず姫様の居場所をマップで確認した。



“リン。頼む。姫様の居場所を表示してくれ。”


“どうやら、この領都の貴族屋敷の地下にいるようです。”



 オレは頭の中に浮かんだ場所に向かった。確かに貴族街にある屋敷だ。お土産屋で購入した仮面を被って、正面から向かうことにした。すると、いきなり門番に止められた。



「貴様。何の用事だ? ここはコルベット子爵様の屋敷だぞ!」


「ここの地下に、公爵様のところの姫様が閉じ込められてますよね?」


「なにをふざけたことを!」



 門番がいきなり斬りかかってきた。オレはそれをかわしながら、腹に拳を食らわせた。



「グフッ」



 門番を端で眠らせた後、オレは堂々と屋敷に向かう。門をくぐると、中には私兵のような者達が何人もいた。全員が剣を抜いてオレに向かってくる。オレも剣を抜いて、風のような速さで彼らの間を通り抜けていく。全員が片足を切り落とされ地面に倒れこんだ。



「ギャー」


「ガワッー」


 

 そして、頭に浮かぶマップに従って屋敷内の地下室に向かった。すると、牢屋のような場所があり、そこに一人の少女が座って泣いていた。



「助けに来たよ。」


「だ、誰?」


「正義の味方。マスクマンさ。」



 オレが日本にいた時に見たTVのキャラクターの変身ポーズをすると、泣いていた姫様の顔に笑顔が戻った。



「ちょっと、後ろに下がってて!」



 オレは剣で牢屋の鉄格子を切った。姫様は目を丸くして驚いている。驚いた顔がものすごくかわいい。



「いいかい。これから、家に連れていくけど、その前に悪人退治をしないといけないんだ。姫様は目をつむっていてくれるかな?」


「うん。」


「約束だよ。」



 オレが姫様を抱っこして地上に行くと、すでにコルベット子爵が私兵とともに待ち構えていた。



「貴様は何者だ?」


「オレか? オレは正義の味方マスクマンだ!」


「ふざけたことを。こいつを斬れ! 娘を取り戻せ!」



 兵士達がオレに向かってくる。剣で戦うのは簡単だ。だが、姫様に血が流れるのを見せたくない。オレは魔法を使うことにした。



“リン。血を流さずに取り押さえる魔法だ! 教えてくれ!”


“マスター。重力魔法の『グラビティー』をお勧めします。”



 オレはリンに言われるがまま、頭に浮かんだ魔法を発動する。



『グラビティー』



 すると、オレに向かっていた兵士達が全員地面に倒れ、身動きが取れないでいる。それでも、反抗しようとする者がいたので、オレは魔力を強めた。すると、兵士達の体から嫌な音が聞こえる。



「ミシッ、ミシッ」


「ギャー」


「ウー、苦しいー」



兵士達の身体が床にめり込んでいく。床にひびが入り始めた。これ以上強めると死んでしまうだろう。兵士達が気絶しているのを確認して魔法を解除した。



「貴様! 何をした? 何者なんだ?」


「だから、正義の味方。マスクマンだから。」


「耳元で、抱っこしている姫様の笑い声が聞こえる。」



“リン。こいつらを拘束したい。”


“了解です。以前使用した『正義の輪』が良いでしょう。”



 オレは腕を前に出し魔法を唱える。



『正義の輪』



 すると、コルベット子爵や私兵達の首に光のリングが現れた。



「貴様! これは何だ?」



 コルベット子爵は必死でリングを外そうとしている。



「それ、外れないよ。無理に外そうとしたり、悪さしたり、嘘を言ったりすると、どんどん締まって首が落ちるから。」



 すでに遅かったようで、コルベット子爵が苦しそうにもがきはじめている。



「だから言ったじゃん。もう、逆らわないでよ。次はないからね。」



 オレは、リングを緩めた。そして、屋敷の外の兵士達と、気を失っている兵士達、それにコルベット子爵を連れて、公爵家の屋敷の庭に転移した。



「おお! なんだ? これは?」


「急に人が現れたぞ!」


「おい、あれはコルベット子爵じゃねぇか?」



 娘がいなくなったことで、捜索隊を編成している最中だったのか、転移した庭には公爵様と大勢の兵士達がいた。何もない場所に、突然大勢の人間が現れたのだから、全員が大きな口を開けて驚いている。オレは姫様を抱っこしながら公爵様と思われる人物に歩き寄った。



「公爵様。姫様を取り戻しました。」



 すると、オレの腕から姫様が飛び降り、公爵様に抱きついた。



「お父様~!」


「クララ~!!!」



 姫様は一気に不安から解放されたのだろう。公爵様の胸の中で大声を出して泣いていた。



「犯人はここにいる連中です。全員捕まえています。」



 すると、コルベット子爵の顔を見て公爵様が言った。



「コルベット! 貴様が犯人だったのか?」



コルベット子爵は真っ青な顔をして、必死に言い訳を始めた。



「誤解です。公爵様。私は姫様を誘拐犯から、身代金を払って取り戻したの・・・・苦しい。」



 コルベット子爵の首の輪が締まっていく。



「あの首の輪は噓を言うと締まるようになっているんです。そのままにしておくと首が落ちますが、どうしますか?」



 オレはコルベット子爵を見ながら公爵様に聞いた。



「他にも聞きたいことがある。まだ生かしておきたい。」


「わかりました。」



 オレはコルベットの首の輪を緩めた。



「貴殿は何者なんだ? コルベットの首の魔法といい、ただ者ではあるまい。それに、全員をこの場まで移動させたのは『転移魔法』ではないのか?」



 すると、お姫様が言った。



「正義の味方、マスクマンだよね。ありがとう。マスクマン。」


「そういうことですので、私はこれにて失礼します。」


「ま、待って・・」



 オレは面倒になるのがわかっていたので、公爵様の声を無視して『転移』でミレイのところまで行った。



「お待たせ!」


「どうだったにゃ?」


「全部解決したよ。オレはすぐに街を出るよ。」


「僕もついて行くにゃ!」


「どこに行くかも決めてないよ。」


「それも面白そうにゃ。」


「なら、荷物を取ってきて! すぐに行くから!」



ミレイが荷物を持ってくるのを待って、オレ達は街を出た。



「約束して欲しいことがあるんだ。」


「どんなことにゃ?」


「以前言ったけど、オレは目立たないようにするから。協力して欲しい。」


「大丈夫にゃ。」


「もう一つ、オレについて知ったことは他の人には秘密にして欲しい。」


「わかってるにゃ。」



 こうしてオレとミレイの2人の旅が始まった。



 その頃、領都スピカでは、公爵令嬢クララを救った英雄マスクマンを探す兵士達が、街中を走り回っていた。そして、冒険者ギルドにも兵士達が訪ねて行った。兵士達の話を聞いて、アリサは一瞬ケンのことが頭によぎった。



「まさかね。」



 その後、ケンとミレイが一緒に街からいなくなったことを知って、やはり英雄マスクマンの正体がケンだと気づいたのだ。

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