第13話 初めてのゴブリン退治
その日は久しぶりに布団で寝た。そして翌朝、食堂に降りていくとすでにミレイの姿があった。
「僕はもう食べたから、それを食べたら出かけるにゃ。」
オレが食べ終わるのを待って2人で街に出た。ミレイがお気に入りの場所を何か所も案内してくれた。
“この子、なんで手を繋いでくるんだろう。”
「ここがこの街でも一番有名なデートスポットだにゃ。」
噴水のある広場のベンチには、たくさんのカップルが座っている。
「あそこのベンチが空いてるにゃ。」
オレ達はベンチに座って休むことにした。
「ケンのランクは何にゃ?」
「ああ、オレはFだよ。ミレイは?」
「私はDにゃ。」
「なら、オレより上だね。」
「でも、ランクってあまり当てにならないにゃ。」
「どうして?」
「昨日のケビンはパーティーに入ってるにゃ。他のメンバーが魔物を討伐しても、ランクが上がるにゃ。」
「へ~。そうなんだね。」
「ケンは何も知らないにゃ。」
「記憶がないからね。」
「ケン! 僕とパーティーを組むにゃ。そうすれば、ケンのランクも上がるにゃ。」
「急にどうしたの? 別にオレはランクはどうでもいいから。」
「僕と同じパーティーは嫌にゃのか?」
ミレイが上目遣いで見てきた。
「そうじゃなくて、いつまでこの街にいるかわからないからさ。」
「なら、この街にいる間だけでもいいにゃ。」
「分かったよ。」
「ヤッタにゃー!」
その翌日、2人でギルドに向かった。掲示板を見ているとアリサが声をかけてきた。
「ミレイ。あなた、こんな弱虫と仲良くなったの?」
「そうにゃ。僕達パーティーを組んだにゃ。」
「あなた、ミレイを利用してランクを上げようって魂胆なの? 情けないわね~!」
「違うにゃ。僕からお願いしたにゃ。」
「まっ、どっちでもいいけど、私には関係ないから。」
アリサはそのまま掲示板から紙をはがして行ってしまった。オレとミレイも掲示板からゴブリンの討伐依頼をはがして受付に行った。そして、受付でパーティー登録も済ませて、ゴブリンの討伐に向かうことにした。
「ゴブリンってどこにいるの?」
「この街の西側にある森にいるにゃ。」
パーティー登録は思っていたよりも簡単だった。2人のカードを平たい石の上に置いて、2人が手を乗せるだけだ。
「ケンはゴブリンを討伐したことあるにゃ?」
「ないよ。前にも話したけど、薬草採取がオレの仕事だから。」
「でも、その剣はなんでにゃ?」
「ああ、魔物に出くわした時のためさ。」
ミレイが不思議そうな顔をしている。オレ達は街から出て西側の街道沿いを探索しながら、森に入って行った。
「見るにゃ! ケン。魔物の死骸にゃ! 多分近くにゴブリンがいるにゃ!」
“リン。ゴブリンがどこにいるか表示してくれるか?”
“はい。マスター”
頭にマップが浮かぶ。すると、500m先にゴブリンの集団がいた。かなりの数がいる。しかも1つ大きな赤表示があった。目立ちたくないオレは、敢えてゴブリンのいない方向にミレイを誘導しようとした。
「ミレイ。あっちに行こうか。」
「えっ?! 足跡はあっちに向かってるにゃ。」
すると、女性の悲鳴が聞こえた。
「キャ—————!!!」
「ケン! 悲鳴にゃ!」
オレは勝手に体が反応して悲鳴の場所に走り出していた。後ろからミレイが息を切らせながら追いかけてくる。
「ケン! 速いにゃ!」
悲鳴の場所に着くと、アリサがゴブリンの集団に囲まれていた。ゴブリン達は嫌らしい笑いを浮かべながらアリサに近づいていく。
「ハー、ハー、ハー。アリサ!!」
追いついてきたミレイが大声で叫んだ。
「ミレイ! 助けてー!」
ミレイが剣を抜いてゴブリン達に切りかかった。オレも素人の振りをして、剣を出鱈目に振ってゴブリンを倒していく。3人で何匹かゴブリンを倒したところで、後ろから身体の大きなゴブリンが現れた。
「ケン。あれはゴブリンキングにゃ。Aランクの魔物にゃ。まずいにゃ。」
「ミレイもアリスも逃げて! オレがここで食い止めるから!」
「何言ってるにゃ! ケンが殺されるにゃ!」
「大丈夫だから。オレを信じて!」
すると、アリサが言ってきた。
「あなた、Fランクなんでしょ。あっという間に殺されるわよ。足止めにもならないわ。」
アリサもミレイも逃げようとしない。でも、このままでは2人が危険だ。オレはどうしようかと迷っていた。すると、頭の中に声が響いた。リンの声ではない。
『お前は人のために生きるのじゃ』
神様の声だ。もう、ばれてもいい。この2人を助けたい。オレは剣を手に握りしめて、2人には見えない速さでゴブリンキングに切りかかった。さすがゴブリンキングもAランクの魔物だ。右手の大剣でオレの攻撃を防いだ。そして、左手でオレにパンチを繰り出してきた。オレは後ろに飛びのいて避けた。
『空間裂断』
オレは剣を振りながら魔法を発動した。すると、オレの振った剣が時空を上下2つに分けていく。気付けばゴブリンキングの体は上下2つに切断されていた。
「えっ?!」
アリサにもミレイにも何が起こったのかわからない。Fランクで弱虫と思っていた少年が、目にも止まらぬ速さでゴブリンキングに迫り、見たこともないような魔法でAランクのゴブリンキングを倒してしまったのだから。
「ケンは本当にFランクにゃ?」
「本当さ。カードを見ただろ。」
「うん。」
「あなた、どうしてギルドで謝ってたの? そんなに強いのに。」
「謝って済むならそれが一番さ。怪我させたくないしね。」
「ケン。ごめんなさい。あなたのことを何も知らないのに、ひどいこと言っちゃって。」
「別に気にしてないからいいよ。でも、もう、この街にはいられないな。」
「どうしてにゃ?」
「2人に知られちゃったからね。」
ミレイが必死で言ってくる。
「それなら大丈夫にゃ。僕達が黙ってるにゃ。絶対に言わないにゃ。」
「ダメなんだ。ある人と約束したからね。目立たないようにって。」
討伐を証明する部位を切り取った後、ゴブリンを一か所に集めた。そして、オレは右手を前に出して魔法を発動する。
『ソイル』
すると、ゴブリン達の亡骸が次々と土に変わっていく。もう、2人は放心状態だ。
「ケン。あなたどれだけ強いの?」
「分からないよ。」
その日、オレ達は3人で冒険者ギルドに行った。ギルドへの報告をした後、報酬の大金貨3枚をそれぞれ1枚ずつ分けることにした。2人は遠慮したが、オレが強引に渡した。
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