第3話 一難去ってまた一難
オレは突然落とされた広く暗い洞窟の中で、生き延びるために必死に戦っていた。最初はほとんど使えなかった魔法も、不思議な指輪のお陰で戦闘に使えるようになっていた。そんな時、頭が3つある恐ろしい大蛇と遭遇したのだ。
“まずいよ。こんなのに勝てっこないよ。逃げようよ。”
“ダメです。この敵を倒さなければ、先に進めません。諦めないでください。”
確かにオレは、今まで嫌なことがあるとすぐに逃げていた。逃げても何の解決にもならないのに。オレは、怖いのを我慢して、頭の中の声に言われた通り戦いを挑んだ。
『スペースカッター』
能力が向上したにもかかわらず、オレの魔法は軽々と防がれた。
“こいつに弱点はないのか?”
“残念ながら今のマスターでは倒せないようです。一旦、退いて再び挑みましょう。”
“退くって言われても、どうするの? あいつ完全に怒ってるよ!”
“あの魔物はここから動けません。ゆっくりと後ろに下がって距離を取って、一気に走って逃げてください。”
“マジで?”
“マジです。”
オレは言われた通り全力で走って逃げた。確かに魔物が追いかけてくることはなかった。そして、その日は討伐したウサギのような生き物を家まで持ち帰ることにした。
“これどうやって食べるの?”
“解体するしかありませんね?”
“解体? もしかして、皮をはいだりするの?”
“はい。”
生き延びるためには仕方がない。あきらめて、解体を始めようとしたが、刃物がないことに気付いた。
“刃物がないんだけど、代わりになる魔法はないの?”
“手から氷の刃を出すのが良いと思われます。”
オレの属性魔法は戦闘には使えない。だが、生活する程度なら使える。手から氷の刃を出して、気を失いそうになりながらウサギを解体した。解体した肉は、火魔法を使って焼いて食べた。調味料も何もない中で、旨いわけがない。ただ、食べるという作業も生きるために必要な行為なのだ。
“疲れたな~! なんかいつもの空想と全く違うんだけど!”
食べ終わった後、ボロ屋のベッドに横たわりながらいろいろ考えた。それにしても、一人は孤独だ。今まで、自分のことを知ってる者が誰もいない、そんな世界に行ってみたいと思っていたけど、やっぱり孤独は嫌だ。オレは、頭の中の声に話しかけてみた。
“なあ。オレはケンっていうんだ。お前は?”
“私は単なる指輪です。名前などありません。”
“なら、オレが勝手につけてもいいかな?”
“お好きにどうぞ!”
指輪は英語でリング。でも、その名前はなんか怖い。ん~!
“リンはどうだ? 声が美少女のような声だし、なんかぴったりな気がするんだけど。”
すると、指輪をはめている指が熱くなるのが感じられた。
“気に入りました。私のことはリンと呼んでください。”
その後もオレは何度も大蛇に勝負を挑んだ。だが、いまだに倒すことができていない。それでも、少しずつだが、大蛇に傷を負わせることができるようにはなっている。
“今日もダメだったな~。”
“だいぶ魔力も上がっているようです。それに使える魔法の種類も増えました。そろそろ倒せると思われます。”
大蛇に挑み続けること10日目だ。様々な無属性魔法が使えるようになっていた。
“リン。今日は絶対に倒すぞ!”
“マスター。3つの首を1つずつ攻撃しても、奴はすぐに再生します。3つ同時に攻撃してはいかがでしょう?”
“でも、あいつは炎と水と風を使うよな~? 何かないのか?”
“強力な時空魔法があります。”
“強力な時空魔法?”
“はい。『スペースカッター』のように小さな範囲の空間を切断するのでなく、対象物が存在する空間全体を切断する魔法です。マスターの今の魔力であれば可能です。”
頭の中に魔法が流れ込んできた。オレは流れ込んできた魔法を発動した。
『時空裂断』
すると、オレが手で切るようなしぐさをすると、その線上の空間が歪んで奴の3つの首が同時に落ちた。奴は再生しない。
「やったぞー! とうとう倒したぞー!」
“おめでとうございます。マスターも卒業が近いと思われます。”
“卒業?”
“はい。これは、マスターに与えられた試練です。この試練をすべて乗り越えれば無事に卒業です。”
卒業したらこの夢も覚めるかもしれない。そんな期待が頭をよぎった。ふと我に返ると、オレも体のいたるところから血が出ている。なんとかボロ屋まで帰り、布団のないベッドに横たわった。しばらく寝た後、寝床から起きたオレは、自分の気持ちを奮い立たせて大蛇のいた場所まで向かった。
“さて、大蛇の先に進むぞー!”
すでに大蛇はいない。オレは先を急いだ。すると、不思議なことに明かりを灯さなくても周りがはっきりと見える場所に出た。何やら水の流れる音が聞こえる。水の音がする方に歩いて行くと、そこには川が流れ、川の水がキラキラと光っていた。
“この場所が明るいのって、もしかして、川原の石が光ってるの?”
“そうです。魔石です。”
川底の石を手ですくってみると、確かに石が光っている。もしやと思い天井を見ると、天井の石も見事に光っているのだ。
“魔石って何かの役に立つの?”
“人間の世界では高価なものとして取引されていますが、ここでは特に価値のあるものではありません。”
その言葉を聞いて放っておくことにした。それよりも、目の前には川がある。ふと気づいた。
“そうか~。ここに来てから風呂に入ってないよな~。”
風呂に入らずにすでに1か月以上が経過している。オレは恐る恐る自分の身体の匂いを嗅いでみた。
“臭っ!”
強烈な酸っぱい匂いだ。一度鼻につくとなかなか取れない。
“ダメだ! 限界だ!”
オレは服を脱いで、勢いよく川の中に飛び込んだ。すると、今まで怪我をした傷跡もどんどん消えていく。
“おお~! 傷が治っていくぞ~! この水か~? それともこの石なのか~? まっ、どっちでもいいや。”
久しぶりの水浴びに、うきうきしているとリンが教えてくれた。
“ここにある魔石の効能です。”
“なら、この魔石を持っていけば傷が治るってことか?”
“多少の傷なら治ります。”
体の匂いが取れてきれいさっぱりしたオレは、服を着て小さな魔石をポケットの中に詰め込んで、再び洞窟を歩き始めた。
“待てよ。川があるってことは、海につながってる可能性があるよな~。もしかすると、外に出れるかもしれないな。”
オレは川下に向かって走り始めた。だが、目の前に巨大なサソリのバケモンが数体現れた。
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