第2話 ガイド役の指輪

 オレはいつもの通り空想しながら寝たら、神様が現れ、オレの希望をかなえて魔法を使えるようにしてくれた。だが、真っ暗な洞窟の中に落とされてしまっただけでなく、使えるようにしてもらったはずの魔法も使えない。オレはこの悪夢が覚めるまでの間、薄暗い洞窟の中でゆっくり休める場所を探すことにした。



“もうかなり歩いたぞ! 何もないじゃないか? ネズミや蛇のような奴らは至る所にいるし、これじゃあ寝ることもできなよ。もう、足もくたくただ!”



さらに、薄暗くてよく見えない洞窟内を歩き回った。すると、少し先に家のような影が見えた。オレは急いで向かった。



“あれ、もしかして、あれは家か? でもボロボロだぞ! まさかこんなボロ屋に誰か住んでるのかな~?”



今にも崩れそうなボロ屋だが、それでも家だ。もしかすると誰かが住んでいるかもしれない。そう思って、ドアを開けながら声をかけた。



「すみませ~ん。だれかいませんか~。」



 返事がない。誰もいないようだ。



“誰もいないのか。まっ、いいや。ここで休ましてもらおうかな。”



オレは、勝手に家の中に入って布団のないベッドに横になった。



“多分。この夢もここまでだな。寝て起きれば覚めてるだろう。でも、嫌な夢だったよな~。”



 オレは目を閉じると、疲れているせいかすぐに深い闇に落ちていった。どれくらい寝ただろうか、オレは目が覚めて焦った。そうだ。あのボロ屋のベッドの上のままだったのだ。



“なんでだよ~! 夢じゃないのかよ~!”



 夢だと思った世界が現実。ならば、今まで現実だと思っていた世界は夢だったのかと、もう頭の中は大パニックだ。そして、ひとしきり悩んだオレは決意した。



“もう夢でも現実でもどっちでもいい! 今いるここが現実だ! なら、現実を生き抜くしかない!”



 決意が固まればあとは行動するだけだ。とにかく、この洞窟から抜け出ることを考えないといけない。とりあえず、武器になるようなものを見つけようと、家の中をくまなく探すことにした。


 すると、部屋の奥に古い木の机があり、そこに1冊の分厚い本と指輪があった。本をめくっても何が書いてあるのかわからない。オレの知らない文字だったのだ。オレはふざけて指輪を左手の薬指にはめてみた。



『起動します』



 すると、頭の中に不思議な声が聞こえた。



「誰?」



 声をかけたが返事がない。もしやと思い、読めなかった机の本をめくってみると、頭の中にものすごい勢いでデータが流れ込んできた。魔法に関する知識だ。学校で歴史や英単語を覚えることに必死だったオレが、あっという間に魔法の知識を手に入れてしまった。



“もしかして、これで魔法が使えるのか~?”


“まだ、無理です。”


“えっ?! 誰?”


“マスターのガイドです。”


“マスター? ガイド?”


“マスターの補助をするように仰せつかりました。”


“誰に?”


“グランドマスターです。マスターが神様と言っているお方です。”


“どんな補助をしてもらえるの?”


“魔法の使い方をお教えします。”


“本当に?”


“はい。”



 オレは、お腹が空いてるのも忘れて、早速魔法の使い方を習った。最初に魔力の操作方法だ。



“体の中の魔力を感じてください。”



 体の中の魔力と言われてもピンとこない。



“どうすればいいの?”


“私が魔力を流します。血液の流れと同じように、体の中に流れる魔力を感じてみてください。”


“わかったよ。”



 すると、左手の薬指が熱くなってくる。そして、体の中を熱いものが勢いよく流れるのが分かった。



“わかったよ。”


“ならば、その流れをできるだけ速く動かすように意識してください。”



“流れを速くするって言ったって、どうすればいいのさ。”



 血液の流れを早くすることもできないのにと思いながらも、言われた通りやってみた。すると、背筋がぞくっとする感覚を感じながらも、魔力の動きが速くなった。



“なんかできたっぽいけど!”


“まだまだ、遅いです。もっと速くです。”



 それから、暫く魔力の動きが早くなるように練習した。だが、思う通り行かない。なかなか難しい。それにしても腹が減った。



“お腹が空いたんで、そろそろ探索に行くけどいいかな。”


“では、今までどれだけ成長したかを魔物で試しましょう。”



オレは探索に出かけることにした。日付も時間もわからない。朝なのか夜なのかもわからない。昨日まで使うことのできなかった魔法を使ってみることにした。



『ライト』



すると、オレの頭上に光の球が現れた。



「やったぞー! 魔法が使えたぞー!」



“当たり前です。私が指導したんですから。”


“ありがとう。”



 昨日と違い、周りの様子がはっきりとわかる。昨日はうす暗くてよく見えなかったが、やはり天井も壁も岩でできていた。オレは、昨日とは逆の方向に歩き始めた。

 


“何もいないな~?”


“頭の中で『マップ』を起動させてください。”


“マップ?”


“このあたり一帯の地図が映像となって認識できます。魔物は赤い点で表示されます。小さければ弱い魔物。大きくなったり色が濃くなったりすれば強い魔物です。”



 頭の中に映し出される地図の通り歩いていると、上に続く螺旋状の坂道があった。その坂を上に向かうと、獰猛なウサギのような生き物や猪のような生き物がいた。



“これ便利だね。”



 オレはマップが使えるようになって少し浮かれていると叱られてしまった。



“マスター! 敵を倒すことに集中してください! 風魔法を使ってみましょう。”



“わかったよ。オレの想像する魔法でいいの?”


“はい。マスターのメージする魔法を放ってみてください。”



 オレはゲームの技をイメージしながら魔法を放った。



『エアーカッター』



 すると、オレの手から弱い風が発生した。



“こんなんじゃ、敵は倒せないよ!”


“なら、火の魔法を使ってみてください。”



『ファイアーボール』



 今度は小さな炎の球がオレの手にできた。



“全然ダメじゃん。”


“マスターには風や火の属性が無いようです。”


“どんな魔法なら使えるのさ!”


“試してみるしかありませんね。”



 その後、水魔法、光魔法、土魔法と試したが、敵を倒す威力はない。



“マスターには基本属性の魔法に適正がないようです。ですが、マップが使えましたので無属性魔法に適性があるかもしれません。やってみてください”



 オレは、空間を切り裂くイメージをして魔法を発動した。



“スペースカッター”



 すると、オレの手から勢いよく何かが飛び出し、その何かが空間を切り裂くように飛んでいった。



「ギュッ」



魔法が直撃したウサギが変な声を出しながら地面に倒れた。



『能力が向上しました』



「やったぞー!」



“どうやらマスターには無属性魔法の適性があるようです。これから無属性魔法を練習することにしましょう。”


“わかったよ! ところで、さっきから基本属性とか無属性とか言ってたけど、何のこと?”


“そうですね。魔法について少し説明しましょう。魔法には火・水・土・風・光の5つの基本属性の魔法とそれ以外の無属性魔法があるんです。”


“無属性魔法ってどんなのがあるの?”


“そうですね。いろいろありますが、例えば今マスターが使用した時空魔法や病気や怪我を治したりする聖魔法などが代表的ですね。”


“なんか一度に覚えきれないな。ただ、自分がどんな魔法が使えるのかは知っておきたいよ。”


“そうですね。これからいろいろ試してみましょう。”


“リンがいてくれて助かったよ。よろしくな。”


“はい。マスター。”



 それからどれほど魔物達を倒しただろうか、出会う敵をいろいろな無属性魔法で、次から次へと倒していった。



“ちょっと疲れたよ。休んでいいかな?”



“はい。ただ休む時はマップで周りの安全を確認してからにしてください。”



 頭の中に地図を表示した。すると、大きな濃い赤色のマークが現れた。しかも、かなり近い場所だ。オレは、その場から離れようとしたが、すでに遅かった。とうとう奴が現れたのだ。そう、今のオレにとって最大のライバルである大蛇だ。頭を3つ持つ巨大な蛇だ。しかも、頭の一つは炎、もう一つは水、さらにもう一つは風を吐き出す。この大蛇を倒さなければ先には進めない。

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