第6話

「いや~映画すごく面白かったですね!」

目の前に相変わらずキラキラした笑顔を浮かべる彼が立っていた。

「う、うん。なんか感動したよ」

僕は適当にそう答えた。

体が少しだるく感じたが、いつもと同じスピードで立ち上がり彼と劇場内を出た。

「これからどこか行かれますか?」

彼に穏やかな口調で尋ねられたが、特に次の予定など決めていなかった。また家でダラダラする気でいたが、どうしよう。なんて答えたら良いものか。彼と友達になるには。とりあえず連絡先を聞いておいたら次に繋がると考え、彼に連絡先を聞いてみた。

「せっかくだから、仲良くなりたくて。いいかな?」

しどろもどろになりながら伝えたが、彼の笑顔は崩れるどころかさらに輝きを増した。

「わぁ、いいの~?!僕も聞こうと思ってたんだよね」

ポシェットから携帯を取り出し、QRコードでラインを交換した。

友達リストに「早川蓮」が登録された。蓮君っていうのか。アイコンは未設定だったのは華やかなで自己表現が得意そうな彼にしては、なんだか意外である。背景は青空の写真だった。

「葵君のアイコンかわいいね!確かどこかの地方のゆるキャラだよね?」

そういえば僕は滋賀の有名なゆるキャラをアイコンにしていたんだった。たまたまネット記事で見かけて、白色のキャラだからシンプルでアイコンに最適だと考えて決めたんだよね。

「うん。なんか白色だしシンプルでいいかなって。丸くてかわいいしね」

たまたま設定したアイコンで話題が広がり、白いつやつやした肌に歯並びの整った口元で笑う蓮君の顔を見ているとなんだか穏やかな気分になる。

久しぶりに笑った気がする。

しかも綺麗な人間と。

今日はなんて充実した日だ。思いもよらぬ幸運に出会えた気がする。そう有頂天になったが、映画のことを考えるとまたモヤが頭の中をかすめた。

なんで僕は楽しみにしていた映画の内容を全然覚えていないのか。

寝ていた……?

僕は映画の途中で寝たことなんてないし、それも映画が終わるまで寝てしまうなんてことはにわかに信じがたい。

いったい僕の身に何が起こっているんだろうか?

客観的に見れば、たった1回のことで考えすぎていると思われるかもしれないが僕は何か確信的な異変を感じていた。







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予言者 カマ999 @kama999

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