第4話

高齢者の肌や腕に刻まれた大きなシワを見ながら過ごすとバスはまもなく最寄り駅の停留所に到着し、僕は朝日の黄みがかった光に照らされながら足取り軽くバスを降りた。

エスカレーターを上がり自動改札を定期のICカードで颯爽と突破しホームに直行すると階段を上がってくる人の姿が見えたので急いで階段を下りた。

そのまま乗り場に停まっている電車に駆け込むと、扉はすぐに閉まった。

ギリギリセーフ。

目的地はここから2駅先の商業施設にある映画館だ。

チケットは当日に買う。

カップルのデートじゃないんだしわざわざ席を予約しなくてもいいよね。

座れればどこだっていいの精神がぼっちのモットーである。

映画館に入り、券売機で「新聖人:エドルフ」の10時からの上映開始分を購入した。

座席はほどよく空席で真ん中の列の端の座席を選んだ。

そうこうしていると、ふと視線を感じ後ろを振り向くと知らない男と目が合った。

そいつはよく見ると僕と同年代くらいの顔立ちで、背はぼくとほぼ同じ170センチくらい、黒い目が並行二重で大きく印象的だった。

「新聖人エドルフを観られるんですか」

テレビのアナウンサーみたいに明るく穏やかな口調で男は話した。

「えっ、ああ。はい、そうです」

僕はドラマに出てくる突然大金を手にした貧乏人の主人公みたいな分かりやすくうろたえた口調でそう答えた。

男ははにかみながら、

「奇遇ですね~。僕も今から観る予定でして。丁度同じ大学生くらいのあなたを見つけて、思い切って声をかけてみたんです」

「良かったら上映後に映画の感想でも一緒にお話しませんか」

そう言って両手を合わせてお願いのポーズをしてきた。

改めて彼の全身を見ると、低めの身長だけど小顔でスラッとした細身だから黒いチェスターコートをちゃんと着こなせている。

アニメだったら今の彼の背景にはキラキラと汗の絵文字が表示されそうだ、そんな想像をした。

僕はそんな彼の様子が微笑ましくなってすぐにその誘いを承諾した。

でも、こんなことってホントにあるんだな。

なんだか信じられないような気がした。

ふわふわ高揚する頭の中で、もし宗教の勧誘話をされたらすぐに逃げよう。それだけは強く思った。





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