第3話
1月8日日曜日8時30分。
僕は手探りで枕元にあるスマホを取りセットしていたアラームを解除した。
閉め切った焦げ茶色のカーテンの隙間から日光が漏れ出て僕の意識を刺激してくる。
起きあがろうと体を起こすけど頭が半分寝ているようでスッキリした目覚めの良い1日とはいかなかった。
今日はあの映画を観に行く日だ。
昨日の土曜日でも良かったけど僕は軟弱な男だから、金曜日の講義疲れで何もやる気が起きずダラダラと過ごしてしまった。
これまでも1人で外出する予定は先延ばしにしてしまいがちで、数年通っている床屋での散髪に大通り沿いにある深夜まで営業しているビデオ屋でDVDの返却だって遅れがちなんだよね。
僕は両手でベッドを押して勢いよく立ち上がりクローゼットを開けていつもよく着るグレーの長袖にデニム、黒のダウンジャケットの3つを引っ張り出した。
机にもたれかかりながら服を着て床に転がっていた昨日使った靴下をつかんでまた履いた。
僕はこの行為をSDGsだと信じている。
そしてバタバタと足音を立てながら階段を降り洗面所へ向かった。
洗面台を見ると、髭剃りの後の毛の跡が残っている。
毎朝のことだからこの現象は父親のマーキングなんじゃないかと思えてきた。
息子の僕は髭はあんまり生えてこないタイプで、今日は髭を剃らず髪を整えてさっさと歯磨きを済ませた。
タオルで口と手を拭いた後リビングに入り、冷蔵庫から牛乳とヨーグルトを取って自席についた。
牛乳をコップに注ぎながら母親を探すと、テレビの前のソファーで部屋着のまま寝そべりながらスマホをいじっていた。
僕がリビングにいることは気づいているけど声をかけてはこないのが日常だった。
昔は今と違って過干渉気味だったけど僕が高校受験を失敗してからは放置プレイされるようになった。
でもそれは思春期の僕にとってナイスプレイであり、それは今でも変わらない。
僕も大学を出たら一人暮らしして人並に働かなければならない、そんな当たり前の将来の図が頭に思い浮かんで憂鬱になり牛乳を一気に飲み干した。
プレーン味のヨーグルトも男らしくすすりながら食べきってしまった。
この食べ方はスプーンを使わずに済み、洗い物の水道水並びに洗剤からの海や川の汚染を軽減することができる今流行りのSDGsだと自負している。
片づけを適当に済ませ(片づけといっても冷蔵庫に牛乳をしまってゴミを捨てるだけである)、朝一のトイレに行って家を出た。
現在の時刻は9時ちょうど。
ここから最寄り駅まで徒歩20分というところだけど、今日は休日だし贅沢にバスを使うことにした。
僕は住宅街に住んでいて近所に小学校があり学生も見かけるがそれよりも高齢者の数が多いところである。
バス停に立ってから分ほどで目の前にバスが到着した。
足の悪くなった高齢者は移動手段に値段も安いバスを好むから、バスに乗ってみると案の定今日も乗客の9割が彼らだった。
一番後ろの何人か座れる席が1人分空いていたけど、世間体を気にして立ったまま乗車することにした。
本当はドカッと席に座って足を伸ばしたかったものだ。
軟弱な僕なのに、いや、ある意味軟弱だから高齢者に席を譲ったんだよな僕は。
こうしてしょうもない僕のしょうもない1日がまた始まるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます