三つ巴戦争*改稿

 今度は机の方に目を向ける…すると、席が一つだけ空いていたので…そこへ座る。



 僕の嫌な予想が的中し…ひしひしと三方向からの視線に気づかないふりをしながら、チャイムが鳴るのを待つ。



 キーンコーンカーンコーン



 ——こんなに大きな音で鳴らす様に設定したバカは誰だ、出てこい…って自分でつっこんで虚しくなった…。




 その音と同時に、教室の扉が開けられた。




 ゴロゴロガッシャーン…




 教室内に、まるでガラスでも割れたのではないかと錯覚するほど大きな音が響き渡った…。



「すげ〜音〜」

「大丈夫か…な?」

「呑まなきゃやってらんねぇ!!」

「ふんっ!!」

「大丈夫アル」





 周囲から発される様々なクラスメイトの声を耳にしながら、大きな音がした扉付近を確認すると、僕がどじっ設定にしていた漆のような黒髪をサイドテールにピンクのシュシュで束ねた東雲先生しののめせんせいが、僕達の前で、大きく転倒してしまった。





 ——せっかくの新品っぽいレディーススーツが…ごめんなさい!!





 ちなみに東雲先生の年齢は、十六で新米教師の設定にしている。ヒロインではないが…彼女と主人公も交わる事があるので、モブではない。それにしても…大きな黒い瞳から今にも…雨が降りそうになっている…。



 とりあえず、彼女の周りに駆け寄って、新品のチョークの箱や黒板消し等が散らばっていたのを確認した後、

備品壊しちゃったかぁと額に手を当てながらも、彼女と一緒に腰を屈めて、拾う。




 ——貴方をドジっにしたのは、僕です。ごめんなさいと心の中でひたすらに何度も謝りながら——




 唯一、運が良かった事は…僕が彼女と掃除している間に、よーちゃんと玲緒奈も動いていたらしく、こちらへ駆け寄り、手当箱を持ってきてくれただろう。




 ——僕の子達ヒロインは優しいなぁと思いながら、擦りむいたであろう先生の赤くなっていた膝に軽く消毒した後、小さな絆創膏を貼り付ける。





 新入生の僕達に助けられたことが彼女にとって恥ずかしかっただろう、彼女の顔は熟成させたリンゴの様に赤くなっていた…。そんな先生を見ると、さらに罪悪感が増していったので、僕は大胆な行動に出る。




「先生、見ててください」

 折れたチョークを使い、『三年間よろしくお願いします』と書いて、彼女へ微笑みかけると彼女の表情が更に真っ赤になっていたのは——きっと、見間違いだろう。

「チョークって別に折れても、使える物なんですよ。だから気にしないでください」




 彼女へそれだけを告げて、僕が自分の席へと戻る時に、反射的に玲緒奈とよーちゃんを見てしまった。




 彼女達は、教室で隣の席同士に位置している。客観的から見れば、彼女達はお互い顔を見合わせている風にしか見えないかもしれない。




『ぷふっ…!!ふはっはっはっはっ…!!愉快なり、愉快なり、あの小娘達は主を取り合って火花を散らしておるのじゃ。どうじゃ?小規模とは言えハーレムの形成じゃ』

 ——アフロディーテェ!!!、よーちゃんの件は貴方のせいでしょう!!!

『ヒューヒュー♪妾は主に、僕は全ての女を抱く女王になる!!と聞かされてるのでそろそろお暇じゃ』

 ——どこの王だよぉぉ!!





 ◆◇◆◇




「皆様、私のドジで大変申し訳ございませんでした…。改めて…東雲律子と申します。皆様の担当の先生に慣れて良かったと思います。是非、お気軽に『りっちゃん先生』とお呼びください。それでは、今日は自己紹介のみで授業を終りにいたしますので…1人ずつ、名前と好きな子や食べ物などりっちゃん先生に教えてください」




 ——りっちゃん先生ってな⚪︎ちゃんオレンジの語感に似ている気がする。それにしても、名前の他に好きな子や食べ物って…いやまぁ…好きな子に関しては、絶対誰も話さないからいえる冗談のような物だけどね。




「それでは名乗りたい方…いらっしゃいますか?もし、いない様であれば、りっちゃん先生が適当に決めちゃおうかな〜?って三人も手が上がっている!?それじゃ…そこの男の子から、順々に名乗りましょう」





「俺の名前は如月健斗…。好きな子は黄泉穂花…絶対堕としてやる。ちなみに穂花以外に興味はない。俺は彼女と絶対に結婚する」同時にガンッとよーちゃんから…バンッと玲緒奈から…聞こえた気がするが、気にしない。





 ——ねぇ、なんでハーレムを夢見てたくせに、僕オンリーのルートへシフトしてるのかと思い、自分でも驚くくらい冷めた目で睨みつけると、頬を赤らめだした!?



 

『主よ…最初からこれが狙いで…!?確かに、ドMは強烈な経験をした時、激しく抵抗するのじゃ。じゃが、時間が経過すると共に新しい扉を開くことがあるのじゃ。主は策士なのじゃぁ〜!!』

 ——こ、この駄目神、絶対に許さないっ!!なんで奇跡魔法の時は教えてくれなかったのに、こういう時だけ、丁寧に教えてくれるんだ!!


 


「ゴホンッ…?では、次の方は、そこの新入生代表をしていた花山さんだったかな!!自己紹介をよろしくお願いします!!」

「ちっ…」

「ふんっ!!」




 ——りっちゃん先生の適当で当てられてるだけなのに、なんで玲緒奈は鋭くよーちゃんを睨んでいるのかな…?逆によーちゃんはなんでドヤ顔を玲緒奈に向けるのかな?——




『ハァ…これだから前世が奥手の男は駄目なのじゃ』




 アフロディーテの小言を無視して、よーちゃんの方を見ると、彼女は、ほんのり赤くなった表情と満面の笑顔を僕に向けてきた。

 

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