思わぬアクシデント

女堕めすおち』の主人公の如月健斗きさらぎけんとの設定は、僕の読者様に夢と妄想を見て頂くために、外見をイケメンやハンサムではなく、全てが平均的になるステータスの黒髪に黒色の瞳をした奥手で優しい青年のはずだった…。



 しかし、僕の目の前で桜の木に手を付けて、一昔流行った壁ドンならぬ桜の木をドンしている如月健斗きさらぎけんとの姿は、髪型をオールバックにしただけでなく…紺色の制服ははだけており、言葉遣いも異なっていた。



 何者かに魔改造されたと耳にしても信じそうになる程、変わり果てた如月健斗だった。





 ——キ、キレソウ…僕がヒロインに転生を果たした時点で、他の人も…と予想できていた事とはいえ…なんて事してくれているのかなぁ…。





「お断りします♪」

「はぁ!?なんで、確かに俺が見ていたエロ本では…うまくいっていたはずなのに…」

 ——なんか細々と呟いてるなぁ…そもそも、この如月健斗きさらぎけんとの中身は、僕のファン等ではなく、『女堕めすおち』を性的なシーンしか見ていない人だろう。




「俺に逆らったらどうなるか、その身体で分からせてやるよぉ」




 先程のキメ顔とは打って代わる表情で…僕へ今にも拳をかざして脅そうとする哀れな姿を傍目にしながら、僕は目を瞑り、別の事を考えていた。




 ◆◇◆◇




 ——こいつにと契約させたところで、あのやり方では、うまく行くはずがない。しかし、それ以上にお前は僕を怒らせた。未来のお前が契約に至る神を『女堕めすおち』の作者である僕が奪ってやる。





 ——愛と美と性を司る最高神 アフロディーテ 僕に奇跡魔法を寄越せっ!!






『妾の真名を呼んだのはお主なのじゃ?』

——だったら?





『残念じゃが、契約するつもりはないのじゃ。主は、女子に加え、性格も奥手すぎて妾を満足させることなどできぬのじゃ。あの獣の方が見込みはありそうなのじゃ』

 ——僕のだ。それに、この世界の事にも精通している。そうだなぁ。アフロディーテの過去を話そうか…。同じ最高神とを働いた…




『待つのじゃ、主が何故それを!?妾の真名だけでなく、弱みまで握っておるとは、本当に何者じゃ?』

 ——強いて言うなら君達の神の中の神かな? それで、契約は結んでくれるよね?





『わ、分かったのじゃ…主に妾の奇跡魔法を授けるのじゃ。だから、その事は秘密にしてほしいのじゃ』

 ——作者権限チートで契約に成功したはいいものの…僕が描いた彼女の不貞な描写を脅しの材料にしているせいか…これでは自作自演に見えるな…。

『む…?何か言ったのじゃ?』

 ——何でも無いよ。ありがとね。





 ◆◇◆◇



 

 眼を開けると…我慢できなくなってしまったのか…入学式で人が多いにもかかわらず、如月健斗の振り上げた拳が、目の前にまで迫っていた。




 

——契約に成功したけど、そういえば、誰も女堕めすおちさせてないから非力じゃんっ!!






 痛みを伴うことを我慢して、ぎゅっと眼を瞑り耐えようとした。


 

 パァン



「…何があったのかは知りません…。けど、女の子に…手を出すのは良くないと思います…」




 恐る恐る目を開けると——僕の前に同じ制服を身に付けた滑らかな紫色パープルのボブカットをした女の子が手のひらで健斗の拳を受け止めていた。




 ——月夜玲緒奈つくよれおな!? 彼女は、僕と同じ一章のメインヒロインで、性格は弱い部分が目立つものの…『月夜流』の跡継ぎで、幼少期から父の厳しい修行に耐えたおかげか身体的に強いことが読者の中でギャップを生み、人気投票ランキングトップの御用達である『黄泉穂花』を超えていた時期もあった程だ。





「は?って、お前あの漫画の暴力女じゃねぇか!!力は強えくせに、俺とヤル時は受け身の分際が邪魔するな」




 パチンッ



 その言葉を耳にした瞬間——気づけば、僕は彼の右頬を全力で叩いていた。




「消えて!!!達の前から消えてよ!!!」

「僕?穂花の口調は私のはずって…お前もまさか俺と同じ、転生…」

「うるさい!!お前なんかと一緒にするな!!!」




 僕は頬から涙をこぼしながら、彼に大きな声で叫んでいた。今日は、レスタ魔法学院の入学式である。



 無論…そんな場所で大きな声を出せば、騒ぎを駆けつけてくる新入生達がいる。




 流石に、分が悪いと感じたのか…如月健斗は、僕達へ舌打ちした後、立ち去っていった。




 ——如月健斗も僕の子だ。当然、愛着もあったし、彼が漫画通りの誠実な姿ならば、彼と僕がお互いを知らないまま、結ばれる未来もあったかもしれない…。




 しかし、今はそんなことを考えてる場合ではない。後ろを振り返り、玲緒奈の表情を見ると、彼女は震える身体を両手で抑えながら…俯いていた。



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