シロとクロの決斗

(――タテさんが動いた?!、よぉ~しアカツキっ!、お前もだっ!)


舘山の動きに気がついた関も、手綱を緩めて臨戦態勢に入る!



『あっ~~~~!、外からスルスルとアカツキが進出!』



ウオォアァァァアァッ~!



そのアナウンスと歓声で、他馬の騎手たちも、アカツキがスピードを上げ始めたと気づいた。



その様子を、最後方から見ていたブルーライオットの竜太は、その動きに疑問を抱いた。


(――仕掛け、早くないか?、前の栗野さんレーザーは、あんなに飛ばして……)


そう感じた竜太は追い出しを躊躇し、アカツキたちから離されてしまう。



――その、コンマ数秒の間に、竜太は気付いた。



(――!?、いや!、ペースはんだ!


最初の1000mは59秒切って早くても、今過ぎた1マイル(※1600m)では、95秒(※=1分35秒)を悠に超えてる?!)



つまり――最初の1000mは58秒台で走ったとしても、、37秒もかけて走っている計算になる。



(――これじゃっ!、前のレーザービームは、一息入って、良い具合に末脚余力を残してる!)



それが――栗野の作戦だった。


大逃げを打って、後続の距離感覚とペース判断を狂わせる――逃げ馬のレーザービーム、ならではの奇襲である。



竜太は、ブルーライオットを叱咤し、慌てて追い出しを掛けた。


それにハメられていたのは、2頭より先団に着けていた、ホリノブラボーの浜野、ニシコクマサムネの南も同じで――本来なら、ペースの指標として気を揉んでいなければならない、先頭レーザービームの微妙な動きをスルーしてしまったのだっ!


アカツキと関たちに呼応して動いたのは、オージカエサルのジョバンニと、アテナワンドの藤村の二人だけだった。



(――若い騎手の多さから、狙った作戦だから、当然かもしれないが、流石に昴や友二、マルコや樹には、お見通しだったか)


栗野は、複雑な表情で、後続の動きを見渡し――


(――だが、アカツキには差されても、残りに対してなら……充分に、競り勝てるだけの脚を残せた!、2着なら狙える!)


――作戦の手応えを感じ取り、ほくそ笑んでいた。



『――さあ、さあ、さあっ!、レーザビームのリードは早くも2馬身にまで縮まって、先団となって最終コーナーを回るぅ~!


レーザービームの大逃亡もここまでかぁ~?!』



そんな実況が聞こえたワケではないが――


(――ところが、ここからがっ!、なのさっ!)


――栗野は、心中でそう言い放って、レーザービームに左ムチを繰れた!



――その時っ!



――ビュンッ!



(――えっ?)


栗野は――頬に、突風を感じた。



ムチを繰れて、栗野が前に向き直ると、既にアカツキとクロテンが、外側の前方に、宛らワープでもしたかの様に、先頭争いを繰り広げていた!



『――外からアカツキ~~~~!!!!、アカツキが早くも先頭に立って!、最後の直線!


連られる様にして、クロダテンユウが2番手に上がっている~!』



テレビの前では優斗と奈津美、待機所のモニターの前では翔平と翼、関係者席では海野たち、そして――今、この様子を観ている者、ほぼ全員が、意外なクロテンの追走に色めき立つ。



(――やっぱり!、やっぱり着いて来てくれたね!、クロテンくん!


さあ!、さあ――っ!、ボクたちの熱い戦いで、ヒトの"思い"ってヤツに応えようじゃないかぁっ!!!♪」


――先頭に立ったアカツキは、半ばトランス状態の、狂気すら感じる目で、ゴール前にそびえる急坂を見据えていた。



『――アカツキ先頭!、ここから早くも突き放す構えか?!』



その様を観ているほとんどの人が、世界最強馬と呼ばれるアカツキの圧勝劇を想像していた。



だが――



『――っ?!、いっ、いやっ!、クロダテンユウ譲らない!、なっ――っ?!、並んだ並んだっ!』



――クロテンの、とも言える食い下がりに、アナウンサーは驚きの声を挙げた。



『並んだまま、最後の急坂!、しかしっ!、両者の脚色は衰えない~!』



「――きゃぁ~~~~っ!、テンくん!、テンくぅんっ!」


2頭が急坂を駆け上がる様を、待機所のモニターで観ている翼は、顔を真っ赤にして興奮し、自分が騎乗している気分なのか、バタバタと後ろ手に拳を振るって応援している。



「――テッ!、テンユウ!、テンユウ差して!」


一方――遠く離れた、北海道にあるテレビの前で、レースの行方を見守る奈津美は、翼とは逆に顔色を青く染めて、フルフルと身体を震わせて応援している。



その2人の女の横に居る、優斗と翔平の二人の男は、謀らずも同じ様に、ゴクリと喉を鳴らして固唾を呑んだ。



「――よし!、行け!、いけぇ!、クロテン!」


関係者席では、佐山がそうして声援を送り、石原は真一文字に口を結びながら凝視し、海野も先程まではジッと観て居たが、この大激戦でついに堪らなくなって目を閉じる。



そして――アカツキ陣営ではあるが、松沢も興奮して、関係者席のウインドウに身を乗り出した。



――その時、フッと松沢は不思議な感覚に襲われた。



それは、身体から魂が抜け落ちた様な感覚で、その松沢の"魂"はなんと、コース上のゴール版の真ん前に転移していた。


(?!、なんだぁ?、こりゃあ)


その松沢の魂に向って来る様に、壮絶な叩き合いをしているアカツキとクロテン。


松沢の魂は、そのクロテンの周辺に纏わり着く、明らかに馬の形をしている影に気付く。


その――は、松沢の魂を視認して――


「――フンッ!」


――と、大きく鼻息を鳴らして見せた。



『――さあ!、どっちだどっちだっ?!、アカツキか?!、クロダテンユウか?!


黒田か!?、白畑かぁ~~~~~~~~?!!!!!!!!』



その絶叫と共に、2頭はまるで合わせ鏡が写しているかの様に、並んだままゴールインしたっ!




『第…回、有馬記念っ!!!!!


その決勝線はっ!、まさに!、古へと回帰した様な白畑シロ黒田クロの決斗っ!


果たして勝ったのは!、君臨し続ける王国の至宝か?!、それとも!、奇跡を纏う堕ちた軍団の末裔かぁぁぁぁっ

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