三瀬にかかる虹の橋
長月瓦礫
三瀬にかかる虹の橋
「ラッキー」
私が名前を呼ぶと、しっぽを振って駆け寄ってくる。
その場で座ってから、おやつのジャーキーをあげて、私もチョコパイの袋を開ける。
いつもの日常、おやつを食べる時も寝る時もずっと一緒にいた。
毎日公園に行って遊んで、家に帰ってご飯を食べて眠る。
それが当たり前で、ずっと続くと思っていた。
何年も経つと、いつしか散歩にも行かなくなってしまった。
ソファの上で寝てばかりで、不安だった。
外で遊ぶことを忘れてしまったのか。
おもちゃを見せても目で追うだけで、そこから降りようとしない。
私は歩けなくなっても声をかけていた。
聞こえているのか聞こえていないのか、よく分からない表情をしていた。
眼は白く濁っていて、世界はどんなふうに見えていたのか。
私に知る由はないけれど、何もできないのはつまらないと思った。
いつものように過ごせるように、私は隣でおやつを食べた。
好きなものなら食べられるみたいだったから、ジャーキーを細かく分ける。
「毎日、楽しかったね」
ラッキーの頭を優しくなでると、少しだけ目を細めた。
後ろに虹の橋がかかっていて、向こう岸に原っぱが広がっている。
いつも遊びに来ていた河原とよく似ている。
私が学校に行っている間にラッキーは倒れて、そのまま亡くなった。
あまりにもあっけない終わりだ。信じられなかった。
最期を見届けるつもりでいた。私を置いていかないでほしかった。
涙は枯れず、ずっと泣き続けていた。
お別れを言うこともできなかったのが悔しかった。悲しかった。
だから、ようやく会えて本当に嬉しかった。
「私は大丈夫。そっちに行ったら、一緒に遊ぼうね」
私がそういうと、ラッキーは橋の上を渡っていった。
姿が見えなくなると、虹と河原は消えた。
砂時計をひっくり返す音で現実に戻る。
木目の綺麗なテーブルに温かみのある光に包まれた白い壁、コーヒーが置かれていた。私はあたりを見回した。
「……」
店長は砂時計を慎重にテーブルからどかす。
リノウガラスは魂を呼び寄せる効果を持つ。
砂時計に加工すれば、魂と面会できる。
魂の数だけ砂時計がキープされているらしく、いたるところに並んでいる。
「……どうでしたか、無事に会えましたか」
昨日、私は夢を見た。
いつもラッキーと遊んでいた河原に虹がかかっていた。
向こう岸にラッキーがいて、私は私はその橋を渡ろうした。
どれだけ走ってもたどり着かない。手を伸ばしても向こう岸には届かない。
そして、ついに橋は消えてしまう。そこで目を覚ました。
汗をかいていて、目から涙が流れていた。
なぜか呼ばれているような気がして、いつのまにかこの喫茶店に来ていた。
この喫茶店は死んだ人と会えるという噂があった。
それだけでなく、ペットと会った人もいると聞いた。
わらにもすがるような思いで、ここに来ていた。
「私は砂時計を管理しなければならないので、同じものを見ることはできません。
あなたが望むものは、そこにありましたか?」
「ええ、本当に夢のような時間でした。ありがとうございます」
「それなら本当に良かった」
安堵したようにため息をついて、砂時計を棚にしまった。
三瀬にかかる虹の橋 長月瓦礫 @debrisbottle00
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