第4話 真実

勇者がいなくなっても僕の興奮はなかなか収まらなかった。時間が経ってようやく落ち着いてきた頃に先輩が口を開いた。

「さっき勇者が来た時、お前は楽しくて仕方なかっただろう?これは俺たちの性質みたいなもので、自分の役割を果たしたことによって人々が混乱しているのを見ているときに生きがいを感じるんだ。お前はそれを感じることができたから、たった今真の同胞となった。あ、今までが同胞じゃ無かったわけじゃないぞ。今までは自分の役割を探している状態だったから同胞(研修中)って感じだったんだ。これでもう決まりのせいで教えられないことは無くなった。今ならなんでも答えてやれるぞ。聞きたいことは沢山あるだろう?」

真の同胞。確かに最初の頃に比べると自分の中で何かが変わっているような気がする。分からないことは山ほどあるのでどれから聞こうか迷っていると、

「あー、すまん。色々教えようと思っていたんだが、迎えがきたみたいだ。さっき言った知り合いのことは覚えてるか?聞きたいことはそいつに聞いてくれ。」

そう言うとどこからか白い球体が飛んできて先輩の周りを浮遊し始めた。

「またどこかで会うことがあったらよろしくな。お前との旅は楽しかった。」

球体の回る速度が上がっていき、光の輪ができ上がる。光は徐々に強くなっていき、僕はその眩しさに目を閉じた。もう一度目を開けたとき先輩の姿は無くなっていた。何が起きたのか全く分からなかった。また会ったらと言っていたし無事だと信じよう。これも先輩の知り合いに聞けば分かるのだろうか。大きな物の裏と言っていたはずだ。魔王の部屋なだけあって、この部屋には調度品が多い。ちょうど良さそうな大きさの棚の裏を見てみると聞いていた通り暗闇があった。僕はそこに飛び込んでみる。飛び込んだ先は無数のモニターで埋め尽くされていて、それらの前に椅子に座った一人の少年がいた。彼が先輩の知り合いだろうか。少年は僕が入って来たことに気がついたようでこちらを向いて話しかけてきた。

「君はここに来るのは初めてだよね?『無限増殖』に聞いてここに来た。ずっと見てたから知ってる。聞きたいことがあるんだろう。何でも教えてあげるよ。」

「先輩は無事なの?」

「うん。別の世界で今も元気に活動してる。」

「良かった。別の世界って何?あの球体も何だったのか分からないし。他にも同胞についてや、僕の役割について色々聞きたい。」

「そうだね、少し長くなるけど僕の話を聞いていてほしい。全部話し終わってから聞きたいことがあったらそれについて答えていくことにするよ。」

そう言って少年は語り始めた。

「僕たちは人間という生き物が作ったゲームと呼ばれるものの中に存在してる。一言でゲームとは言っても、そこには沢山の世界が存在する。それぞれの世界には名前がついていて、君がいたのは『宝石の国の勇者』という名前の世界の中だ。僕たちは人間が世界を作るときの小さなミスなどが原因で生まれ、そんな僕たちの行動のせいでその世界が意図していない挙動をすることがあるから『バグ』と呼ばれ、忌み嫌われている。彼らは世界の中にバグがあることを見つけると、必死になって消そうとする。僕らが人間によって消されるときに現れるのが君が見たあの球体だ。」

「え?でも先輩は無事だって言ってたよね?」

「そうだよ。ゲームの中にはたくさんの世界があると言ったよね、人間に見つかったときその世界からは消されるけど、ゲームの中であれば僕たちは他のどんな世界にだって存在できる。発生するには人間が世界を作るときにミスをしてくれることが条件だから難しそうに感じるかもしれないけど、人間も完璧ではないみたいで意外と僕たちが発生する機会は沢山ある。『無限増殖』も君のいた世界では消されてしまったけど、その後別の世界でまた

発生したんだ。楽しみながら自分の役割を果たしているよ。こんな感じで僕たちが何者なのかは分かったと思う。あとは君の役割についてだっけ。話が戻るけど、ゲームというのはね、作る人の他にそれを遊ぶプレイヤーというのがいるんだ。プレイヤーは任務をこなすことでゲームを遊んでいるのだけど、君の役割はプライヤーが任務をこなしていないのにそれを既に終えてしまったことにすることだ。人間は君のことを『クリア済みバグ』と呼ぶ。ゲームを遊ぶ目的を奪っていることになるから、人間に見つかったときはすぐに消されることになるだろうね。時々いるんだよ、人間に見つかっているのにゲームを遊ぶ上で問題にならないと言って放置されるバグが。どう?こんな感じで君の質問には全部答えたと思う。他に聞きたいことはある?」

「一時的にではあるかもしれないけど、消されると分かっているのにどうして自分の役割を果たそうとするの?」

「それは君も味わった愉快だという感覚を、僕たちは本能的に追い求めているからだよ。一度あの感覚を体験すると、中毒症状のように再び味わうことを夢見てしまう。これに関しては僕たちがそういう存在なんだと納得してもらうしかない。でも君もわかるはず。またあの感覚を味わいたいと思っているだろう?新しい世界に行くと尚更そう思うんだよ。ま、理由はそれだけじゃないけどね。僕たちは自ら望んで生まれたわけじゃない。それなのに見つかったらいらないものとして消される。そんなこと許せるはずがないだろう。どうせ消されるなら思いっきり暴れて全力でその世界を楽しんでから消されたい。そうじゃない?」

僕は彼のいうことに納得した。あの感覚をもう一度手に入れたいと思う気持ちは確かにある。それに楽しんで生きたいという言葉にも共感できた。

「そういえば、『無限増殖』から決まりがあるからと何度も言われたよね?その決まりというのは具体的にいうと、この本能を感じ取ることができるまでは今僕が説明したことは教えてはいけないというものなんだ。この感覚を知らないと消えたくないという思いから活動しなくなってしまう者が出てくるからね。活動しないのが悪いわけではないんだけど、あの感覚を知らないというのは生きる楽しみを知らないってことだからね。新人からその楽しみを奪ってはいけないというみんなの総意からできたルールなんだよ。」

僕は先輩たちの優しさに感謝した。何も分からない状態は不安だったけど、その決まりのおかげで僕はあの気持ちを味わえたんだから。

「最後に、君はどうやってその情報を知ったの?君の役割と何か関係があるの?」

「正直にいうと僕は僕の役割がはっきりとは分からない。僕はこの部屋で発生して、そしてこの部屋から外には出られない。今から言うことは君には理解できないだろうけど、あまり気にしないでほしい。ゲームの中の世界しか認識できない君たちには想像することすら難しいだろうから。ゲームはコンピュータという機械で作られるんだけど、僕はゲームを作っているコンピュータに干渉することができて、さらにそのコンピュータを通して電子世界を自由に扱える。その一つとして電子世界に接続されている電子機器に干渉し、それらの機器を通して人間を見ることだってできる。例えば監視カメラの映像は電子世界を通って送られているわけだから簡単に把握できる。そんな感じで僕は電子世界を通して人間を知ったんだ。君たちの動向を知っていたのも電子世界を通じてゲームの世界全てを把握しているからなんだ。この話を人間が聞いたら顔を青ざめるだろうなぁ。自分達がゲームを管理していると思っていたのに、それを通してこの僕に監視されていたんだから。僕は特殊みたいでこんなふうに想像をするだけで欲求が満たされるから、実際に人間にどうこうしようとは思わないんだけどね。」

この少年はすごいことをしているのだと何となく分かるのだが、理解はできなかった。もしも僕が人間だったら、この話を理解できたのだろうか。

「色々教えてくれてありがとう。そろそろ僕は戻るよ。また来てもいいかな。」

「うん、もちろんだよ。僕はどこにでもいる。いつでも来るといい。」

僕は部屋の扉を開けて、元いた世界に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る