premonition
あたしは、基本的にどんなスポーツでもできるという自信がある。
バスケもバレーも水泳も、高校では運動部の男子にも引けを取らない実力を持っている。
だけど、今日あたしにも『苦手なスポーツ』があることに気付いた。
それは『スーパーボール掬い』だ。
「なんで1個も取れないのー!」
「はい、おじさんもう1回!」
「お嬢ちゃん、これでもう5回目だけどまだやるのかい?」
「お嬢ちゃん可愛いから、おじさんスーパーボールくらい何個でもあげちゃうけど」
「いらない!こういうのは自分で取るから意味があるの!」
金魚掬いならまだしも、どうしてこの止まっているボール1つすらあたしは取れないんだろうか。
「これにはコツがあるんだよ」
さやかは色っぽく髪をかき上げると、ポイを構えてスーパーボールを掬う…
かと思いきや、ポイの紙面を水に浸してそのまま持ち上げた。
「なにも取ってないじゃん」
「いや、そういう作戦なのだよ」
「こうすることで、全面にボールの重さが分散されて、破れにくくなる」
今度は、ポイの縁で小さめのオレンジ一色のボールを掬ってみせた。
そこからは段々と掬う速度が上がっていき、1つまた1つとスーパーボールを掬っていく。
「さやか、一時期スーパーボール掬いのセット買ってきて、家で練習してたんだよ!」
「そんなことよりレッスンしなよ」
「いや唯香、それは誤解だよ。あれはまだモラトリアム…そう、学生時代の話だから」
「それと、モカ、そういう恥ずかしい話は本人の了承を得てから公開するように」
「じゃあ、西音寺先生!先生が学生時代に本気でスーパーボール掬いの練習してた話、してもいいですか?」
「仕方ない、許可しましょう」
「ってか、もう話してたし!」
そんなくだらない話をしている間にも、さやかはもの凄いスピードでボールを掬っていく。
「お嬢ちゃん凄いね〜、もう軽く30個以上は取れてるんじゃない?」
「おじさん、ありがとう」
「ご明察の通り、たった今32個目を取ったところだ」
おじさんも興奮混じりにさやかのボール掬いを見ている。
射的といい、スーパーボール掬いといい、さやかは一体何を目指しているのだろうか…
あたしも試しにさやかの真似をしてみた。
ポイの紙面を水に浸し、縁を使って青一色の小さなボールを掬う。
「取れた!」
5回目の挑戦にして、ようやく1つゲット。
酷い結果であることに変わりはないが、0で終わらずに済んだことに安堵した。
「さすが唯香だね、抜群の洞察力、観察眼。56…そう、それはまるで彗星の如く現れた天才、57…57と言えば八女神電鉄の57番目に建立された駅は…」
「ごめんね唯香、さやか集中してると自分でもなに言ってるか分からなくなっちゃうんだよね」
「射的のときと似たような状況だ…」
スーパーボールが1つ取れた安堵からか、急にお腹がきゅるきゅると鳴り出した。
何だろう、この腹痛は…
「そういえば、唯香さっきあんなにいっぱいポテト食べさせちゃったけど、お腹の調子大丈夫?」
「モカ、まさにそれだ…」
ポテト祭りの代償として、今度は腹痛祭りがやってきたようだ。
「さやかのことはわたしに任せて!」
「多分ポイが完全に破れるまで言うこときかない感じになってるから」
確かに、今のさやかはさっきと比べものにならないくらい集中している。
「まだだ、まだいけるはず…81…確か日本の国際電話の国番号は81だったな…82は韓国?そもそもなぜ日本は国番号が81なのだろう…そもそも国番号は国際電気通信連合が決めたものであって…」
いよいよさやかのスーパーボール掬いの周りには人だかりができていた。
確かにこれは簡単には終われない状況だろう。
「わかった、ありがと」
「トイレの場所は分かる?」
「いつもの練習場所だから大丈夫…」
「あ、そうだよね、気をつけてね!」
「…うん」
割と限界が近いかもしれない。
急いで行こう…
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